【導入事例】「福井のAIなら、福井キヤノン事務機へ」―全社員のAI活用から顧客展開へ。福井キヤノン事務機の新たな挑戦
最終更新日:2026.08.04
1973年の創業以来、複合機の販売・保守を起点に、IT・ネットワーク構築、情報セキュリティ対策、オフィス空間のデザインまで、地域企業の「働く環境」をトータルで支えてきた福井キヤノン事務機株式会社。
同社の玉木啓介社長は、将来の深刻な労働供給制約社会を見据え「福井の企業のためにAI活用を推し進める」と決意。2024年に自ら「G検定」と「生成AIパスポート」を取得し、全社的なAI事業展開を宣言した。
2025年7月には生成AIツールを全社導入するも、「一部の社員しか使わない」という活用格差の壁に直面。「自社で使えないなら、お客さまも同じ課題で困っているはずだ」―その気づきから、役員を含む全社員63名でのAIリテラシー研修と「生成AIパスポート」の全員取得を決断した。
同社が創業以来貫いてきた「まず自社で日常的に使いこなし、その生々しい経験をもとにお客さまへ展開する(クライアントゼロ)」というDNAを、AIという領域でも徹底する同社の取り組みと、全社リスキリングの舞台裏に迫る。
話し手
福井キヤノン事務機株式会社
代表取締役社長 玉木 啓介さん
デジタルイノベーション執行役員 宇佐美 裕亮さん
聞き手
株式会社KIZASHI
リスキリング事業部 営業統括 吉田 圭佑
複合機の会社から、「働く」をプロデュースする会社へ

「単に機器を販売する会社ではなく、お客さまの『働く』をプロデュースする会社を目指しています」― 玉木 啓介社長
吉田:
まずは、貴社の成り立ちと現在の事業内容について教えてください。
玉木社長:
当社は1973年、コピー機の販売・保守からスタートしました。時代とともにコピー機がネットワークと繋がり、PCからの印刷など利便性が高まる中で、ネットワーク構築やPC・ソフトウェアの販売へと事業を広げていきました。しかし、利便性が向上した一方で悪意あるウイルス等の脅威も増え、情報セキュリティ対策の重要性が一気に高まったのです。当社はそうした時代の変化やお客さまのお困りごとに寄り添い、事業領域を順次拡張してきた歴史があります。
現在では単なる機器の販売や保守にとどまらず、オフィス空間の提案まで含め、お客さまの「働く」をトータルでプロデュースする会社を目指しています。営業担当一人では伝えきれない当社ならではの働き方や取り組みを実際に見て体感していただくため、自社オフィスを公開する「ライブオフィス」を展開しているのも当社の大きな特徴です。
ツール導入時の「気づき」から始まった全社AIシフト

「導入しただけでは、ほとんど使われませんでした」― 宇佐美 裕亮 デジタルイノベーション執行役員
吉田:
今回、全社でAIリテラシー研修と「生成AIパスポート」の全員取得に取り組まれた背景を教えてください。
玉木社長:
将来の労働供給制約社会を見据えたとき、地方の中小企業が持続的に成長するには、AIやロボットの活用が不可欠になります。地域のお客さまを支える立場として「AIを扱わない」という選択肢はありませんでした。そこで2024年、私自身が先頭に立って「G検定」と「生成AIパスポート」を取得し、全社的なAI事業展開を宣言しました。
宇佐美執行役員:
その後、2025年7月に生成AIツールを全社導入したのですが、結論から言うと「ツールを入れるだけ」では自然と広がるわけではありませんでした。自力でどんどん活用を進める一部の社員と、ログインすらしていない社員との間で、利用頻度やスキルの格差が見えてきたのです。
ただ、そこで「自分たちでさえ使いこなせていないなら、お客さまも絶対に同じところで悩んでいるはずだ」と気づきました。まずは私たち自身がこの運用の壁をクリアし、実践的なノウハウを蓄積することこそがお客さまへの提供価値になると考え、役員を含む全社員での研修と資格取得へ舵を切りました。
吉田:
「ツールを入れれば自然と使われるだろう」という思い込みは、多くの企業が抱く共通の気づきポイントですね。
宇佐美執行役員:
その通りです。「なぜAIが必要で、業務をどう変えるのか」という意識づくりと基礎知識の共有がセットでなければ定着しません。
100の仕事を80にするためではなく、「120の世界」に行くために使う

「AIを使えば、いままで見えなかった120の世界に行ける」― 玉木 啓介社長(左)と宇佐美 裕亮執行役員(右)
吉田:
AIを使わない社員には、どのような理由や意識があったのでしょうか。
宇佐美執行役員:
一番大きいのは「今のやり方でも業務は回っている」という感覚だと思います。多くの人は「今やっている100の仕事を、AIで80に減らそう(効率化)」と考えがちですが、それだけでは使う動機として弱いことがあるんです。
吉田:
業務時間を減らすためだけではなく、能力を拡張するための道具ということですね。
宇佐美執行役員:
その通りです。「AIを使えば、自分一人では届かなかった120や200の世界に行ける」「今までできなかったことができるようになる」と実感できた人から使い始めていく。今回の取り組みを通じてそれがよく分かりました。
吉田:
その意識を全社に浸透させるために、どのような工夫をされたのですか。
宇佐美執行役員:
1対2ほどの少人数で行う「草の根勉強会」を7〜8回開催しました。AIを使えるメンバーが「先生」となり、ログイン方法や本当に基礎的な使い方から丁寧に伴走したのです。一度の大規模研修で終わらせず、使えないメンバーに寄り添うこの泥臭いサポートがあったからこそ、社内に定着していきました。
トップが自ら学び、成長の機会を提供することが経営者の役割

「トップが自ら学び、前に進む姿勢を示すことは、社員の皆さんにとっても大きいと思います」― 聞き手のKIZASHI 吉田
吉田:
玉木社長が早期に資格を取得され、自ら学びを牽引された点も印象的です。
玉木社長:
これからAIが検索エンジンやExcelと同じように業務の当たり前になっていく中で、経営者が自ら学び、ビジネスにおける本質的な価値を見極めるのは当然の役割だと思っています。
福井キヤノン事務機では以前から、リカレント教育やリスキリングを会社の方針として取り入れてきました。顧客理解研修や基幹業務研修など、社員が学ぶ機会を継続してつくってきており、その次のテーマが「AI」だったということです。
吉田:
会社として継続的に社員の学びを支援されてきたのですね。
玉木社長:
私が大事にしているのは、社員の「働きがい」です。これは「働きやすさ」と「やりがい」を組み合わせたもので、この両輪を回しながら経営をしていくことを重視しています。新しい知識を得て、新しいスキルを身につけ、今までできなかったことができるようになる。そして、その力をお客様に提供して喜んでいただく。この循環が生まれることで、社員のやる気も働きがいも高まっていきます。
新しいツールの学習は社員にとって一定の負担にもなりますので、就業時間内で学べる環境を整え、成長の機会を提供していくことが経営者の果たすべき重要な役割だと考えています。
「リスキリング」と「ファクトチェック」が社内の共通言語に

「いまでは、社員同士の会話に自然に出てくるようになりました」― 打合せの様子
吉田:
全社での研修や資格取得を通じて、現時点でどのような社内の変化や成果を感じていらっしゃいますか。
宇佐美執行役員:
一番大きいのは、「リスキリング」という概念や重要性が、社員の共通言語になったことです。研修前は言葉の意味を正しく理解している社員は限定的でしたが、今では日常会話の中で自然に使われるようになりました。
今後、お客さまへAIやリスキリングを提案する立場として、提案する社員自身がその意味を正しく理解できていることは大きな強みです。
また、「ハルシネーション」や「ファクトチェック」といった言葉も定着しました。AIの回答を鵜呑みにせず根拠を確認してから実務に活かすという、プロとして不可欠な安全利用のリテラシーが身についてきています。
吉田:
業務における具体的なアウトプットにも変化は現れていますか。
宇佐美執行役員:
明らかに現れています。当社では全社員が自社のソリューション事例を発表する機会があるのですが、直近ではほぼ全員がAIを活用してプレゼン資料を作成するようになり、発表のクオリティが劇的に向上しました。「頭の中にあるイメージをAIで可視化する」という体験が、社員の表現力ややる気を引き出しています。
玉木社長:
全員が最初から自発的に学べるわけではありませんが、こうしてAIを使うことで仕事が便利になり、今まで以上に精度の高い成果物ができると社員一人ひとりが実体験を通じて気づけたことが、今回の大きな成果だと感じています。
「福井のAIなら、福井キヤノン事務機へ」―自社実践(クライアントゼロ)のノウハウを地域へ

「実際に見ていただくことで、フリーアドレスやオフィスレイアウト、IT環境などを、より具体的にイメージしていただけます」― 取材時に実演していただいたライブオフィス
吉田:
全社員での学びと実践を経て、今後はどのような展望を描いていますか。
玉木社長:
地方中小企業の多くは、AIの価値や必要性は理解していても、「社内に教える人がいない」「具体的にどう業務に落とし込むか分からない」という切実な悩みを抱えています。
当社には50年以上かけて築いてきた地域のお客さまとの信頼関係と、日々直接お会いして話ができる社員がいます。動画教材などで基礎知識を得ることはできても、実際の現場で使えるようになるまでには、隣に寄り添って教える伴走者が必要です。
当社には、創業以来貫いてきた「まず自社で実践・試行錯誤する(クライアントゼロ)」という考え方があります。自分たち自身が日常的にAIを使い、成功も失敗も経験した生のノウハウを持っているからこそ、自信を持って地域のお客さまの隣で伴走できる。AIを『本当に使える状態』まで届けることこそが、私たちの果たすべき役割です。
宇佐美執行役員:
これまで「コピー機やネットワークなら福井キヤノン事務機」と言われてきたように、「福井のAIなら、福井キヤノン事務機」というブランディングを確立していきます。
また、地域の中小企業に最も近い存在である私たちのような事務機会社がAI活用支援に立ち上がれば、地方から日本全体へAI活用が広がっていくはずです。まず福井でこのモデルを確立し、全国の同業他社や地方都市へも波及させていきたいと考えています。
吉田:
福井キヤノン事務機の取り組みを起点として、地域企業のAI活用が全国へ広がっていくことを楽しみにしています。
本日は、ありがとうございました。
玉木社長・宇佐美執行役員:
ありがとうございました。
終わりに

「福井のAIなら、福井キヤノン事務機」― 取材を終えて。
KIZASHI 吉田(左)、宇佐美 裕亮執行役員(中央)、玉木 啓介社長(右)
「ツールを入れれば、社員は使うはずだ」。多くの会社が一度は通る思い込みを、福井キヤノン事務機は「お客さまも同じ課題を抱えているはずだ」と読み替え、まず自分たち全員で学ぶ側に回った。
複写機も、パソコンも、ネットワークも。同社は53年間、自社で実践してからお客さまに届ける「クライアントゼロ」を貫いてきた。AIも、その延長線上にある。「福井のAIなら、福井キヤノン事務機へ」という言葉が当たり前になる日は、そう遠くないと感じた取材でした。
福井キヤノン事務機株式会社 玉木社長、宇佐美さん、貴重なお時間をありがとうございました。
取材・聞き手・構成
株式会社KIZASHI リスキリング事業部 営業統括 吉田 圭佑
取材日:2026年7月14日 / 取材地:福井キヤノン事務機株式会社 本社



