【2026年最新】人的資本開示とは?有報の新設3項目・女性活躍推進法改正を解説
最終更新日:2026.08.12
人的資本開示は2023年3月期の義務化から3年が経ち、2026年に大きな節目を迎えます。有価証券報告書の人的資本に関する記載項目が、2026年3月31日以後に終了する事業年度から拡充され、2026年4月には改正女性活躍推進法も施行されました。
本記事では、何がどう変わるのか、人事部門は何から着手すればよいのかを、制度の一次情報にもとづいて整理します。
人的資本開示とは──2023年に何が義務化されたのか
人的資本開示とは、企業が人材への投資や育成の方針、その成果を測る指標を外部に示す取り組みを指します。金融庁は2023年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」等を改正し、有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄を新設しました。
ここでは「人材育成方針」と「社内環境整備方針」、およびそれらに関する指標と目標の記載が求められます。あわせて「従業員の状況」欄では、女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金差異の記載が必要になりました。
つまり、リスキリングや研修の取り組みは、いまや人事部門の内部施策ではなく、投資家に説明する対象になっています。
実態はどうでしょうか。日本生産性本部が2025年8月1日に公表した速報版によれば、東証プライム上場1,104社の人的資本関連の記載は平均2,505字で、前々年比19.6%増と厚みを増しています。
「人材育成」に言及した企業は98.0%に達する一方、「DX」への言及は43.3%にとどまりました。女性管理職比率の平均は9.1%、男性育休取得率が60%以上の企業は62.9%でした。
記載量は増えているものの、内容の深さには依然として差があります。
2026年の人的資本開示で変わる3つのポイント
2026年は制度改正が重なる年です。主な変更を時系列で整理します。
| 時期 | 制度 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 2026年3月期の有価証券報告書から | 改正開示府令(2026年2月20日公布・施行) | 「経営方針・経営戦略等と関連付けた人材戦略(連結ベース)」「人材戦略を踏まえた従業員給与等の決定方針」「従業員の平均給与の対前年比増減率」の3項目を新設 |
| 2026年4月1日施行 | 改正女性活躍推進法 | 常時雇用101人以上の企業に男女間賃金差異と女性管理職比率の公表を義務化。301人以上はこれに加え2項目以上、101〜300人は1項目以上。100人以下は努力義務 |
| 2027年3月期から段階適用 | SSBJ基準によるサステナビリティ開示 | プライム市場上場かつ平均時価総額3兆円以上の企業から適用開始。1兆円以上は2028年3月期から |
注目すべきは、開示の重心が「実績値の並記」から「戦略との接続」へ移った点です。内閣官房・金融庁・経済産業省は2026年3月23日に「人的資本可視化指針(改訂版)」を公表し、副題を「戦略に焦点をあてた人的資本開示」としました。
経営戦略と人材戦略の連動、およびそれを踏まえた指標の開示事例が新たに示されています。指標を並べるだけでは不十分で、なぜその指標なのかを説明できるかが問われます。
人的資本開示に向けて人事部門が進める5つの準備
- 現状の棚卸し:直近の有価証券報告書と自社サイトの開示内容を洗い出し、新設3項目に対応する記述があるかを確認します。あわせて女性活躍推進法の公表義務の対象規模に自社が該当するかも点検します。
- 経営戦略と人材戦略の接続を言語化:中期経営計画の重点領域を実現するために、どの職種・スキルが何人必要かを整理します。現状とのギャップが、リスキリング投資の根拠になります。
- 指標と目標を設計:研修投資額、一人当たり研修時間、資格取得者数、社内公募による異動人数など、戦略と結びつく指標を選びます。数値は目標値と達成期限をセットで置きます。
- データ収集の体制を整える:給与・研修・管理職比率は所管部署が分かれがちです。集計ルールと対象範囲(単体か連結か)を先に決め、経理・IR部門と定義を揃えます。
- 開示ドラフトを作り社内レビュー:経営層とIR部門を交えて、投資家の視点で読み返します。開示後は指標の推移を毎年追い、翌年の記載に反映させます。
人的資本開示でつまずきやすい3つの注意点
第一に、集計定義のずれです。女性活躍推進法と有価証券報告書では対象範囲や算定方法が異なる場合があります。異なる数値を開示する場合に備え、集計範囲や定義を社内で整理しておくことが重要です。
第二に、指標の後付けです。既存の研修実績に後から目標を当てはめただけの記述は、戦略との整合性を問われた際に説明が続きません。
第三に、対象外だからと着手を遅らせることです。従業員100人以下の企業でも公表は努力義務とされており、採用競争力や取引先からの要請を考えれば、早めの整備が有利に働きます。
リスキリングドットコムの視点
リスキリングドットコムとしては、2026年の一連の改正を「開示対応の作業が増えた」と捉えるか、「人材投資を経営の言葉で語り直す機会」と捉えるかで、その後の差が大きく開くと考えています。
新設された「人材戦略を踏まえた従業員給与等の決定方針」や「従業員の平均給与の対前年比増減率」は、育成と処遇のつながりを問う項目です。
研修を実施したという事実だけでなく、そこで身につけたスキルがどの職務に活き、処遇や人材戦略にどうつながるのかまで筋道を示すことで、人的資本投資をより一貫して説明しやすくなります。
可視化指針の改訂が示すとおり、求められているのは指標の数ではなく、戦略との一貫性です。まずは自社の中期計画を開き、必要な人材像を書き出すところから始めることが重要です。
出典元
- 金融庁:「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果について(2026年2月20日)
- 金融庁:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について(2023年1月31日)
- 内閣官房:「人的資本可視化指針」の改訂について(2026年3月23日/内閣官房・金融庁・経済産業省)
- 厚生労働省 栃木労働局:2026年4月1日 女性活躍推進法が改正されました
- 公益財団法人日本生産性本部:2025年3月末決算企業の有価証券報告書「人的資本開示」状況(速報版)(2025年8月1日)



