【導入事例】 「最強の騎馬隊も、ドローンには勝てない」

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最終更新日:2026.06.12

(左から)株式会社KIZASHI 吉田 圭佑、株式会社JSS 倭文 浩樹

管理職84名にAIリテラシー研修を導入した会社の会長が語る、変革期の生存戦略

警備業界という、一見AIとは距離があるように思える業界で、管理職以上84名に対してAIリテラシー研修を一斉導入した株式会社JSS。その決断の裏には、倭文会長の「変革期に淘汰されるのは、いつの時代も変化を拒んだ側だ」という強烈な危機感と確信があった。研修導入の背景から、組織再編構想、そして警備業界の未来まで、歯に衣着せぬ言葉で語っていただいた。

倭文 浩樹 氏 株式会社JSS 代表取締役会長

吉田 圭佑 株式会社KIZASHI リスキリング事業部 営業統括

「ここまでは知っているもの」というラインを引きたかった—84名規模で実施した背景

今回、AIリテラシー研修を受講されたのは管理職以上の社員の皆さん、84名という規模でした。まずこの規模で実施された背景からお聞かせください。

一番の目的は、いっぺん全員のレディネス(準備状態)を揃えたかったんですよ。AIの話をしようとすると、設定の仕方やダウンロードから説明しなきゃいけない人と、普段からバンバン使っている人がごちゃまぜになっているわけです。これだと話が進まない。だから「ここまでは知っているものとして話を進めるよ」というラインを、まず全社で引きたかった。

もうひとつは、正直に言えば、研修へのリアクションで「ついてこられる人間」と「ついてこられない人間」をはっきり分けてしまおうと思ったんです。その線引きとしての研修でもありました。

受講対象が管理職以上というのも意図的なんですね。

そうです。彼らはほとんどが内勤業務か、現場に出ていても現場を取りまとめる立場の人間です。つまり、AIで仕事のやり方が一番大きく変わる層なんですよ。

最近よく「経営コンサルタントが廃業している」という話を聞きますよね。でも一方で、廃業しないどころか儲かっている経営コンサルタントもいる。その違いは何かといえば、AIを鬼のように使いまくっているかどうか。使っていなかった人たちが廃業に追い込まれて、業界が二極化しているんです。これは分かりやすい例ですが、うちの仕事だってまったく同じことが起きます。

「全社員が成長したいわけではない」—成長痛と覚悟

「完全能力主義でいくと決めています」と語る倭文会長

研修を進める中で、社内の反応に差はありましたか。

ありますよ。ある優秀な経営コンサルタントが「成長痛」という言い方をしていましてね。会社を大きく成長させるというのは、目標達成の障害となっている課題を解決する経営であって、目の前の課題に対処するだけの経営ではない。そうすると必ず社員から反発が出る、と。

実際のところ、全社員が成長したいわけではないんです。業務改善したいわけでもない。なるべくこのまま毎日同じように進んでほしい、昇進もそんなにしたくない、責任も増やしたくない、現状維持を望む声は確実にある。だから「現状維持では困る」という経営方針そのものに反発が出る。

そこにどう向き合うかが経営者の覚悟になりますね。

そう。痛みは伴うけれど、ついてこられる人を中心にした組織にしないといけない。多くの経営者は「こいつは創業時から頑張ってくれたから」と情で残してしまう。でもそうすると、本当はこっちを向いて頑張っている下の世代が腐ってしまうか、外に流出してしまうんです。

うちも今、その傾向が出かねないと思っていましてね。だから完全能力主義でいくと決めています。戦国時代でいえば、家柄や古参かどうかで人を登用していた組織は時代の変化についていけなかった。実力で登用した織田信長方式ですよ。

評価制度との接続はどう考えていらっしゃいますか。

人事ポリシーを明確にすることに尽きます。うちのポリシーはシンプルで、「AIを使った仕事ができない人は、内勤の仕事に向いていないので、警備の制服を着て現場に行ってもらう」。それだけです。それまでの貢献がどうこうという話ではなく、今この変革期に必要な能力があるかどうか。明確でしょう。

KIZASHIを選んだ決め手

研修パートナー選定の決め手を尋ねる吉田

今回、KIZASHIの「AIリテラシー研修」を選んでいただいた決め手は何だったのでしょうか。

世の中にAI研修をうたうサービスはいくつもありますが、比べてみて「数ある選択肢の中で一番当てになる」と判断したのがKIZASHIさんでした。

まず、研修の中身が実務に直結している。今回導入したAIリテラシー研修は全従業員向けの基礎研修ですが、用語の解説で終わらずに、実際の業務でどう使うかまで落とし込まれている。うちは管理職が84名もいれば理解度はバラバラです。全員に同じ基礎を入れることで、最初に話した「ここまでは知っているもの」というラインが引ける。「まずは全員のレディネスを揃えたい」という会社には、ちょうどいい設計だったんです。

それから、KIZASHIさんは「国策を企業に実装するプロ」を名乗っているだけあって、人材開発支援助成金の活用まで含めた設計になっている。助成金で研修費用が最大75%軽減されるので、管理職84名という規模でも導入のハードルが低い。助成金まわりは判断や書類の整理が面倒なものですが、対象になるかどうかの判断から必要書類のアドバイスまでサポートしてもらえたので、こちらはほとんど手間をかけずに済みました。

要は、研修の中身と費用対効果の両方で筋が通っていた。だったら逆にこちらも協力するよ、と。そういう関係で選んでいます。

「ルールがないからできない」は、やらない理由の最先端

社員の皆さんが学びを業務に活かせるよう、会社として工夫されてきたことはありますか。

環境面はかなり前から整えています。実は2年ほど前から「ChatGPTなどの有料版を使っていい、経費で精算していい、会社が金を払うから」と言って法人契約をして、アカウントも20ほど用意していたんです。

ところが、ちゃんと使ったのは5人くらい。今はGoogle Workspaceを導入しているのでGeminiが標準でついてきますが、それで事足りる程度にしか使われていない。要するに、ハードウェアや環境だけ整えても、人は使わないんですよ。

使わない理由として、社員の方からはどんな声が出てくるんですか。

定番がありましてね。「セキュリティが心配」「情報漏洩が怖い」「会社がルールを決めてくれないから」。この3点セットです。

でも、実際に使っている人はセキュリティの心配なんてしていません。どう使えばいいか分かっているから。逆に、何も分かっていない人は、漏れたらまずい情報をそもそも入力できないんだから大丈夫なんですよ(笑)。うちは国家機密を扱っているわけじゃない。「ルールがないなら自由に使え。使ってみてからルールを決める」と言っているんです。これ、相当優しい会社だと思いますよ。

とても優しいですね。「やってから言えよ」と。

そう。「セキュリティが」と言う人は、やらない理由の最先端を走っているだけ。スマホの使い方を学校で習った人なんていないでしょう。いじっているうちに覚えたはずです。今のAIはインターフェース自体が感覚で使えるようにできている。試しに押してみて「ああ、こうなるのか」で覚えられる。それができないというのは、感覚的に触ろうとしていないということなんです。

組織に起きている変化—「教わらなきゃできない人」は教わってもできない

倭文会長の話に耳を傾ける吉田

研修を経て、組織にはどんな変化が起きていますか。

Google Workspaceの使い方は明らかに上がってきました。Google内のAIボタンを押せる人間が増えたのは大きい。議事録の要約から表の整形、円グラフまで一発、秒で終わる仕事が増えています。

それから、面白い変化として「会長、あの漫画みたいな動画、どうやって作ってるんですか」と聞きに来る社員が出てきました。私が最近、生成AIで紹介動画みたいなものを作っているのを見てね。だったらいっぺんに教えるから集まれと言って、ついでに教えています。

会長ご自身も独学なんですよね。

誰かに教わったわけじゃないです。ネットで流行りの形式を見て「これ面白いな」と思ったら、AIと壁打ちして「俺向きにこういうのを作れ」「どうやって作ればいい」「じゃあCanvaでこう編集して、ここで音楽を入れて」—言われた通りにやったらできた。それだけです。

だからこそ言えるんだけど、「あれはできないの、これはできないの、やり方を教えてよ」というスタンスの人は、教えてもできないんですよ。これは私の感覚としてほぼ間違いない。ずいぶん前から「これからはSNSで情報発信も情報収集もしないとダメだ」と言い続けてきて、今日になってもやっていない人は、もうやらない。自分で伸びていく人は、勝手に伸びていくんです。

受講された方とされていない方の差についてはいかがですか。

まず受講は100%させました。受講していないのは退職予定者だけです。あとは、私がやったように後で分からないところを復習したかどうか。そこで差がつきますね。

手間がかかっている業務の正体

一方で、従業員の皆さんが今も手間や時間がかかって困っている業務というのは、どのあたりにあるのでしょうか。

正直、なんで手間がかかっているのか私には理解できない(笑)。まだ紙でやっていたり、手で突き合わせをしている仕事が残っているということなんでしょうね。

最近は、都合の悪い報告を私に持ってくると「なんでそれAIでやらないの」と言われるのが分かっているから、報告しづらいんだと思いますよ。私のスピード感と現場のイメージの差が大きすぎるんです。

ただ、DXとしての土台は相当進めました。管制業務なども最新システムに移行済みで、あとはちゃんと使いこなすかどうかだけ。もっと合理的なシステムが出てくればすぐ買い替えるし、なんなら暇なときに私がAIで作ってもいいと思っています。

「作れちゃう」というのが会長のすごいところですよね。

実は私、情報処理1級を持っていて、昔のCOBOLやBASICでプログラムが組めるんです。ホームページも1995年に自分でコードを書いて作っていました。カラーコードも頭に入っていた時代がある。だから仕組みは分かっているんですよ。

よく「AIで素人がプログラムを組める」と言いますが、本当の威力は逆で、知識がある人がAIを使うと超一流の仕事ができる。素人が使えばプロ並みの内容になり、プロが使えば超一流になる。プロンプトの指示が緻密で曖昧さがなくなるからです。経理が分かっている人がAIで経理をやれば、はるかに合理的に回せる。これが本質だと思います。

今後の構想—3部門を「未来推進企画経営本部」に統合する

AI活用のスタートラインに立たれた今、今後の構想をお聞かせください。

私としては2年前にスタートラインに立っているつもりなんだけどね(笑)。構想ははっきりしています。組織自体を変えます。

今は業務本部・管理本部・監査と3つの組織を立てていますが、これがなくなってもいいように、「未来推進企画経営本部」のような統合組織を作って、広報もシステムもAIで何でもやってしまう部隊を私の直轄に置こうと思っています。「経理のためだけに人が1人いる」というのは、もうナンセンスなんですよ。

統合してから、必要に応じて分けていくと。

そう。部門に人が必要なのは、実業部門だけだと思っています。現場を見に行く、何かあったときにすぐ出動する、そういう仕事と、AIを使いこなす部隊。1人が何役もこなせるはずなので、変革期の受け皿としてまず統合してしまう。

そして、ここからは心を鬼にして進みます。ついてこられない人には降格もあるし、道を譲ってもらうこともある。ただしチャンスは全員に与えている。やれるようになった人はどんどん上がっていけばいい。下剋上をかませる組織にするということです。私が今20歳だったら「使えない上司を全部現場に出してください。この部門の仕事は、全部私がやります。減らした人件費の2割だけください」と交渉しに行きますよ。それくらいのことが、今のAIなら本当にできてしまう。

現場警備そのものの未来についてはどうご覧になっていますか。

実は「現場警備は人間の仕事」というのも、ずっとは続かないと思っています。今、世界では高性能なロボットがどんどん作られていますよね。介護への応用が語られていますが、警備の仕事はあれよりもっと単純なものが多い。現場の警備員に記録デバイスをつけて、そのデータをAIに学習させれば、警備ロボットはむしろ作りやすい領域なんです。

1台1,000万円でも安い。労働紛争もない。早ければ今年か来年には、そういうものを使い出す会社が出てくると思いますよ。大手警備会社の人と話すときにも言っているんですが、これから警備会社に必要な社員は「ロボットをメンテナンスできる技術者」と「AIを組める人間」。そうなれば現場警備員の待遇が上がるか、ロボット化で構造ごと変わるか。いずれにせよ、やった会社が全部勝ちます。やらなかった会社は駆逐される。

業界へのアドバイス—鉄砲伝来と武田騎馬隊の教訓

「経営者こそAI活用が必須」と語る倭文会長

最後に、警備業界をはじめとした関連業界の経営層へ、AI活用の最初の一歩についてアドバイスをお願いします。

鉄砲伝来のときの話とまったく同じです。「雨で使えない」「弾込めに時間がかかる」「これなら馬でなで斬りしたほうが早い」、そう判断した最強の騎馬軍団は滅びました。一方で「こんな面白いものがある」と自ら鉄砲を撃って遊び、弾込め要員を分けて交代で撃つ運用まで考えた織田信長が勝った。使い方を考えた側が勝つ。歴史が証明している通りです。

ただし今は、当時よりもっと差が開いています。柵と鉄砲どころじゃない。最強の騎馬隊 対 地球の裏側から飛んでくるドローンくらいの差です。誰にやられたかも分からないうちにやられてしまう。AIを使っていない経営者は、何が起きているのか分からないまま「こんなはずじゃなかった」と会社が急になくなる、私は普通にそう言っています。

経営者自身が使うことが大前提だと。

これは経営者の集まりでも必ず言っています。「若手に勉強させてうちに導入させよう」なんて考えていたら、その若手に会社を乗っ取られるか、独立されますよ、と。経営者自身が使えなかったら、その会社はもう使えない。自分から勉強しに行かない経営者は、引退して、できる人に席を譲ったほうがいい。ソフトバンクの孫さんが言っていた通りです。

変革期は、規模の小さい会社にとってはチャンスでもありますよね。

その通り。変革期は、それまでの大きいところをやっつける絶好のチャンスなんです。戦国時代に勝ったのは旧来の大大名ではなく、小さくても最新のものを取り入れた賢い側だった。今も同じで、SNSに広告の主戦場が移ったことで、大企業並みの広告費をかけられない会社でも、SNSで勝てば大企業並みの効果を出せる。下剋上の時代に入っているんです。

労働力の価値、人件費という概念そのものが変わります。単純労働は労働集約型から消えていき、仕事は「人間にしかできないことができる人」に集中する。人間にしかできないこととは、AIを使いこなすこと、そしてAIを使いながら「次に何をやるか」を考えることです。早く動いた者の勝ちですよ。

本日は刺激的なお話を、本当にありがとうございました。

こういう話、ぶっ飛んでると思う人と、広めようとする人にはっきり分かれるんだけどね(笑)。ちなみに今日の話も、私の能力の1%も使っていません。皆さんのレディネスに合わせてお話ししていますので、「そんなもんかよ」と思った方は、別途聞きに来てください。

倭文会長の著書

「警備のプロが教える」シリーズ。左から『防災の新常識』『詐欺対策の新常識』『防犯の新常識』(倭文浩樹 著)

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取材・聞き手・構成

吉田 圭佑(株式会社KIZASHI リスキリング事業部 営業統括)

取材日:2026年6月11日 / 取材地:株式会社JSS 本社