カスハラ対策義務化はいつから|2026年10月施行・10の措置と準備5ステップ
最終更新日:2026.09.09
カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応が、2026年10月1日からすべての事業主の義務になります。
この記事では、改正労働施策総合推進法と厚生労働省の指針をもとに、カスハラの定義、企業が必ず講じなければならない10の措置、施行までに進めたい準備5ステップを整理します。
カスハラ対策の義務化はいつから、誰が対象か
根拠となるのは、令和7年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)です。厚生労働省は、職場におけるカスタマーハラスメントの防止措置義務が令和8年(2026年)10月1日から始まると案内しています。
同じ日から、改正男女雇用機会均等法により、求職者等に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)の防止措置も義務化されます。
指針は、カスタマーハラスメントが令和8年厚生労働省告示第51号、求職者等に対するセクシュアルハラスメントが同第52号として示されています。
義務を負うのは労働者を雇用する事業主で、厚生労働省のパンフレット(令和8年7月作成・No.22)は、ここでいう「労働者」を、パートタイム労働者や契約社員などの非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用するすべての労働者としています。
派遣労働者については、派遣元だけでなく派遣先も自ら雇用する労働者と同様に措置を講じる必要があるとされています。
業種や企業規模で対象が区切られているわけではないため、店舗・コールセンターを持つ企業だけの話ではありません。
実態面でも件数は増えています。厚生労働省の委託調査「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為について相談があったと回答した企業は27.9%で、令和2年度調査から8.4ポイント増えました。
同調査では、カスハラは他のハラスメントと比べて予防・解決のための取組を実施している割合が低い傾向も示されています。
カスハラの定義は3要素、苦情のすべてが該当するわけではない
厚生労働省は、職場におけるカスタマーハラスメントを、①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、という3つの要素をすべて満たすものと定義しています。
電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれます。「顧客等」には、顧客や取引の相手方のほか、駅・空港・病院・学校・福祉施設・公共施設などの利用者、今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある者も含まれます。
許容される範囲を超えるかどうかは、「言動の内容」と「手段や態様」の両面から総合的に判断するとされています。
内容の面では、要求に理由がない、契約等により想定しているサービスを著しく超える、対応が著しく困難または不可能、不当な損害賠償要求といった例が挙げられています。
手段や態様の面では、身体的な攻撃、精神的な攻撃(脅迫・中傷・名誉毀損・侮辱・暴言・土下座の強要等)、威圧的な言動、継続的・執拗な言動、拘束的な言動(不退去・居座り・監禁)が典型例です。
一方で、社会通念上許容される範囲で行われる正当な申入れはカスハラに当たらず、障害者が不当な差別的取扱いをしないよう求めることや社会的障壁の除去を必要としている旨を表明すること自体も該当しないとされています。
線引きの共有こそが、現場が迷わないための第一歩です。
企業が必ず講じなければならない10の措置
指針が求める措置は、大きく5つの区分・合計10項目です。パワハラ対策と重なる部分もありますが、「抑止のための措置」はカスハラに固有の項目です。
| 区分 | 講ずべき措置 |
|---|---|
| 方針等の明確化と周知・啓発 | ①毅然とした態度で対応し労働者を保護する方針を明確化し周知・啓発する ②カスハラの内容とあらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する |
| 相談体制の整備 | ③相談窓口をあらかじめ定め労働者に周知する ④相談窓口担当者が適切に対応できるようにする |
| 事後の迅速かつ適切な対応 | ⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する ⑥被害者への配慮のための措置を行う ⑦再発防止に向けた措置を講ずる |
| 抑止のための措置 | ⑧特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、対処を行うことができる体制を整備する |
| 併せて講ずべき措置 | ⑨相談者等のプライバシー保護に必要な措置を講じ周知する ⑩相談等を理由に不利益な取扱いをされない旨を定め周知・啓発する |
②の「あらかじめ定めた対処の内容」として、厚生労働省は、管理監督者にその場の対応方針の指示を仰ぐこと、可能な限り労働者を一人で対応させないこと、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報すること、本社・本部等へ情報共有を行い指示を仰ぐことなどを例示しています。
施行までに進める準備5ステップ
- 方針を決めて明文化する:カスハラには毅然と対応し労働者を守るという方針を経営として決め、就業規則に委任規定を置いたうえで「ハラスメントの防止に関する規定」等に定義や対処を定めます。厚生労働省のパンフレットには規定例が掲載されています。
- 現場の対応ルールを具体化する:どこからが自社の言う「許容範囲を超える言動」かの目安、エスカレーション先、一人対応をさせない運用、警察通報の判断、記録の残し方までを手順に落とし込みます。判断を現場任せにしないことが要点です。
- 相談窓口を整え、担当者の対応力を確保する:窓口を定めて全労働者に周知します。パワハラ・セクハラ等と一元的に相談を受けられる体制にしておくと、複合的な事案にも対応しやすくなります。担当者向けのマニュアル整備と研修も必要です。
- 事後対応と被害者ケアの流れを決める:事実関係の迅速・正確な確認、被害を受けた労働者への配慮(メンタルヘルス面のケアや配置の見直しを含む)、再発防止措置までを一連の流れとして定めます。プライバシー保護と不利益取扱いの禁止も明文化します。
- 悪質事案への対処方針と体制を用意し、研修で定着させる:特に悪質なケースの対処方針(対応打ち切り、法的措置、外部専門家との連携等)をあらかじめ定めて周知し、実行できる体制を整えます。そのうえで、定期的・階層別の研修や、異動・入社時期に合わせた周知で運用を根づかせます。
運用でつまずかないための注意点
第一に、相談を行ったことや事実確認に協力して事実を述べたことを理由に、労働者を解雇するなど不利益に取り扱うことは法律で禁止されています。
第二に、他の事業主から、その事業主が講じる措置の実施について必要な協力を求められた場合、これに応じるよう努めることとされています。
自社の従業員が取引先の従業員に対してカスハラの加害者になり得るという視点も欠かせません。
第三に、対策を講じる際は、消費者の権利や、障害者差別解消法における不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意する必要があるとされています。
過剰な線引きは、正当な申入れまで遮断してしまいかねません。なお、措置義務に違反した場合の直接の罰則規定は設けられていないものの、行政による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合には企業名が公表され得ると指摘されています(長島・大野・常松法律事務所の解説)。
望ましい取組として厚生労働省が挙げているのが、教育の側面です。自社の商品やサービスの理解を深める研修、苦情対応の研修によって顧客等への対応力を高めること、消費者の心理や障害特性(認知症の症状を含む)について資料配布や研修で理解を深めることが示されています。
また、業種・業態によって被害の実態が異なるため、同じ業種の複数の事業主が一体となって取り組むことも望ましいとされています。
まとめ
カスハラ対策の義務化は2026年10月1日から。定義の3要素を社内で共有し、10の措置を自社の実情に合わせて形にし、方針・現場ルール・相談窓口・事後対応・悪質事案への備えの順で準備を進めることが求められます。
制度や指針の詳細、最新の様式や解説資料は、厚生労働省の公式ページで確認してください。
リスキリングドットコムの視点
ここからは編集部の見解です。リスキリングドットコムとしては、カスハラ対策は「規程をつくる仕事」ではなく「現場の判断力を育てる仕事」だと捉えています。
3要素の判断は、言動の内容と態様、経緯や業務の性質を総合して行うもので、マニュアルの丸暗記では対応できません。
だからこそ、指針が望ましい取組として研修を挙げている意味は大きいと考えます。自社商品への理解、苦情対応の技術、消費者心理や障害特性の理解は、いずれも接客・サービス品質そのものを底上げするスキルでもあります。
義務化への対応を「守りのコスト」で終わらせず、現場社員と管理職の対応力を鍛える育成テーマとして設計できるかどうかが、10月1日以降の差になっていくのではないでしょうか。
相談窓口の担当者育成も、後回しにされがちですが優先度は高いと考えます。



