「日経リスキリングサミット2024」開催。企業と個人の新たな一歩が生むキャリア形成の未来像

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最終更新日:2024.09.27

2024年9月3日と4日の2日間、日本経済新聞社によるイベント「日経リスキリングサミット2024」が開催された。

「人的資本時代に求められるリスキリングとは」をテーマとした本イベントでは、産官学の著名人が登壇し、組織や個人のリスキリングのあり方を議論。プログラムのなかから、企業・個人の挑戦のあり方を知る手がかりとなる2つのパネルディスカッションをレポートする。

NTTドコモが描く未来のキャリア支援〜リスキリングで個人と企業の成長を同時に実現

急速に変化する社会において、企業と個人が共に成長し続けることは容易ではない。しかし、株式会社NTTドコモ(以下、NTTドコモ)はリスキリングを通じて、この難題に挑戦している。

パネルディスカッション「リスキリング意欲を高めるキャリア支援~人材力強化に向けて」にて紹介された同社の取り組みには、日本企業が直面する人材育成の課題に対するひとつの解答が示されていた。

リスキリングの第一歩は「目標を定める」こと

NTTドコモ執行役員総務人事部長の本昌子氏は、同社のキャリア支援の取り組みについて、次のように語る。

「ドコモグループでは、2023年4月から専門性を軸とする新しい人事制度を取り入れて推進しています。新しい制度では『目標を定める(動機づけ)』『自分を磨く(仕組み提供)』『キャリアに挑戦する(場の提供)』という3ステップを用意し、会社として成長を支援しています」(本氏)

この3ステップアプローチは、従業員が自身のキャリアを主体的に考え、行動に移すための指針となっている。特に注目すべきは、最初のステップが「目標を定める」ことだという点だ。リスキリングの成功には、明確な目標設定が欠かせないということだろう。

しかし、新しい制度や考え方を全従業員に浸透させることは容易ではない。そこで、NTTドコモは従業員主催による「キャリフェス」を実施したという。キャリフェスは約1ヶ月間、従業員にキャリアを考える機会をつくるため、多彩なプログラムが用意された。

「イベントでは有識者の講演会や、社内の専門家によるラウンドテーブル、年齢層別のワールドカフェなどを実施しました。結果として、リアルタイムで3,500名もの従業員が参加イベントサイトの閲覧者は6500名以上という結果になりました」(本氏)

キャリアコンサルタントの活用で個別支援を強化

全社的なイベントに加え、NTTドコモは個別のキャリア支援にも力を入れている。その中心となっているのが、キャリアコンサルタントの活用だ。

「『キャリアサポートメンバーシップ』という制度は、キャリアコンサルタントという国家資格を持つ約50名の従業員に、気軽にキャリア相談ができるというものです。昨年(2023年)は、約1,500名がこの制度を活用しました」(本氏)

加えて、従業員同士(役員も含む)で気軽に相談できる「ふらっと1on1」という独自のシステムも導入。20代から60代まで幅広い年齢層の従業員が、自身のキャリアについて真剣に考え、行動を起こすきっかけを得ている。

こうした気づきと学びの先にある実践の場について、NTTドコモは「ダブルワーク」という制度を通じて従業員に提供している。この制度は自分の業務を行う一方、全体の業務の20%の稼働で興味のある組織の業務にも従事できるという仕組みとなっている。この制度は従業員に新しい挑戦の機会(知識の拡張の場)を提供するだけでなく、予想外の効果も生み出した。

「ダブルワークをしている従業員・していない従業員を比較したところ、前者の従業員のほうがパフォーマンスが高く出せるという結果が出ました」(本氏)

この結果は、新しいことへの挑戦が、現在の業務にも良い影響を与えることを示唆している。リスキリングが単なるスキルアップではなく、従業員の意欲や創造性を高める効果があることの証左と言えるだろう。

ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏によれば、海外でもリスキリングに取り組む従業員は人事評価が高くなるというデータが出されているという。

「リスキリングに対して消極的になってしまう原因のひとつに、新しいことに挑戦して失敗するのが怖いと感じることにあります。しかし、実は新しい仕事に挑戦するほうが、結果として高いパフォーマンスを発揮できるということが、NTTドコモさんの数字からもわかるのではないでしょうか」(後藤氏)

リスキリングは「三方良し」が重要

ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏は、NTTドコモの取り組みを踏まえ、リスキリングの本質について次のように語る。

「私は『リスキリングは三方良しが重要』と伝えています。将来の成長事業を担うスキルを担う従業員を育成し、売上と利益が生まれ、それらが従業員に給与として還元される。これこそが、リスキリングも成功する会社のモデルとなっているのです」(後藤氏)

つまり、リスキリングは単なる従業員教育ではなく、個人と企業、そして社会全体にメリットをもたらす取り組みだということだ。では、今後のキャリア開発はどのような方向に向かうのだろうか。本氏は次のように展望を語る。

「弊社では、従業員の成長と事業成長との連動を目標としています。会社として人的資本経営を推進する理由を明確化し、そのなかでKPIを設定したうえで、従業員にリスキリングの道筋を提示しています。その道筋が事業の成長領域へと導かれるような形で、事業成長への連動につなげていきたいと考えています」(本氏)

この循環において、後藤氏は中高年のリスキリングの重要性を強調する。

「定年退職という概念が廃止されつつある現在、70歳まで働くという時代が訪れようとしています。長く組織に貢献する、あるいは自分が必要とされる存在であり続けるという点において、リスキリングは重要な鍵を握ると思います」(後藤氏)

高齢化社会を迎える日本において、中高年のリスキリングは今後ますます重要なテーマとなっていくだろう。本氏もセッションの最後にて、幅広い世代に対するキャリア支援の重要性を説いた。

「弊社では今後、20〜40代だけでなく50代、60代の従業員にも有益となるキャリア支援施策を展開していきたいと考えています。それができたあかつきには、全世代のリスキリングをさらに強化・改善していきます」(本氏)

タレント鈴木奈々さん、家族とともにキャリアコンサルタント資格へ挑戦

パネルディスカッション「地方における労働市場とキャリアコンサルタントの役割」では、タレントの鈴木奈々氏が登壇。鈴木氏は一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会(JRCA)のアンバサダーに就任。さらに、鈴木氏もキャリアコンサルタントの資格取得に挑戦することが表明され話題となった。そこで語られた言葉は、新しいことにチャレンジする人々を勇気づけるようなメッセージが込められていた。

鈴木奈々、キャリアコンサルタント資格への挑戦と学びへの姿勢

「私は本当に勉強ができなくて、学ぶことも苦手なんですよ」そう語る彼女の率直な言葉に、多くの人が共感を覚えるのではないだろうか。18歳から雑誌モデルとして活動をはじめ、現在ではテレビで多方面の活躍を見せる鈴木氏。同氏がキャリアコンサルタントを目指すきっかけには、後輩の存在があった。

「最近、芸能界の後輩からたくさん相談を受けるんです。それに対して、自分に何かできることはないかなと思うようになりました」(鈴木氏)

芸能界という特殊な環境でのキャリア相談に、応えられる人材の必要性を鈴木氏は感じたようだ。高校時代は勉強が苦手で退学した経験を語った鈴木氏だが、キャリアコンサルタントの資格取得という新しい挑戦に対して、終始高い意欲を見せていた。

これから始まる勉強では、家族と一緒に学ぶという楽しい計画を明かしてくれた。

「お父さんとお昼ご飯を食べていたとき、『一緒にキャリアコンサルタントの資格を取ろう』と誘ったんです。そうしたら『いいよ』と賛成してくれました。これからお父さんと一緒に、勉強を頑張ろうと思います」(鈴木氏)

後藤氏は、自身があまり勉強が得意ではなかったと話す。

「私は学ぶことが得意ではない、勉強があまり好きではない方たちにこそ、リスキリングに挑戦していただきたいという想いがあります」(後藤氏)

鈴木氏の挑戦は、新たな挑戦を始めたいという人を後押しする良いモデルケースになるだろう。

リスキリング時代における新たな挑戦の重要性

政府が三位一体の労働資本改革を掲げる中、経済産業省はキャリアアップ支援において、キャリアコンサルタントを積極活用していくと発表。JRCAは、生成AIの普及により人々の働き方が変わるとされるこれからの時代において、キャリアコンサルタント自身の学び直しが求められているという観点から設立された。

古今堂氏は、キャリアコンサルタントに対する期待に応えるため、生成AI等の知識をアップデートするためのリスキリングの重要性を強調。現在、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)や経済産業省の関係者とともに、カリキュラムの作成を進めている。その詳細は、9月11日、12日に東京国際フォーラムで開催される「生成AI時代のリスキリングサミット 2024」にて公開予定だ。

こうした動向に、鈴木氏が参画することへの喜びを古今堂氏は口にする。

「鈴木奈々さんのような影響力のある方が、一緒になってキャリアコンサルタントやリスキリングの重要性を広めていただけることを、心強く感じています」(古今堂氏)

茨城県龍ケ崎市出身である鈴木氏は、同県の観光大使「いばらき大使」を務めている。キャリアコンサルタントを通じて、地元のキャリア支援にも貢献できる可能性がある点や、資格取得による個人としての成長を、自信につなげたいと鈴木氏は語った。

最後に、鈴木氏は自分らしく資格取得に挑戦していきたいと前向きな言葉で締めくくった。

「これから、勉強が苦手な私でも、キャリアコンサルタントの資格が取れるぞという姿を皆さんに見ていただきたいと思います。また自分らしく楽しみながら、皆さんと一緒に挑戦を楽しみたいと思います。応援よろしくお願いします!」(鈴木氏)