「個の成長」から「組織の進化」へ – AI活用を加速させるコミュニティの力
最終更新日:2024.10.17
AI技術の進化は目覚ましく、企業はこの流れをチャンスに変え、新たな価値を創造していくことが求められる。
「コミュニティを有機的に機能させることで、生成AI活用を加速できる」と語るのは、株式会社博報堂DYホールディングスのCAIO(最高AI責任者)兼 Human Centered AI Institute代表の森正弥氏だ。
20年以上にわたりAI技術の進化とともに歩み続けてきた森氏に、組織のAI活用のポイントを伺った。
先端技術領域におけるAIの進化
森氏は新しい技術を果敢に用いて世の中を変えたいという想いから、将来的に実用化が期待される先端技術を専門領域としてきた。アクセンチュアに在籍時、シリコンバレーにある研究所のマネージャーに就任。キャリアにおけるAIとの関わりは、2004年から始まった。
「当時、データマイニングやテキストマイニングなどの技術群に注目が集まっていました。AIや機械学習をもとに、膨大なデータから製造業における設備不良の予測、マーケットトレンドの解析などの研究が進められていたのです(森氏)
その後、トレンドは2010年にビッグデータ、2012年にディープラーニングへと移り変わる。この時、森氏は楽天グループの研究開発のリーダーを務めており、データの中に眠る価値をどう解き放つか、日々格闘していたのだが、そこで衝撃的な事実が報告された。
「それまでのデータサイエンスの世界では、対象となるデータを整理して、ノイズを除去した上で活用するのが常識でした。データサイエンティストのタスクの8割は、このデータ整理に充てられていました。
ところが、画像認識など一部の技術において、人の手を加えない“生のデータ”を使用した方が高い精度の結果が得られました。現実の問題に対応するにはノイズを含めたまま、場合によっては逆にあえてノイズを付け足して学習することが重要になる。ディープラーニングによって、データサイエンスのプロセスを考え直し、ノイズも含めた生データをどう生かすかという新たな挑戦をすべきだという可能性が示されたのです」(森氏)
以降、自動翻訳や音声解析、レコメンデーションエンジンと幅広い分野に、ディープラーニングは活躍の場を広げていった。楽天もまた、すべての研究所の研究テーマにディープラーニングを組み合わせ、関連技術のリスキリングを図っていったという。
2017年頃からは、AIは描画や執筆や作曲などクリエイティブな領域にも進出し始める。その進化はさらに加速し、現在では「生成AI」としてビジネスに大きなインパクトを与えている。
従来型AIと生成AIの特性を理解する
森氏は、企業がAIを活かす上で「従来型AI=機会学習ベースの予測AI」と「生成AI」の特性を分けて理解することが重要だと指摘する。
「従来型AIによる需要予測は、原材料調達や販売計画、デジタルマーケティングの最適化など、あらゆる成果をもたらします。データというガソリンと機械学習というエンジン。この2つをかけあわせて、精度を改善し続ける循環をいかに生み出し続けられるかが、従来のAIには重要です。
この恩恵を享受するには、データサイエンティストの確保や育成を通じて、データマネジメントの体制を整える必要があります」(森氏)
一方、生成AIは別の方向性を通じて、人々の能力を増幅、進歩させる可能性を秘めている。
「これまで100個のアイディアを出せた人は、生成AIによって300個のアイディアを出せるかもしれません。成果の最大化やアイディアの創造・発展などの領域で、生成AIは大きな助けとなります」(森氏)
AIプロフェッショナルを
従来型AI、生成AI、どちらにおいてもAIを正しく活用できるプロフェッショナルには、「テクノロジー」「業務プロセス」「データ」「顧客」 という4つの視点が必要だという。
「AIというテクノロジーによって業務プロセスがどう変わるのか。どのデータを使うとどのような効果が得られるのか。テクノロジーがお客様にどのような付加価値をもたらすのか。この4つが組織において、どのように影響し合うのかを把握しましょう」(森氏)
さらに、生成AIはまだ発展途上のため、その活用では段階的に用途を広げていくべきだと森氏は説明する。
「まずは、個々の従業員の業務が生成AIで便利になることを体験させます。プロンプトの入力などに慣れてきたら、マルチエージェントシステムやRAGシステムなどを用いて、業務プロセスの自動化、サービス開発にも着手していきます。
そして、パートナー企業も含むエコシステム、バリューチェーン全体においても、生成AI活用できないか模索し、挑戦をしてみてください」(森氏)
コミュニティ・オブ・コミュニティーズでノウハウ共有を加速させる
個人から組織へと生成AI活用の輪を拡大させる上で、成功の鍵を握るのはコミュニティの存在だ。
博報堂DYホールディングスでは現在、AIへの感度が高いアーリーアダプターたちが生成AIについて学ぶコミュニティを主催している。一方で、生成AIを学びやすい環境を整えるために、エントリーポイントとなるコミュニティもあるそうだ。
「さまざまな企業様と生成AIについて話す中、争点となったのがCoE(Center of Excellence:優秀な人材やノウハウなどを集約した部署・拠点)の有無です。
どの企業にも、新しい技術や取り組み、改善活動などのノウハウを共有するコミュニティが存在します。コミュニティを有機的に機能させることで、生成AI活用のキャッチアップを加速できます」(森氏)
加えて、森氏は「コミュニティ・オブ・コミュニティーズ」の必要性も訴える。
「会社内において、情報システム部がMicrosoft Copilotを学ぶコミュニティを開く場合もあれば、既存のコミュニティが生成AIの勉強会を開く場合もあります。
組織に点在するコミュニティを連携させ、横断的にノウハウを共有し合う。そのため、企業はコミュニティ・オブ・コミュニティーズの取り組みに着手すべきです」(森氏)
最後に、これからAIを活用しようという人々や企業は、2つの性質が必要だと森氏は語った。
「新たなAIツールは、今後も次々と生み出されていくでしょう。それらを使って新しいことにチャレンジする”挑戦力”を持つことと、挑戦の根底にある”アスピレーション(熱望、願望)”を追求し解き放つこと。
この2つが、これからの人類に求められるスキルなのではないでしょうか」(森氏)