ワークライフインテグレーションとは?意味やメリット、実現方法を解説
最終更新日:2024.10.19
働き方改革や労働人口の減少が進む現代において、企業は従業員の満足度を高めながら、生産性を向上させていくことが求められています。
そのような中、従来の「ワークライフバランス」という考え方から発展した、「ワークライフインテグレーション」という概念が注目されています。
従来の「ワークライフバランス」では、仕事とプライベートを切り離して考え、それぞれのバランスを保つことが重要視されていました。
しかし、「ワークライフインテグレーション」では、仕事とプライベートは、人生において相互に影響し合うものであり、両者を融合させることで、より豊かな人生を送りながら、個人の成長や企業の生産性向上を目指します。
例えば、以下のようなイメージです。
ワークライフバランス | ワークライフインテグレーション |
仕事とプライベートは別物 | 仕事とプライベートは相互に良い影響を与え合うもの |
プライベートのために早く仕事を終わらせる | 仕事のスキルをプライベートに活かす、または、プライベートの経験を仕事に活かす |
オンとオフを切り替える | 仕事もプライベートも充実させることで人生の質を高める |
この記事では、「ワークライフインテグレーション」の意味やメリット、企業と従業員がそれぞれできる具体的な方法、そして注意点について詳しく解説していきます。
1. ワークライフインテグレーションとは?
ワークライフインテグレーションとは、「仕事(ワーク)」と「プライベート(ライフ)」を「統合する(インテグレーション)」という意味です。仕事とプライベートは相反するものではなく、互いに影響し合いながら人生を豊かにする要素であるという考え方です。
(1)ワークライフバランスとの違い
ワークライフインテグレーションと混同されがちな概念に「ワークライフバランス」があります。どちらも仕事とプライベートの双方を充実させようとする考え方ですが、アプローチに違いがあります。
ワークライフバランスは、その名の通り仕事と生活のバランスを重視した考え方です。仕事にプライベートを犠牲にするのではなく、どちらにもある程度時間を割き、「仕事と生活を切り離して調和させる」ことを目指します。
例えば、「仕事の日は集中して働き、定時後は趣味や家族との時間を楽しむ」「週末はしっかり休養にあてる」といったように、オンとオフを切り替えることを重視するのがワークライフバランスの特徴です。
一方、ワークライフインテグレーションは、仕事と生活を完全に分けるのではなく、「相互に影響し合いながら人生全体を豊かにしていく」ことを目指します。
例えば、「仕事のスキルアップのための勉強がプライベートの趣味に活かされた」「子どもの看病で得た知識を仕事に活かせた」といったように、仕事とプライベートの境界線を曖昧にすることで、相乗効果を生み出そうとするのがワークライフインテグレーションの特徴です。
それぞれの考え方の違いをまとめると以下のようになります。
項目 | ワークライフバランス | ワークライフインテグレーション |
目的 | 仕事と生活の調和 | 仕事と生活の統合による相乗効果 |
重視する点 | オンオフの切り替え | 相互作用・境界線の曖昧さ |
イメージ | 仕事とプライベートを別々の円として、それぞれの円の大きさを調整する | 仕事とプライベートを重なり合う円として、重なり部分を広げていく |
ワークライフバランスは、仕事とプライベートを切り分けて考えることで、オンオフのメリハリをつけ、集中力や生産性を高める効果が期待できます。
一方、ワークライフインテグレーションは、仕事とプライベートを相互に関連付けることで、それぞれの経験を活かし、人生全体を豊かにする効果が期待できます。
(2)ワークライフインテグレーションが求められる理由
近年、ワークライフインテグレーションという考え方が注目されていますが、なぜ求められているのでしょうか?そこには、社会構造の変化や企業の抱える課題、そして従業員側の意識の変化などが背景にあります。
まず、日本社会では働き方改革が推進され、企業は従業員の働きがいと生活の調和を図ることが求められています。従来の画一的な働き方では、多様な価値観やライフスタイルを持つ従業員のニーズに対応することが難しくなっています。
要因 | 説明 |
働き方改革の推進 | 政府主導で働き方改革が推進され、企業は従業員のワークライフバランス向上に取り組む必要が出てきた |
労働人口の減少 | 少子高齢化による労働人口の減少は深刻化しており、企業は優秀な人材を獲得・定着させるために、より魅力的な労働環境を提供する必要がある |
働き方のニーズの多様化 | グローバル化やIT化の進展に伴い、従業員の働き方に対する価値観やライフスタイルは多様化しており、従来の一律的な働き方では対応しきれなくなってきている |
また、少子高齢化による労働人口の減少も、企業にとって深刻な問題です。優秀な人材を確保し、定着させるためには、従業員が仕事とプライベートを両立しやすい環境を整えることが重要視されています。
さらに、グローバル化やIT化の進展により、従業員の価値観やライフスタイルは多様化しています。柔軟な働き方や、仕事とプライベートを充実させたいという従業員のニーズが高まっていることも、ワークライフインテグレーションが求められる理由と言えるでしょう。
2. ワークライフインテグレーションのメリット
企業側は、従業員が仕事とプライベートの両方を充実させられるような環境を整えることで、より優秀な人材を獲得・維持しやすくなるでしょう。また、従業員のスキルアップや能力開発を促進することで、組織全体の生産性向上や競争力強化にもつながると期待できます。
従業員側は、仕事とプライベートの時間調整がしやすくなるため、仕事への集中力やモチベーションを高めることができるでしょう。また、プライベートの時間を楽しむことで、心身の健康を維持し、より充実した生活を送れるようになります。
ワークライフインテグレーションは企業と従業員の双方にとってメリットがあるため、積極的に導入を進めていくことが重要です。
(1)企業側のメリット
企業がワークライフインテグレーションを導入するメリットとしては、大きく分けて「人材の確保・定着の促進」、「生産性の向上」、「企業イメージの向上」の3点が挙げられます。
メリット | 説明 |
人材の確保・定着の促進 | ・従業員満足度が高まり、優秀な人材の定着や採用競争力を高める効果が期待できる ・出産、育児、介護といったライフイベントを迎えても働き続けられる環境を作ることで、従業員の離職率低下を図り、人材の長期的な確保を実現できる |
生産性の向上 | ・従業員が仕事に集中しやすい環境を作ることで、生産性向上に繋がります。 |
企業イメージの向上 | ・ワークライフインテグレーションを導入している企業は、従業員を大切にする企業として、対外的にポジティブなイメージを持ってもらえ、優秀な人材を獲得しやすくなる効果も期待できる |
特に近年では、少子化による人材不足が深刻化しており、企業にとって優秀な人材の確保は重要な課題となっています。 ワークライフインテグレーションは、企業がこれらの課題を解決し、持続的な成長を遂げるための有効な手段と言えるでしょう。
(2)従業員側のメリット
従業員はワークライフインテグレーションによって様々なメリットを得ることができます。
項目 | 内容 | メリット |
柔軟な働き方 | 従業員が自分のライフスタイルや家族のニーズに合わせて、柔軟に働くことを可能にする | 仕事とプライベートの時間調整がしやすい |
仕事とプライベートの調和 | 仕事とプライベートの両方に十分な時間を割くことができるようにする | ストレス軽減、健康増進、家族や友人との関係強化 |
スキルアップの機会 | 仕事以外の活動への参加を奨励する | 新たなスキルや知識を身につけることができる |
モチベーションとエンゲージメントの向上 | 従業員の満足度を高める | 仕事に対するモチベーションやエンゲージメントの向上、生産性やパフォーマンスの向上 |
このように、ワークライフインテグレーションは従業員に多くのメリットをもたらします。企業は、従業員のワークライフインテグレーションを促進するための制度や、環境づくりに取り組むことが重要です。
3. ワークライフインテグレーションを実現する具体的な方法
ワークライフインテグレーションは、企業と従業員の双方による取り組みによって実現していきます。
(1)企業ができること
ワークライフインテグレーションを実現するために、企業は様々な取り組みを行うことができます。
①柔軟な働き方の導入
企業がワークライフインテグレーションを推進する上で、まず取り組むべきことは、従業員が仕事とプライベートを両立しやすい環境を整えることです。
そのために有効な手段の一つが、柔軟な働き方の導入です。
柔軟な働き方とは、従業員がそれぞれのライフスタイルや状況に合わせて、働く時間や場所などを柔軟に選択できることをいいます。 代表的な例として、以下の様な制度が挙げられます。
制度名 | 内容 |
フレックスタイム制 | 始業・終業時刻を従業員自身が決定できる制度 |
時短勤務制度 | 1日の所定労働時間を短縮して勤務する制度 |
テレワーク | 情報通信技術を活用し、自宅やサテライトオフィスなど、オフィス以外の場所で業務を行う制度 |
リモートワーク | オフィスに出勤せず、自宅などオフィス以外の場所で業務を行う制度 |
副業・兼業 | 所属している企業以外で、従業員が別の仕事を行うこと |
これらの制度を導入することで、従業員は通勤時間の短縮や、家族の世話や趣味の時間確保など、プライベートの時間を充実させることが期待できます。 その結果、従業員のモチベーション向上や、仕事への集中力向上、ひいては企業の生産性向上にもつながると考えられます。
柔軟な働き方を導入する際には、単に制度を導入するだけでなく、従業員が制度を利用しやすい環境整備や、制度の利用状況を定期的に把握・改善していくことが重要です。
②労働時間管理の徹底
ワークライフインテグレーションを成功させるには、企業による労働時間管理の徹底が欠かせません。 従業員が仕事とプライベートの時間配分を適切に行い、メリハリをつけて働くためには、企業は下記のような取り組みを積極的に行う必要があります。
取り組み | 内容 |
労働時間の上限設定 | 従業員が働きすぎないように、労働時間の上限を明確に設定する必要がある |
残業時間の削減 | 無駄な残業を減らし、従業員がプライベートの時間を確保できるようにする必要がある |
休暇取得の推奨 | 従業員がしっかりと休暇を取得し、リフレッシュできるように、休暇取得を積極的に推奨する必要がある |
これらの取り組みを通じて、企業は従業員が安心して働き、プライベートの時間も充実させられる環境作りに取り組むことが重要です。
③コミュニケーションの活性化
ワークライフインテグレーションを成功させるには、企業内のコミュニケーションを活性化することが重要です。なぜなら、コミュニケーション不足は、従業員の孤立化や仕事へのモチベーション低下につながる可能性があるからです。
特に、柔軟な働き方を取り入れる場合、従来のオフィスワークのような自然なコミュニケーション機会が減るため、意識的な取り組みが不可欠となります。
コミュニケーション活性化のための具体的な方法としては、以下のようなものがあります。
手段 | 具体的な内容例 |
定時連絡のオンライン化 | 従来通りの報告業務をチャットツールに移行することで、時間や場所にとらわれずに気軽に情報共有や相談ができるようになる |
コミュニケーションツールの導入 | 社内SNSやチャットツールを導入することで、気軽にコミュニケーションを取り合える環境を作ることができる |
バーチャルオフィス | オンライン上に仮想オフィスを作り、いつでも気軽にコミュニケーションを取れる環境を作ることで、孤独感を軽減することができる |
社内イベントの実施 | オンライン・オフライン問わず、チームビルディングや懇親会などの社内イベントを定期的に開催することで、親睦を深めることができる |
これらの方法を組み合わせることで、従業員同士のコミュニケーションを促進し、より良い人間関係を築き、結果としてワークライフインテグレーションを促進することができます。
④社内イベントの実施
社内イベントの実施は、従業員同士のコミュニケーションを促進し、帰属意識やエンゲージメントを高める上で効果的な方法です。
例えば、従業員同士の親睦を深めることを目的とした懇親会や、従業員の家族も招待して楽しめるようなファミリーデー、社員旅行などが考えられます。
その他にも、部署の垣根を越えたチームビルディング研修や、共通の趣味を持つ従業員が集まるサークル活動なども、従業員同士の交流を促進する良い機会となります。
ただし、従業員によっては、プライベートな時間を割いてまで社内イベントに参加することに抵抗を感じる場合もあるでしょう。イベントへの参加は強制ではなく、あくまでも任意であることを明確にしておくことが大切です。
(2)従業員ができること
ワークライフインテグレーションは、企業全体で取り組むべきものではありますが、従業員一人ひとりの意識や行動も重要です。
従業員は、自身の仕事とプライベートについて改めて見つめ直し、両方を充実させるためにどのような行動をとるべきかを考える必要があります。
①仕事の効率化
ワークライフインテグレーションを成功させるには、従業員一人ひとりが仕事の効率化に取り組むことが重要です。限られた時間で最大限の成果を出すために、以下のポイントを実践しましょう。
効率化のためのポイント | 内容 |
業務の優先順位をつける | やるべき業務をリストアップし、重要度と緊急度を考慮して優先順位をつける |
集中して作業できる時間帯を把握する | 集中力が高い時間帯を把握し、重要な業務はその時間帯に行うようにする |
無駄な作業を減らす | 業務フローを見直し、非効率な部分を改善したり、自動化できるツールを導入したりする |
適切な休憩を取る | 集中力を維持するためにも、こまめな休憩を挟む |
コミュニケーションを円滑にする | 報告・連絡・相談を密に行い、無駄な手戻りを減らすようにする |
②プライベートの充実
ワークライフインテグレーションを実現するためには、プライベートの充実が欠かせません。仕事の時間だけを調整するのではなく、プライベートの時間も充実させることが、結果的に仕事への集中力や生産性の向上につながります。
プライベートの充実には、以下のような方法があります。
方法 | 説明 |
趣味の時間 | 仕事以外の時間に、自分の好きなことに没頭することで、気分転換になり、ストレス解消にもつながる |
家族や友人との時間 | 大切な人たちと過ごす時間を意識的に作ることで、リフレッシュでき、心の支えにもなる |
旅行やレジャーを楽しむ | 非日常的な体験をすることで、視野が広がり、新たな発想が生まれることもある |
自己啓発 | 新しいスキルや知識を身につけることで、自己成長を感じられ、仕事にも良い影響を与える可能性がある |
リラックスできる時間を作る | 睡眠をしっかりとったり、瞑想やヨガなどを取り入れたりすることで、心身ともにリラックスできる |
これらの方法を実践することで、心身ともにリフレッシュでき、仕事にもより集中して取り組めるようになります。
③周囲とのコミュニケーション
ワークライフインテグレーションを成功させるには、周囲とのコミュニケーションが不可欠です。円滑なコミュニケーションは、仕事とプライベートどちらにおいても、良好な人間関係を築き、精神的な安定を得るために重要です。
ここでは、周囲とのコミュニケーションを円滑にするためのポイントを3つ紹介します。
ポイント | 内容 |
自分の状況や考えを伝える | 自分の仕事への取り組み方や、仕事とプライベートのバランスに関する考え方を周囲に伝える |
相手の状況や考えを理解する | 相手の状況や考え方を尊重し、理解しようと努める |
報連相を密にする | 自分の仕事の進捗状況や、プライベートで時間に影響が出る可能性がある場合は、事前に周囲に伝える |
4. ワークライフインテグレーションの注意点
ワークライフインテグレーションは、正しく実践すれば、企業と従業員の双方にとって大きなメリットがあります。しかし、導入や実践にはいくつかの注意点があり、注意点を理解せずに進めると、かえって生産性の低下や従業員の負担増加につながる可能性があります。
企業側と従業員側、それぞれの注意点を押さえておきましょう。
(1)企業側の注意点
ワークライフインテグレーションは、企業側にも注意すべき点がいくつかあります。
ひとつは、従業員の評価やマネジメントが難しくなる可能性があることです。
従来型の労働時間ベースの評価ではなく、成果に基づいた評価制度を構築する必要があります。
評価項目 | 従来型評価 | 成果ベース評価 |
労働時間 | 長時間労働ほど高評価になりがち | 労働時間に関わらず、成果に応じて評価 |
プロセス | 業務プロセスを重視 | 結果としての成果物を重視 |
コミュニケーション | 対面でのコミュニケーションが中心 | コミュニケーションの頻度や方法は問わない |
柔軟な働き方を導入することで、従業員一人ひとりの勤務状況や業務進捗を把握することが難しくなる可能性もあります。そのため、定期的なコミュニケーションや適切な進捗管理ツールを用いるなど、新たなマネジメント体制を構築する必要が出てきます。
もうひとつは、従業員にワークライフインテグレーションの趣旨をしっかりと理解してもらう必要があるという点です。
企業がいくら制度を整えても、従業員がその意義や目的を理解していなければ、制度は効果的に機能しません。
ワークライフインテグレーションは、従業員一人ひとりの意識改革と、企業側の積極的なサポートがあって初めて実現するものです。企業は、従業員への研修やセミナーなどを実施し、ワークライフインテグレーションに対する理解を深めていくことが重要です。
(2)従業員側の注意点
ワークライフインテグレーションは、従業員が主体的に行動することでより効果を発揮します。 しかし、取り組み方によっては仕事とプライベートの境界線が曖昧になり、オンオフの切り替えが難しくなってしまう可能性もあるため、以下の点に注意しましょう。
注意点 | 説明 |
仕事時間を管理する | 労働時間の増加やプライベート時間の減少に繋がらないよう、業務時間内での効率的な働き方を意識する |
周囲とのコミュニケーションを密にする | 仕事とプライベートどちらに比重を置くか、周囲と認識を共有しておく |
5. まとめ
ワークライフインテグレーションは、仕事とプライベートを調和させるのではなく、統合することで、相乗効果を生み出し、より豊かな人生の実現を目指す考え方です。
働き方改革が進む中で、従業員は仕事とプライベートのどちらも充実させたいと考えるようになり、企業は多様な働き方を許容することで、優秀な人材を獲得・維持しようとしています。
ワークライフインテグレーションは、従来の「仕事とプライベートは別」という考え方から脱却し、「仕事も人生の一部」と捉え直すことで、従業員の意識改革を促し、企業の成長にも貢献すると考えられます。
ワークライフインテグレーションは、一朝一夕に実現できるものではありませんが、企業と従業員が共に歩みを進めることで、より豊かで充実した人生を送ることができるようになるでしょう。
記事監修
古今堂 靖
一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会 理事長
大学中退後、ホスト、ブライダル司会者、青果市場、旅行添乗員、長距離トラック運転手、警備員、レコード会社勤務等を経て、財団法人関西カウンセリングセンター勤務、心理カウンセラー、キャリアコンサルタント養成の傍ら、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会の立上げに参画して国家検定キャリアコンサルティング技能検定制度の創設に携わる。2024年3月に一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会を立上げ、生成AI時代のリスキリングキャリアコンサルタントの養成を開始。