賃上げ促進税制の教育訓練費【2026年最新】上乗せ10%廃止の時期と対象になる費用
最終更新日:2026.08.26
社員研修に使った費用が法人税の税額控除を上乗せする「賃上げ促進税制の教育訓練費上乗せ措置」が、令和7年度末をもって廃止されました。
中小企業庁の最新資料をもとに、制度の仕組み、最後に適用できる事業年度、教育訓練費に含められる費用と含められない費用、申告までの手順を整理します。
賃上げ促進税制の「教育訓練費上乗せ」とは
賃上げ促進税制は、前年度より給与等支給額を増やした企業が、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から控除できる制度です。
中小企業向けの制度では、雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加した場合に控除対象雇用者給与等支給増加額の15%、2.5%以上増加した場合は30%を控除できます。
税額控除額の上限は法人税額または所得税額の20%です。この必須要件に加えて、二つの上乗せ要件が置かれてきました。
一つが教育訓練費の増加による上乗せ、もう一つがくるみん認定・えるぼし認定など子育て支援と女性活躍推進に関する上乗せです。
教育訓練費の上乗せ要件は、適用事業年度の教育訓練費が前事業年度と比べて5%以上増加していること、かつ適用事業年度の教育訓練費が同年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であることの二つを満たすと、税額控除率が10%上乗せされる仕組みでした。
子育て・女性活躍の上乗せ5%と併用した場合の控除率は最大45%になります。中小企業庁のQ&Aによれば、この上乗せ要件に事前の認定手続きは必要ありません。
対象となる「中小企業者等」は、青色申告書を提出する資本金1億円以下の法人などですが、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は制度の対象外とされています。
【2026年最新】上乗せ10%は令和7年度末で廃止 最後に使える事業年度
令和8年度税制改正により、教育訓練費に係る上乗せ措置は令和7年度末をもって廃止されました。中小企業庁は、この上乗せ措置を適用できる期間を、法人は令和6年4月1日から令和8年3月31日までの間に開始する各事業年度、個人事業主は令和7年および令和8年としています。
令和8年度以降に開始する事業年度では利用できません。自社の決算期によって「最後に使える年度」が異なるため、事業年度の開始日で確認する必要があります。
| 区分・事業年度の開始日 | 教育訓練費の上乗せ10% |
|---|---|
| 法人:2025年4月1日開始(3月決算) | 適用可(最後の適用年度) |
| 法人:2026年1月1日開始(12月決算) | 適用可(最後の適用年度) |
| 法人:2026年4月1日開始(3月決算) | 適用不可 |
| 個人事業主:令和8年(2026年)分 | 適用可(最後の適用年) |
| 個人事業主:令和9年(2027年)分 | 適用不可 |
一方、中小企業向け賃上げ促進税制そのものは、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度が対象です(個人事業主は令和7年から令和9年までの各年)。
賃上げ要件による15%・30%の控除と、子育てとの両立・女性活躍支援による5%の上乗せは引き続き利用でき、教育訓練費の上乗せが外れることで最大控除率は35%になります。
控除しきれなかった金額を5年間繰り越せる繰越税額控除措置も残ります。ただし繰越しには、未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を添付する必要があり、この添付がないと繰越しができない点に注意が必要です。
なお経済産業省は、全企業向け・中堅企業向けの賃上げ促進税制について、法人は令和6年4月1日から令和8年3月31日までの間に開始する各事業年度、個人事業主は令和7年・令和8年が対象としています。
教育訓練費に「入る費用」と「入らない費用」
教育訓練費は社内の管理科目ではなく、財務省令で定められた範囲で集計し直す必要があります。中小企業庁は、社内の教育訓練費の定義が異なる場合でも、財務省令の範囲に基づいて集計するよう求めています。
対象になる主な費用は、外部から招いた講師・指導員への報酬や謝金(法人から講師派遣を受けて法人に支払った場合を含む)、外部講師の招聘に要する交通費や宿泊費、外部の施設・設備・器具備品・eラーニング内のコンテンツなどを賃借または使用した際の使用料やリース料、研修を外部に委託した場合の委託費、社外の研修講座や講習会への参加費・受講料、教育訓練の一環として受験させた資格・検定試験の受験手数料、大学院などに支払う授業料等の聴講費用です。
委託先との資本関係は問われず、100%子会社への委託費も対象になります。
反対に対象にならない費用も明確に定められています。研修中の従業員に支払う給与などの人件費、人事部・研修部など教育訓練担当部署の人件費、受講者の旅費・交通費・食費・宿泊費、自社の役員や社員を講師にした場合の人件費や講師料、自社が所有する施設の光熱費・維持管理費・取得費用(減価償却費を含む)、教材や教育訓練用コンテンツの購入・製作費、eラーニングのソフトウェア取得費や開発費、資格取得時の報奨金、福利厚生目的で実施する費用などです。
実務で見落としやすいのが助成金の扱いで、教育訓練費に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合は、その金額を差し引いて集計します。
国などから交付を受けた補助金・助成金の交付額は教育訓練費から除外されるため、人材開発支援助成金などを受給している企業は、受給額を控除した後の金額で要件を判定することになります。
適用を受けるまでの手順
- 自社が中小企業者等に該当するかを確認する(資本金1億円以下の法人など。前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は対象外)。
- 適用を受けたい事業年度の開始日が令和8年3月31日以前かを確認する(個人事業主は令和8年分まで)。
- 前事業年度と適用事業年度の教育訓練費を、財務省令の範囲に沿って集計し直す。助成金等の交付額は控除する。
- 二つの要件(前事業年度比5%以上の増加、雇用者給与等支給額の0.05%以上)を満たすか判定する。
- 教育訓練費の明細書を作成し保存する。記載事項は実施時期(年月は必須)、実施内容と実施期間、受講者、支払証明の4項目で、様式は自由・提出は不要。適用事業年度だけでなく前事業年度分も作成する。
- 確定申告で税額控除を適用する。控除しきれない額は5年間繰り越せるが、未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の申告書に明細書を添付する。
廃止後に人事・経営が押さえるポイント
教育訓練費の上乗せが外れることで、研修投資に対する直接的な税制優遇は縮小します。ただし賃上げ促進税制そのものは令和9年3月31日までに開始する事業年度まで続き、賃上げと認定取得による控除は引き続き利用できます。
人材育成の原資という観点では、厚生労働省の人材開発支援助成金や個人向けの教育訓練給付など、税制以外の支援策の比重が相対的に高まります。
決算期によっては上乗せを適用できる事業年度がまだ残っているため、教育訓練費の集計と明細書の整備を先送りせず進めることが重要です。
制度の細かな判定や自社への当てはめは、所轄の税務署や顧問税理士に確認することが求められます。
リスキリングドットコムの視点
リスキリングドットコムとしては、今回の廃止を「人材投資の逆風」と読むより、研修投資の意思決定を税制から切り離す契機と捉えたいところです。
教育訓練費の上乗せ10%は、あくまで賃上げを実施した企業に対する控除率の加算であり、研修費そのものが戻ってくる制度ではありませんでした。
上乗せがあるから研修を増やす、という順序で予算を組んでいた企業ほど、廃止後に投資が細るおそれがあります。
むしろ注目したいのは、財務省令が定める教育訓練費の範囲が、外部講師・外部委託・外部講座といった「社外から学びを買う費用」に限られ、自社での教材づくりや担当部署の人件費を含まない点です。
社内の学習インフラをどう会計上・実務上に位置づけるかは、税制とは別に人事が設計する必要があります。上乗せを使える最後の事業年度が残っている企業は、明細書の整備を通じて自社の教育訓練費の実像を棚卸しし、次年度以降の育成予算の根拠に転用することが有効だと考えます。
これは当社の見解であり、税務判断は専門家への確認が前提です。



