資格取得支援制度の作り方【2026年最新】返還条項の注意点(労基法16条)と5ステップ
最終更新日:2026.10.07
資格取得支援制度を作るときは、受講料の補助額だけでなく「退職したら費用を返してもらう」という返還条項の書き方が最大の注意点です。
この記事では、労働基準法第16条の考え方と、制度を設計する5つの手順をまとめます。
資格取得支援制度が求められる背景
厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」(2026年7月31日公表)によると、自己啓発を実施した労働者は全体で35.5%です。
内訳は正社員が43.3%、正社員以外が15.9%と差があります。実施理由で最も多いのは「現在の仕事に必要な知識・能力を身につけるため」で、正社員は82.9%でした。
仕事に直結する学びを会社が後押しする仕組みとして、資格取得支援制度を整える企業は少なくありません。一方で、費用を会社が負担する以上、退職時の扱いを決めておきたいという声もあります。
返還条項で押さえる労働基準法第16条
労働基準法第16条は、使用者は労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償を予定する契約をしてはならないと定めています。
労働者の退職の自由を守るための規定です。
福島県労働委員会事務局の解説では、研修費用や資格取得費用の返還を定める場合、次の3つの観点で判断されるとしています。
| 観点 | 確認するポイント |
|---|---|
| 研修の業務性 | 参加が本人の自由意思か、業務との関連性があるか、会社負担が立替金と認められるか |
| 返還免除基準の合理性 | 免除の基準が明確か、勤務期間が不当に長くないか |
| 返還額の相当性 | 費用が実費の範囲内か、勤務期間に応じた減額措置があるか |
同じ解説では、業務命令に基づく資格取得費用について「5年以内に退職したら全額返還」とする規定は、労働基準法に違反している可能性があると指摘されています。
なお、費用の援助が貸借契約として整理され、労働契約の不履行と無関係に返還方法が定められている場合は、同条違反にならないとの考え方も示されています。
ただし個別の判断は事情によって異なるため、規程を作る際は社会保険労務士や弁護士への確認が欠かせません。
資格取得支援制度の作り方5ステップ
- 目的と対象資格を決める:業務との関連が説明できる資格に絞り、事業計画や育成方針と結びつけます。
- 支援内容を決める:受講料・受験料などの金銭的援助、学習時間への配慮、合格時の報奨など、会社が出すものを整理します。
- 対象者と申請ルールを決める:正社員だけか、正社員以外も含めるかを明確にします。調査では実施率に差があるため、対象範囲の検討が出発点になります。
- 返還条項の要否と設計を決める:業務命令で受講させる研修と、本人希望の自己啓発を区別します。返還を設けるなら、免除基準の明確さ、期間の長さ、実費の範囲、勤務期間に応じた減額を点検します。
- 就業規則・規程に反映し周知する:運用ルールを文書化して従業員に周知し、必要に応じて労働基準監督署への届出や専門家への確認を行います。
運用で失敗しないための注意点
まず、業務命令で受講させる研修の費用は、会社が負担する前提で考えるのが基本です。本人の自由意思による自己啓発と区別せずに返還を求めると、前述の「業務性」の観点で問題になる可能性があります。
次に、返還の期間や金額が過度に厳しいと、退職の自由を縛るものとみなされるおそれがあります。免除までの勤務期間は事業の実態に照らして合理的な長さにし、期間に応じて返還額を減らす仕組みを設けておくと整理しやすくなります。
最後に、助成金や給付金との併用可否は制度ごとに要件が変わります。利用する際は、最新の要件を各制度の公式案内で確認してください。
リスキリングドットコムの視点
ここからは当編集部の意見です。資格取得支援は「辞められないようにする仕組み」ではなく、「学んだ人が社内で活躍できる仕組み」として設計することが重要だと考えます。
返還条項で定着を図ろうとすると、条項そのものが法的な争点になりかねません。リスキリングドットコムとしては、まず対象資格の業務関連性を明確にし、取得後の配置や処遇で報いる設計を先に整えることをおすすめします。
そのうえで、返還条項を設けるかどうかは、費用の性質と期間・金額の相当性を踏まえて専門家と詰める、という順序が現実的ではないでしょうか。



