人材育成とは?従業員のレベルアップに必要な手法や考え方を解説

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最終更新日:2024.06.17

人材育成の方法と考え方 人材育成とは、従業員一人ひとりの能力を高め、組織の目標達成や業績向上に貢献できる人材を育てること 人材育成の方法 OJT - 業務を通じた実践的な教育 Off-JT - 業務を離れた場での体系的な教育 自己啓発の支援 - 従業員の自発的な学習の支援 リスキリング - DXに必要なスキル習得と実践の支援 人材育成を行うときの重要な考え方 目的を明確にする 段階的な育成体系を構築する 成長を適切に評価する 育成を企業文化に組み込む

AIの発展やDXの加速により、ビジネス環境は大きく変化しつつあります。企業がこうした時代の変化に対応し、持続的に成長していくためには、従業員一人ひとりの能力を高め、組織力を強化することが不可欠です。

しかし、人材育成には課題も多く、効果的に進めるのは容易ではありません。

この記事では、人材育成の意義や具体的な手法、実践するうえでの考え方などを解説します。人材育成に悩む経営者や人事担当者の参考になれば幸いです。

人材育成とは

人材育成とは、従業員一人ひとりの能力を高め、組織の目標達成や業績向上に貢献できる人材を育てることです。具体的には、従業員の知識やスキル、モチベーション、自律的に考え行動できる力の向上などを目的として、計画的・継続的に行う取り組みのことを指します。

人材は企業にとって重要な経営資源であり、人材育成により、生産性の向上やイノベーションの創出、企業の競争力強化などが期待できます。特に、AIやデジタル技術の発展により仕事内容が大きく変化する中、人材育成はますます重要性を増しています。

人材開発や人材教育との違い

人材育成と似た言葉に、人材開発や人材教育があります。

人材開発や人材教育は、どちらも人材育成同様、従業員一人ひとりのスキルアップのために直接的な支援を行い、業務上のパフォーマンスを向上させる行為を指します。

ただし、人材開発は従業員全員を対象として一人ひとりのもともと持っているスキルの向上を目指すときに、人材育成は新入社員や中堅社員など立場ごとに分けて足りない知識やスキルを身につけさせるときに用いられやすいという違いがあります。

また、人材教育は必要な知識やスキルを教える取り組みである一方、人材育成は「企業側から教える行為」だけでなく、従業員の自己啓発学習の支援をして「従業員側の自発的な学習を促す行為」も含まれます。そのため、人材育成は、人材教育を包括する概念として用いられます。

人材育成の重要性

近年、AIやデジタル技術の急速な進歩により、仕事内容や働き方は大きく変化しつつあります。単純作業はAIに代替されるようになり、人間にはより高度な判断力や創造性が求められるようになってきました。また、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進により、企業はデジタル技術を駆使して新たな価値を生み出すことが不可欠となっています。

このような変化の中、企業が生き残り成長し続けるには、従業員一人ひとりのスキルアップと新しい知識の習得が欠かせません。

他方で、従業員一人ひとりのスキルアップについて、それぞれの従業員に委ねてしまうと、個々の能力向上に対する考え方やモチベーションの違いによって、身につけてほしいスキルの定着に結びつかなかったり、成長度合いに差が生じたりして、組織全体のパフォーマンス向上に思うようにつながらない可能性があります。

従業員が時代の変化に対応し、会社の発展を支えていく力を着実に身につけるためには、上司による適切な指導や、社内外の研修制度の活用、先輩社員によるメンタリングなど、組織全体で従業員の成長を支援する仕組みづくりが不可欠です。さらに、仕組みを定期的に評価し、課題を把握して改善を図ることも欠かせません。

人材育成は、企業の持続的な活動のために、従業員一人ひとりのスキルアップと、組織全体のパフォーマンス向上を実現させる計画的・組織的な取り組みとして、ますます重要視されています。

人材育成の主な手法

人材育成には、いくつかの手法があります。それぞれの特徴とメリット・デメリットを見ていきましょう。

OJT(On the Job Training)

OJT(On the Job Training)とは、職場で仕事を通して行う人材育成の手法です。先輩社員が業務の進め方を実際に指導したり、仕事を任せてフィードバックを行ったりしながら、従業員の知識やスキルの習得をサポートします。

OJTのメリットとしては、実践的なスキルの習得につながるほか、上司・部下という関係性を通して従業員に職場の一員であるという当事者意識をもたせられる点が挙げられます。指導する側のスキルアップが期待できる点も、OJTならではのメリットでしょう。

一方で、OJTは業務の合間に行われることが大半のため、計画的に実施しないと十分な指導が行えず、効果が生まれにくいという課題があります。また、先輩社員の指導力が不足していると、知識やスキルの定着が難しくなる可能性がある点にも注意が必要です。

そのため、OJTを効果的に行うためには、経営目標に連動した育成体系を構築するとともに、それを実行できる先輩社員の選定や育成に必要な指導をすることが重要となります。

メリット

デメリット

実践的なスキルの習得につながる

人的・時間的コストがかかる

職場の一員である自覚をもたせられる

指導者の力量に左右される

指導する側のスキルアップも期待できる

体系的な教育が行いにくい

Off-JT(Off-the-Job Training)

Off-JT(Off-the-Job Training)とは、職場を離れた場所で行う研修のことです。集合研修やe-ラーニングなどがこれにあたります。

Off-JTは、業務とは切り離された学習に集中しやすい環境で、体系的な知識やスキルを学ぶことができるのが特徴です。

一方で、Off-JTには、学んだ内容が実際の業務につながりにくいことがあり、それによって知識やスキルの定着がしづらいというデメリットがあります。また、研修参加者が職場に戻った際に、学んだことを上司や同僚に理解してもらえず、上手く活かせないこともあります。

そのため、OJTとの組み合わせや、学んだことを職場で実践する仕組み作りが重要となります。

メリット

デメリット

体系的な知識やスキルの習得につながる

実践的なスキルが身につきにくい

他部署の社員との交流が生まれる

職場とのギャップが生まれやすい

集中して学習に取り組んでもらえる

学習機会の提供にコストがかかりやすい

自己啓発(Self Development〈SD〉)の支援

自己啓発(Self Development〈SD〉)とは、従業員が自発的に知識やスキルの習得に取り組むことを指します。会社が自己啓発の機会や費用を提供することで、従業員の成長をサポートします。

自己啓発のメリットは、従業員自身の意欲や主体性を引き出せる点にあります。自社の業務に関連したスキルだけでなく、個人の興味関心に応じて学習することで、従業員の自己実現につながります。また、自己啓発を通じて得られた新しい知識やアイデアを、業務に積極的に活かしてもらうことも期待できます。

一方で、自己啓発には従業員の自己管理能力に大きく依存するという課題があります。個人のやる気や学習習慣、時間管理能力などによって、学習の成果に差が出やすいのが特徴です。また、学習内容の品質管理や、学習効果の定量的な評価も難しい点が指摘されています。

そのため、自己啓発を効果的に活用するには、上司による定期的なフォローアップや、教育プログラムの設計など、会社側の支援体制が重要になります。

メリット

デメリット

従業員の自主性・自律性が高まる

従業員の自己管理能力に委ねられる

個人のニーズに合わせやすい

教育内容の品質管理が難しい

コストを抑えられる

効果測定が難しい

リスキリング

人材育成の手法は、OJT、Off-JT、自己啓発の3つが代表的ですが、ほかにもさまざまなものがあります。ここでは、昨今注目されているリスキリングをご紹介します。

リスキリングとは、DX推進に必要な新規事業の展開や既存事業の効率化を実現するために、従業員の現在のスキルセットを見直し、新たなスキルを習得させる取り組みを指します。

単に従業員にITリテラシーやデジタルスキルなど、時代に適応できる知識やスキルを身につけさせるだけでなく、それをもって活躍できる場を提供するまでの一連の取り組みであるのが特徴です。そのため、従業員の仕事に対するモチベーションやエンゲージメント(自発的な帰属意識)の向上によりつながりやすいというメリットがあります。また、企業側も新しい事業展開や業務効率化に必要なスキルを社内で育成できるため、組織の競争力強化につながります。

一方で、リスキリングは、取り組みの主体が企業ではあるものの、あくまで従業員の自発的な学習を前提としているため、個人の自己管理能力や学習意欲によって、習得状況に差が出やすいという課題があります。またDX推進は多くの企業にとって喫緊の課題であり、DX推進につながるスキルを有した人材は引く手数多であるため、リスキリングに取り組んだ結果、転職されてしまうリスクもあります。

そのため、リスキリングを効果的に進めるには、学習前にスキルアップ後のキャリアパスを従業員と共有するとともに、学習中は定期的な進捗確認を行い、つまづいている箇所があれば適宜アドバイスをするなどのサポートが重要です。

メリット

デメリット

従業員の仕事へのモチベーションを高められる

従業員の学ぶ意欲によって効果が左右される

従業員のエンゲージメント向上につながる

効果が出るまで時間を要する

企業の競争力が強化される

転職されるリスクが高まる

人材育成の課題

人材育成は、多様な手法を適宜組み合わせながら計画的に行うことで、組織の生産性や競争力の向上につなげていくことができます。一方で、実際の人材育成の現場では、さまざまな課題に直面することも少なくありません。

特によく見られる課題としては、以下が挙げられます。

  • 人材育成をする時間が確保できない
  • 人材育成をする人のスキルが不足している
  • 人材育成をする人や教育を受ける人の意識が低い
  • 育成の効果測定が難しい
  • 育成の質とコストのバランスの調整が難しい

特に、指導する人材の不足と時間の確保は大きな課題です。人材育成には一定の時間と手間がかかるため、業務が繁忙な時期などは後回しになりがちです。また、優れた指導者がいないために、効果的な育成が実現できずにいる企業も少なくありません。

 

人材育成を行ううえで重要な考え方

上記で紹介した課題は、人材育成に取り組む多くの企業の壁となっています。この壁を乗り越え、人材育成を成功させるためには何が重要となるのでしょうか。

ここでは、特に持っておきたい4つの考え方をご紹介します。

人材育成の目的を明確にする

人材育成を効果的に行うには、企業としての人材育成の目標を明確にすることが重要です。目標は、人材育成の取り組み全体に方向性を与え、効果的な施策の立案・実行を可能にします。

人材育成の目標は、企業の経営計画で掲げられたビジョンや戦略と連動させながら設計します。人材育成計画と経営計画にズレが生じていると、業務のパフォーマンス向上や生産性の改善を阻害する可能性があります。また「知識やスキルを身につけても、ここでは活躍できない」と従業員に判断され、退職されてしまうこともありえます。

また、目標は、従業員の立場に合わせて設計することも重要です。新入社員や若手社員、中堅社員、管理職など、それぞれ現状の立場において、知識やスキルの求められるレベルは異なります。以下は、各立場ごとの目標の参考例です。

立場

目標

新入社員

業務を円滑に遂行できる基礎力の習得

若手社員

業務の専門性を高め、問題解決能力の向上

中堅社員

業務の改善・改革を主導できる人材の育成

管理職

組織運営を担える次世代リーダーの育成

経営と人事が連携しながら、各従業員の立場ごとの目標を明確にすることで、各従業員のパフォーマンスの向上、ひいては企業の持続的な成長につながる育成体系を構築できるようになります。

段階的に成長できる育成プログラムを構築する

従業員一人ひとりのレベルや目標に応じた、段階的な育成プログラムを構築することが重要です。

例えば、新入社員を対象とする場合、以下のように育成プログラムを設計できます。

期間

レベル

定義

研修内容例

入社~3カ月

Lv.1

基礎知識の習得

ビジネスマナー研修、社内システム利用研修

3ヶ月~6カ月

Lv.2

基礎知識を活用した部署内業務

部署内OJT、配属部署における専門スキル研修

6カ月~1年

Lv.3

応用知識を活用した部署内業務

部署内プロジェクトへの参加、チームリーダー研修

1年~

Lv.4

他部署と連携した業務

他部署との連携プロジェクトへの参加、中規模プロジェクトリーダー研修

このように各階層で求められる知識・スキルを明確にし、OJTやOff-JTなどを組み合わせた育成プログラムを用意します。

従業員一人ひとりの成長ステージに合わせて必要な教育を計画的に実施することで、組織全体のパフォーマンスの効率的な向上につながります。

従業員の成長を育成体系にもとづいて適切に評価する

従業員一人ひとりの成長度合いを定期的に評価し、フィードバックすることも人材育成の重要な要素です。

育成体系で設定した目標に対する達成度を評価軸とし、業務遂行能力や専門スキルなどの伸長度合いを多面的に評価します。評価の際は上司との面談を通じ、従業員の成長実感や課題認識もヒアリングしましょう。

  • 業務目標の達成度
  • 専門スキルの習得レベル
  • 主体性や積極性
  • 後輩指導力

適切な評価とフィードバックにより、従業員のモチベーション向上と、PDCAサイクルを回した育成施策の見直しにつなげていきます。評価は育成のためのツールであることを意識し、前向きな成長の後押しとなるよう心がけましょう。

人材育成を企業文化に組み込む

人材育成を効果的に進めるうえでは、企業の風土として根付かせることも意識しておきたいポイントです。

人材育成の目標や計画、体系を作るのは経営や人事の役割ですが、それにもとづいて動くのは現場にいる従業員です。業務に必要な知識やスキルを教わる側はもちろん、それを教える側も含め、従業員一人ひとりの人材育成の必要性への意識があってはじめて、立案した育成体系にもとづく人材育成の実現につながります。

人材育成を企業風土として根付かせるためには、まず経営者自らが人材育成の重要性を発信し、組織全体に浸透させることが挙げられます。経営者自らが人材育成の重要性を語り、それを従業員に直接伝えていくことで、組織全体の意識改革につなげることができます。

また、現場の負担増にならないよう、人事部門のサポートや社内の体制整備も必要不可欠です。例えば、人材育成のための予算の確保や、必要な研修プログラムの設計、従業員の育成状況の管理など、人事部門が中心となって体制を構築することが求められます。

また、各部門の管理職が人材育成の重要性を理解し、部下の育成に主体的に取り組むことも欠かせません。管理職が部下の育成に積極的に関与し、適切な指導やフィードバックを行うことで、組織全体の人材育成が効果的に進められます。そのためにも、経営計画や人材育成計画の立案に日頃から関与できる体制の構築も重要です。

人材育成の参考事例

最後に、人材育成の参考事例を2つご紹介します。

東北東ソー化学株式会社

人材育成においては、経営と人事、そして現場が一体となって取り組むことが重要となります。

東北東ソー化学株式会社では、経営管理部で毎年「年間教育計画」を作り、新入社員や担当職、指導職といった立場ごとに、階層別研修や職能別研修、自己啓発の支援を実施しています。

例えば、新入社員研修では、社内研修に加えて親会社での研修や製造現場での実習など、多様な学びの機会を提供。指導職に対してはマネジメントや部下のモチベーションを維持・向上させる方法を学ぶ研修を行っています。

また、e-ラーニングを活用し、全社員に必須のコースを設定するとともに、個人の希望に応じた学びを支援しています。

さらに、研修や自己啓発の支援を実施するとともに、社員と上司が育成やキャリア形成について話し合う機会を設け、社員の成長を多面的にサポートしているのも特徴です。

同社の取り組みは、体系的な人材育成を実践するための良い参考事例といえます(参照:人材育成事例333丨厚生労働省)。

SCSK株式会社

SCSK株式会社の事例は、人材育成を企業文化に根付かせる取り組みを考えるうえで、参考となる事例の一つです。

同社では、「コツ活」と呼ばれる自己研鑽活動の支援制度を導入し、業務外の学習活動を積極的に評価・支援しています。研修や資格取得だけでなく、読書やコミュニティ活動なども「学び」として認定し、報奨金や学び手当の支給により、従業員の自律的な学びを後押ししています。

また、「テクのこ」というハッカソン(ソフトウェア開発にかかわるプログラマーやグラフィックデザイナーが集まり、限られた時間の中で特定のテーマの開発作業を行うイベント)や、「テクのこの里」という技術者交流の場を提供し、先進技術やイノベーション指向の習得、部署を越えた人材交流を促進しています(参照:イノベーション創出のためのリカレント教育事例集 企業編 p.8丨経済産業省)。

まとめ

人材育成は、従業員の能力向上を通じて組織の生産性や競争力を高めるために欠かせない取り組みです。

人材育成の手法には以下のようなものがあります。

教育方法

内容

OJT

業務を通じた実践的な教育

Off-JT

業務を離れた場での体系的な教育

自己啓発の支援

従業員の自発的な学習の支援

リスキリング

DXに必要なスキル習得と実践の支援

従業員一人ひとりの成長が会社の成長に直結することを意識しながら、これらの手法を組み合わせながら、計画的かつ継続的に人材育成に取り組むことが求められます。