人材育成のマネジメントとは?必要なスキルや身につけ方、成功のポイントを解説
最終更新日:2024.07.01
近年、企業を取り巻く環境が大きく変化する中で、企業は持続的な成長のために、従業員一人ひとりの能力を高め、最大限に発揮できるような組織づくりが求められています。
そのための重要な取り組みとして、「人材育成」が注目されています。そして、人材育成を成功させるためには、適切な「マネジメント」が欠かせません。
この記事では、人材育成のマネジメントに焦点を当て、その重要性や必要とされるスキル、具体的な方法、成功のポイントなどを詳しく解説していきます。
人材育成のマネジメントとは?
人材育成のマネジメントとは、従業員一人ひとりの潜在能力を最大限に引き出し、組織全体の成長へとつなげるための戦略的な取り組みを、計画・実行・評価・改善というサイクルを通して推進していくことです。
従業員のキャリアビジョンや目標を明確化し、その達成をサポートするための研修、OJT、評価、フィードバックといった施策を、ただ漫然と実施するのではなく、現状の課題や組織の目指す方向性と照らし合わせながら、最適な人材育成プログラムを構築していきます。
さらに、実施状況や成果を定期的に評価し、必要があればプログラムの内容や進め方を見直し、改善を加えることで、より効果的かつ効率的な人材育成システムを構築していくことが、人材育成マネジメントの重要な役割と言えるでしょう。
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なぜ人材育成のマネジメントが重要視されているのか
グローバル化や技術革新など、変化の激しい現代社会において、企業が競争優位性を保ち、持続的な成長を遂げるためには「人材育成」が欠かせません。
例えば、AIやIoTの普及により、多くの企業で業務効率化やデジタル化が進んでいます。この流れに適応し、新たな技術やサービスを生み出すためには、従業員一人ひとりが高度な専門知識やスキルを身につける必要があります。
しかし、ただ闇雲に研修を実施したり、資格取得を奨励したりするだけでは、効果的な人材育成は実現できません。従業員一人ひとりの個性や強みに合わせた、より戦略的な人材育成のアプローチが求められます。
そこで重要となるのが、「人材育成のマネジメント」です。適切な目標設定、計画立案、実行、評価といった一連のプロセスを管理することで、人材育成の効果を最大化できるようになります。
例えば、営業部の若手従業員に対しては、顧客とのコミュニケーション能力向上を目標としたロールプレイング研修を行い、その結果を評価したうえで、場合によっては研修内容を見直す、などが考えられます。
人材育成のマネジメントを通じて、従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出せるように人材育成のPDCAサイクルを回し、組織全体の力を高めることが、激変する現代社会において、企業の成長を大きく左右します。
人材育成マネジメントに必要なスキル
人材育成マネジメントを行うには、部下の個性に合わせた指導や教育、そして企業全体の成長につなげられるよう、次のようなスキルを習得していることが重要です。
人材育成マネジメントに必要なスキル |
概要 |
コミュニケーション能力 |
部下の話を丁寧に聞き、自分の考えをわかりやすく伝える |
コーチング能力 |
部下の状況や課題に合わせて、適切な質問やアドバイスを行う |
問題解決能力 |
部下やチーム内で発生した問題に対して、適切な解決策を見出す |
目標設定能力 |
部下やチーム全体にとって最適な目標を設定する |
スケジュール管理能力 |
業務の進捗状況を把握し、計画通りに業務を推進する |
評価能力 |
部下の成果やプロセスを適切に評価する |
詳しく説明します。
コミュニケーション能力
数あるマネジメントスキルの中でも、人材育成において特に重要なもののひとつが「コミュニケーション能力」です。
コミュニケーション能力とは、単に情報を伝えるだけでなく、相手の状況や気持ちを理解し、相互理解を深めながら目的を達成していくために必要な能力です。
若手社員へは、業務内容を具体的に指示し、不明点を解消できるように丁寧に指導する必要があります。中堅社員には、目標達成に向けた進捗状況を共有し、モチベーションを維持しながら自律的な行動を促すことが求められます。管理職候補者には、企業ビジョンや戦略を共有し、未来に向けた対話をしていくことが重要になります。いずれにせよ、人材育成においては相手の立場に立って具体的なアドバイスを行ったり、相手の思考を促したりすることが重要であり、そのためには高いコミュニケーション能力が不可欠です。
また、日頃から業務以外のコミュニケーションを通して相手への理解を深め、信頼関係を築くことは、円滑な業務遂行やチームワーク向上にもつながります。
コーチング能力
人材育成において、部下に対して一方的に指示を出すのではなく、対話を通して部下の潜在能力を引き出し、成長を促す「コーチング能力」が求められます。
効果的なコーチングを行うためには、部下の話を傾聴し、共感しながら信頼関係を築くことが大切です。
例えば、部下が新しい業務に挑戦する際に、不安や疑問を抱えている様子であれば、「何か気になることはありますか?」と積極的に質問し、部下の気持ちを汲み取るように努める必要が出てきます。
そのうえで、目標達成のための行動計画を共に作成し、「毎週一回は進捗状況を共有しましょう」などと伝え、定期的な面談などで進捗状況を把握しながら、適切なアドバイスやフィードバックを提供していくことが求められます。
問題解決能力
人材育成マネジメントには、「問題解決能力」が欠かせません。育成対象者自身の問題解決を支援するだけでなく、育成計画における課題や変化にも柔軟に対応できるからです。
例えば、育成対象者が新しい業務にうまく適応できず、目標達成に遅れが出ているとします。問題解決能力の高いマネージャーであれば、状況を冷静に分析し、対象者の抱える問題点を特定したうえで、個別に指導を行う、他の従業員との連携を促す、あるいは業務プロセスを見直すなど、状況に合わせた適切な解決策を提示し、実行することができます。
このように、問題解決能力は、育成対象者一人ひとりの状況を把握し、最適な育成プランを立案・実行していくうえで欠かせない能力と言えるでしょう。
目標設定能力
人材育成マネジメントにおいては、部下やチームが成長を実感できるような、具体的かつ達成可能な目標を設定する「目標設定能力」が重要になります。なぜなら、目標設定は人材育成の土台となる重要なプロセスであり、適切な目標設定を行うことで、部下のモチベーション向上やパフォーマンス向上につながるからです。
目標設定を行う際には、以下の4つの要素を明確にする必要があります。
項目 |
説明 |
目標項目 |
「何を達成するか」を具体的に示す |
達成基準 |
目標達成を判断するための基準を設定する。「数値化」できる場合は数値で設定する |
期限 |
目標を「いつまでに」達成するかを明確にする |
達成計画 |
目標達成のために「どのように」行動するかを具体的に示す |
これらの要素を明確にすることで、部下は目標達成への道筋をイメージしやすくなり、主体的な行動を促せるようになります。
スケジュール管理能力
人材育成マネジメントにおいては、「スケジュール管理能力」も重要です。
人材育成を成功させるには、計画を立て、実行していくための適切なスケジュール管理が欠かせません。育成に必要な時間や対象者の人数を考慮し、計画全体を管理しながら進捗を把握していく必要があります。限られた時間の中で、最大の効果を生み出すためには、効率的なスケジュール管理能力が人材育成マネジメントにおいて、重要な要素となるのです。
具体的に、スケジュール管理能力が必要とされる場面として、「部下への研修機会の提供」が挙げられます。例えば、営業部の部下のプレゼンテーション能力を高めたい場合、外部研修への参加や、上司によるロールプレイングを通して学ばせる必要があります。
しかし、日々の業務状況などによっては、研修時間の確保が難しい場合もあるでしょう。そのような状況下でも、部下の業務状況を把握した上で、研修計画に遅延が生じないよう、スケジュールの調整を行うことが重要です。
このように、人材育成におけるスケジュール管理能力とは、育成計画全体を俯瞰して、状況に応じて計画を柔軟に変更できる能力と言えるでしょう。
評価能力
人材育成のマネジメントには、従業員の成長を促し、組織全体の能力向上を図るために「評価能力」も欠かせません。従業員一人ひとりの強みや弱み、潜在能力などを正確に見抜き、適切な育成プランにつなげていくことが重要となります。
なぜなら、評価は単なる能力査定ではなく、従業員のモチベーションやキャリアパスにも影響を与えるからです。例えば、客観的な評価に基づいた昇進や昇給は、従業員の努力を認め、更なる成長を促す効果があります。逆に、適切な評価が行われない場合、従業員のモチベーション低下や離職につながる可能性も孕んでいます。
人材育成マネジメントに必要なスキルを高める具体的な方法
前述したように、人材育成マネジメントには、コミュニケーション能力やコーチング能力など、多岐にわたるスキルが求められます。しかし、これらのスキルは一朝一夕に身につくものではないため、効果的な学習方法の実践が必要となります。
人材育成マネジメントに必要なスキルを効果的に高めるための具体的な方法を、OJT、Off-JT、eラーニング、メンター制度の4つの観点から解説します。
OJT
OJT(On the Job Training )とは、実際の業務を通して必要な知識やスキルを習得していく人材育成方法です。配属先の先輩や上司が指導者となり、新入従業員や異動してきた従業員に対して、日々の業務を通して指導・教育を行います。
人材育成マネジメントにおいてOJTを通して学ぶことは、指導される側だけでなく、指導する側にとっても重要な学びになります。OJTを通して、指導者は、部下への指示の出し方や業務の教え方、業務を効率的に進めるためのマネジメント能力などを実践的に学ぶことができます。
Off-JT
Off-JT(Off The Job Training)とは、職場を離れた環境で行われる研修やセミナーなどを指します。Off-JTは、業務から離れて専門的な知識やスキルを体系的に学ぶことができるため、人材育成マネジメントに必要なスキルを効果的に身につけるために有効です。
日々の業務の中で、人材育成マネジメントに必要なスキルを体系的に学ぶ機会はなかなかありません。Off-JTを通して、職場では得られない専門的な知識やスキルを身につけることで、人材育成の質向上だけでなく、従業員のモチベーション向上や企業の成長にもつながります。
eラーニング
eラーニングは、インターネットを通じて学習コンテンツを配信する学習方法です。場所や時間に縛られずに自分のペースで学習できるため、例えば、日中に業務が忙しい従業員でも、早朝や帰宅後の時間を利用して、自分のペースで学習を進めることができます。
また、eラーニングは、動画や音声、テキストなど多様な形式のコンテンツを利用できるため、個々の学習ニーズやスキルレベルに合わせた効果的な学習体験を提供できます。
例えば、対話の練習が必要なコーチングスキルを向上させたい場合、eラーニングであれば、さまざまなケーススタディを動画で視聴し、効果的な質問の仕方やフィードバックの仕方を学ぶことができます。さらに、ロールプレイング形式のシミュレーションを通じて、実践的なスキルを身につけることも可能です。
メンター制度の活用
人材育成マネジメントに必要なスキルを身につけるうえで、メンター制度の活用は有効な手段となります。メンター制度とは、経験豊富な先輩社員(メンター)が、業務の枠を超えて後輩社員(メンティー)の成長をサポートする制度です。
メンターは、自身の経験を踏まえながら、後輩社員の業務上の相談に乗ったり、キャリアプランについて一緒に考えたりすることで、後輩社員の自律的な成長を促します。例えば、チームリーダーを目指している後輩社員に対して、リーダーシップに必要なスキルや行動についてアドバイスしたり、部署内での関係構築を支援したりすることで、後輩社員のリーダーシップスキル向上を支援します。
メンター制度を通して、後輩社員の育成に関わることで、コミュニケーション能力やコーチング能力、目標設定能力、評価能力などを実践的に学ぶことができます。また、メンターを務めた経験は、将来、管理職として部下育成を行う際に役立ちます。
人材育成マネジメントを成功させるポイント
人材育成マネジメントに必要なスキルを習得し、具体的な方法を実践に落とし込むだけでは、本当の意味で「成功」したとは言えません。なぜなら、育成対象は「人」だからです。人の成長には、画一的なアプローチではなく、一人ひとりの状況や個性に合わせたきめ細やかな対応が求められます。
そこで、ここでは人材育成マネジメントを成功に導くための重要なポイントを3つ紹介します。
継続的なフィードバック
人材育成マネジメントを成功させるには、従業員のモチベーション維持や能力向上を促すための働きかけが不可欠です。その中の一つが「継続的なフィードバック」です。
人材育成は、目標達成に向けて進捗を把握し、軌道修正していくことが重要です。そのためには、定期的にフィードバックを実施し、従業員の行動や成果について具体的な指摘やアドバイスを行う必要があります。
フィードバックを行う頻度 |
具体的な例 |
毎日 |
日報へのコメント、業務終了時の短い面話などを通して、こまめな進捗確認やアドバイスを行う |
毎週 |
週報の確認やチームミーティングなどを利用し、週次の目標達成度合いを評価し、フィードバックする |
毎月 |
1on1ミーティングを行い、業務の進捗状況や課題、中長期的なキャリアプランなどをじっくりと話し合う |
フィードバックの際は、良かった点については具体的に褒め、改善点については「なぜ上手くいかなかったのか」「次はどうすれば良いか」を一緒に考え、従業員の成長を促すことが重要です。一方的に伝えるのではなく、従業員の意見にも耳を傾け、双方向のコミュニケーションを意識しましょう。従業員は、継続的なフィードバックを通じて、自身の成長を実感し、モチベーションの向上にもつながるでしょう。
関係性の構築
人材育成を成功させるためには、育成者と育成対象者の間に良好な関係性を築くことが重要です。相手との間に信頼関係を築くことで、育成対象者は安心して業務に取り組め、能力を最大限に発揮できるようになります。強い信頼関係は、時に厳しい指導やフィードバックを必要とする場面においても、反発やモチベーションの低下を防ぎ、成長を促進するうえで非常に重要です。
育成者として心がけたいこと |
具体的な行動 |
何気ない会話や雑談を大切にする |
日常的な業務以外の話にも関心を持ち、「最近はどうですか?」「何か困っていることはありませんか?」などと話しかけてみる |
相手の話に関心を持ち、傾聴する姿勢を見せる |
相手の目を見て、頷きながら話を聞き、「〇〇ということですね」「〇〇と感じているんですね」などと、相手の言葉を繰り返すことで、きちんと聞いている姿勢を示す |
アドバイスを求められたときは、頭ごなしに否定せず、まずは受け入れる姿勢を見せる |
「なぜそう考えたのか?」と、まずは相手の意見に耳を傾ける。そのうえで、代替案を提示するなど、相手の意見を尊重しながらアドバイスをすることが大切 |
上記のようなことを意識してコミュニケーションを取ることで、相手との信頼関係を築き、より効果的な人材育成を実現できるでしょう。
成長を認める
部下の成長を認めることは、人材育成において非常に重要です。成長を認めるとは、単に「よくできたね」と褒めるだけではありません。部下の変化や努力に目を向け、具体的に言葉で伝えることが大切です。
例えば、以前は資料作成に時間がかかっていた部下が、短時間で質の高い資料を作成できるようになったとします。
このとき、「資料作成のスキルが上がったね」と伝えるだけでなく、「以前よりも短時間で、わかりやすい資料が作れるようになったね。特に、グラフの使い方が上手になったと思うよ」と、具体的にどこがどのように成長したのかを伝えることが重要です。
部下の行動や変化を認め、具体的なフィードバックを行うことで、さらなる成長を促進できるでしょう。
人材育成マネジメントに役立つ資格
人材育成マネジメントを効果的に実践していくためには、専門知識やスキルを体系的に身につけることが重要です。それを証明し、客観的に評価される資格を取得すると、自身の実務における裏付けとなり、周囲からの信頼獲得にもつながります。
代表的なものをいくつかご紹介します。
「コーチング資格」を「公認モチベーション・マネジャー資格」に差し替えた表を提示します。
資格名 |
概要 |
ビジネスマネジャー検定試験 |
企業活動の全体像を把握し、組織・人材マネジメント、マーケティングなど、経営全般の知識を問う経済産業省が認定する国家資格 |
PMP(Project Management Professional) |
プロジェクトの計画立案から実行、完了までを効率的に管理する国際資格 |
メンタルヘルス・マネジメント検定試験 |
職場における従業員の心の健康を守るための知識を習得できる |
公認モチベーション・マネジャー資格 |
人材のモチベーション向上と組織の活性化に必要な知識・スキルを習得できる資格。心理学や行動科学に基づいた、モチベーションマネジメントの手法を学ぶことができる |
これらの資格取得を通して、体系的な知識を学び、実践的なスキルを身につけることで、より効果的な人材育成マネジメントを実現できます。
まとめ
私たちを取り巻く環境が大きく変化する中、企業が成長していくためには、従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、組織全体のパフォーマンスを向上させていく「人材育成のマネジメント」がこれまで以上に重要となっています。
この記事では、人材育成のマネジメントについて、その基礎から具体的な方法、そして成功に導くためのポイントまで網羅的に解説しました。これらの内容を踏まえ、自社の課題や状況に合わせて、人材育成マネジメントに取り組んでみてはいかがでしょうか。