変化の時代に求められる『キャリアコンサルタントの役割』とは――日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会理事長 古今堂靖氏インタビュー

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最終更新日:2024.04.22

キャリアコンサルタント一人ひとりがより輝ける未来を築くために発足された、一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会(以下、JRCA)。

理事長・古今堂靖さんは大学中退後、ホスト、ブライダル司会者、青果市場、旅行添乗員、長距離トラック運転手、警備員、レコード会社勤務など多彩なキャリアを経験。そして公益財団法人関西カウンセリングセンターで20年以上にわたり、求職者のキャリア形成を支えるキャリアコンサルタントの養成に従事してきた。

生産年齢人口の減少、リスキリングの重要性の高まり、生成AIなどのデジタル技術のインパクトなど、多角的に働き方が根底から見直される今、これからの時代にワクワクする人がいると同時に、変化に不安を覚える人もいる。働き方が変化する激動の時代において、キャリアコンサルタントの本質的な価値について伺った。

キャリアコンサルタントの価値を社会へ届けたい

終身雇用の崩壊や働き方改革を背景に、2002年、厚生労働者はキャリアコンサルタントの養成を推進。2016年には職業能力開発促進法に規定される国家資格となり、2024年2月時点で、資格保有者は7万人を突破している。

古今堂さんは、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会の立上げに参画。技能検定制度の創設に携わるなど、20年以上に渡るキャリアコンサルタントの歴史と共に歩んできた。そんな古今堂さんは「キャリアコンサルタントの活躍の場が少ないこと」を大きな課題として感じていたという。

実際、キャリアコンサルタントの活動の場は公的機関が中心であり、民間企業での定着は進んでいないのが現状だ。

「資格取得者は今や7万人を超えますが、活躍の場は十分とは言えない状況です。しかし、キャリアコンサルタントが身につけるキャリア形成やカウンセリングの知識は、働く人々にとって非常に有用なのは間違いありません。どうにかして彼らが広く活躍できる場を用意したいと考え続けてきました。」

大きな転機となったのが、政府によるリスキリング推進と生成AIの登場だ。特に生成AIは、人々の働き方を一変させるインパクトを社会に与えつつある。新たなスキルへの対応が求められ、AIに雇用を奪われるのではという懸念もある。普及に伴う変化の中で、自分のキャリアをこれからどう描いていけばいいのか戸惑う人は少なくない。

だが、こうしたネガティブな反応は自然なことだと古今堂さんは話す。

「生成AIの勉強をはじめ、リスキリングを楽しめるのは変化を面白がることができる人です。とはいえ、世の中の劇的な変化をすべての人が前向きに捉えられるわけではありません。だからこそ、働く一人ひとりのキャリアの転換期に寄り添い支えていくという、キャリアコンサルタントの役割は非常に大きくなると考えています。そこで私たちは、キャリアコンサルティングの価値をさらに高めて社会に提供するため、JRCAを立ち上げました。」

リスキリングの成功に欠かせないのはマインドセット

リスキリングを成功させるために、必要なポイントは何か。その疑問に、古今堂氏はマインドセットであると話す。その実例として、キャリアコンサルタントの有資格者が活躍する、一般社団法人働きがいと成長支援協会の活動を紹介してくれた。

同法人の支援先は山梨県の企業で、同社は半導体製造に欠かせない機器を製造している。今後も需要の増大が見込まれる注目分野だが、従業員の学びに対する主体性や、若手従業員の業務に対する積極性の不足といった課題を抱えていた。

そこで支援先の企業は、現場の活性化を目的に、管理職と部下の定期的な1on1面談の実施や、若手社員が積極的に提案できる環境づくりなどに力を入れている。研修による成果を定期的に検証しつつ、現場からのフィードバックをもとに社内風土の改善に努めている。

「英語を学ぶ、生成AIを学ぶなど、何を学ぶかはリスキリングにおいてとても重要な観点だと思います。しかしそれよりも必要なのは、学びの土台を支える“マインドセット”です。より具体的に言うのならば、“問題意識”と“目標設定”と言えます。仮に今からマラソンをするとして、フルマラソンを走るのとハーフマラソンを走るのとでは、ペース配分も走る距離に対する意識も変わるでしょう。問題意識も目標設定もないまま、〇〇を学ぼう!と旗を振ったところで、従業員はついてきてくれないのです。」

変化の時代をみんなで乗り越えるために

生成AIをはじめとするテクノロジーの進歩や、最新技術を学ぶことは、ある意味で華々しく目立つ活動ともいえる。

リスキリング時代の到来によって働き方は劇的に変化し、さまざまな雇用が創出・喪失されるとさまざまな専門家は予想している。しかし、この未来予想図に対して理屈では理解できるものの、感情がついていかないという人は少なくない。こうした現状に対する否定的な感情を、無視してはならないと古今堂さんは話す。

「リスキリングや新しい物事を始めるとき、大切なのは言説の正しさではなくリスキリングを促す人と相手との信頼関係です。カウンセリングやコミュニケーションの技術を持つキャリアコンサルタントは、その間を取り持つ存在として活躍できると私は信じています。」

JRCAは、生成AIの基礎知識の理解と実践を盛り込んだカリキュラムを作成・提供している。対人スキルに加えて最新技術の情報にも精通すれば、キャリアコンサルタントはより多くの公的機関や民間企業、個人のリスキリングに貢献できるだろうと古今堂氏は考えている。

「長らくキャリアコンサルタントに関わってきた身として、生成AIの学習をはじめとしたリスキリングによって格差が助長されてはいけないと常々考えています。リスキリングを促す国や企業も、リスキリングに取り組む人々も、それを支えるキャリアコンサルタントも。全員が幸せになるような世の中を、私たちは築いていきたいのです」