【導入フローも紹介】リスキリングとは?人事担当者向けにゼロから解説
最終更新日:2024.08.14
近年、生成AIやDX化によるビジネス環境の激変や、労働人口の減少など、企業を取り巻く状況は大きく変化しています。
その中で注目されているのが「リスキリング(学び直し)」という概念。
日本政府も本腰を入れて支援を行っており、各企業で急速に取り組みが進んでいます。
一方で、リスキリングを推進するにあたって「何から進めていけば良いんだろう?」と悩む方も多いのではないでしょうか。
本記事はそのような方に向け、リスキリングのそもそもの概念から、実際に社内制度にリスキリングを導入するためのフローまでを丁寧に解説します。
なるべくそのまま実務に活用できる構成にしていますので、ぜひご活用ください。
1.リスキリングとは?言葉の意味や経緯について
(1)リスキリング=「”仕事を変えるための”学び直し」
まず、リスキリングとはどのような概念を指すのでしょうか?
ケンブリッジ大学出版の「Cambridge Business English Dictionary」は、「Reskilling」の意味を以下のように定義しています。
the process of learning new skills so you can do a different job, or of training people to do a different job:
(異なる仕事ができるように、新しいスキルを学んだり、人々を訓練したりするためのプロセス)
参考:https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/reskilling
つまり、今までの仕事や業務を変えることを前提としている点が「リスキリング」の特徴です。そのため、日本語訳として「学び直し」という言葉がよく充てられます。
(2)2018年にダボス会議で提言され、世界的に推進が進む
「リスキリング」という言葉が注目を浴びたきっかけは、2018年1月に行われた世界経済フォーラム年次会議(通称:ダボス会議)での報告書「Towards a Reskilling Revolution」です。
この報告書では、2020年までに、あらゆる職種で、中核となるスキルの3分の1以上が別のものに置き換わる…といった予測などに触れ、これからの社会全体にとってリスキリングが必要不可欠であると結論づけています。
続く2020年1月、世界経済フォーラムは350以上の企業、NGO、大学などによる連合団体「Reskilling Revolution Platform」を立ち上げました。
「2030年までに11億の仕事がテクノロジーによって劇的に変化する可能性がある」として、それまでにリスキリング支援を10億人に届けることを目標としており、2024年1月時点のレポートでは、6億8000万に支援が届く見込みであると報告されています。
日本におけるリスキリングへの取り組み
この流れを受け、日本政府もリスキリングへの積極的な支援を行い続けています。
2022年6月には、政府、自治体、企業からなる日本リスキリングコンソーシアムを設立。さらに同年10月には、岸田首相が所信表明演説にて「リスキリングなどの人的投資に5年で1兆円を投入する」と発言しました。
2024年6月に発表された「経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太方針2024)」においても、「三位一体の労働市場改革」のひとつとして、「全世代を対象とするリ・スキリングの強化に取り組む」と表記されています。
このように、2018年以降、リスキリングは労働市場における大きな課題として、世界と日本両方で急速に取り組みが進められています。
(3)OJT・スキルアップ・リカレント教育…類似する言葉との違い
リスキリングと類似する言葉として、「スキルアップ」「OJT」「リカレント教育」といった用語があげられます。それぞれの用語とリスキリングとの違いをまとめてみましょう。
スキルアップ
海外では「Upskilling」と呼ばれ、リスキリングと対比されることの多い用語です。
「新しい技能を身に着ける」という点ではリスキリングと同じですが、スキルアップは「現在の業務・仕事の延長線上にある技術を身に着ける」ことを指すことが多く、今と異なる仕事を前提とするリスキリングとはニュアンスが異なります。
OJT
On the Job Trainingの頭文字を取ったもので、実際の業務を通じて、必要な技術や知識を習得させる訓練方法を指します。こちらもスキルアップと同様、現在の業務の内容に関するスキルを身に着けるという点でリスキリングと異なります。
リカレント教育
スウェーデンの経済学者であるゴスタ・レーン氏が提唱したとされる概念で、日本ではリスキリングと同じく「学び直し」などの訳語が充てられます。
また、厚生労働省のサイトでも、
「学校教育からいったん離れたあとも、それぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていくことがますます重要になっています」
という前置きがあり、一見リスキリングと同じものを指しているように見えます。
しかし、リカレント教育の発端は、ユネスコが提唱する「生涯学習」の実現手法としてであり、その当初の目的は「教育機会の均等化」にありました。
そのため、仕事に関するスキルの習得だけでなく、広く「自己実現」のための教育機会の提供を目指しており、雇用機会の提供を目指すリスキリングとはややニュアンスが異なります。
参考:「教育原理」としての「リカレント教育」の基本的概念と歴史及びその「教育思想」(茨城大学全学教職センター研究報告(2021)、233-248)
2.リスキリングは「なぜ」必要?その背景となる3つの変化
世界や日本で急速に普及が進むリスキリングですが、なぜ今、ここまで重要視されているのでしょうか。その背景として、以下の3つの変化が挙げられます。
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産業構造の変化…テクノロジーの進化で、雇用の入れ替えが加速
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採用トレンドの変化…学歴や職歴から「スキルファースト」へ
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労働人口の変化…少子高齢化による労働人口の減少
(1)産業構造の変化:テクノロジーの進化で、雇用の入れ替えが加速
2018年に世界経済フォーラムから提出された「Towards a Reskilling Revolution」は、2026年までに約140万人の雇用が減少すると予測しました。
その主な要因はテクノロジーによる業務の自動化で、特に生産職(-51.1万人)と事務職(-64.2万人)の2職種が大きな影響を受けるとしています。
参考:Towards a Reskilling Revolution
しかし、新型コロナウイルスの影響や生成AIの登場により、この予測は大きく変わりました。
2023年の同団体によるレポート「Future of Jobs Report 2023(仕事の未来2023)」では、2027年までに8300万の雇用が失われ、6900万の雇用が新たに創出されると報告。2018年当初よりもはるかに大規模な雇用の入れ替えが起きるとしています。
また、入れ替わる職種についても変化が見られました。
【2027年までに大きく減少する仕事ランキング】
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銀行窓口・事務
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郵便事務
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レジ係、チケット販売員
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データ入力事務
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秘書
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資材・在庫管理
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会計・簿記・給与計算事務
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家電設置・修理技術者
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公務員・議員
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金融、保険事務
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訪問販売員・新聞、路上販売員など
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警備員
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与信担当者
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保険金請求の調査
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ソフトウェアのテスター
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顧客管理マネージャー
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ショップ店員
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施設管理・清掃員
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保険料査定担当
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ソーシャルメディア戦略担当者
上位に事務職が来ているという傾向は2018年と同様であるものの、「訪問販売員」「警備員」「ショップ店員」といったサービス業の減少や、与信担当や保険査定など、専門性の高い業務の減少が新たに予測されています。
新型コロナウイルスの流行による無人化・省人化の促進や、ChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、より広範囲の職種で変化への対応が求められているのです。
(2)採用トレンドの変化:学歴や職歴から「スキルファースト」へ
こうした大きな構造変化の中で、多くの企業が人材獲得に課題を抱えていることもわかっています。
同レポートによると、「ビジネス変革の障害となっている要素は何か?」というアンケート調査に対し、59.7%の企業が「労働市場におけるスキルギャップ」、53.4%が「人材を惹きつけられない」と回答。
「求める人材が見つからない」
「いても採用できない」
という課題が示される中、採用や人事において「スキルファースト(Skill First Framework)」という考え方がトレンドとなっています。
職歴や学歴よりも「業務に必要なスキル」に重点を置くことで、より多様な人材プールを確保するという手法で、米ウォルマートをはじめ様々な企業が取り組みを行っています。
実際にLinkedInが行った調査では、スキルベースでの採用を行った企業は、そうでない企業と比較して60%も採用の成功確率が高くなるという結果も示されました。
このように、学歴や経験よりも「スキル」を重視するトレンドも、今までの経歴と異なるスキルを学ぶ「リスキリング」の重要性が高まっている背景のひとつです。
(3)労働人口の変化:少子高齢化による労働人口の減少
さらに、日本でリスキリングが注目される固有の背景として、少子高齢化の問題があります。
総務省による令和4年版の情報通信白書では、日本の生産年齢(15~64歳)人口が、2021年から2040年にかけて29.2%減少するという統計を示しつつ、ICT(情報通信技術)の重要性について以下のように述べています。
例えば、ロボット・AIなどを活用することにより、人間が行う作業を代替し同じ生産物・付加価値を生み出すために必要な労働力を縮小させることが可能となるとともに、作業の迅速化や精度向上などによる業務の効率化を図ることや、ビッグデータの解析などにより生産過程や流通過程の更なる効率化を図ることも可能となる。
引用元:令和4年版情報通信白書 第2章 第1節 2 ICTが果たす役割の展望
また、日本政府の「骨太方針2024」における三位一体の労働改革の説明においては、「性別・年齢にかかわらず活躍できる社会」という記載があります。
性別や年齢にかかわらず意欲のある人が生涯活躍できる社会を実現するため、全世代型リ・スキリングや若年期からの健康管理を促す全世代型健康診断等のプロアクティブケア、働き方に中立的な社会保障制度の構築を進める。
引用元:経済財政運営と改革の基本方針2024 について 第2章 社会課題への対応を通じた持続的な経済成長の実現 ~賃上げの定着と戦略的な投資による所得と生産性の向上~
このように、日本におけるリスキリング推進には、先端技術の活用によって生産効率性を挙げたり、働ける人をより増やすことで、労働人口の減少という問題を乗り越える…という目的もあるのです。
3.企業がリスキリングを推進するメリット
企業がリスキリングを推進するメリットには、主に次の三つが挙げられます。
(1)採用よりもコストをかけずにDXを推進できる
リスキリングが企業にもたらすメリットの一つに、「採用よりもコストをかけずにDXを推進できる」という点があります。
一般的に、あるスキルを持った人材を採用するのと、リスキリングで既存の従業員に同等のスキルを習得させるのとでは、前者のほうがより時間やコストがかかります。人事コンサルタントのジョシュ・バーシン氏による「リスキリングコストは採用コストの1/6で済む」という説は比較的有名です。
また、採用の場合、その人材がスキルを発揮するためには、企業の文化や業務フローを先に理解する必要があります。一方、既存の従業員であればすでに理解しているため、新たなスキルをすぐに業務に活かせるのも大きな違いです。
DXは、今や多くの企業が行っている施策であり、単に取り組むだけでなく、そのスピードが重要になりつつあります。DX推進を、採用よりもスピーディーに実現できるリスキリングは、競合に負けない手段として欠かせないといえるでしょう。
(2)新しい人材を採用するよりもコストがかからない
リスキリングの推進は、従業員のエンゲージメント向上に寄与します。
リスキリングでは、その過程で、従業員に「自分が行った努力が企業の進歩につながり、自分の役割が社会にとって価値あるものである」と認識する機会をもたらします。それによって従業員の中で責任感が増し、一層企業に貢献しようという気持ちが湧いてきます。
従業員のエンゲージメント向上は、生産性を高めるのに欠かせない要素のひとつです。DXによる生産性アップ以上の効果が期待できるのが、リスキリングのメリットです。
(3)VUCA時代を生き抜く組織の構築につながる
私たちはVUCA(Volatility〈不確実性〉、Uncertainty〈不確実性〉、Complexity〈複雑性〉、Ambiguity〈曖昧性〉)という変化の激しい時代に生きています。このなかで企業が生きていくためには、変化に即座に対応できる柔軟性やチャレンジ精神が欠かせません。
リスキリングは、従業員の技能を再編し、新しいスキルを身につけさせる取り組みです。これは、従業員一人ひとりに、VUCA時代に必要な姿勢や考え方を与えるきっかけとなり、ひいては企業の持続的な成長と競争力の維持につながります。
4.リスキリングのデメリット
(1)本質的に成功している事例が少ない
どの施策にも当てはまることですが、リスキリングも先行事例から学ぶことが成功の近道です。ただ、リスキリングは「人」に関わる取り組みであり、その成果は場合によっては長期的になります。ここ数年で急速に注目されている施策である一方で、導入直後には結果が見えにくいため、成功事例がまだ豊富ではありません。
(2)マインドなど、ソフトスキルは変化しづらい
リスキリングは、従業員一人ひとりに、VUCA時代を生き抜くのに必要な柔軟性やチャレンジ精神を身につけるきっかけをもたらしますが、実際に身につけられるかどうかは個々の性格や経験、価値観などが大きく影響します。
特に新たなスキルを身につけることを積極的に望まない従業員に、ソフトスキルを身につけてもらいたい場合、リスキリングを始める前にアンラーニングやデジタルリテラシーの向上のサポートなどをする必要があります。
ただし、このようなプロセスにおける結果も短期間で見えるものではありません。リスキリングとして取り組むときには、従業員によっては時間と労力が生じることも把握しておく必要があるといえます。
5.企業がリスキリングを導入するための5ステップ
企業がリスキリングを導入するための大まかな手順をご紹介します。
(1)従業員が現時点で身につけているスキルを可視化・定量化する
リスキリングを始めるにあたり、まずは従業員が現時点で何を得意とし、どのようなスキルを持っているのかを可視化し、それがどの程度なのかを定量化します。
まず従業員のスキルを技術的なスキルとソフトスキルに大別し、それぞれのスキルをさらにサブカテゴリーに分けていく形で分類します。技術的なスキルは、その人がどの言語を使ってプログラムを書けるか、どの程度の統計知識を持っているか、などの具体的な能力です。ソフトスキルは、その人がどれだけ問題解決能力やコミュニケーション能力、リーダーシップを発揮できるか、などです。また保有している資格もあわせて把握しておくとよいでしょう。
そのうえで、各スキルの評価を行い、定量化します。評価においては、上司だけでなく、従業員自身、同僚、部下といったさまざまな立場の人の評価も組み合わせて行うことが理想です。
なお、スキルマップを用いると、各従業員のスキルや資格を一元的に見ることができます。以下は、スキルマップの一例です。
スキル・保有資格 | Aさん | Bさん | Cさん | |
技術的スキル | プログラミング | 5 | 2 | 2 |
データ分析 | 5 | 2 | 3 | |
◯◯◯◯ | ||||
△△△△ | ||||
ソフトスキル | コミュニケーション | 2 | 4 | 4 |
課題解決能力 | 3 | 4 | 5 | |
リーダーシップ | 2 | 4 | 4 | |
◯◯◯◯ | ||||
保有資格 | ITパスポート | ◯ | ||
MOS | ◯ | ◯ | ||
◯◯◯◯ | ||||
△△△△ |
(2)会社の将来に向けて必要な人材を見定める
次に、会社の将来に向けて必要な人材を見定めます。これは未来の業界トレンドや企業のビジョンを踏まえて、求められるスキルセットを明確にする作業です。
まず、DX推進において求められる具体的なスキルをリストアップします。DX推進と一言にいっても、実際に必要になるスキルは各企業の戦略によってさまざまです。例えばある企業ではAIやブロックチェーンに関連するスキルが必要になることもあれば、ある企業ではロボティクスや自動化などのスキルが必要になることもあります。
次に、求められるスキルと現在の従業員のスキルを比較し、ギャップを明らかにします。これにより、どのスキルを補うべきか、または新たに習得させるべきかを明確にすることが可能です。
このような手順を通じて、リスキリングの方向性を設定し、具体的な学習プログラムを作る準備を行います。
(3)スキル習得に必要な学習プログラムを組む
スキル習得に必要な学習プログラムを策定します。
学習プログラムは、一から組むのは現実的に難しいため、外部企業が提供している講座や資格試験などを活用するのが一般的です。
必要なスキルを身につけてもらうにはどれがよいかインターネットでリサーチし、場合によっては組み合わせながら学習プログラムを作ります。
(4)従業員に学習プログラムに取り組んでもらう
従業員に学習プログラムを提供し、スキルを身につけるための学習をし始めてもらいます。学習期間中は、スムーズに進んでいるか、常に進捗状況を把握することが大切です。つまづいている様子が見えたらヒアリングを行い、対策を一緒に考えるようにします。
(5)従業員が身につけたことを実践できるように支援する
リスキリングの目標は、スキルの習得ではなく、それをもとに従業員が新たなビジネスモデルや業務プロセスに対応できるようになることです。そのため、リスキリングを実施した従業員に対しては、身につけたスキルを日々の業務に活かすための支援が欠かせません。
例えば、DX推進のために設置したIT事業部に配属させる、現在所属している部署にデジタルツールを導入して業務効率化を図るプロジェクトに参加させる、などが挙げられるでしょう。
こうした支援を通して、初めて学習したスキルがその従業員の血肉となり、企業がDXを推進していくための原動力となります。
6.リスキリング定着のポイントは「従業員目線」
リスキリングは企業主導で行われる施策ですが、実際に学習するのは従業員です。そのため、常に従業員目線で考えることが成功につながります。特に次のポイントをおさえておきましょう。
(1)従業員の既存業務とのバランスを調整する
リスキリングを導入する際、従業員の既存業務とのバランス調整は重要なポイントとなります。
リスキリングは、企業主導の取り組みであり、基本的には業務時間内で行うものです。そのため、既存業務の遂行に支障が出ないよう配慮する必要があります。
この配慮が不足すると、従業員自身が業務と学習の両立にストレスを感じてしまいます。またリスキリングをしていない従業員からの不満がたまり、企業としてのパフォーマンスが低下する恐れもあります。
こうしたリスクを回避するには、リスキリングの学習プログラム設計時に、各従業員の業務量や業務内容を考慮に入れ、適切な学習時間を設定することが不可欠となります。また、場合によっては、業務の一部を他の従業員や外部のパートナーに委託するなど、業務量自体を調整することも必要となるでしょう。
(2)従業員の興味関心を重視する
リスキリングにおいて重要なのは、従業員が「やってみたい」「頑張りたい」という自主的な気持ちで取り組むことです。やる気や興味は継続的な学習だけでなく、学習の効果を飛躍的に高める要素です。また、企業へのエンゲージメント向上にも寄与します。
(3)従業員の自主性に頼り切らない
リスキリングにおいて従業員の自主性は欠かせませんが、それに頼り切ってしまうと失敗を招きやすくなります。
「学習プログラムを提供し、従業員が自主的に取り組むまで待ってみたが、誰も一向に始めようとしない」「学習を始めてくれたので安心していたら、いつの間にかやめていた」。これらは、リスキリングの失敗例としてしばしば聞かれるものです。
学習そのものを強制せずとも、企業側ができることは多くあります。例えば、1on1ミーティングなどを通じて具体的な学習ロードマップを提示すれば、学習の一歩を踏み出しやすくなります。「スキルを身につけると、これくらい給与が上がりますよ」「こんなキャリアアップにつながりますよ」など、学習のメリットを見せるのも有効です。
また、学習期間中のモチベーションは、定期的に評価・フィードバックをすると下がりにくくなります。他にも、各従業員の進捗状況を従業員が確認できる環境を作っておくと、従業員同士で刺激を受け合いながら学習を進めてもらえるようになるためおすすめです。
7.リスキリングの導入事例
最後に、リスキリングの導入事例をご紹介します。
(1)海外企業の事例
AT&T
AT&Tは、リスキリングの先駆者とも呼ばれるアメリカの通信事業者です。同社は2008年に社内調査を行い、そこで従業員25万人のうち、今後の事業に必要なスキルを持つ従業員が半分にも満たない、という結果が明らかになったことを受けて、リスキリング戦略「Workforce 2020」を策定。2020年までに10億ドルを投じ、従業員のリスキリングを開始しました。これにより、2020年時に、社内の技術職の81%を社内の従業員によってまかなうことに成功し、リスキリングを受けた従業員の高評価率や昇進率も向上するなど、さまざまなプラスの効果を生み出しました。
アマゾン
リスキリングの導入事例として、アマゾンが挙げられます。同社では、2025年までに全従業員30万人を対象にリスキリングを行うという壮大な計画、「Upskilling 2025」を2021年9月に発表しています。これは既存の従業員が需要のある高賃金の仕事に就くためのスキル習得を支援するもので、予算として約12億ドルを投じるとされています。
(2)日本企業の事例
富士通
富士通は、デジタル人材の確保に向けて、「Global Strategic Partner Academy」というリスキリングプログラムを2021年12月から開始しました。ServiceNow、SAP、Microsoftの3社と協働して行われるこのプログラムでは、国内外に通用するITスキルを身につけてもらうためのプログラムが組まれ、グローバル規模でデジタル人材の拡充が目指されています。
日立製作所
日立製作所は、多様な研修サービスを提供する「日立アカデミー」を通して、従業員に対してリスキリングを実施しています。研修はオンラインで実施され、従業員は自分のペースで学ぶことが可能です。従業員はリスキリングを通して新たな技術を学び、会社全体のDX推進に貢献しています。
8.まとめ
リスキリングは、企業・従業員ともに、これからの時代を生き抜いていくために重要な取り組みであることは間違いないでしょう。
ただし、企業が従業員に対して、単に学習プログラムを提供するだけではうまくいきません。企業には「何を学ぶのか」「なぜ学ぶのか」「学ぶことでどんなメリットがあるのか」を明示し、実際にそれが実現できるように環境を整えておくことが求められます。