IT業界の活性化へ向けたさくらインターネットの挑戦とは――さくらインターネット株式会社 執行役員 髙橋隆行氏インタビュー
最終更新日:2024.08.02
クラウドサービスのイメージが強い「さくらインターネット」。
でも実は、デジタル人材の育成を目的としたさまざまな活動を数多く行っていることが判明!今回はその全貌を執行役員の髙橋隆行さんに聞きました。
Photography: TOSHIYUKI MAEGAWA
Edit&Text: YUMIKO GOTO
部署異動システムがリスキリングに一役買い
ー今回は新創刊される弊誌「RESKILLING」にちなみ、さくらインターネットさまのリスキリング事情についてお伺いさせてください。
(髙橋) 弊社はインターネットシステムを支えるクラウド事業社なのでITスキルが高い方ではあると思うのですが、全員がエンジニアというわけではないので、エンジニア部門のメンバーが非エンジニア部門に対して講座を開くという活動は昔から行っていたんです。なので、”学び”ということに関しては、社には免疫があると思っています。ただ、リスキリングのいちばん大事なポイントって得た知識を実践でどう使うか、”活かすか”だと思っています。そういう意味で今力を入れているのが”異動”なんです。
ー異動とは?
(髙橋) 在籍する部門にずっといるわけではなく部署を異動して新しいチャレンジをしていくというものです。新しい場所に行くことで、新たな知識を吸収するだけでなく自分に足りない部分が見えてくるので、自主的にこれを学びたいと思えるようになる。つまり新しい気づきにつながるということなんです。専門職を生業にしていると、その延長上でしか仕事ってしないじゃないですか。だから異動すると、ほぼ転職したと同じくらいのインバクトがあるんですよね。実は私も社内ではこれまで運用から営業、技術支援に教育支援など、だいぶ広域に仕事をしてきたので多くの知識を得ることもできましたし、自分にはどれも本当にプラスになるいい経験だったんです。そういう機会を会社がどれだけ提供するかによって、リスキリングって非常に加速していくのかなと思うので、そういった意味では“経験の中から学ぶリスキリング”といったところには相当力をいれているのかなと思います。
ーなるほど、すごく素敵ですね。ちなみにこの異動はどういう形で行われているのでしょうか?社員の方の自主性とかですか?
(髙橋) 当社の理念というか、1つのスローガンとして「やりたいこと」を「できる」に変えるというものがあるんです。なので、公募情報がある中でチャレンジしたいということであれば、基本的にはあまり断ることなく異動することが可能になっています。ただ、この異動はやりたいことをできるだけじゃなくて変えていかなくてはいけないと思っていて…。その変えるが自身のリスキリングにもつながると思うので、常に自分をアップデートしつつ、楽しみながら知識を高めていっていただければ。
ーこの異動システムにより、会社的に得た利益なと、何か実感されたことはありますか?
(髙橋) そうですね。プロダクトにおいては本当に創業期からずっとやってきたメンバーがたくさんいるんですが、どうしても固着化しちゃうんですよね。でもこの異動により固着化した空気が動くことで、次の世代や若手が意見を言いやすくなるうえ、新しいことへのチャレンジもしやすくなるので、必然的に会社の利益にもつながっているように感じます。
ーでは今、社員の方がいちばん多く学ばれているなと思うのはどんなことでしょうか?
(髙橋) それぞれの分野でみんなが切磋琢磨しているので特にこれが多いというのはないのですが、1つ。昨年代表が「ITパスポートを社員全員取りましょう」と発表したんです。ただ、言っておきながら経営陣が取っていないのもまずいので、真っ先に代表が取得していました。ただこれも、ITパスポートを取ることが目的ではなく実はこのITパスポートってちゃんと勉強しないと落ちるんですよ。なので会社としては”学ぶ”という姿勢を作りたかったのと、社員のスキル的に最低でもこのITパスポートがボトムラインですよと基準を決めておきたかったというのもあります。
一人でも多くの人にITの魅力を届けたい!
ー資格といえば、先日「さくらのクラウド検定」も発表されていましたが、こちらは?
(髙橋) 元々「資格制度を作りたい」というのが始まりなんですが、きっかけはガバメントクラウド(※1)サービス提供事業者に条件付きで認定されたということだったんです。最初は「さくらのクラウド」の使い方を学ぶためのコンテンツを、事業者のために作ろうとしていたんです。でも、せっかく1から作るのであれば、もっと広範囲に学びの場を提供したいよねというところから考えが広がっていき、それこそリスキリングですよね。“検定”はあくまでも1つの結果というか手段であって、私はそれを学ぶプロセスの方が重要だと思っていて。なのでこのコンテンツは、多くの方に学びの場を広げたいという思いがいちばん大きいので、さくらインターネットだけに特化した内容ではないんです。一応3つの章に分かれていて、最初はデジタル技術の基礎を学んでいただき、第2章ではさくらインターネットサービスのことを、そして第3章はクラウドでのアーキテクチャ段計(※2)までをという内容で一応最後は検定試験を受けていただく流れになっています。でも検定はマストではないので、実際にこのトレーニングをするだけでも構わないと思っているんです。
※1行政に関わる業務システムを統一されたクラウド上に集約、共通化・標準化した上で監視運用できるようにした政府共通のサービス利用環境のこと。
※2業務効率化をはじめとした経営課題を解決するシステムの基本設計や要件定義を行うスキル。
ーなるほど。ちなみにこの講習を受ける費用はどのくらいですか?
(髙橋) 実はこのトレーニングメニューにおいては、今回無償で行おうと思っています。お金は一切、とりません(笑)。
ーえっ、無償ですか!?
(髙橋) そうなんです。デジタルスキルを磨くセミナーってたくさんあって、実はものすごく高かったりしますよね。でもそれだと、本当に極めたい人しか集まらないし、なかなか裾野が広がっていかないと思うんです。そうするとやっぱり意味がなくなってしまうので、多くの方に広げるためにも今回は無償という形をとりました。さらにこのコンテンツはどんな使い方をしていただいても構いません。教育機関の方が資料として使ってもいいですし、ダウンロードもできるので一部を転載するとかでもいいんです。とうぞ、ご自由に使ってくださいと(笑)。それにより日本のデジタルスキルとか、リスキリングの環境が底上げされて産業が明るくなればいいなと。ただ、すみません。検定はお金がかかります。
ーいえいえ(笑)。ものすごくありがたい取り組みです。教育関連でいくと主催企業の一つとして「キッズベンチャー」という子供のための取り組みもされていますよね。
(髙橋)「キッズベンチャー」は、”すべての子供たちにブログラミングを”という活動をされている「PCNプログラミングクラプネットワーク」さんと組んで進めている“子供向けプログラミング教室”で、2015年から正式に動き出している取り組みです。立ち上げ当時は主要都市を中心に展開していたんですが、今は全国にさまざまなプログラミング教室ができたので、2018年あたりから実は方向性を変えたんです。どのように変えたかというと、学校に通えない子供たちのところにこちらから出向こうと。例えば地方はもちろん、児童養護施設や特別支援学校、長期療養をしている子供の病院などですね。
ーすごく素敵な取り組みですが、子供たちとの接し方など大変なこともありそうですね。
(髙橋) そうなんです。どの子供たちもものすごく喜んでくれるのですが、やはり普通の環境ではないことが多いので、教える方もメンタルは強くしていくというのは大事にしています。特別扱いをするのではなく、あくまでも対等にというのを意識して、教えるようにしています。
ー本当にいろいろな社会貢献もされているんですね。では最後に、読者に対してメッセージをお願いいたします。
(髙橋) 今回は当社がかかわる活動についてもお話させていただきましたが、最後に改めてリスキリングについてお伝えいたしますと、やはりリスキリングって新しい機会を自分から取りに行く=外部と接することだと思うんです。それだけで見識が広がりますし、新たな気づきを得られると思います。なのでまずは、外の世界へ目を向けることから始めてみてください!さくらのクラウド検定もオススメです!
リスキリングの近道は外部の人と接すること!!
さくらのクラウド検定とは?
「さくらのクラウド検定」は、デジタル技術を基礎から実践まで幅広く学べる認定試験です。この検定は、ITインフラの初心者や、さくらのクラウドの利用を検討している方、またはすでに利用している方でさらにスキルを極めたい方を対象としています。クラウドのアーキテクチャ設計を中心に、実務で直接活用できるスキルを身につけることができます。
https://www.sakura.ad.jp/certification/
「キッズベンチャー」とは?
パソコンの組み立てやロボット制など、電子工作とプログラミングを通じてものづくりの楽しさを伝える子供向けプログラミング教室。さくらインターネットをはじめ、IT企業6社で運営している。
インタビュイー
さくらインターネット株式会社
執行役員 髙橋 隆行さん
(経歴)
カスタマーサポート、プリセールスエンジニア経験を経て2006年にさくらインターネットに入社。運用現場業務に従事したのち、2011年に運用執行役員に就任。2016年に営業管掌として異動、非営利団体キッズベンチャーの立ち上げ、グループ会社代表取締役経験を経て、現在はテクニカルソリューション本部を管掌し、パートナー戦略策定やユーザーへの教育支援に従事。