生成AIが変える組織の未来 – データ民主化とリスキリングの融合

インタビュー

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最終更新日:2024.06.12

AIスタートアップ・キカガク株式会社の創業者であり、現在は和談株式会社のCEOとして事業拡大に挑む吉崎亮介氏。機械学習の理論から実装方法、そして事業化のノウハウまで幅広く教育事業を手がけてきた一方、今はAIを駆使した組織のコミュニケーション改革にも取り組んでいる。

生成AIの台頭によって、ビジネスや組織のあり方はどのように変わっていくのか。そしてこの大きな変化の中で、個人はどのようにキャリアを築いていけばいいのか。吉崎氏に生成AIがもたらす未来とリスキリングの重要性について語っていただいた。

未経験者のポテンシャルを引き出すリスキリング戦略

吉崎氏は、未経験者の可能性に早くから着目し、独自の教育手法で優秀な人材を輩出してきた。その背景にある問題意識とは何か。

ーー機械学習教育の第一人者として、これまでどのような課題意識を持って事業に取り組んでこられたのでしょうか。

吉崎氏:

教育事業を始めた当初から、いかに再現性高く優秀な人材を育成できるかということにこだわってきました。特に未経験の人材を採用し、短期間で戦力化することに注力してきた経緯があります。

未経験者は市場に出回っていないため、比較的安価に採用できるというメリットがあります。一方で、彼らのポテンシャルをいかに早期に引き出せるかが勝負どころです。

そこで、講師として早期にデビューさせ、事業の成長に貢献してもらうことで、会社と個人の成長を同時に実現できると考えたのです。個人のコミットメントを引き出しながら、組織の成果につなげていく。それが私たちの目指すリスキリングの姿です。

ーーゴール設定を意識することが大切なんですね。

吉崎氏:

教育を続ける中で、もう一つ大きな課題に気づかされました。せっかく新しい知識を学んでも、それを活用する場がないと、結局は一過性の消費で終わってしまうのです。特に個人の学習者の場合、学んだ先が見えないと、モチベーションを保つのが難しい。

そこで、教育の対象を法人にも広げ、企業の人材育成と直結したカリキュラムを提供するようにしました。社員のスキルアップが、会社の課題解決や新規事業の創出につながる。そのような明確なゴールがあれば、学ぶ意欲も高まります。

このように、教育事業を通じて、私は「コストを負担する側の目的に沿った学び」の重要性を実感してきました。漠然と学ぶのではなく、明確なゴールを持つこと。それが、教育の効果を最大限に引き出すカギなのです。

ーーキカガクでは、どのような教育プログラムを提供されてきたのでしょうか。

吉崎氏:

事業を進めていく中で、機械学習だけを教えていても、実際のビジネスで役立てるには不十分だと気づいたのです。そこで、データ収集に必要なクローリングやスクレイピング、モデル構築のためのクラウドインフラの活用法、機械学習を実装したWebアプリケーションの開発、コード管理のためのGitHubの使い方など、周辺技術もカバーする総合的なカリキュラムを段階的に拡充していきました。

さらに、せっかく機械学習のモデルを作っても、それを世の中で使ってもらわなければ意味がない。そう考えて、事業化のための知識も教育プログラムに取り入れていったのです。アイデアを形にするためのノーコードツールの使い方、Webマーケティングの基礎、起業時の財務や組織づくりのノウハウなど、技術だけでなく、ビジネスを成功に導くための実践的なスキルにまで、教育の範囲を広げていきました。

 

「学びのモチベーション」を高める組織のあり方

リスキリングを成功に導くには、個人の学習意欲をいかに高められるかが鍵を握る。そのために組織は何をすべきなのだろうか。

ーーリスキリングを進める上で、組織として何が重要だとお考えでしょうか。

吉崎氏:

リスキリングを成功させるためには「学びのモチベーション」が非常に重要です。会社と個人の目標を適切にすり合わせ、納得感を持って学んでもらうこと。そのためには、社員一人ひとりに寄り添った丁寧なコミュニケーションが欠かせません。

また、学びの姿勢や忍耐強さを評価する仕組みも大切です。リスキリングの過程では、知識やスキルを積み重ねる地道な努力が求められます。それを適切に評価し、支援する体制があってこそ、社員のモチベーションは維持されるのです。

会社と個人が同じ方向を向き、粘り強く学び続ける。そんな組織文化を醸成することが、リスキリングの成否を分けると思います。

実装だけでなく「設計力」が問われる時代へ

生成AIの登場で、エンジニアに求められるスキルセットも変化しつつある。これからのエンジニアは何を学ぶべきなのか。

ーー生成AIの登場によって、エンジニアの仕事はどのように変化していくとお考えでしょうか。

吉崎氏:

生成AIによって、エンジニアの仕事がなくなるわけではありません。ただし「実装」を得意とするエンジニアは、新たなスキルセットが求められるでしょう。

私がよく「エンジニアは設計にシフトすべき」と言っているのはそういう意味です。つまり、要件定義や設計といった上流工程により注力すべきだということです。生成AIを活用することで、実装はかなり効率化できます。一方で、ビジネス要件を適切に理解し、システム設計に落とし込む力が問われるようになります。

ーーエンジニアのリスキリングを進める上で、何が重要になるのでしょうか。

吉崎氏:

設計力を高めるためには、ビジネス要件を理解する力が不可欠です。それは技術だけの問題ではなく、コミュニケーション能力も問われます。

経営層や事業サイドときちんと対話し、課題を共有する。その上で、システム設計に落とし込んでいく。そういった業務プロセスを意識的に積み重ねていくことが大切だと思います。

また、生成AIをどう活用すれば開発生産性が上がるのか、常にアンテナを高くしておくことも重要です。APIの活用方法や、生成AIに適したアーキテクチャのあり方など、新しい知識を貪欲に吸収していく姿勢が求められます。

生成AIを味方につけ、設計力と実装力を兼ね備えたエンジニアになる。それこそが、これからのエンジニアの理想の姿だと思います。組織としても、そういった方向性でエンジニアのリスキリングを支援していくべきでしょう。

データの民主化が変える非エンジニアの働き方

生成AIは、エンジニアだけでなく非エンジニアの働き方にも大きな影響を与えるはずだ。事務職や営業職など、さまざまな職種の人たちはどのようにAIと向き合えばいいのだろうか。

ーー生成AIは非エンジニアの働き方をどのように変えるのでしょうか。例えば事務職や営業職の方々にとって、AIをうまく活用するコツはありますか。

吉崎氏:
生成AIの登場で、非エンジニアの方々にも「データの民主化」が進むはずです。つまり、誰もがデータを自在に扱える時代が到来するということです。

例えばExcelを使って営業資料を作る際、多くの人は顧客データを都度コピー&ペーストしているのではないでしょうか。しかし、顧客データを別シートで一元管理し、関数で参照するようにすれば、もっと効率的に作業できます。要するに、『データとテンプレートを分離する』という発想の転換が必要なんです。

吉崎氏によれば、生成AIを使えばこの作業はさらに自動化できるという。トークスクリプトのテンプレートを用意しておき、そこに顧客データを流し込む。プログラミングの知識がなくても、APIを介してデータ連携するイメージを持つことが大切だと強調する。

吉崎氏:
生成AIを使えば、営業資料作成の手間を大幅に削減できます。データの入力と出力を整理し、それを自動化する。そういう発想を持つことが、これからのビジネスパーソンに求められるスキルなのです。

AIからの「問いかけ」が変える、組織の学習文化

従来の一方的な研修だけでは、社員のリスキリングは進まない。では、組織は何をすべきなのか。吉崎氏は「AIからの問いかけ」という新しいアプローチを提案する。

ーー組織としてリスキリングを進める上で、どのような工夫が必要だとお考えでしょうか。

吉崎氏:
受動的な学習では、なかなかリスキリングは進みません。会社が提供する e-learning を、全員に受講させるだけでは不十分なんです。

大切なのは「タイミング」と「きっかけ」です。社員一人ひとりが、必要なタイミングで必要な情報にアクセスできる環境を整備すること。そのために、私は「AIから問いかける」というアプローチを提案しています。

社内の情報を「辞書化」し、日々AIから関連する情報を提示する。福利厚生や社内制度など、普段はあまり意識されない情報も、能動的に調べるきっかけを与えられます。それこそが、効果的なリスキリングに繋がるはずです。

ーーなるほど。AIを活用することで、社員の自発的な学びを促せると。

吉崎氏:
その通りです。AIからの問いかけがあれば、社員は自然と必要な情報に触れる機会が増えます。すると、自ら調べ、学ぼうとする意欲が高まるんです。

これは個人の学びを加速させるだけでなく、組織のコミュニケーションも活性化します。AIがきっかけとなって、部署や職種を越えた対話が生まれる。それが、イノベーティブなアイデアを生む土壌にもなるはずです。

リスキリングを「させられる」のではなく「したくなる」。そんな組織の学習文化を、AIを活用しながら醸成していく。それこそがこれからの経営層に求められる重要な役割だと思います。

リスキリングを「楽しむ」マインドセットが変革のカギに

最後に吉崎氏は、リスキリングに取り組む個人と組織に向けて、大切なメッセージを語ってくれた。新しいスキルを身につける「楽しさ」を大切にすること。それこそが、変革を成し遂げるカギになるようだ。

ーー最後に、これからリスキリングに取り組む個人や組織に向けてメッセージをお願いします。

吉崎氏:
生成AIを使いこなすためには、従来のやり方を変える「忍耐力」が求められます。最初のうちは、作業効率が一時的に落ちるかもしれません。

しかしそれを乗り越えた先に、真の生産性向上が待っています。リスキリングを単なる通過儀礼で終わらせるのではなく、業務に定着させる強い意志が問われるのです。

個人にとって大切なのは、新しいスキルを身につける「楽しさ」を感じること。今の仕事が10分で終わるようになったら、残りの時間で何を学ぼうか。そんな前向きなマインドセットが何より重要だと思います。

一方、組織は社員のチャレンジを適切に評価し、後押しする必要があります。スキルアップのための時間をきちんと確保し、部署を越えた学び合いの場を設ける。トップ自らがリスキリングの重要性を発信し続けることも欠かせません。

生成AIをどう活用すれば強みを最大限発揮できるのか。その問いを、個人も組織も真剣に考えていかなければなりません。変化を恐れるのではなく、新しいスキルを獲得する喜びを感じられる。そんなマインドセットこそが、これからの時代を生き抜く原動力になるはずです。

さいごに

生成AIを活用し、個人と組織がともに成長していく。吉崎氏が描くリスキリングの未来は、決して容易な道のりではない。しかし、一人ひとりが能動的に学ぶ姿勢を持つことで、必ずやキャリアの可能性は広がるはずだ。

変化を前向きに捉え、学び続ける。それこそがこれからの時代に求められる、個人と組織の在り方なのかもしれない。生成 AI を味方につけながら、新しいスキルを獲得する “楽しさ”を追求する。吉崎氏の言葉は、リスキリングの本質を見事に言い当てていた。