人材育成の課題は?7つの解決策や参考事例とあわせて徹底紹介

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最終更新日:2024.06.26

人材育成の課題 時間不足 本来の業務との兼任で育成にかける時間がない 育成スキル不足 育成担当者の指導やFBのスキルが足りていない 育成や成長に対する意識の低さ 育成担当者や教育を受ける従業員の意識が低い 効果測定の難しさ 適切な評価指標の設定が難しく効果測定が困難 コストバランスの難しさ 育成の質とコストのバランス調整が難しい

現代のビジネス環境は、グローバル化やデジタル化、そして価値観の多様化など、かつてないスピードで変化しています。

このようななかで、企業が持続的な成長を遂げていくためには、変化に柔軟に対応し、新たな価値を創造していくことのできる「人材」の存在が不可欠です。

しかし、効果的な人材育成は、多くの企業にとって容易ではありません。育成担当者の時間不足やスキル不足、従業員自身の意識改革の難しさ、効果測定やコスト面での課題など、さまざまな要因が複雑に絡み合っているためです。

そこで、この記事では、企業が直面する人材育成の課題と、その解決策について、客観的な視点から詳しく解説していきます。

人材育成の重要性

変化の激しい現代社会において、企業にとって最も重要な資産は「人材」です。従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、企業全体を強化していく「人材育成」は、競争を勝ち抜き、成長し続けるために不可欠です。

人材育成に積極的に取り組む企業は、時代の変化に対応できる優秀な人材を獲得し、他社との差別化を実現できます。結果として、生産性向上、サービス品質向上、新規事業創出など、企業の成長に欠かせない要素を手に入れることができるでしょう。

逆に、人材育成を軽視すると、企業は以下のような深刻なリスクに直面します。

  • 優秀な人材の流出:成長機会を求めて、社員が競合他社に転職してしまう
  • 競争力の低下:新しい技術や変化に対応できず、市場での競争力を失ってしまう
  • 企業イメージの悪化:人材を軽視する企業というイメージが広まり、優秀な人材の獲得が困難になるだけでなく、顧客や取引先からの信頼を失ってしまう

人材育成は、従業員が能力を最大限に発揮できる環境を提供し、企業と従業員双方にとってWin-Winの関係性を築くための投資です。企業は、短期的な視点ではなく、長期的な視点で人材育成に取り組む必要があります。

人材育成における5つの課題:現状と原因

人材育成の重要性は多くの企業が認識している一方で、その取り組みは容易ではありません。多くの企業が、さまざまな課題に直面しているのが現状です。

時間不足

中小企業やベンチャー企業では、人手不足とコスト面から専任の育成担当者を置くことが難しく、多くの育成担当者が本来の業務に加えて人材育成も兼任しています。

それゆえに慢性的に時間不足に陥っているケースが多く、本来であれば、人材育成は個々の従業員の状況やニーズに合わせた丁寧な指導が求められるものの、時間不足によって画一的な研修や指導になってしまうことが少なくありません。例えば、新しいシステムを導入する際、時間がないことを理由に簡単なマニュアルを渡して終わりにしてしまうなどです。

ただ、時間不足によって人材育成がおろそかになると、従業員のスキルアップが遅れ、さらに人材育成に時間をかける必要が出てきます。先の例で言えば、従業員がシステムを使いこなせず、結局、育成担当者が個別にサポートすることになり、かえって業務が増えてしまう……そんな悪循環に陥ることもあるでしょう。

さらに、教育を受ける従業員のモチベーションを下げ、結果として退職を選択されてしまうリスクも出てくるようになります。

育成スキル不足

人材育成において、育成スキル不足は大きな課題の一つです。人材育成の担当者自身が、具体的な指導方法や効果的なフィードバックの仕方に悩んでいたり、部下のモチベーションを高めるコミュニケーションに苦労していたりするケースは少なくありません。育成スキルを十分に身につけていないまま、指導にあたらざるを得ない状況も見られます。

こうした育成スキル不足が生じる背景には、育成担当者に対する研修不足や、日々の業務に追われ育成に十分な時間を割けないなど、さまざまな要因が考えられます。また、企業全体として人材育成の重要性に対する認識が低く、育成スキル向上のための投資が後回しになっているケースも見られます。

ただ、育成スキル不足は、担当者だけの問題にとどまらず、企業全体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。適切な指導やフィードバックが行われない場合、部下は自身の成長を感じ取れず、仕事へのモチベーションを維持することが難しくなるでしょう。

その結果、時間不足によって人材育成がおそろかになるときと同様、パフォーマンスの低下や離職など、企業にとって大きなリスクを抱えることになりかねません。

育成や成長に対する意識の低さ

育成を担当する人が従業員の育成に積極的になれない、教育を受ける従業員も自身の成長に意欲的になれない、といった課題も挙げられます。

前述したとおり、育成を担当する人の多くは、本来業務を抱えながら育成にも取り組んでいます。そのため、時間的な余裕の無さから、育成に力を入れられない手が回らないという状況が生まれがちです。例えば、新しい研修プログラムを企画・実施するにしても、参加者の募集やスケジュール調整、教材作成、研修後のフォローアップなど、多くの業務が発生します。本来業務で忙しい中、これらの業務を並行して行うのは容易ではなく、育成に対するモチベーションを維持するのが難しいと感じるのも無理はありません。

一方、教育を受ける従業員も、日々の業務に追われてスキルアップを考える余裕がない、という状況が考えられます。毎日残業続きで、目の前の仕事をこなすだけで精一杯という状況では、なかなか自己成長に目を向けることは難しいでしょう。

ただ、教育を受ける従業員が自身の成長に関心が持てないのは、教育を受ける本人というよりは、育成を担当する側の時間的な余裕のなさや、それに伴う育成に対するモチベーションの低さ、あるいは育成の効果を実感しにくいといった状況が要因になっていることが少なくありません。育成担当者が常に忙しそうにしていて、あきらかに教育に手が回っていない、研修も手を抜いているように感じる、といった状況だと、受ける側としてもやる気はなかなか上がらないものです。

いずれにしても、こうした双方の意識の低さが、人材育成に取り組む多くの企業を悩ませています。

効果測定の難しさ

人材育成の効果を測定するうえで、適切な評価指標の設定は容易ではありません。研修後のアンケート結果が良好であっても、それが業務成果の向上に直結するとは限らないからです。

例えば、「研修満足度」は測定しやすい指標ですが、実際の業務への貢献度合いを示すものではありません。一方で、「売上目標達成率」は業務成果との関連性は高いものの、個人だけの努力では達成できない場合もあり、人材育成の効果だけを評価するには不適切な場合があります。

適切な評価指標は、短期的な視点と長期的な視点、定量的な評価と定性的な評価を組み合わせるなど、多角的な視点から設定する必要があります。しかし、その設定の難しさから、人材育成の効果測定が困難になっている現状があります。

コストバランスの難しさ

人材育成には、研修費用や人材、時間など、さまざまなコストが発生します。

効果的な人材育成を実施しようとすると、どうしてもコストはかかってしまうものです。 例えば、研修費用には、外部研修の受講料、講師への謝礼、教材費、会場費などが挙げられます。また、人材としては、研修の企画・運営担当者、講師、メンターなどが挙げられます。さらに、時間としては、研修時間だけでなく、準備時間や移動時間なども考慮する必要があります。

コストを抑えようとすると、質の低い研修プログラムしか実施できなかったり、従業員に十分な学習機会を提供できなかったりする可能性があります。

一方で、コストを度外視して充実した内容にすると、今度は予算が圧迫され、事業全体の成長に悪影響を及ぼす可能性も出てきます。

限られた予算の中で質の高い育成を行うにはどうしたらいいのか、予算を増やすには何をしたらいいのかは、多くの人事担当者が悩んでいる課題でしょう。

効果的な人材育成の解決策

人材育成には、時間不足やスキル不足、意識改革の難しさなど、さまざまな課題がつきものです。

これらの課題を克服し、効果的な人材育成を実現するためにはどのような対策をすればよいのでしょうか。

具体的な方法を、7つのポイントに絞って解説します。

明確な目標設定と戦略策定

効果的な人材育成を行うためには、まず、自社にとって「どのような人材を育成するのか」という明確な目標を設定することが重要です。闇雲に研修を実施したり、経験学習をさせたりするだけでは、期待する成果を得ることはできません。

目標設定においては、以下の2点を意識する必要があります。

  1. 企業のビジョンや戦略との整合性
    人材育成の目標は、企業のビジョンや事業戦略と整合性がとれていることが重要。目指す方向を共有することで、従業員一人ひとりの育成意欲を高め、企業全体の成長へとつなげることが可能となる
  2. 具体的な目標指標と達成レベルの設定
    人材育成の目標は、「営業利益を10%向上させる」「顧客満足度を5ポイント向上させる」といったように、具体的な指標と達成レベルを設定することが重要。数値化することで、進捗状況を把握しやすくなり、目標達成への意識を高めることができる

人材育成は、中長期的な視点で、企業の持続的な成長を支える取り組みとして行うことが重要です。企業の存続に直結する取り組みであることが明確にできれば、人材育成の予算も確保しやすくなるでしょう。

育成プログラムの設計

人材育成を行うときは、育成プログラムの設計が重要です。きちんとした計画があれば、育成担当者が、限られた時間の中でも着実に成果につながる教育を実施できるようになります。

ここでは、育成プログラムを設計するうえで検討すべき項目を、育成対象者と育成内容に分けて整理します。

階層

育成内容例

新入社員

ビジネスマナー研修
企業理念や事業内容の理解を深める研修
配属部署におけるOJT

若手社員

専門知識・スキルの習得に向けた研修
コミュニケーション能力向上研修
チームワーク研修
担当業務の幅を広げるためのOJT、または他部署へのローテーション

中堅社員

部下育成、指導力向上のためのマネジメント研修
問題解決能力、意思決定能力を高める研修
複数部署との連携、プロジェクトリーダー経験

管理職

組織戦略、リーダーシップを学ぶ研修
財務、経営に関する知識を深める研修
コーチングスキル向上研修
メンタルヘルス対策、ハラスメント防止に関する研修
経営層候補としての育成、研修

上記はあくまで一例であり、企業の事業内容や規模、育成対象者のレベルによって最適なプログラムは異なります。育成対象者をよく観察し、企業が掲げる人材育成の目標と照らし合わせながら、段階的に成長できるようなプログラムを策定することが大切です。

適切な指導とフィードバック

効果的な人材育成には、適切な指導とフィードバックが欠かせません。漠然とした指示や評価ではなく、具体的な行動指針と改善点を明確に示すことが重要です。

指導のポイント

フィードバックのポイント

業務の目的や目標を明確に伝える

結果だけでなくプロセスも評価する

仕事の進め方やスキル習得のための具体的なアドバイスをする

良い点だけでなく、改善点も具体的に伝える

質問しやすい雰囲気を作り、疑問を解消する機会を設ける

成長を促すための前向きな言葉で伝える

また、定期的な面談は、進捗状況を確認するだけでなく、従業員のモチベーション向上にも役立ちます。面談では、従業員の意見に耳を傾け、相互理解を深めることが重要です。

適切な評価と人事制度への反映

育成の結果を評価に反映することで、従業員一人ひとりの成長を促し、企業全体の能力向上につなげられます。そのためには、評価項目を具体的に設定することが重要です。

例えば、育成プログラムで「問題解決能力」の向上を目標とする場合、評価項目には「研修で習得したフレームワークを用いて、実際に業務上の問題点を分析・解決できたか」「チームで問題解決に取り組む際に、積極的に意見を出し、合意形成に貢献できたか」などが考えられます。

また、評価は単なる点数をつけるのではなく、具体的な行動や成果に基づいて行うとよいでしょう。その評価結果を昇進・昇格や報酬に反映することで、従業員のモチベーション向上とさらなる成長が期待できます。

例えば、目標達成度に応じて昇給額に差をつける、一定の評価を得た従業員に対しては昇格の機会を与える、といった制度設計が考えられます。

このように、育成と評価、人事制度を有機的に連携させることで、従業員の能力を最大限に引き出し、企業の成長を力強く後押しすることが可能になります。

育成を促進する環境づくり

スキルアップを推奨し、成長をサポートする環境は、効果的な人材育成に欠かせません。従業員が自ら学び、成長したいと思えるような制度や文化を築くことが重要です。

  • 社内ライブラリやeラーニングシステムの導入
  • 自己啓発支援制度(書籍購入補助、セミナー参加費補助など)
  • メンター制度や勉強会の実施
  • スキルアップのための資格取得支援
  • 成長を評価する人事評価制度の導入

これらの取り組みによって、従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる環境を整備し、企業全体の成長へとつなげていきましょう。

テクノロジー活用

近年、人材育成の分野においてもテクノロジーの活用が進んでいます。従来型の研修に加え、テクノロジーを活用することで、より効果的かつ効率的な人材育成が可能になります。

手法

特徴

メリット

eラーニング

インターネットを通じて、時間や場所を選ばずに学習できる

学習コストの削減、学習進捗の可視化

LMS(学習管理システム)

学習コンテンツの一元管理、学習進捗の把握、成績管理などが行える

教育担当者の負担軽減、学習データの分析

VR/AR

現実さながらの体験を通じて、実践的なスキルを習得できる

危険な作業の訓練、現場に近い体験

これらのテクノロジーを活用することで、時間や場所の制約、教育担当者の負担といった従来の課題を軽減できます。さらに、学習データの分析を通じて、より効果的な学習プログラムの改善にもつながります。

人材育成の参考となる事例

事例①株式会社リクルート

株式会社リクルートは、社員一人ひとりの能力開発に注力し、独自の育成制度を確立しています。特に、全社員が定期的に作成する「Will・Can・Mustシート」は、社員の主体的なキャリア形成 を促進し、能力開発への意識向上に大きく貢献しています。

このシートは、「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(やるべきこと)」の3つの視点から、社員一人ひとりが自身のキャリアプランを考えるためのものです。作成プロセスを通じて、社員は自身のキャリア目標や、それを達成するために必要なスキル・経験を明確化することができます。

また、上司との定期的な面談の場などでシートの内容を共有することで、社員と上司間の相互理解を深め、キャリア形成に向けた建設的な議論を促進しています。リクルートでは、「Will・Can・Mustシート」を通じて、社員一人ひとりの主体的な成長を促し、企業全体の成長につなげていると言えるでしょう(参照:【Will-Can-Mustシート】リクルートの活用事例~メンバーの本当に実現したいことを対話する方法丨株式会社リクルート)。

事例②サイバーエージェント

株式会社サイバーエージェントでは、社員の主体的な成長を促す独自の育成制度を導入し、会社全体の成長に貢献できるような環境づくりを目指しています。

例えば、入社1~2年目の若手社員を対象に、新規事業の立ち上げを任せる「新卒社長制度」を導入しています。この制度を通じて、若いうちから経営者としての視点を養い、事業創造能力を高めることを目指しています(参照:スタートダッシュで遅れた新卒が社長に抜擢されるまでの10年史。丨CyberAgent Way)。

また、社員が自由にキャリアを選択できるよう、「キャリチャレ」という社内公募制度も設けています。これは、自身のキャリアプランに基づき、希望する部署への異動や新規事業の提案を可能にする制度です(参照:社員の挑戦を応援する社内異動制度「キャリチャレ」とは丨CyberAgent Way)。

これらの制度を通して、社員一人ひとりが能力を最大限に発揮し、会社全体の成長に貢献できるような環境づくりを目指しています。

人材育成に関するQ&A

そもそも人材育成とは?その目的は?

人材育成とは、企業の持続的な成長を実現するために、従業員一人ひとりの能力を高める取り組みです。

人材育成は単に従業員のスキルアップを目的とするものではないため、人材育成に取り組むときは、新入社員や若手社員などの立場別にどういった人材になってほしいか目標を立て、そこにたどり着くために段階的な育成プログラムを企業理念やビジョンを共有し、従業員の成長意欲を高めながら、企業全体の成長につなげていくことが重要です。

人材育成の手法の種類と特徴は?

人材育成にはさまざまな手法があります。それぞれの概要、メリット、デメリットは以下の通りです。

手法

概要

メリット

デメリット

OJT

実際の業務を通して行う人材育成

実践的なスキルが身につきやすい
業務に直結した育成ができるため、業務効率の向上が見込める

指導者の負担が大きい
指導者によって指導内容に差が生じる可能性がある
体系的な知識やスキルの習得には不向き

Off-JT

職場を離れて行う研修

体系的な知識やスキルを習得しやすい
短期間で多くの従業員を育成できる

費用がかかる場合がある
習得した知識やスキルを実務で活かせない場合がある

集合研修

講師が、従業員に対して一斉に研修を行う

多くの従業員に統一した内容を伝えられる
従業員同士の交流の機会になる

費用がかかる場合がある
一方的な講義形式の場合、学習効果が低い場合がある
個々のレベルやニーズに合わせた研修が難しい

リスキリング

従業員にDXに必要なスキルや知識を新たに習得させ、別の業務へ配置転換させる

急速な技術革新や市場の変化に対応できる
従業員のキャリアアップやモチベーション向上につながる
人材不足の解消

費用や時間がかかる
従業員のモチベーションや適性によっては、うまくいかない場合がある
新たな業務への配置転換が、必ずしも従業員にとってプラスになるとは限らない

自己啓発の支援

従業員が自ら、書籍やインターネットなどを活用して学習することを支援する

従業員の自主性やモチベーションを高められる
費用を抑えられる

学習成果が企業の業務に活かされない場合がある
従業員間でスキルや知識の差が生じる可能性がある
企業が把握しきれていないところで、誤った知識や情報を習得してしまうリスク

企業はこれらの手法を組み合わせ、従業員の個性や能力、そして企業のニーズに合わせた柔軟な人材育成プログラムを設計することが重要です。

まとめ

VUCAの時代といわれる現代において、企業は常に変化に対応し、成長を続けていく必要があります。そのために不可欠なのが、未来を見据えた人材育成です。社員一人ひとりが継続的に学習し、新しい知識やスキルを身につけることができるように、企業はこれまで以上に環境を整えていく必要があるでしょう。

特に、従来型の画一的な人材育成プログラムではなく、個々の強みや弱み、キャリアプランに合わせた個別最適化された育成が求められます。人材育成は、社員の成長を支援し、潜在能力を引き出すことで、結果的に企業の持続的な成長を実現する重要な投資といえます。