【内閣官房副長官、村井 英樹氏に聞く】生成AIを巡る最新動向と「生成AI時代」のリスキリング

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最終更新日:2024.09.23

生成AI時代におけるリスキリングの重要性
村井英樹内閣官房副長官/AI戦略チーム長への一問一答インタビュー

生成AIの急速な進化は、私たちの社会や働き方を大きく変えようとしています。

その中で、岸田政権は経済政策として「新しい資本主義」を掲げ、その実現に向けた様々な取り組みを進めています。

その中で、「AI」と「リスキリング」を中心に、政府の方針とその具体的なアクションについて、内閣官房副長官であり、AI戦略チーム長も務める村井英樹議員にお話をうかがいました。

(本記事は2024年5月30日に行われたインタビューをもとにしたものです)

Q1.世界初のAIに関する国際的な行動指針「広島AIプロセス」の更なる拡大に向けた展開について

――昨年、G7議長国である日本が立ち上げた広島AIプロセスでは、生成AIに関する国際的なルール作りを我が国が主導し、昨年末に、生成AIのチャンスとリスクに対応する国際指針と行動規範等からなる初の国際的政策枠組み「広島AIプロセス包括的政策枠組み」を策定しました。この広島AIプロセス行動規範は、Google、OpenAIなど既に世界の主要なAI開発企業から支持されています。

また、G7を超えて取組を拡げるべく、今年5月上旬のOECD閣僚理事会では、岸田総理から、49の国・地域の参加を得て、広島AIプロセスに賛同する国々の枠組みである「広島AIプロセス フレンズグループ」の立ち上げを発表しました。

OECDメンバーに加え、インドやASEAN、アフリカなどからも参加を得ており、広島AIプロセスへの期待が感じられます。フレンズグループのメンバーとともに、国際指針や行動規範の実践に取り組み、世界中の人々が安全、安心で信頼できるAIを利用できるよう協力を進めていきます。

さらに、今年のG7議長国であるイタリアも広島AIプロセスを引き継いで、行動規範のモニタリングなど昨年の成果の実践に向けた取組を進めており、本年中には、何らかの進展が報告できるものと期待しています。

Q2.安全性、偽情報対策、著作権など、課題も多く指摘される生成AI。どのようにバランスをとりながら導入していくのか?

――AIの技術革新には、メリットとともに様々なリスクもあるため、「利用促進・イノベーション促進」と「規制・ルールづくり」を一体的に進めることが重要です。一体的と申し上げたのは、規制やルールが「ガードレール」として機能することで、利用・イノベーションの促進につながる。そういった関係にあると考えているからです。

EUではAI法やAI条約によるハードローによる規制のアプローチをとっています。また、米国は大手開発者による自主的取組みを軸とはしつつも、安全保障の観点から一部のハイリスクなAIの開発者に報告義務等を課そうとしています。

一方、日本は、事業者ガイドラインというソフトローによって、幅広くかつどこよりも迅速にリスク対応を進めていますが、ソフトローでは、「正直者が馬鹿を見る」側面もあるとの指摘がなされています。

今後のAI技術やリスクの変化や、国際的なルールづくりの動向等を踏まえ、法制度の要否も含め、制度の在り方を更に検討する必要があると考えています。

Q3.生成AIの普及によってもたらされる働き方の変化は?

――生成AIの登場によって、世界中で、従来の雇用や働き方に変化が起きようとしています。少し前に、ハリウッド俳優たちがAIの使用などを理由にストライキをしたのは、その危機感の表れであり、一つの象徴的な出来事だったと受け止めています。

この点、我が国は、人口減少下にあって幅広い分野において省人化・省力化が求められる状況にあり、生成AI導入による雇用面の問題には、比較的、対応しやすい環境にあるように思います。

我が国としては、ルールに基づいて適切に生成AIを利用することで、より付加価値が高く、生産性の高い働き方が可能になると考えています。

他方で、こうした技術進歩に取り残される方をなくす意味でも、成長産業に労働力をスムーズに移動していただくためにも、「リスキリング」が特に重要であると考えています。

Q4.「三位一体の労働市場改革」とリスキリングの推進に向けた政府の取組みについて

――デジタルは、適切に活用することで、生産性向上はもちろん、人口減少など社会課題の解決にもつながります。特に、デジタルは「物理的距離を超える」という意味で地方創生に大きなポテンシャルをもっています。このポテンシャルを現実のものにしていくためには、デジタル人材の育成が重要です。

このため、政府では、「デジタル推進人材」を、2026年度末までの5年間で230万人育成することを目標として、各種取組を進めています。

デジタル人材の育成を含めたリスキリング支援策として、主に3つの取組を進めています。

  • 個人向けとして、デジタル関係講座の対象拡大に取り組むとともに、教育訓練給付の給付率を最大70%から80%に引き上げました。
  • 企業向けとして、職業訓練を実施する事業主等に対して訓練経費や賃金を助成する人材開発支援助成金を講じました。
  • リスキリングへの支援とキャリアアップのための転職支援を一体的に講じる「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」も創設しました。

是非とも、これらの支援策を積極的にご活用いただくべく、一つ目の教育訓練給付制度は最寄りのハローワーク、二つ目の人材開発支援助成金は、各都道府県労働局の助成金申請窓口、三つ目の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は、支援事業の事務局にお問い合わせください。

さらに、労働市場の動向や給与水準の情報を踏まえた、丁寧なキャリア形成支援を行える環境整備に向けて、キャリアコンサルタントの存在が重要です。キャリアコンサルタントのスキル向上や、役割の強化に向けた取組も進めてまいります。

また、リスキリングの中小企業や地方向けの優遇という意味では、先程申し上げた「人材開発支援助成金」において、中小企業向けの助成率を高く設定したり、訓練期間中の賃金の一部を助成するなど、中小企業が取り組みやすい支援策を講じています。

加えて、中小企業からは、手続きの簡素化についても要望が多く寄せられています。この観点から、面倒な申請書類や手続きなしに、中小企業が商品をカタログから選ぶように、省力化のための製品を選べば補助を受けられる省力化投資補助金を、3年で総額5,000億円規模で措置しています。

カタログには、ロボット・IoT・AI搭載機器等を活用した人手不足の解消に効果がある汎用製品が、その具体的効果とともに掲載されており、6月下旬(※)には申請が開始される予定になっています。ご不明な点は、省力化補助金事務局にお問い合わせください。

(※)編集部註:2024年6月25日より受付中

併せて、非常に重要なのが、こういった取組や措置を「知っていただくこと」だと考えています。

そのため、今日、私がこの場で説明をさせていただいているのもその一例ですが、生成AI活用普及協会(GUGA)のような専門メディアや、日経リスキリングサミットのような取組等を通じた普及啓発が鍵になってくると考えています。

Q5.(まとめ)岸田政権の掲げる「新しい資本主義」で実現していきたい日本経済とは

――岸田政権が掲げる「新しい資本主義」では、成長と分配の好循環、賃金と物価の好循環の実現を目指してきました。

まず賃金が上がる。その結果、消費が活発化し、企業収益が伸びる。それを元手に企業が成長のための投資を行うことで、生産性が上がってくる。そして、それにより、賃金が持続的に上がるという好循環が実現する。これによって、コストカット型の経済から成長型の新たな経済ステージへと移行していくことができる。

そのためには、長年にわたり染み付いたデフレ心理を払拭し、賃金が上がることは当たり前との方向に、社会全体の意識を一気呵成に変えなければなりません。

この強い確信の下、岸田政権は、所得と成長の好循環に向けて、賃上げ、設備投資、スタートアップ、イノベーションを同時に拡大する思い切った手を打ち、時代に沿った新たな官民の連携を粘り強く呼び掛けてきました。

今、我々は、デフレから完全に脱却する千載一遇の歴史的チャンスを迎えています。昨年を大きく上回る春季労使交渉(春闘)での力強い賃上げの流れ、労使の賃上げへの取組が大きく変わりつつあります。史上最高水準の設備投資、攻めの姿勢の企業が増え、海外からも大型戦略投資が相次いでいます。

こうした社会の流れも踏まえながら、賃金が上がることが当たり前という前向きな意識を、社会全体に定着させていきます。物価と賃金の好循環を回し、新たな経済ステージに移行する上で最大の鍵は、全従業員の7割の方が働く中小企業の賃上げと稼ぐ力の強化であり、総合的・多面的な対策を講じていきます。

第1に、適切な価格転嫁です。サプライチェーンの中で、大企業のみならず、中小企業にも適切に利益等が分配されるよう、私がヘッドを務める「労務費の適切な転嫁のための関係省庁連絡会議」等の場も活用しながら、あらゆる手を尽くしていきます。

第2に、きめ細かい賃上げ支援です。賃上げ促進税制の拡充や、全就労者の14パーセントを占める医療や福祉の現場で働く方々に対しても、賃上げ実現を確実に届け、建設業や物流業での賃上げのため、各種労務単価を大幅に引き上げます。

第3に、中小企業の人手不足対応の強化です。中小企業向けに省力化投資、自動化投資の支援を集中的に実施します。また、リスキリングを通じた労働生産性の向上、シニア世代の技術や知見を無理なく活かす仕組みづくりなどに取り組んでいきます。

これらの取組を通じ、今年、物価上昇を上回る所得を必ず実現し、そして、来年以降に、物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させていきます。

「新しい資本主義」のもと、成長と分配の好循環を実現し、コストカット型の経済から成長型の新たな経済ステージへの移行を確かなものにしていきます。