リスキリング助成金が2026年8月3日改正─「職務に直結しないAI研修」は助成対象外に。年度末終了までの実務対応

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最終更新日:2026.08.10

2026年8月3日、リスキリング助成金の代表格である人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」の支給要領が改正されました。ポイントは2つ。「職務に直接必要でない訓練」が助成対象から外れたこと、そしてeラーニングの申請回数が原則1年度1回に制限されたことです。

影響が大きいのは、ここ数年で急増した「全社員向けの生成AIリテラシー研修」「DXの概要を学ぶ研修」といったメニューです。研修名に「AI」「DX」と付いているだけでは、助成対象として十分ではありません。今回の改正により、特定の職務に直接結びつく訓練であることが、これまで以上に明確に求められるようになりました。

さらに本コースは令和8年度末(2027年3月31日)までの時限措置とされており、現行の事業展開等リスキリング支援コースを利用できるのは、制度上は令和8年度までです。経営者・人事にとって、リスキリング投資の設計を見直す締め切りが同時に来たことになります。

2026年8月3日、リスキリング助成金の「線引き」が変わった

厚生労働省は2026年8月3日付で、人材開発支援助成金の詳細版パンフレットと支給要領を改訂しました。事業展開等リスキリング支援コースに関する主な変更は次の2点です。

変更①:職務に直接必要な訓練でなければ対象外に

これまでも「職務に関連する訓練であること」は要件でしたが、今回の改正で「職業や職務に間接的にしか必要でない知識・技能」「職種を問わず共通で必要な汎用的な内容」は対象外であることが明確化されました。DX・GX分野の研修であっても、この線引きが適用されます。

実務上の判断軸はシンプルです。「その訓練を受けた人が、訓練後に自分の職務のどの場面で、何をできるようになるのか」を具体的に説明できるか。ここが曖昧なメニューは、名称にAI・DX・GXが入っていても通らないと考えるべきです。

変更②:eラーニングは原則1年度1回まで

もう一つが回数制限です。単発でコースを購入するタイプの通常のeラーニングについて、同一の労働者が助成を受けられるのは原則として1年度に1回までとなりました。通学訓練と組み合わせた訓練も、eラーニング1回として算入されます。「安価なeラーニングを何本も積み上げて申請する」という使い方は封じられた形です。

経過措置:8月2日以前に契約済みの訓練は従来ルール

新ルールが適用されるのは2026年8月3日以降に提出する職業訓練実施計画届からです。8月2日以前にすでに契約・申込を済ませている訓練には経過措置があり、影響しません。ただしその場合は契約書・申込書など、契約日を証明する書類の提出が必要になります。すでに社内で企画が動いている研修があるなら、まず契約日がいつかを確認するのが最初の一手です。

なぜ「汎用的なAI研修」が助成対象から外れたのか

「知る」だけの研修は、成果に結びつきにくい

RESKILLING.comでは、リスキリングの進み方を「知る → 使う → 任せる」の3段階で捉えています。生成AIでいえば、「知る」は概念や事例のインプット、「使う」は自分の業務で日常的に使いこなす段階、「任せる」は業務プロセスの一部をAIに委ねて人が設計・検証に回る段階です。

多くの企業が投資してきた全社一斉のリテラシー研修は、この「知る」に該当します。裾野を広げる意味は確かにありますが、受講後に業務が変わったかを測れるケースは多くありません。リスキリングドットコムの見解として捉えると、今回の改正は、公費による支援を「知る」だけの研修から、具体的な職務で活用できる訓練へ重点化する動きと見ることができます。

助成が付かない=やらなくていい、ではない

ここを取り違えないことが重要です。汎用的なリテラシー研修が助成対象外になったのは「不要だから」ではなく、「助成金という制度の目的に合わないから」です。全社リテラシーは自社予算で薄く広く、助成金は職務直結の深い訓練に——という財源の役割分担として設計し直すのが、2026年度後半の現実解になります。

対象になる研修・ならない研修の線引き

公表されている考え方を、研修企画の目線で整理すると次のようになります。同じ「生成AI研修」でも、対象を絞り、成果物を定義しているかどうかで結論が変わります。

ポイントは「誰の」「どの職務の」訓練かを特定することです。全社員を一律に対象とする研修は、内容が職種共通のリテラシーや概念理解にとどまる場合、助成対象外となる可能性があります。逆に「営業部の提案書作成業務」「経理部の月次決算業務」のように職務を切り出せば、訓練内容も評価指標も自然に具体化します。

事業展開等リスキリング支援コースの基本(2026年度版)

助成率と限度額

本コースは、新規事業の立ち上げなどの事業展開や、DX・グリーン/カーボンニュートラル化に伴って新たに必要となる知識・技能を習得させる訓練を対象に、訓練経費と訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。助成水準は他コースと比べても高く設定されています。

  • 経費助成率:中小企業75%/大企業60%
  • 賃金助成:1人1時間あたり 中小企業1,000円/大企業500円
  • 経費助成の限度額(1人1コース):訓練時間10〜100時間未満で中小30万円・大企業20万円、100〜200時間未満で中小40万円・大企業25万円、200時間以上で中小50万円・大企業30万円
  • 1事業所あたりの年度支給限度額:1億円

2026年度に追加された「人事・人材育成計画に基づく訓練」

2026年度には、事業展開を伴わなくても社内の人事・人材育成計画に基づく訓練を対象とする類型が加わりました。ただし中小企業がこの類型を使う場合、あらかじめ認定経営革新等支援機関の確認を受けることが要件とされています。確認では、生産性向上への結びつき、職務構成の妥当性、キャリアアップの段階性、訓練効果の測定指標、従業員に不利益が生じないかといった観点がチェックされます。

あわせて、訓練で習得した知識を活用する機器・設備の購入費用を助成する設備投資加算も2026年度に新設されています。人への投資と設備投資をセットで設計できるようになった点は、製造業や物流など現場を持つ企業にとって見逃せない変更です。

現行制度上、本コースは令和4年度~令和8年度の期間限定制度

そして最も重要な前提が、本コースが令和8年度末(2027年3月31日)までの時限措置とされていることです。令和9年度以降の継続は現時点で未定です。加えて、助成金は予算の執行状況によって受付が早期に終了する可能性もあります。「年度末までまだ半年ある」ではなく、計画届の提出期限から逆算すると残り時間は想像より短いと考えるのが安全です。

年度末までの逆算スケジュール

職業訓練実施計画届は、訓練開始日の6か月前から1か月前までに提出する必要があります。この「1か月前」が実質的なデッドラインです。社内稟議・研修会社の選定・カリキュラムのすり合わせを含めると、動き出しは2〜3か月前が現実的なラインになります。

人事が今週やるべき3つのこと

1. 企画中の研修の「契約日」を確認する

2026年8月2日以前に契約・申込が完了していれば従来ルールが適用されます。該当するものは契約書・申込書を確保しておきます。まだ契約前なら、新ルールを前提に企画を組み直します。

2. 「全社員向け」を「職務別」に組み替える

対象者を職務単位で切り出し、訓練後にその職務で何ができるようになるかを1行で書けるところまで具体化します。営業、経理、製造、カスタマーサポート——職務ごとにAI活用の勘所は違います。ここを分けることが、助成要件を満たす近道であると同時に、研修の実効性を上げる王道でもあります。

3. eラーニングの使い方を年間で設計する

1年度1回の制限がかかった以上、「誰に、どのタイミングで、どのeラーニングを当てるか」を年間計画として決める必要があります。回数を使い切ってしまう前に、対象者と優先順位を整理しておきましょう。

まとめ:制度が求めているのは「使えるリスキリング」

2026年8月3日の改正は、単なる手続きの厳格化ではありません。「AIを知っている社員」を増やす投資から、「AIで職務を回せる社員」を育てる投資へ——国が助成対象を通じて示したメッセージは明確です。これは、リスキリングを「知る」で止めず「使う」「任せる」まで進めるべきだという、企業側の課題意識とも重なります。

最大75%の経費助成が使える期間は残りわずかです。制度に合わせて研修を作るのではなく、自社の事業戦略から必要な職務スキルを定義し、その結果として助成要件を満たす。この順番で設計できた企業が、2027年度以降の人材戦略でも先行することになります。

※本記事は2026年8月10日時点の公表情報に基づく解説です。助成金の要件・様式は変更される場合があります。実際の申請にあたっては、必ず厚生労働省の最新のパンフレット・支給要領および管轄の労働局にご確認ください。

参考・出典