「AIを使う」から「AIに任せる」へ――2026年、AIエージェント本格化で人事・経営が設計すべきリスキリング
最終更新日:2026.07.13
2026年、生成AIをめぐる企業の関心は、明確に次の段階へ移りつつあります。キーワードは「AIエージェント」です。
これまでの生成AIは、人が一つひとつ指示を出し、文章や資料を作るためのツールとして使われることが中心でした。一方、AIエージェントは、与えられた目標に応じて複数の作業を組み立て、情報収集や分析、成果物の作成などを一定程度自律的に進めます。
国内でも、企業向けのAIエージェント構築・内製化支援サービスが相次いで登場しています。LIDDELLは2026年6月30日、企業のAIエージェント活用と内製化を支援するサービスの提供を開始しました。企業におけるAI活用は、「人がAIを操作する段階」から「人がAIに仕事を任せ、管理する段階」へ移り始めています。
本記事では、直近の調査データや企業の動きをもとに、AIエージェント時代に経営者・人事が向き合うべき課題と、いま着手すべきリスキリングの設計について整理します。
リスキリングの段階を「知る・使う・任せる」と捉えると、この変化の意味と、企業が取るべき対応が見えてきます。
「AIを使う」から「AIに任せる」へ――2026年の変化
AIエージェントとは、与えられた目的に向けて、複数の手順を組み立てながら作業を進めるAIシステムです。
例えば、「新規市場への参入障壁と成功要因を分析し、役員向けの提案書を作成する」と指示した場合、情報の検索や整理、比較、分析、資料作成といった一連の工程をAIが進めます。
ただし、すべてを完全に自律して行えるわけではありません。利用するデータやツール、アクセス権限、判断の基準をあらかじめ設定し、重要な場面では人が確認する必要があります。
AIエージェントの普及によって、人の役割は、すべての作業を自ら処理する「作業者」から、仕事の目的や手順を設計し、AIの成果を判断する「マネージャー」へと変わっていきます。
まさに、「AIを使う」から「AIに任せる」への転換です。

データが映す「関心先行」と本番運用の壁
矢野経済研究所が国内の民間企業を対象に実施した調査では、生成AIを「全社的に活用している」企業は11.3%、「一部の部署で活用している」企業は32.1%でした。合計すると43.4%となり、4割を超える企業が生成AIを業務に取り入れています。
2023年の同調査では、生成AIを活用していた企業は1割未満でした。わずか2年で、企業における生成AIの利用が急速に広がったことが分かります。
一方、生成AIを活用している企業215社にAIエージェントの利用状況を尋ねたところ、「利用中」は3.3%にとどまりました。
ただし、「導入検討中」は13.5%、「関心があり情報を収集中」は49.3%でした。両者を合わせると6割を超えており、実際の導入率に比べて企業の関心が先行している状況がうかがえます。
つまり、多くの企業はAIエージェントに可能性を感じているものの、業務への実装や本格運用には踏み切れていません。
Gartnerは、2027年末までにエージェント型AIプロジェクトの40%超が、コストの増加、不明確な事業価値、不十分なリスク管理などを理由に中止されると予測しています。
「試しに導入すること」と「安心して仕事を任せられる状態をつくること」の間には、大きな隔たりがあるのです。
なぜ試験導入で止まるのか――課題は技術だけではない
AIエージェントの導入が進まない理由は、AIモデルの性能だけにあるわけではありません。
多くの企業で課題になるのは、業務や組織の設計です。
何をAIエージェントに任せるのか。
どの段階で人が確認するのか。
どのデータやシステムへのアクセスを認めるのか。
誤った処理が行われた場合、誰が責任を負うのか。
AIが作った成果物を、どのように評価するのか。
こうした点が曖昧なまま導入を進めると、期待した効果を得られないだけでなく、情報漏えいや誤判断などのリスクが高まります。
AIエージェントを本番運用するためには、技術の導入と同時に、業務プロセス、権限、評価方法、人材育成を設計しなければなりません。
スキル差が組織の生産性差につながる
生成AIの活用が広がるにつれて、社員間のAIスキルの差も表面化しています。
同じ生成AIを導入していても、業務の目的を明確に言語化できる人、AIに適切な前提や制約を伝えられる人、出力内容を検証できる人では、得られる成果が大きく異なります。
AIエージェントは、複数の工程をまとめて処理できるため、この差をさらに広げる可能性があります。
適切に仕事を任せられる人は、短時間で多くの業務を進められる一方、任せ方や確認方法を理解していない人は、誤った出力の修正や確認に時間を取られることになります。
AIへの投資だけを増やしても、それを使いこなす人材が育たなければ、組織全体の生産性向上にはつながりません。
だからこそ、技術への投資と並行して、人への投資、すなわちリスキリングが欠かせないのです。
「知る・使う・任せる」でリスキリングを捉え直す
AIエージェント時代の学び直しは、次の3段階で整理できます。
知る
AIエージェントに何ができ、何が苦手なのかを理解する段階です。
従来の生成AIとの違いや、誤情報、情報漏えい、権限の逸脱といったリスクについても学びます。
使う
自分の業務で生成AIを継続的に利用し、指示の出し方や出力の検証方法を身につける段階です。
単発の研修で操作方法を学ぶだけではなく、日常業務の中で繰り返し活用することが重要です。
任せる
業務プロセスを分解し、どの工程をAIに任せ、どこを人が判断するかを設計する段階です。
さらに、AIの実行結果を確認し、問題があれば手順やルールを改善します。
多くの企業は「知る」から「使う」へ進み始めていますが、「任せる」段階まで到達している企業はまだ限定的です。
この「使う」と「任せる」の間にある壁を越えるために、リスキリングが必要になります。

「任せる」時代に必要な4つの力
AIに仕事を任せるためには、特定のツールを操作するスキルだけでは不十分です。主に次の4つの力が求められます。
1.業務を分解・設計する力
業務を工程ごとに分け、どこを人が担い、どこをAIに任せるのかを判断する力です。
業務の目的、入力情報、判断基準、成果物を明確にする必要があります。
2.目的と条件を的確に伝える力
AIに対して、目的、前提、制約、期待する形式を具体的に伝える力です。
単に長い指示を書くのではなく、AIが判断しやすい形に仕事を構造化する「タスク設計」の能力が重要になります。
3.成果を検証する力
AIの出力をそのまま受け入れず、事実関係、論理、品質、リスクを確認する力です。
AIの利用が進むほど、人には専門知識と批判的思考が求められます。
4.権限とリスクを管理する力
AIにどのデータやシステムへのアクセスを認め、どの操作を許可するのかを設計する力です。
個人情報、機密情報、著作権、セキュリティなどを考慮したガバナンスの視点が欠かせません。
これらは、いずれも「AIをマネジメントする力」です。
管理職や中堅人材にとっては、自ら作業する速さだけで競うのではなく、仕事を設計し、判断し、AIや人に適切に任せる能力を高めることが、今後のキャリア価値につながります。
人事・経営がいま設計すべき3つのこと
1.役割を再定義する――作業者からオーケストレーターへ
AIエージェントの導入は、単なる業務効率化ツールの追加ではありません。職務そのものの再設計を伴います。
「この職種は何を成果とするのか」
「どの作業を人が担い、どの作業をAIに任せるのか」
「最終的な判断と責任は誰が持つのか」
こうした点を、職種や業務ごとに明確にする必要があります。
役割を個別の作業ではなく、達成すべき成果から捉え直すことで、AIに任せられる領域と、人が担うべき領域が見えやすくなります。
今後、人には、複数のAIや人材を組み合わせて成果を導く「オーケストレーター」としての役割が求められるでしょう。
2.スキルと学習機会を再設計する
役割を再定義した後は、その役割に必要なスキルを整理し、学び直しの道筋を設計します。
全社員に同じAI研修を実施するのではなく、「知る・使う・任せる」のどの段階にいるのかに応じて、研修内容を変えることが重要です。
例えば、初学者にはAIの基礎知識と利用ルールを学ぶ機会を提供します。実務で利用している社員には、業務に即したタスク設計や検証方法を学んでもらいます。管理職や業務責任者には、業務設計、権限管理、投資対効果の評価を含む教育が必要です。
また、研修を受けて終わりにするのではなく、実際の業務でAIに仕事を任せる実践機会までを組み込むことが重要です。
人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」など、公的支援の活用を検討することも選択肢の一つです。ただし、支給要件や申請書類は変更されることがあるため、利用時には厚生労働省などの最新情報を確認する必要があります。
3.ガバナンスを整える――シャドーAIとセキュリティへの対応
AIに任せる業務が増えるほど、ガバナンスの重要性も高まります。
特に注意すべきなのが、会社が把握していない生成AIやAIエージェントを従業員が利用する「シャドーAI」です。
利用を一律に禁止するだけでは、業務上のニーズを満たせず、かえって管理外の利用を招くことがあります。
まずは、従業員がどのような目的でAIを使っているのかを把握したうえで、次のようなルールと仕組みを整える必要があります。
- 利用を認めるAIツール
- 入力してよい情報と禁止する情報
- AIに付与できるアクセス権限
- 人による確認が必要な業務
- 利用履歴や操作ログの保存方法
- 問題が起きた場合の報告経路
ガバナンスは、AI導入を妨げるブレーキではありません。
企業と従業員が安心してAIに仕事を任せるための、いわばアクセルとして捉えることが重要です。
まとめ――「AIに任せられる組織」をつくる
2026年のAIエージェント本格化は、単なる技術トレンドではありません。企業の仕事、人材、組織の在り方を変える経営課題です。
調査からは、AIエージェントへの関心は高まっている一方、実際に利用している企業はまだ少ないことが分かります。
本番運用に進めるかどうかを分けるのは、AIの性能だけではありません。
どの業務を任せるのか。
人はどこで判断するのか。
必要なスキルをどう育てるのか。
リスクをどう管理するのか。
こうした「人と役割の設計」が重要になります。
生成AIを「使う」段階から、AIに安心して「任せる」段階へ。その橋を架けるのが、役割の再定義、リスキリング、ガバナンスです。
いま経営者や人事に問われているのは、「AIを導入するかどうか」ではなく、「AIに仕事を任せられる組織を、どのようにつくるか」です。
一人ひとりが「知る・使う・任せる」の段階を進める環境を整えること。それが、AIエージェント時代に生産性の向上と人材価値の向上を両立させる、重要なリスキリング戦略となります。
※本記事に掲載した数値は、各調査機関の公表資料に基づいています。制度やサービスの内容、支給要件などは変更される場合があります。利用・申請の際は、必ず各機関の一次情報および最新情報をご確認ください。



