管理職の46.5%が“シャドーAI”──『AI白書2026』調査が示すガイドラインの限界と、人事が設計すべきリスキリング

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最終更新日:2026.08.17

会社が許可していない生成AIを、社員が自分のアカウントでこっそり業務に使う——いわゆる「シャドーAI」。2026年8月10日に角川アスキー総合研究所が発表した『AI白書2026』の独自調査は、この問題が「一部の若手の逸脱」ではないことを示しました。シャドーAIを業務利用している割合は、課長以上の管理職で46.5%。係長・主任以下の一般社員の38.1%を上回り、管理職でも公式外のAI利用が広がっている実態が明らかになりました。

同じ調査は、もう一つ重要な事実も示しています。AI投資を増やす企業でも、間接部門の人員減少を見込んでいる割合は約14%にとどまっています。AIへの投資拡大は、そのまま人減らしには直結していません。つまりいま経営・人事が向き合うべき論点は「AIで何人減らせるか」ではなく、「シャドーAIの利用が広がる状態をどう改善し、社員のスキルと配置をどう組み替えるか」です。本記事では、この最新調査を起点に、シャドーAI対策とリスキリングを一体で設計する考え方を整理します。

『AI白書2026』調査が明らかにした3つの事実

調査は「企業における生成AI導入の投資・統制・成果実態調査」。上場企業または従業員300人以上の非上場企業に勤務する経営者・役員および従業員310人を対象に、2026年4月24日〜25日に実施されました(スクリーニング調査n=10,000から抽出)。結果は8月20日発売の書籍『AI白書2026』(角川アスキー総合研究所発行/KADOKAWA発売)に収録されます。

① AI投資の拡大は、人員削減に直結していない

AI投資が「増加」見込みの企業のうち、間接部門の人員が「減少」すると見込む割合は約14%。注目すべきは、AI投資が「横ばい」の企業でも人員減少見込みが同じく約14%だった点です。AI投資を「増やす」企業と「横ばい」の企業で、間接部門の人員減少見込みに明確な差は確認されませんでした。

「AIを入れたら人が要らなくなる」という語られ方は依然として強いものの、少なくとも国内の大企業・中堅企業の現在地は違います。少なくとも今回の調査からは、AI投資の拡大が直ちに人員削減につながっているとはいえません。少なくとも今回の調査結果からは、AI投資の拡大が直ちに人員削減につながっているとはいえません。リスキリングドットコムでは、現時点では人員削減よりも、生産性向上や業務変革を重視する企業が多い可能性があると捉えています。

② 管理職の46.5%が「シャドーAI」を使っている

会社が公式に認めていないAIサービスを業務に使っている割合は、課長以上の管理職で46.5%、係長・主任以下の一般社員で38.1%。今回の調査では、一般社員よりも管理職の利用率が高い結果となりました。

管理職は生成AIを活用しやすい業務を多く担い、一定の裁量も持っています。こうした業務特性が利用の背景にある可能性も考えられます。

③ ガイドライン整備済み企業でもシャドーAI利用は46.9%

最も示唆的なのがこの数字です。全社的にAI利用ガイドラインを整備している企業でも、シャドーAIの利用率は46.9%。ガイドラインを全社的に整備している企業でも、半数近くに公式外AIの利用経験が確認されています。

ガイドラインの策定は重要ですが、それだけで利用実態を十分に変えられるとは限りません。ルールの周知に加え、公式ツールの整備や教育、利用状況の把握まで含めた運用が求められます。

あわせて、企業規模による「統制の格差」も明確でした。AI投資の増加見込みは上場企業80.1%に対し非上場企業50.0%。導入効果を定量的に把握できているのは上場企業37.0%、非上場企業13.7%。ガイドライン整備率も上場45.9%、非上場29.1%と、投資・測定・統制のすべてで差が開いています。

生成AIの投資・効果測定・ガイドライン整備の上場企業と非上場企業の比較表、およびシャドーAIの業務利用率(管理職46.5%・一般社員38.1%・ガイドライン整備済み企業46.9%)
『AI白書2026』独自調査より。投資・効果測定・統制のすべてで企業規模による差が開き、シャドーAIの利用率は管理職が最も高い(出典データをもとにRESKILLING.comが作成)

なぜガイドラインだけではシャドーAIが止まらないのか

「禁止」は現場の生産性ニーズに勝てない

シャドーAI利用の背景には、業務を効率化したいという現場のニーズがあると考えられます。会社が用意した公式ツールが使いにくい、申請に時間がかかる、そもそも配られていない——この状態で禁止だけを強化すると、利用実態を企業側が把握しにくくなる可能性があります。

潜った利用は把握も指導もできず、リスクだけが残ります。

対策の方向は「禁止の強化」ではなく、公式の道のほうが速くて安全な状態をつくること。安全な選択肢が現場にとって最短ルートになれば、シャドーAIを利用する動機を減らすことが期待できます。

IPAも2026年に初めて「AIの利用をめぐるサイバーリスク」を選出

AI利用に伴うリスクは、IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織が注意すべき主要な脅威の一つとして位置づけられました。IPA(情報処理推進機構)が2026年1月29日に発表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が組織編で初選出・3位にランクイン。ランサム攻撃(1位)、サプライチェーン攻撃(2位)に次ぐ位置づけです。

想定されるリスクとして挙げられているのは、AIへの理解不足による情報漏えい、生成結果を検証せずに使うことによるトラブル、AIの悪用による攻撃の容易化など。個人アカウントでのAI利用によって、社外持ち出し禁止の業務データが入力されてしまう構図が名指しされています。シャドーAIは、単なる業務効率化の問題ではなく、情報漏えいなどにつながるセキュリティ上のリスクとして管理する必要があります。

効果を測れていないから、投資の是非も判断できない

導入効果を定量的に把握できている企業が上場でも37.0%、非上場では13.7%という数字は、統制の議論以前の問題を示しています。効果測定ができていなければ、AI投資がどの業務で成果につながっているのかを判断しにくくなります。また、シャドーAI対策には、効果測定とは別に利用実態そのものを把握する仕組みも必要です。見えていないものは管理できず、教育の優先順位もつけられません。シャドーAIの可視化と効果測定は、同じ「利用実態の把握」という土台の上にあります。

AI活用で問われる「配置とスキルの組み替え」

大企業の46.7%が「配置転換の可能性あり」

雇用への影響については、東京商工リサーチが2026年4月27日に公表したアンケート調査(2026年3月31日〜4月7日実施、有効回答6,327社)が具体的です。生成AI活用による将来的な人員配置・抑制の見直しを検討する企業が53.4%に上ったとしています。その中身を見ると、配置転換の可能性があるとした企業は全体で28.9%、大企業では46.7%に達しました。

一方で、今後5年以内にホワイトカラーの早期退職募集の可能性が「ある」とした企業は3.6%(211社)にとどまります。現時点では、大規模な人員削減よりも、配置転換や業務の見直しを想定する企業が多いことがうかがえます。——この構図は、『AI白書2026』調査の「AI投資と人員削減は直結せず」という結果とも一致します。

経営が問われるのは「余剰の削減」ではなく「再配置の設計」

配置転換が現実的な選択肢になるということは、異動先で通用するスキルを事前に用意できているかが問われるということです。AIによって定型業務が縮む部門から、人手が足りない部門へ人を動かす。そのとき「動かせる人材」がいなければ、配置転換は選択肢として機能しません。

ここでリスキリングは、単なる教育施策ではなく、事業戦略や人材配置を支える重要な基盤としての意味を強めています。生成AIの活用能力は、その再配置を成立させる共通言語です。

人事が設計すべきリスキリング──「知る→使う→任せる」で安全に使える人を増やす

シャドーAI対策とAI人材育成は、別々の施策ではありません。リスキリングドットコムが提示してきた「知る→使う→任せる」の3段階に沿って設計すると、統制と活用が一本の線でつながります。

知る:入力してはいけない情報を「具体例」で共通言語化する

「機密情報を入力しないこと」という抽象的な文言では現場は判断できません。顧客名簿、未公開の決算数値、人事評価コメント、他社との秘密保持契約の対象資料——自社の業務に即した具体例で線を引くことが第一歩です。あわせて、生成結果をそのまま外部資料に使ったときの著作権・正確性のリスク、インシデント時の報告手順まで含めて教えます。

この階層の教育は全社員が対象ですが、利用率の高い管理職を後回しにしないこと。46.5%という数字からも、管理職をAIリテラシー教育や利用環境整備の重要な対象として捉える必要があります。

使う:公式ツールを「使いたくなる」状態にする

法人契約の生成AIを配っただけでは使われません。自部門の頻出業務に合わせたプロンプト例を配布する、部門ごとに使いこなしている社員を「相談役」として可視化する、成果が出た使い方を共有する——公式ルートのほうが速いという体験を先につくります。申請フローや利用開始までの手続きを見直すことも、シャドーAI対策の重要なポイントになります。

任せる:AIに任せる範囲と、人が責任を持つ範囲を定義する

AIエージェントの実用化が進むなかで、次の論点は「どこまで自動で任せ、どこから人が確認するか」です。出力を検証する力(ファクトチェック・数値検算・出典確認)を業務プロセスに埋め込み、最終責任者を明確にする。ここまで設計して初めて、AI活用は組織の成果として計上できます。

なお、教育を外部研修で賄う場合は助成金の要件変更に注意が必要です。人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」は2026年8月3日に改正され、汎用的なAIリテラシー研修が助成対象から外れました。職務に直結する内容へ設計し直すことが、制度活用の前提になっています。

90日で着手するシャドーAI対策とリスキリングの進め方

いきなり全社最適を目指すと動き出せません。「実態把握 → 環境整備 → 定着と測定」の順で、一例として、3か月を目安に「実態把握→環境整備→定着と測定」の順で進める方法が考えられます。
※以下は各調査結果を踏まえ、リスキリングドットコムが独自に整理した実務ロードマップです。

シャドーAI対策とリスキリングを一体で進める90日ロードマップ。0〜30日は実態を可視化(知る)、31〜60日は公式ルートを整える(使う)、61〜90日は効果を測り任せる(任せる)
シャドーAI対策とリスキリングを一体で進める90日ロードマップ。「知る→使う→任せる」の3段階で、禁止ではなく安全な最短ルートをつくる

重要なのは、最初の30日で「誰が・どの業務で・何を使っているか」を責任追及なしに申告できる場をつくることです。処罰への不安が強い状態では、実態を十分に把握できない可能性があります。匿名アンケートやヒアリングで現状を可視化し、そこで挙がった業務こそが、公式ツールと教育を優先投入すべき領域になります。

まとめ:シャドーAIは「統制」だけでは解決しない

『AI白書2026』の調査が示したのは、次の3点です。AI投資の拡大は人員削減に直結していない(約14%)。シャドーAIは管理職ほど使っている(46.5%)。ガイドライン整備済み企業でもシャドーAI利用は46.9%。

この3つを並べると、打ち手は自ずと決まります。禁止を重ねるのではなく、安全に使える人を増やす。減らす議論ではなく、動かせる人材を育てる。シャドーAIの広がりは、単なる統制の問題というより、現場のAI活用ニーズに教育や公式の利用環境が追いついていないサインの一つと捉えることができます。

生成AIの利用実態を可視化し、「知る→使う→任せる」でスキルを引き上げる。これが2026年後半、経営者と人事に求められるリスキリングの設計図です。

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