「スキルの見える化」が人事の重要課題に――デジタルスキル標準ver.2.0で始めるスキルベース人材マネジメント

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最終更新日:2026.07.27

「スキルの見える化」が人事の重要課題に――デジタルスキル標準ver.2.0で始めるスキルベース人材マネジメント

AI活用、人材配置、リスキリング。2026年に入り、多くの企業が直面している課題には、共通する背景があります。

それは、「自社の社員が、現在どのようなスキルを持っているのかを十分に把握できていない」という問題です。

社員のスキルを共通の基準で整理し、配置や育成に活用する「スキルの見える化」は、人事にとって重要な課題の一つとして浮上しています。

その背景にあるのが、経済産業省とIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が2026年4月16日に公表した「デジタルスキル標準ver.2.0」と、AIを導入しても十分な成果に結びつかない企業が少なくないという現実です。

本記事では、スキルの見える化が求められる理由を調査結果から整理します。さらに、共通のものさしとしてデジタルスキル標準ver.2.0を活用する方法と、最初の取り組みを90日で一巡させる進め方を解説します。

なぜ今「スキルの見える化」が重要なのか

スキルの見える化、あるいはスキル可視化とは、社員一人ひとりが保有する知識や能力、経験を共通の基準で棚卸しし、組織全体で把握・活用できる状態にすることです。

決して新しい概念ではありません。

それでも2026年に重要性が高まっているのは、社員のスキルを把握できていないことによる影響が、AI活用や人材不足の進行によって、これまで以上に表面化しているためです。

調査が示す「配置・可視化・人材ポートフォリオ」の課題

日本経済新聞社 人財・教育事業ユニットが2026年5月25日に発表した「人的資本経営調査」の結果レポート(2026年度版)は、企業の現状を示しています。

調査は2026年2月2日から13日にかけて、東証プライム上場企業または従業員1,000人以上の企業の人事担当役職者を対象に行われ、560人が回答しました。

社員の異動・配置に関する課題として上位に挙がったのは、次の3項目です。

  • 中長期的な視点での人材配置
  • 社員が保有するスキルの見える化
  • 人材ポートフォリオの作成

企業が人材配置の精度を高めるには、どの部署に何人いるかを把握するだけでは不十分です。社員が持つスキルと、事業に必要なスキルの両方を把握する必要があります。

人材のスキルや資質を可視化するために導入しているツール・アセスメントでは、「リーダー、マネジャーとしての適性、資質、能力・スキルなどを測るアセスメント」が49%で最も多く、前回調査から回答割合が上昇しました。

一方、人材情報の現状と目標の差を把握し、人材ポートフォリオを作成しているかという質問では、「ともに把握・作成していない」が37%でした。割合は初回調査から低下しているものの、依然として3社に1社を超える企業が十分に着手できていないことになります。

HRテックは採用が先行、育成・配置は発展途上

同調査では、採用、育成、選抜、配置、評価の各分野におけるHRテックの活用状況も調べています。

「よく活用している」と「やや活用している」を合わせた割合は、採用分野が57%で最も高く、育成分野は46%でした。評価、選抜、配置がそれに続きます。

採用候補者を集め、選考するためのデータ活用は進みつつあります。

一方で、入社後の社員をどのように育て、どの業務に配置し、どのようなキャリア機会を提供するのかという領域では、データの整備と活用が十分ではない企業も少なくありません。

「採る」ためのデータだけでなく、「育てる・活かす」ためのスキルデータを整えることが、今後の人事施策では重要になります。

AI活用の成果差にもスキルが影響する

AI活用の現場でも、社員のスキルや活用段階による差が現れています。

GiftXが2026年6月に実施した「ビジネス職生成AI活用実態調査(2026年版)」では、全国の正社員・会社役員8,000人に対する事前調査の結果、ビジネス職の約67%が業務でAIを利用していました。

さらに、AIを利用するビジネス職669人を対象とした本調査では、約77%が毎日から週数回の頻度でAIを使っていました。

ただし、活用方法には偏りがあります。

「チャットで質問・相談する」が28.1%、「チャットで文章・資料などを作らせる」が42.2%で、合計すると約7割がチャットを中心とした利用にとどまっています。

一方、自社の情報をAIに参照させて実行する段階は19.3%、業務プロセスをAIエージェント化している層は10.5%でした。

AIエージェント化している層では、生産性が「明確に上がった」と回答した割合が54%となり、チャット利用にとどまる層の14%を大きく上回りました。

ここで重要なのは、AIツールを導入しているかどうかだけではありません。

誰がチャットでの利用にとどまっているのか。
誰が自社データを活用できるのか。
誰が業務プロセスそのものをAIに任せられるのか。

この違いを把握できなければ、研修は全社員一律の入門講座になりがちです。

すでに使いこなしている人には内容が易しすぎる一方、本当に支援が必要な社員には、業務で使える段階まで十分な支援が届かない可能性があります。

スキルの見える化は、育成投資の対象と内容を適切に決めるための前提になります。

共通のものさしとしてデジタルスキル標準ver.2.0を活用する

スキルの見える化を始める際、多くの企業が最初につまずくのが、「どのようなスキル項目を設定するか」という問題です。

自社独自のスキル体系をゼロから作ろうとすると、定義を決めるだけで多くの時間がかかります。

その出発点として活用できるのが、経済産業省とIPAが2026年4月16日に公表した「デジタルスキル標準ver.2.0(DSS ver.2.0)」です。

デジタルスキル標準は、すべてのビジネスパーソンを対象とする「DXリテラシー標準」と、DXを推進する専門人材の役割やスキルを示す「DX推進スキル標準」の2つで構成されています。

国が整備した枠組みを土台にすることで、企業はスキルの定義にかかる工数を抑えながら、自社に必要な項目を検討できます。

【図1】デジタルスキル標準ver.1.2からver.2.0への主な変更点
※経済産業省・IPAが2026年4月16日に公表した内容をもとに作成

DX推進スキル標準は6類型へ

ver.2.0における大きな変更の一つが、DX推進スキル標準の人材類型に「データマネジメント」が追加されたことです。

これにより、DX推進人材の類型は次の6つになりました。

  • ビジネスアーキテクト
  • デザイナー
  • データサイエンティスト
  • ソフトウェアエンジニア
  • サイバーセキュリティ
  • データマネジメント

新設されたデータマネジメント類型には、「データスチュワード」「データエンジニア」「データアーキテクト」の3つのロールが定義されています。

データの安全性や信頼性を確保するための仕組みを整え、組織内でのデータ活用を促進する役割です。

なお、従来データサイエンティスト類型に含まれていたデータエンジニアは、データマネジメント類型へ統合されました。

AIを業務で活用するには、高性能なモデルを導入するだけでは十分ではありません。

AIが参照するデータの品質、整合性、利用ルール、アクセス権限などを整える必要があります。データマネジメントが独立した類型として示されたことは、AI・データ活用における基盤整備の重要性を表しています。

ビジネスとデザインのロールも見直し

ビジネスアーキテクト類型では、従来の「新規事業開発」「既存事業の高度化」「社内業務の高度化・効率化」に関する3つのロールが見直されました。

ver.2.0では、次の3つのロールとして再定義されています。

  • ビジネスアーキテクト
  • ビジネスアナリスト
  • プロダクトマネージャー

類型そのものが3つに分かれたのではなく、ビジネスアーキテクト類型の中にあるロールが刷新された点に注意が必要です。

デザイナー類型についても活躍領域が見直され、コミュニケーション領域を担うロールとして「コミュニケーションデザイナー」が示されました。

AI実装・運用とAIガバナンスが追加された意味

ver.2.0では、AI実装・運用やAIガバナンスに関するスキルも追加されました。

また、デザインマネジメント実践に関するスキルや補足資料が加わり、既存のロールを含めて、ロールごとに求められるスキルの重要度も見直されています。

これは、企業のAI活用が「生成AIを試しに使う段階」から、「業務に組み込み、継続的に運用し、リスクを管理する段階」へ移っていることを反映した改訂と考えられます。

自社のスキル項目が「生成AIを使った経験があるか」だけで構成されている場合、現在のAI活用を十分に捉えられない可能性があります。

  • AIを業務に実装できるか
  • 運用後に改善できるか
  • 出力やリスクを管理できるか
  • データの品質や権限を管理できるか

こうした項目を加えることで、社員のAI活用能力をより具体的に把握できます。

スキルベース人材マネジメントへ

スキルの見える化は、それ自体が目的ではありません。

その先にあるのが、必要なスキルと社員が保有するスキルを基準に、採用、配置、育成、社内公募などを設計する「スキルベース人材マネジメント」です。

従来の人材マネジメントでは、所属部署、役職、等級、勤続年数など、社員の属性を基準として配置や育成を判断する場面が多くありました。

スキルベースの考え方では、まず業務や役割に必要なスキルを定義し、それに合う人材を配置します。

「あの人は優秀」から「このスキルが不足している」へ

例えば、「AIを活用できる人材が足りない」という表現だけでは、具体的な施策を決められません。

一方、スキルを分解して把握すれば、次のように状況を説明できます。

基本的なプロンプトを作成できる社員は20人いるが、AIを業務プロセスに組み込み、運用できる社員は2人しかいない。

ここまで具体化できれば、次に取るべき施策を判断しやすくなります。

  • 既存社員を育成する
  • 経験者を採用する
  • 外部人材を活用する
  • 社内の人材を配置転換する
  • 業務そのものを見直す

ただし、タレントマネジメントシステムやAIを使ったマッチングツールを導入するだけでは解決しません。

前提となるスキルの定義が曖昧であれば、精緻に見えるデータが表示されても、配置や育成に有効活用できないためです。

現場が拒否反応を起こさない進め方

スキルの見える化が進まない理由の一つに、社員の心理的な抵抗があります。

社員から見ると、スキルの棚卸しは「できないことを申告させられる取り組み」に映ることがあります。

結果が人事評価や処遇に直接影響すると受け取られれば、自己申告が防衛的になり、データの精度が下がる可能性があります。

進める際には、次の3点が重要です。

1.目的と評価との関係を説明する

少なくとも導入初期は、育成や配置を検討するための取り組みであり、直ちに人事評価へ反映するものではないことを明確にします。

2.結果を本人にも還元する

棚卸し結果を会社だけが保有するのではなく、本人にも返します。

推奨研修、社内公募、プロジェクトへの参加機会、キャリア相談など、本人にとってのメリットにつなげることが重要です。

3.経営層や管理職も参加する

一般社員だけに棚卸しを求めるのではなく、経営層や管理職も対象にします。

上位層が自らの不足スキルや学習課題を示すことで、学び直しを前向きに捉えやすい環境をつくれます。

90日で最初の一巡を回す実務ロードマップ

以下は、DSS ver.2.0の公式な導入手順ではなく、リスキリングドットコムが提案する実務上の進め方です。

全社一斉の大規模プロジェクトとして始めるのではなく、1部門または1職種に対象を絞り、90日間で最初の一巡をつくります。

【図2】「スキルの見える化」90日ロードマップ
※リスキリングドットコム作成

1~30日目:ものさしを決める

DSS ver.2.0の6類型から、自社の対象部門に関係する2~3類型を選びます。

その内容を自社の職種や業務に合わせて読み替え、最初に確認するスキル項目を20~30個程度に絞ります。

最初からすべての職種やスキルを網羅しようとすると、項目の設計だけで時間がかかります。まずは事業上重要な領域に絞ることが大切です。

31~60日目:1部門で棚卸しを行う

対象部門の社員に自己申告を依頼し、その後、上長が確認します。

自己評価だけでは、社員によって評価基準が異なる可能性があります。上長確認や、具体的な業務経験・成果物を組み合わせることで、判断のばらつきを抑えます。

61~75日目:差分を育成計画に変える

保有スキルと必要スキルの差を整理し、育成の優先順位を決めます。

優先度を判断する際は、次の2軸が有効です。

  • 不足している社員が多いか
  • 事業への影響が大きいか

不足人数が多く、事業への影響も大きいスキルから、研修や実務経験の機会を設計します。

76~90日目:実務でスキルを使う

研修を受けて終わりにせず、社内公募、プロジェクトへの参加、小規模な業務アサインなどを通じて、学んだスキルを使う機会を設けます。

実務で使われた実績や成果を記録し、次回の棚卸しに反映します。

この循環が生まれることで、スキルの可視化は一度きりの調査ではなく、継続的な人材マネジメントの仕組みになります。

「知る・使う・任せる」をスキルレベルに落とし込む

スキルの見える化とリスキリングは、別々の取り組みではありません。

現在地が分からなければ、何を学ぶべきかも決められません。スキルの可視化は、学び直しの出発点です。

AI活用に関するスキルは、「知る・使う・任せる」の3段階で整理できます。

知る

AIでできることと、できないことを説明できる段階です。

情報漏えい、ハルシネーション、著作権などの基本的なリスクも理解します。

使う

自分の業務でAIを使用し、目的や条件に応じた指示を作成できる段階です。

AIの出力を確認し、業務で利用できる成果物に整えます。

任せる

業務プロセスを分解し、AIに任せる工程と人が判断する工程を設計できる段階です。

実行結果を検証し、手順やルールを継続的に改善します。

この3段階をスキル項目ごとのレベル基準として用いれば、スキルマップを単なる「できる・できない」の一覧ではなく、育成の道筋を示す地図として活用できます。

全社員を「任せる」の段階まで引き上げる必要はありません。

職種や役割ごとに必要な到達段階を設定し、現在地との差を測ることが、限られた育成予算を効果的に配分することにつながります。

リスキリングドットコムの見解

スキルの見える化で重要なのは、精密なスキル一覧を作ることではありません。

社員の現在地を把握し、事業に必要な能力との差を明らかにしたうえで、学習、配置、実務経験へつなげることです。

DSS ver.2.0は、そのための共通言語として活用できます。

ただし、国の標準をそのまま全社員へ当てはめるのではなく、自社の事業、職種、業務内容に合わせて項目を絞り込む必要があります。

また、スキルデータを収集するだけでは、人材育成や組織変革にはつながりません。

可視化した結果を本人へ返し、学習機会、社内公募、プロジェクトへの参加、配置転換などの選択肢に結びつけることが重要です。

まずは1部門、20~30項目、90日間を目安に、小さな一巡をつくる。その結果を検証しながら対象を広げることが、実効性のあるスキルベース人材マネジメントへの第一歩になります。

まとめ――ものさしを持つ企業から差がつく

デジタルスキル標準ver.2.0の公表によって、デジタル人材の役割やスキルを考えるための共通言語が更新されました。

人的資本経営調査からは、スキルの見える化や人材ポートフォリオの作成が、人材配置における主要な課題となっていることが分かります。

一方で、現状と目標の差を把握せず、人材ポートフォリオも作成していない企業は37%残っています。

AI活用が広がるほど、社員がどこまでAIを使いこなせるかによって、得られる成果に差が生まれます。

その差を放置するのか、可視化して育成や配置に反映するのかによって、今後の組織力は変わります。

完璧なスキル体系が完成するまで待つ必要はありません。

まずは対象を絞り、小さく棚卸しを行い、育成と実務へつなげる。一巡した結果をもとに項目や運用を修正することが、着実に前へ進む方法です。

参考・出典