2026年10月1日、パート・有期雇用のルールが変わる──同一労働同一賃金ガイドライン改正と、非正規社員の「学びの格差」

  • DX経営
  • リスキリング
  • 人材育成
  • 同一労働同一賃金
  • 解説
  • 非正規雇用

最終更新日:2026.09.29

2026年10月1日、パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります。改正の中心は「同一労働同一賃金」です。雇い入れるときに「正社員との待遇の相違について説明を求めることができる」旨を明示することが義務化され、あわせて同一労働同一賃金ガイドライン(指針)と雇用管理改善措置の指針が改正されます。企業から見れば、待遇差を「説明できる状態」にしておくことが実務上の必須条件になる、ということです。

そして今回の改正には、人材育成の担当者が見落としがちな論点がもう一つ含まれています。改正後の指針が「職業能力開発促進法はパート・有期雇用労働者にも適用される」ことを踏まえた教育訓練機会の確保に触れている点です。賃金や手当だけでなく、「学ぶ機会の差」も待遇差として問われる局面に入りました。本記事では、改正3点を新旧比較で整理したうえで、非正規社員のリスキリングをどう設計し直すかを具体的に解説します。

この記事で分かること

  • 2026年10月1日に施行される、パート・有期雇用のルール改正3点の中身(新旧比較)
  • 改正で「教育訓練の機会」がなぜ待遇差の論点になるのか、その法的な根拠
  • 人事・経営が10月1日までに終えるべき点検と、10月以降に進める非正規リスキリングの設計手順

あわせて読みたい:最低賃金1,177円へ、2026年10月から順次発効──賃上げの次に効くのは「学ぶ時間」の設計

2026年10月1日、パート・有期雇用の何が変わるのか?

変わるのは大きく3点です。①雇入れ時の労働条件明示事項に「待遇差の説明を求めることができる旨」が追加され、②同一労働同一賃金ガイドラインが裁判例を踏まえて具体化され、③雇用管理改善措置の指針が見直されます。根拠は2026年4月28日に公布された改正省令と令和8年厚生労働省告示第202号・第203号で、いずれも2026年10月1日施行です。

下表は、改正前(2026年9月30日まで)と改正後(10月1日から)の違いを整理したものです。要点を先に文章でまとめると、①は「新規の雇入れ」と「有期労働契約の更新」のタイミングから適用されるため労働条件通知書の様式改定が必要、②は退職手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・病気休職・褒賞などについて「問題となる例/ならない例」が具体化されるため既存社員を含む待遇の棚卸しが必要、③は教育訓練機会の確保や公正な評価といった「望ましい取組」が明確化される、という構造です。

2026年10月1日施行のパート・有期雇用ルール改正3点の新旧比較表。①雇入れ時の労働条件明示は、従来の昇給・退職手当・賞与の有無や相談窓口に加え、待遇の相違の内容・理由の説明を求めることができる旨の明示が義務化。②同一労働同一賃金ガイドライン(告示203号)は退職手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・病気休職・褒賞の判断例を具体化。③雇用管理改善措置の指針(告示202号)は職業能力開発促進法の適用を踏まえた教育訓練機会の確保を明確化。
2026年10月1日施行「パート・有期雇用のルール改正」新旧比較(厚生労働省資料をもとに作成)

①雇入れ時に、何を追加で明示しなければならないのか?

2026年10月1日以降にパート・有期雇用労働者を雇い入れるとき、「通常の労働者(正社員)との待遇の相違の内容・理由などについて説明を求めることができる」旨を、文書などで明示する義務が加わります。あわせて、説明の申出先となる部署名・担当者の職氏名・連絡先も記載します。

もともとパートタイム・有期雇用労働法第14条第2項では、労働者から求めがあれば事業主は待遇差の内容・理由を説明しなければならないと定められていました。今回の改正は、その「求める権利があること」を会社側から先に伝えるよう義務づけるものです。制度としては説明義務の新設ではなく、説明を求めるハードルを下げる周知の強化にあたります。実務的には、労働条件通知書のひな形改定と、説明の申出があったときの対応フロー・記録の整備がセットで必要になります。

②ガイドライン改正で、どの手当が論点になるのか?

改正ガイドライン(令和8年厚生労働省告示第203号)は、これまで抽象的だった判断の考え方を、裁判例を踏まえて待遇項目ごとに具体化しました。特に確認しておきたいのは、退職手当、家族手当、住宅手当、夏季冬季休暇、病気休職、褒賞といった、これまで「正社員だけの制度」として運用されがちだった項目です。

考え方の軸はシンプルで、「その手当・休暇の支給目的が、パート・有期雇用労働者にも同じように当てはまるかどうか」です。たとえば家族手当を生活保障の目的で支給しているなら、契約更新を重ねて相応に継続的な勤務が見込まれる有期雇用労働者を一律に対象外とする扱いは説明が難しくなります。住宅手当も、規程上の転勤の有無ではなく、実際の配置変更の運用で判断されます。「雇用区分が違うから」という理由だけでは、もはや説明として成立しません。

③指針改正が示した「教育訓練」の位置づけとは?

人材育成の観点でもっとも重要なのが3点目です。改正後の雇用管理改善措置の指針(令和8年厚生労働省告示第202号)では、職業能力開発促進法がパート・有期雇用労働者にも適用されることを踏まえ、教育訓練機会の確保に取り組むことが望ましいとされました。あわせて、昇給を含む賃金決定にあたって職務内容・成果・能力・経験を公正に評価することも求められます。

この「望ましい取組」は直ちに罰則が伴うものではありません。しかし①の明示義務とセットで考えると意味が変わります。非正規社員が「なぜ自分は研修に呼ばれないのか」と説明を求めたとき、会社は理由を答えなければならないからです。教育訓練は、もはや正社員向けの福利厚生ではなく、待遇差の説明責任が及ぶ領域になったと捉えるべきでしょう。

関連記事:「スキルの見える化」が人事の重要課題に――デジタルスキル標準ver.2.0で始めるスキルベース人材マネジメント

なぜ今、非正規社員の「教育訓練」が論点になるのか?

教育訓練の機会が、正社員と正社員以外で大きく開いているからです。厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(事業所調査/2026年7月31日公表)によれば、計画的なOJTを実施した事業所の割合は、正社員向けが60.6%であるのに対し、正社員以外向けは25.1%。その差は35.5ポイント、実施率にして2倍以上の開きがあります。

キャリア面でも同様で、キャリアコンサルティングを行うしくみを導入している事業所は、正社員向け48.4%に対し正社員以外向けは30.1%(差18.3ポイント)。同調査では、能力開発や人材育成に「何らかの問題がある」とする事業所が80.1%にのぼっています。学ぶ機会の差は、雇用区分によってすでに構造的に生じているのが現状です。

厚生労働省・令和7年度能力開発基本調査(事業所調査)の横棒グラフ。計画的なOJT実施率は正社員60.6%に対し正社員以外25.1%で35.5ポイントの差。キャリアコンサルティングのしくみ導入は正社員48.4%に対し正社員以外30.1%で18.3ポイントの差。能力開発に何らかの問題があるとする事業所は80.1%。
正社員と正社員以外の教育訓練機会の差(厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」をもとに作成)

対象となる人数の規模も小さくありません。総務省「労働力調査(詳細集計)」2025年平均では、非正規の職員・従業員は2,128万人。役員を除く雇用者のおよそ4割弱を占めます。この層の能力開発に手をつけないまま全社のDXや生成AI活用を進めても、現場の実装は止まります。「学ぶ機会の差」は、待遇の問題であると同時に、事業の生産性の問題でもあるということです。

パート・有期の教育訓練は、努力義務なのか法的義務なのか?

結論から言えば、一部は明確な「義務」です。指針が示した「望ましい取組」よりも前に、パートタイム・有期雇用労働法そのものが教育訓練について定めています。ここを取り違えると、10月以降の説明で足をすくわれます。

同法第11条第1項は、職務の遂行に必要な能力を付与するために通常の労働者へ実施する教育訓練については、職務の内容が同じパート・有期雇用労働者に対しても実施しなければならないと定めています(すでにその能力を有している場合を除く)。同条第2項は、それ以外の教育訓練について、職務の内容や成果、意欲、能力、経験などに応じて実施するよう努めることを求めています。さらに第12条では、給食施設・休憩室・更衣室といった福利厚生施設について、利用の機会を与えなければならないとされています。

つまり、「同じ仕事に必要なスキル研修」は義務、「それ以外のキャリア開発・リスキリング機会」は努力義務、そして2026年10月からはその両方に説明責任が及ぶという三層構造になります。自社の研修一覧を、この三層で仕分けしてみるところから始めるのが現実的です。

企業は10月1日までに、そして10月以降に何をすべきか?

施行日は目前です。まずは「書類の改定」と「待遇の棚卸し」を分けて進め、そのうえで教育訓練の設計に着手するのが手戻りの少ない順序です。以下は、人事・経営が確認すべきチェックリストです。

10月1日までに終えておくこと

  • 労働条件通知書のひな形を改定する:「待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる」旨と、申出先(部署名・担当者の職氏名・連絡先)を追加する
  • 説明の申出に対応するフローと記録様式を決める:誰が、どの資料で、いつまでに回答するかを事前に決めておく
  • 雇用区分ごとの待遇一覧表を作る:基本給・賞与・退職手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・病気休職・褒賞・福利厚生施設・教育訓練を一覧化する
  • 各項目の「支給目的」を言語化する:目的がパート・有期にも当てはまるかを検証し、当てはまるのに除外しているものを洗い出す
  • 就業規則・賃金規程の見直しと周知:是正が必要な項目は改定スケジュールを決め、当面は説明資料で補う

10月以降、リスキリングとして設計すること

  • 研修一覧を3層に仕分ける:「職務遂行に必要な能力の付与(第11条1項=義務)」「その他の教育訓練(同2項=努力義務)」「正社員限定の選抜研修」に分類し、1層目に漏れがないかを最優先で確認する
  • 受講の物理的な障壁を外す:短時間勤務者が参加できない時間帯・日程に研修が偏っていないか、受講時間が労働時間として扱われているかを点検する
  • 生成AI・DXの基礎研修は雇用区分で切らない:現場業務の多くをパート・有期が担っている職場ほど、この層のAIリテラシーが全社の生産性を左右する
  • キャリア面談の対象を広げる:導入率30.1%にとどまる正社員以外へのキャリアコンサルティングは、正社員転換や職域拡大の入口になる
  • 公的支援を組み合わせる:正社員転換を前提とした有期実習型訓練などを含む人材開発支援助成金や、個人が使える教育訓練給付制度を併用し、自社負担を抑える

関連記事:教育訓練給付の対象が2026年10月に3,485講座へ─企業助成は絞られ個人給付は拡充。人事が設計し直す「学びの原資」/リスキリング助成金・公的支援ガイド2026─転職・キャリアアップに使える制度を総まとめ

リスキリングドットコムの見解

今回の改正は、表向きは「手当と説明義務の話」に見えます。しかし本質は、日本企業が長く曖昧にしてきた「誰に投資するか」という問いが、説明可能な形で外に出ることにあると考えています。待遇一覧表をつくると、多くの企業で教育訓練の欄だけが空白のまま残ります。そこが今回いちばん痛いところです。

私たちがリスキリングを「知る→使う→任せる」の三段階で整理しているのは、投資対象を雇用区分ではなく業務の担い手で決めるべきだと考えるからです。生成AIの「知る」「使う」フェーズを担うのは、現場で最も多くの定型業務を握っている層であることが少なくありません。その多くがパート・有期であるなら、そこに学びを配分しないのは公正性の問題である以前に、単純に投資判断として最適ではありません。

実務としておすすめしたいのは、10月1日を「待遇差の説明ができる状態をつくる期限」ではなく、「全社員のスキル台帳を一本化する起点」にすることです。正社員と非正規で別々に管理されてきた研修履歴・スキル情報を一つの台帳に統合すれば、説明責任にも配置にも同じデータが使えます。法対応のためだけの棚卸しで終わらせるのは、もったいない改正です。

次に読む記事

リスキリング・人材育成・AI活用の最新情報は、X(旧Twitter)でも発信しています。ぜひフォローしてください。@ReSkilling_com

参考・出典

公開日:2026年9月29日