短期連載【Reskilling.KAGA②後編】外で商談、中で相談

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最終更新日:2025.06.19



地元企業のDXや人材開発のためのリスキリングを積極的に推進する石川県・加賀市。
その加賀市の企業事例を取材する短期連載【Reskilling.KAGA】。
前編では組織・経営改革の末、高い実績を打ち出した石川樹脂工業のユースケースについて同じ製造業のヤマニ従業員の皆さんが学習した様子をレポートしました。

後編の今回は加賀市の製造業を支える上記2社の経営者対談をお送りします。
冒頭から、対談というより「商談」といった空気感で進行し、筆者もワクワクしながらお話をうかがいました。

▼登場企業及び人物
ヤマニ/清水屋社長
 半導体、スマホ、ゲーム機など産業資材用メッシュクロスの製造・販売を手掛ける企業。
 大正時代から続く製造業の老舗。
石川樹脂工業/石川専務
 樹脂製漆器やインフラ向け工業部品などを手掛ける企業。
 近年、皿やグラスなどのオリジナル食器ブランドを立ち上げ事業変革を遂げる。
●後藤宗明氏(進行・聞き手)
 一般社団法人 ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事。
 政府や民間企業に至るまで方針提言や政策立案の支援を行う国内リスキリングの第一人者。
 2022年から、加賀市と連携し継続的に企業へのリスキリング伴走支援を実施。

101年目のチャレンジ


※以下、敬称略

後藤宗明(一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事)

ヤマニ代表取締役社長・清水屋健太郎氏                  ヤマニは今年創業101年目を迎える

300倍に拡大したインクカートリッジ内の「メッシュ部材」/ヤマニが手掛ける製品例として。                  

清水屋
そこで、我々が持っているテキスタイル繊維と、石川樹脂さんが持たれているARASなどのブランドで、何かコラボできることがないか模索したいなと。

▼編集MEMO📝
石川樹脂工業が手掛ける食器ブランド「ARAS(エイラス)」は、自社の持つ伝統的な技術と新進気鋭クリエイターのデザインとを融合し、SNSなどデジタルマーケティングを活用しながら販売展開する新規事業。
結果、数年で事業全体の7割超を担う主力商品に成長し、中小企業リスキリング・DXのモデルケースとして、業界内外で注目を集めている。
※詳しくは【Reskilling.KAGA】Vol.2前編をご覧ください。⇒
記事視聴はコチラ
    石川樹脂工業・石川専務

石川
コラボは全然できると思っています。

一同
!!

石川
ただ、せっかくなら御社の技術をもっと前面に出したいですね。
        
清水屋
我々の強みとしては、細い繊維を荒く織ることで超軽量な織物を作ったり、細い糸を超高密度に織るといったことができる点です。
そういった細かいメッシュがスマホなど半導体の中にも入っています。
    
後藤
他にファッションにも応用されているとおうかがいしました。

清水屋
はい、国内だとコムデ・ギャルソン、ルイ・ヴィトン、プラダなどにも一部局所的に使っていただいてます。
実は、加賀市のリスキリング伴走支援を受ける取り組みがあったことをキッカケに、今年の7月イタリアで 「ミラノ・ウニカ」というテキスタイルの世界最大の見本市があるんですが、そこに初めて出展しようかと。

後藤
おぉ!それは、すごいですね。

清水屋
前から気になっていたのですが、具体的に1歩踏み出してみよう、とにかく人と会って話さないことには、何も始まらないだろうと思って。
あと、秋以降出張でアメリカ西海岸、中国、アジアなどへ行く計画をしています。
コロナ中は外に出られなかったこともあって、今年は色々世界を見て回って情報収集して来ようかなと。

後藤
素晴らしいですね。

石川
・・・。

ヤマニのメッシュ製品を触って思いに耽る石川専務

後藤
石川専務・・・思考モードですか?

石川
すみません途中で。
先ほどのコラボの話のことを考えていまして、今ARASのブランドをお皿以外もやろうという拡張プロジェクトの話があるので、まさに合っているなと。
ただ、メッシュにすると何が良くなるんだろう?料理体験ってどう変わるんだろう?といったことは研究しないとな、と考えていました。
  
清水屋
例えばメッシュの良いところは、「透け感」があるという点が挙げられます。
おそらくARASを化粧箱や木箱で梱包されていると思うのですが、ヤマニの繊維製品を包装用に使って、外から商品が見えるみたいなこともできそうです。

メッシュの特長を丁寧に説明する清水屋社長

他にも例えば、お茶を淹れるティーバッグ。
不織布の中に茶葉が入っていて、そこにお湯を注いでお茶を淹れると。ヨーロッパへ行くとお花と茶葉を一緒に入れて、お湯を注ぐと花が咲く、といった飲み方もあるという話を聞きました。
メッシュが使われる理由にお茶は飲むだけじゃなくて、視覚的にも楽しむものだと。そういうものにも応用が利きそうです。

後藤
確かに、ヨーロッパの食後に出てくるお茶って華やかで面白いですよね。

石川
先ほど考え込んでいたことは、商品同士掛け合わせる可能性もそうですがもう1つ…
僕自身も「リスクを伴う」発言ですが、ICCというサミットに参加して良かったので、そこに出ませんか?という話です。
デジタル系のスタートアップだけじゃなく、モノづくり系の企業、ソーシャルグッドというNPOであったり、DEEP TECHと言われる医療系など一堂に会するイベントです。
目を見開かれるような価値を出し続けている起業家さんも多数いらっしゃるので、その世界を知るという意味ではとても良い機会だと思いました。
では何が「リスクを伴う」かというと、コミュニティーの“企業を見る目”が厳しい。


清水屋
なるほど。

石川
熱い想いと、やりきるんだという点が試されます。
あと、挑戦する人を、皆さんでちゃんと応援しようみたいな。なので、ただの営業目的参加だったり、半端なプレゼンの仕上がりだったりすると紹介者のリスクにも繋がります。
でも、僕自身が参加してすごく良かったですし、ヤマニさんのようにBtoBでしっかり技術のある会社さんが参加することはとても価値あるんじゃないかなと思いました。
ヤマニさんに相当な負担がかかるので勧めるのはどうなんだろうと…1つの提案として頭の中で考えていました。

清水屋
ありがとうございます。

後藤
アイデアが色々出ますが、石川専務が先ほどARASはお皿以外のプロジェクトも検討されているとおっしゃっていました。例えばどういうものですか?

石川樹脂工業の食器ブランド「ARAS」

石川
キッチン周りや、最終的にはインテリアやテーブルクロスなども含めてですね。
メッシュなど素材で考える部分は、無理なく効率よく価値を最大化できているかといったところを考えたい。
でも、あとは、もちろんメッシュも良いのですが、半導体など全然違う領域や技術から食品インテリアに使うとどうなるのかなということも興味深くて。でもそこは多分、クリエイターを呼んで工程を見せていただいたり教えてもらって、アイデアを出しあうのが良さそうですね。

後藤
素晴らしい。まさにコラボの最初のスタートという感じですね。清水屋社長、今日のお話を伺ってみて変化した思いなどありますか?

清水屋
そうですね。先ほどの講義もそうですが(※Vol.2前編参照⇒記事視聴はコチラ)
目から鱗で、今までずっと1人よがりで、どうすればいいんだと悩んでいたのですが、石川専務のお話から「パートナーの重要性」を教わりました。デザイナーさんであったり、実際物を作っている現場の職人さんであったり、そういった人たちとやっぱり組まないと1人じゃ何もできない。

石川
そうだと思います。

清水屋
時間効率も悪く、力を持った人たちとコラボレーションするのが非常に大事だということがよくわかりました。ありがとうございます。
    
後藤
101年目のチャレンジとしてのアクションはいかがですか?

清水屋
まずは、とにかく展示会に行ったり、情報収集をしたいと考えています。
そのあと、何をいつまで作りたいかというのをある程度決めて動きたいなと。

後藤
先ほど、ミラノやアメリカなどの話もありましたが、色々な場に行くことでビジネスパートナー候補との出会いや、展開が生まれるかも知れませんね。

▼ヤマニの2025年、海外アクションプラン予定

WHENWHEREWHAT
5月中国 (上海)製品供給依頼に伴う商談、工場視察。
7月イタリア (ミラノ)繊維見本市へ出展(石川県の製造業複数社共同出展)。
9月米国 (シリコンバレー)地銀主催の支援プログラムによる先端企業(半導体関連)視察。
年内目標シンガポール/タイ繊維関連市場(展示会)視察や情報収集。


後藤
良いですね。やはり少子高齢化の中で、海外へのビジネスチャンス、商機を作っていく会社がこれから大きくなっていくと思いますので「これをやるぞ!」と声を挙げれば、おそらく市も支援をしてくれるのではないでしょうか。



ビジネスの“共犯者”を増やして視点のシェアを


後藤
石川専務、この対談を通して清水屋社長に他に何かお伝えしておきたいことがあれば是非。

石川
二社のコラボの話は別途ということを前提に、それ以外のところで先ほど海外の話をうかがって思ったことが2つあります。
展示会に出るなど、自身の業界のことは当然するのが良いですが、ARASをやる上で良かったのは「業界外の動き」もとても大事だということ。そこに結構価値がある気がしています。

清水屋
異業種ということですか?

石川
はい。業界内だけでやっていくことは、業界内で詳しい人が1番上手いしその人たちに勝てないんですね。
なので、その人たちに出せない価値を考えて、業界外から引っ張ってきて繋げるのが早かったりするので、業界外というのも大事な視点、キーワードだと思っています。
僕の場合なら、AIが好きといったことでそれを製造業界内に繋げる。
   
もう1つは、僕は海外出張に行く時には必ず社員を2~3人連れて行くようにしているんです。1人で行くとその人だけどんどん知見が溜まって、1人相撲になりがちで。
帰って来て「俺は海外を見てきてこうだったんだよ!」と言っても、誰も知らない見ていないと。

清水屋
なるほど。

石川
一緒に行くと「共犯者」になる。「わかるよね?あの時一緒に居たし話したし、あーいう風に思ったよね?」と。
その後、その人たちが我々の代弁者として社内に展開してくれます。

後藤
視点が共有できるようになると。

石川
そうです。お金もかかるんで、航空代など安くして経費を削ったりと工夫してよく泣きそうになるんですが。(笑)
でもそれをやらないと、出張は価値がないかもなと思うようにして。視点も増えるので、毎回違う人を連れて行きます。

清水屋
面白いですね。

石川
言ってることは正しくても社内に全く伝わらない、となりますしその結果、前に進まなくてあの出張なんだったんだ?となるので。

後藤
おっしゃる通りですね。
清水屋社長、今年はヤマニさんにとって構想期間だとは思いますが、可能であれば今後、石川樹脂工業さんのクリエイターさんとのお打ち合わせに繋げていただいて。

清水屋
ぜひ。

石川
そうですね。

後藤
加賀市内でのコラボレーションや、新規事業を通じた従業員の方へのリスキリング…まさに海外出張に連れて行くこと自体がリスキリングの始まりですし、良い入り口ですね。



編集後記


対談を超えた「商談」。
これはできるか/これだとできないか/この可能性はどうか。
商売人が商品を目利きするように飛び交うお話に、加賀市から始まる小さくも大きな躍動を感じました。
今回の取材の要点を一言でまとめると「外で商談、中で相談」がしっくりきます。
迫りくる労働力低下の問題に直面し、商機を求め海外に目を向けつつも大事なのは、人的資本経営の要・従業員やステークホルダーの存在であるという点。
経営者1人の孤軍奮闘は難しいといったお話は、加賀市のみならず全国の経営者や意思決定者が抱える普遍的な課題であると感じました。
リスキリングは、個人の資格取得という方法だけではなく、組織において多様な形で柔軟に学ぶ機会と業務転化させる両輪を成立させることが求められます。
ヤマニの新規事業へのチャレンジ、石川樹脂工業とのコラボなど今後も目が離せません。

ヤマニ工場内にて。石川樹脂工業・石川専務/左 と ヤマニ・清水屋社長/右



(文/編集・崔明秀、監修・後藤宗明)


■本文関連リンク
石川樹脂工業株式会社 公式サイト
ARAS(エイラス)公式ストア
株式会社ヤマニ – 加賀市

一般社団法人 ジャパン・リスキリング・イニシアチブ
加賀市リスキリング宣言を行いました


【Reskilling.KAGA】各連載リンク

Vol.1:石川樹脂工業

Vol.2前編:ヤマニ
※今回の続きはコチラVol.3:ホテル ききょう
Vol.4:竹内製菓