管理職研修の目的とは|種類や内容、研修の効果を高めるポイントを解説
最終更新日:2024.08.14
近年、企業の競争が激化するなか、自社の目標を達成するうえで管理職の役割は、ますます重要になってきています。
しかし、管理職としての役割や責任、求められるスキルは多岐にわたるため、多くの企業で管理職の育成が課題となっています。
そこで、この記事では管理職研修の目的や種類、内容、そして効果を高めるためのポイントなどをくわしく解説していきます。
管理職が求められている役割
管理職には、責任ある立場としてさまざまな役割が求められます。数ある役割のなかで、とくに重要な3つの役割は以下のとおりです。
役割 | 具体的な内容 |
目標達成 | 組織全体の目標を踏まえ、部署としての目標を設定する。その目標を達成するための計画を立て、実行する |
人材育成 | 部下を指導・育成し、チーム全体の能力を高め、組織としての成果につなげる |
組織運営 | 担当する部署の業務が円滑に進むよう、人・モノ・お金・情報などを適切に管理する |
これらの役割はそれぞれ密接に関係しており、どれかひとつが欠けても組織はうまく機能しません。
たとえば、優れたマネジメント能力を持つ管理職がいたとしても、組織目標に対する理解が浅ければ、部署のベクトルが組織全体とずれてしまう可能性があります。
そのため、管理職は3つの役割の重要性を認識し、バランスよく遂行することが重要です。
管理職研修の目的
管理職に求められる役割は、上記でご紹介したように多岐にわたります。そのため、これらの役割を効果的に担える人材を育成するうえで、管理職研修は欠かせません。
管理職研修の目的は、管理職がこれらの役割を効果的に果たせるよう、必要な知識・スキル・意識を向上させることにあります。
具体的には、以下のような目的を掲げています。
管理職としての意識改革
管理職研修の目的のひとつに、管理職としての意識改革があります。
多くの企業では、これまでプレイヤーとして成果を上げてきた人が、経験や能力を評価され、管理職に昇進するケースが多いのではないでしょうか。
しかし、今後はこれまでのように個人で成果を出すのではなく、チーム全体で成果を上げるために、人を動かすことが求められます。そのため、「プレイヤー」から「マネージャー」への意識転換が必要となるのです。
管理職研修をとおして、従来のプレイヤーとしての意識から脱却し、組織全体を俯瞰した考え方や、部下やチームの成長を支援する方法、マネジメントスキルなどを学びます。
組織の目標達成と成果向上
管理職研修の大きな目的のひとつに、組織全体の目標達成と成果向上があります。
企業はそれぞれ経営目標を掲げており、その達成のために各部署やチームは目標を設定しています。
そして、メンバーがそれぞれの目標を達成できるように導き、チーム全体の成果を最大化させることが管理職には求められているのです。
管理職研修では、目標達成のための具体的な手法を学びます。
たとえば、組織目標と整合性の取れた具体的で達成可能な目標を設定し、チーム全体で共有することなどが挙げられます。進捗状況を定期的に確認し、必要があれば軌道修正し、メンバーそれぞれが、自身の業務と目標のつながりを意識できるようにします。
部下の育成とチーム力の強化
管理職研修は、部下の育成とチーム力の強化も重要な目的です。
管理職は単に指示を出す立場ではなく、部下を育成しながらチームをまとめ上げ、組織全体の力を最大限に引き出す役割が求められています。
具体的には、管理職研修をとおして
- 部下一人ひとりの強みと弱みを理解し、能力を最大限に引き出す育成プランの作成と実行
- チームとしての目標設定と進捗管理、メンバー間のコミュニケーションを円滑にするための手法
- モチベーションを高め、主体性を引き出すリーダーシップとコーチングスキル
などを習得することで、組織目標達成に大きく貢献することが期待されます。
問題解決能力と意思決定能力向上
管理職研修では、問題解決能力と意思決定能力の向上も目的として掲げられています。
管理職には、日々発生するさまざまな問題に対して、状況を的確に把握し、最善の解決策を導き出す問題解決能力が求められます。
また、組織を正しい方向へ導くためには、情報や状況を分析し、最適な行動を選択する意思決定能力が不可欠です。
管理職研修では、これらの能力を向上させるための具体的な方法や、意思決定の際に考慮すべきポイントなどを学びます。
これらの能力を高めることで、組織の目標達成、そして成果向上へとつながるでしょう。
管理職研修の種類
管理職研修を大きく分けると、以下の4種類に分けられます。
- 階層別研修
- テーマ別研修
- 課題解決型研修
- OJT、Off-JT
管理職研修を実施する際は、それぞれの研修の特徴を理解したうえで、自社の課題やニーズに合った研修を選択することが重要です。
階層別研修
階層別研修とは、管理職としての経験年数や役職レベルに応じて設計された研修のことです。大きく分けると、「新任管理職研修」「中級管理職研修」「上級管理職研修」の3つに分類されます。
新任管理職研修
新任管理職研修では、初めて管理職になる人が管理職としての役割や責任、心構えなどを学びます。
また、部下とのコミュニケーション方法や指導方法などを習得することで、スムーズにマネジメント業務へ入れるようにします。
中級管理職研修
中級管理職は、チームリーダーや課長など、部下の育成やチーム全体の成果を担う重要なポジションです。
中級管理職研修では、ある程度の経験を積んだ管理職を対象に、複数部署との連携やチームマネジメント、部下の育成など、より実践的なスキルを学びます。
また、組織全体の目標達成のために、課題を発見し、解決策を実行していくための能力を養います。
上級管理職研修
上級管理職研修とは、役員や部長など、経営層または経営層候補となるような上級管理職を対象とした研修です。
企業のビジョンや経営戦略を理解し、組織全体を統括する能力を養うことを目的とします。
組織全体をより俯瞰し、戦略的に組織を率いるための知識やスキルを習得します。
テーマ別研修
テーマ別研修とは、特定のテーマに特化した研修のことです。管理職に求められるスキルは多岐にわたるため、階層を問わず、共通の課題意識を持った管理職を対象に実施します。
代表的なテーマ別研修 |
・コーチング研修
・リーダーシップ研修 ・コミュニケーション研修 ・メンタルヘルス研修 ・ハラスメント防止研修 |
これらの研修は、管理職個人のスキルアップだけでなく、組織全体の活性化や生産性の向上にもつながる重要なものです。
研修内容を検討する際は、組織や参加者の課題やニーズに合わせて適切なテーマを選ぶようにしましょう。
課題解決型研修
近年、多くの企業で導入されているのが、社員自らが問題を発見し、解決策を実行できることを目指す「課題解決型研修」です。
この研修では、従来の座学形式ではなく、グループワークやケーススタディをとおして実践的な課題解決能力を養うことに重点が置かれています。
具体的には、企業の現状分析に基づいた問題発見、目標達成のための多様な解決策の検討、そしてPDCAサイクルを活用した実行というプロセスを学びます。
実際の業務に即したケーススタディをとおして実践することで、より効果的に課題解決能力を身につけることが期待できるのです。
社員一人ひとりが、主体的に問題解決に取り組む姿勢を育むことで、企業全体の活性化につながるでしょう。
OJT、Off-JT
管理職研修には、OJTとOff-JTのふたつの方法があります。
OJT(OntheJobTraining)は、実際の職務をとおして行う研修です。Off-JT(OffTheJobTraining)は、職場を離れて行う研修です。
OJTとOff-JTは、それぞれにメリットとデメリットがあります。どちらが良い悪いということではなく、研修の目的や内容、対象者に合わせて、最適な方法を選択することが重要です。
研修方法 | メリット | デメリット |
OJT | ・実践的なスキルを身につけられる ・職場の課題に即した研修ができる |
・指導者の負担が大きい ・体系的な知識を習得することが難しい場合がある |
Off-JT | ・体系的な知識を習得できる ・ほかの企業の管理職と交流することがある |
・実践的なスキルを身につけることが難しい ・基本的に費用がかかる |
たとえば、新任管理職研修の場合、まずはOff-JTで管理職としての基礎知識や心構えを学び、その後、OJTで実際の業務をとおして、マネジメントスキルなどを身につけていくという方法が考えられます。
管理職研修の内容例
管理職研修には、さまざまな内容が含まれます。ここでは、代表的な研修内容をご紹介します。
- リーダーシップ・マネジメント
- 教育・指導方法
- 業務改善
- モチベーション向上
- コンプライアンス
- メンタルヘルス
これらの内容を、座学だけでなくグループワークやロールプレイングなども取り入れながら学ぶことで、より実践的なスキルを身につけられます。
また、自社の状況に合わせてカスタマイズすることで、より効果的な研修が可能となるでしょう。
リーダーシップ・マネジメント
管理職研修において、リーダーシップとマネジメントは重要な要素です。
リーダーシップは組織の方向性を示し、メンバーを鼓舞する能力を指し、マネジメントは目標達成のための計画立案と実行管理を意味します。
研修ではビジョン設定、チームビルディング、コミュニケーション、問題解決能力などを総合的に学び、組織全体のパフォーマンス向上に貢献する力を養成します。
教育・指導方法
管理職は、部下それぞれに合わせた指導方法を習得し、部下のパフォーマンスを引き出すことが求められています。
そのためには、具体的な指示、定期的なコミュニケーション、個別対応、段階的な成功体験、チーム全体での育成方法などを学ぶ必要があります。
そして、これらのスキルは部下の成長を促し、組織全体の生産性向上につながるのです。
管理職は、多様な部下に対して効果的に指導できるように訓練が必要になります。
業務改善
管理職は現状における課題や非効率な部分を分析し、改善策を実行していく必要があります。
業務改善研修では、業務の効率化やミスの削減などをとおして、組織全体の生産性を向上させるための「業務改善」スキルを習得します。
具体的にはPDCAサイクル、問題解決手法、効率化ツールなどを学び、具体的な業務改善計画を立案・実行できるようにします。
モチベーション向上
部下のモチベーションを高めることは、管理職の重要な役割です。
部下のモチベーションを高め、組織全体の生産性を向上させるためには、目標設定と期待の伝達、適切なフィードバック、自律性の尊重、キャリア開発支援といった多角的なアプローチが必要です。
これらの要素を意識することで、部下は成長を実感し、組織への貢献意欲を高められます。
そのため、管理職はこれらの要素を効果的に組み合わせ、部下のやる気を引き出して最大限の能力を発揮できるように導きましょう。
コンプライアンス
管理職向けのコンプライアンス研修では、コンプライアンスの基本知識、不正が起こる原因と防止策、リスクマネジメントなど管理職の役割を学びます。
コンプライアンスとは、法令や企業倫理、社会規範に従うことです。企業は、コンプライアンス違反により社会的信用を失ったり、損害賠償を請求されたりするリスクがあります。
そのため、管理職は部下がコンプライアンス違反を犯さないよう、日頃から指導・教育していくことが重要です。
メンタルヘルス
管理職は、部下の心の健康にも気を配る必要があります。メンタルヘルス研修では、メンタルヘルスの現状や課題、ストレスのメカニズム、セルフケア、ラインケアの方法などを学びます。
とくに重要なのはラインケアです。ラインケアとは、部下との日常的なコミュニケーションをとおして、メンタルヘルスの状態を把握し、必要に応じて適切にサポートすることです。
メンタル不調の兆候を見抜き、適切に対応することで、部下の健康を守れるようになります。
管理職研修の効果を高めるポイント
管理職研修は、ただ実施すればよいというわけではありません。
研修の効果を最大化するためには、いくつかの重要なポイントをおさえる必要があります。
ここでは、管理職研修の効果を高めるためのポイントを紹介します。
目的や目標を明確にする
管理職研修を成功させるためには、「研修をとおしてなにを達成したいのか」という目的や目標を明確にすることが重要です。
組織全体の目標と関連付けることで、参加者のモチベーション向上にもつながります。
たとえば、以下のような研修の目的を具体的に設定するとよいでしょう。
階層 | 研修の目的(例) |
新任管理職 | ・プレイヤーからマネージャーへの意識改革 ・部下への適切な指示や指導方法の習得 |
中間管理職 | ・チーム全体の目標達成に向けて、部下を指導・育成する能力の向上 ・複数部署と連携した業務遂行能力の向上 |
上級管理職(経営幹部候補) | ・経営戦略を理解し、組織全体を牽引していくリーダーシップの習得 ・経営視点を持った意思決定能力の向上 |
このように、階層や育成したい人材像に合わせて研修の目的を明確化することで、研修の効果を最大化できます。
ニーズに合わせた研修内容にする
管理職研修の効果を高めるためには、参加者のニーズに合わせた研修内容にしましょう。
たとえば、営業部門の管理職には営業戦略や部下指導に関する研修、人事部門の管理職には人事制度や労務管理に関する研修が考えられます。
管理職の経験年数や職種、担当業務内容によっても必要な知識やスキルは異なるため、参加者のニーズに合わせた研修内容にすることが重要です。
フォローアップ体制を整える
研修の効果を最大限に引き出すためには、研修で得た知識やスキルを職場環境で実践し、定着させる必要があります。
そのためには、研修後のフォローアップ体制を整えることが欠かせません。
なお、研修後のフォローアップでは、以下3つのポイントが重要です。
- 定期的な進捗確認
- 相談しやすい環境づくり
- 実践の機会提供
なお、研修後のフォローアップが重要なのは管理職研修に限ったことではありません。
新入社員研修や営業研修など、あらゆる研修において、研修後のフォローアップ体制を整える必要があります。
研修を支援する体制を作る
管理職研修の効果を高めるには、研修を受ける側だけでなく、組織全体で研修を支援する体制作りが必要です。
具体的には、研修の目的や内容を組織全体に周知し、受講者自身が研修の重要性を理解して積極的に参加できる環境を作る必要があります。
また、研修参加のための時間的・経済的なサポートも重要です。会社が費用を負担したり、業務を調整したりすることで安心して受講できます。
管理職研修の成功事例
ここでは、管理職研修の効果を実感できた具体的な事例を3つご紹介します。
主体性が生まれ、成果につながった事例
従来型のリーダーシップからの脱却を目指し、ある企業では、管理職向けのリーダーシップ研修を実施しました。
研修では、メンバーの主体性を引き出すコーチングやフィードバックの手法に焦点を当てました。
その結果、管理職は指示を出すだけでなく、メンバーの意見を積極的に聞くように変化したのです。週次のミーティングでは、進捗確認に加え、メンバーが抱える課題やアイデアを共有する時間を設けるようになりました。
こうした変化はメンバーの当事者意識を高め、メンバーから業務改善を提案するなど、組織全体の活性化と成果向上につながります。
不適切行為を未然に防いだ事例
ある製造業のA社では、過去に社員による不正競争防止法違反が発生したことを受け、管理職向けのコンプライアンス研修を強化しました。
具体的には、法令違反に関する事例を題材としたグループワークや、模擬的な状況下でのロールプレイングなどを実施することで、コンプライアンス意識の向上を図りました。
その結果、内部通報が増加し、法令違反を未然に防げるようになったのです。
また、管理職のコンプライアンスに対する意識が高まり、部下に対しても適切に指導できるようになったため、社内全体のコンプライアンス意識が向上しました。
メンタルヘルス研修で職場環境が改善した事例
メンタルヘルス研修を実施した企業では、職場環境が改善され、従業員のパフォーマンス向上や離職率低下につながったという事例があります。
たとえば、管理職向けのラインケア研修を実施したA社では、管理職が部下のメンタルヘルスへの理解を深め、相談しやすい雰囲気作りに成功しました。
また、ストレスチェックの実施と、高ストレス者への個別面談を実施したB社では、従業員のストレス状況を把握し、適切な対応を取ることで休職者の割合が減少したようです。
まとめ
管理職研修は組織の目標達成や人材育成、そして職場環境の改善など、多岐にわたる効果が期待できます。
適切に実施することで、管理職は必要な知識やスキルを習得し、組織の中核として活躍できるようになります。
しかし、管理職研修の効果を最大限に引き出すためには、研修後のフォローアップが重要です。研修で得た知識やスキルを実践・定着させるために、組織全体で継続的な学びの機会を提供したり、成果を共有する場を設けたりしましょう。
研修はあくまでもスタート地点であり、その後の継続的な努力が不可欠です。研修で得た学びを活かし、管理職一人ひとりが成長し続けることで、組織全体の活性化につながっていくでしょう。