OJT教育とは?目的やメリット・デメリット、効果的な進め方を解説

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最終更新日:2024.10.19

【OJT教育のメリット】 実践的なスキル習得 個別指導 低コスト コミュニケーション活性化 社員エンゲージメントの向上 【OJT教育を成功させるポイント】 事前準備を徹底する 計画を立て、期日通りに進行する 効果的な指導方法を取り入れる

厚生労働省の調査によると、正社員に対する教育訓練において、「OJTを重視する」または「OJTを重視するに近い」と回答した企業は、73.6%にものぼります。

OJT教育は、新人教育や経験の浅い社員の育成だけでなく、中途採用者、リーダー育成など、様々な場面で活用されています。

しかし、OJT教育は、ただ闇雲に業務を任せるだけでは効果が上がりません。適切な計画と指導、そして効果的なフィードバックを行うことで、初めてその効果を発揮します。

本記事では、OJT教育の基礎知識から、メリット・デメリット、具体的な進め方、成功させるためのポイントまでご紹介します。

1. OJT教育とは?

OJT教育とは、「On the Job Training」の略で、日本語では「職場内訓練」と訳されます。

実際に業務を行いながら、上司や先輩社員から指導・教育を受けることで、業務に必要な知識やスキルを習得していく人材育成方法の一つです。

OJT教育は、新入社員や異動してきた社員に対して行われるだけでなく、既存社員のスキルアップやキャリアアップを目的として行われることもあります。

(1)OFF-JTとの違い

OJTはOff-JTと対比にして説明されることが多くあります。Off-JTとは「Off-The-Job Training」の略で、職場を離れて行う研修のことです。

OJTが職場内での実践を通しての教育であるのに対し、Off-JTは職場外で体系的な知識やスキルを習得します。

Off-JTには、以下のようなものがあります。

  • 企業内研修
  • 外部セミナー
  • 通信教育
  • eラーニング

Off-JTとOJTはそれぞれにメリット・デメリットがあり、どちらが良い悪いということはありません。どちらか一方ではなく、組み合わせて実施することが効果的です。

項目

OJT Off-JT
育成内容 受講者に応じた独自のカリキュラムを提供できる

育成内容の標準化や品質コントロールがしやすい

育成効果

実際の業務の中で指導を受けるため、学びをすぐに実務で活用できる 学習すべきポイント(概念・フレームワークなど)を研修カリキュラムに意図的に組み込めるため、普遍的・汎用的なスキルを得られる
育成コスト 金銭的コストという点で優れる。
業務の一環として上長・先輩社員が行うため、外部講師などを招いて行うOff-JTよりも低コストで済むことが多い

指導者の機会コストという点で優れる。OJTの場合、指導者も自身の仕事がある中で指導を行うため、時間的負担が大きい。Off-JTは、外部ベンダーなど教育専門の指導者が行うため、指導者の機会コストへの影響は少ない

(2)メンター制度との違い

OJT教育と混同されがちなメンター制度ですが、両者には違いがあります。

OJT教育は業務を通して行う教育訓練であるのに対し、メンター制度は業務の指導に限定されず、キャリア相談や精神的なサポートなど、より広範囲な指導・助言を行う制度です。

OJT教育とメンター制度の違いを以下の表にまとめました。

項目

OJT教育 メンター制度
目的 実務スキル習得

成長支援(キャリア・精神面)

指導者

直属の上司・先輩 別部署の先輩社員など
指導内容 業務内容の指導・教育

業務の指導・相談、キャリア相談、精神的なサポート

関係性

指導を受ける側と指導する側に利害関係がある

指導を受ける側と指導する側に利害関係がない

OJT教育では、指導者と指導を受ける側が同じ部署であることが一般的です。

一方、メンター制度では、指導者と指導を受ける側が異なる部署であることが多く、業務上の利害関係が発生しづらい関係で指導・助言を受けることができます。

2. OJT教育の目的

OJT教育は、単に新人に仕事を教えることとは異なり、組織全体の目標達成を視野に入れた戦略的な人材育成手法です。

その目的は多岐に渡りますが、大きく分けて「即戦力の育成」「業務効率の向上」「組織への定着率アップ」「次世代リーダーの育成」の4つが挙げられます。

(1)即戦力の育成

OJT教育は、座学とは異なり、新人を実務現場に配置し、実際の業務を通して指導・育成を行います。そのため、新人であっても、即戦力として活躍できる人材を育成することを目的とする場合に効果的です。

OJT教育が即戦力育成に効果的な理由としては、以下の点が挙げられます。

メリット

説明
実践的なスキル習得

実際の業務を通して必要なスキルを身につけることができるため、即戦力として活躍しやすくなる

個別指導

個人のレベルや進捗状況に合わせた指導を受けることができるため、効率的にスキルを習得できる
企業文化への迅速な適応

実務を通して企業文化や価値観を学ぶことができるため、組織への適応がスムーズに進む

早期貢献

業務を通して早期に成果を出すことができるため、自信やモチベーションの向上につながる

これらの要素によって、新人であっても、即戦力として活躍できる人材を育成することが期待できます。

(2)業務効率の向上

OJTは、適切に実施することで、従業員の能力向上だけでなく、組織全体の業務効率の向上にも貢献します。

新入社員は、OJTを通じて、先輩社員の実務経験に基づいたノウハウや知識を吸収することができます。 このことは、新入社員がより短期間で一人前に成長し、戦力として活躍できるようになることを意味します。 その結果、組織全体の生産性向上に繋がり、業務効率化が実現します。

また、OJTは指導する側の社員にとっても、自身の業務内容や組織運営について改めて見つめ直す機会となります。

OJTを通して、指導者は「なぜその業務を行うのか?」 「どのような目的で、どのような手順で行うのか?」「組織全体の業務フローにおいて、自分の業務はどのような役割を担っているのか」といった点について、改めて深く考えることになります。

このように、改めて自身の業務を客観的に見直すことで、業務プロセスや非効率な部分に気づくことができ、改善意識の向上に繋がります。

(3)組織への定着率アップ

OJT教育を通して、新入社員は職場環境や仕事内容に早く慣れ、企業に溶け込みやすくなります。上司や先輩社員から直接指導を受けることで、仕事に対する不安や疑問を解消し、自信を持って業務に取り組めるようになります。

また、OJT教育は、新入社員の個性や強みを活かした育成が可能です。新入社員一人ひとりのスキルや経験に合わせて、指導内容や業務内容を調整することで、モチベーションを高め、成長を促進することができます。

さらに、OJT教育は、新入社員と上司や先輩社員とのコミュニケーションを促進します。新入社員は、上司や先輩社員との信頼関係を築くことで、安心して仕事に取り組むことができます。

(4)次世代リーダーの育成

将来を担う人材を育てることは、組織の持続的な成長に欠かせません。OJT教育はそのための有効な手段の一つであり、特に次世代リーダー育成においては、実践的な経験を通してリーダーシップやマネジメントスキルを養うことができるという点で大きな利点があります。

次世代リーダー育成のためのOJT教育では、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。

ポイント

内容

権限の委譲と責任の付与

実際の業務を通して、意思決定や問題解決を経験させることで、責任感とリーダーシップを育むことができる
指導・教育の機会の提供

部下や後輩の指導を通して、育成やマネジメントの視点を養う機会を与えることができる

挑戦と成長の機会の提供

新規プロジェクトへの参加や、より責任の重い役割への挑戦を通して、リーダーとしての成長を促せる

これらのポイントを踏まえながら、計画的かつ戦略的にOJT教育を進めることで、次世代リーダーの育成を効果的に進めることができます。

3. OJT教育のメリット

OJT教育には、従来型の研修とは異なる様々なメリットが存在します。ここでは、OJT教育の代表的なメリットとして、実践的なスキル習得、個別指導、低コスト、コミュニケーション活性化、社員エンゲージメントの向上の5点について詳しく解説していきます。

(1)実践的なスキル習得

OJT教育の大きなメリットの一つに、実際の業務を通して実践的なスキルを習得できる点があります。

座学で知識をインプットするOFF-JTとは異なり、OJTでは実際の業務に携わる中で必要な知識やスキルを、体で覚えるように身につけていくことができます。

例えば、新入社員が営業部に配属されたとします。OFF-JTで営業に関する基礎知識やビジネスマナーを学んだ後、OJTを通して先輩社員に同行し、顧客との商談に同席する中で、実践的な営業スキルを身につけていくことができます。

顧客とのコミュニケーションの取り方、プレゼンテーションの方法、契約までの流れなど、机上の学習だけでは得られない、実践的なスキルを習得することが可能です。

また、OJTでは、経験豊富な先輩社員から直接指導を受けることができます。マンツーマン指導であれば、個々の習熟度に合わせて指導内容を調整したり、疑問点をその場で解消したりすることができ、より効率的かつ効果的なスキル習得に繋がります。

(2)個別指導

OJT教育の大きなメリットの一つに、個別指導が可能な点が挙げられます。

新人・若手社員一人ひとりの経験、スキル、業務習熟度、性格は異なります。OJT教育では、従来の一律的な研修ではなく、個々の状況に合わせて指導内容や進め方を調整することができます。

例えば、経験豊富な社員には、難易度の高い業務を任せることで、さらなる成長を促します。一方、経験の浅い社員には、基礎的な業務から丁寧に指導することで、着実にスキルを習得させることができます。

また、指導方法も、積極的に意見を求めるタイプには「考える機会を与えながら指導する」、指示されたことを的確にこなすタイプには「具体的な指示を出す」など、個々に最適な方法を選択することが重要です。

(3)低コスト

OJT教育のメリットの一つに、他の教育方法と比較して、低コストで実施できるという点があります。

OJT教育は、社内の先輩社員がトレーナーとなり、通常の業務を通じて教育を行うため、外部講師を招いたり、専用の教材を作成したりする必要がありません。そのため、集合研修やeラーニングのように、別途費用が発生することが少ないのが特徴です。

(4)コミュニケーション活性化

OJTは新人と先輩社員の距離を縮め、コミュニケーションを活性化する効果も期待できます。

新入社員にとって、新しい職場はわからないことだらけです。そのような環境下では、上司や先輩に質問したり、相談したりするのも気が引けてしまうかもしれません。

しかし、OJTを通して日頃からコミュニケーションを取っていれば、気軽に質問や相談ができる関係性を築くことができます。

また、OJTを通して先輩社員は、新入社員の個性や強みを把握することができます。

新入社員の個性に合わせた指導や、強みを活かせるような業務を任せることで、新入社員のモチベーション向上にも繋がるでしょう。

(5)社員エンゲージメントの向上

OJT教育は、社員エンゲージメントの向上に大きく貢献します。 新入社員は、入社後のギャップに戸惑いを感じやすい傾向にあります。

OJTを通して、企業理念やビジョンを共有し、新入社員の不安や疑問を解消することで、組織へのエンゲージメントを高めることが期待できます。

4. OJT教育のデメリット

OJT教育は多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。デメリットを理解した上で、OJT教育を実施する必要があります。

OJT教育の主なデメリットとして、以下の3つが挙げられます。

デメリット

内容
指導者の負担増加

実務を行いながら、教育もしなければならないため、指導者の負担が大きくなってしまう可能性がある

育成のばらつき

指導者のスキルや経験、教育時間によって、教育内容や質にばらつきが生じてしまう可能性がある
効果測定の難しさ

実務を通して行うため、習熟度を数値化することが難しく、効果を客観的に測定することが難しいデメリットがある

(1)指導者の負担増加

OJTでは、指導者は自身の業務に加えて、新人や若手社員の育成を任されることになります。

OJTは指導者の業務時間外に行われるわけではなく、普段の業務時間内に、自分の業務と並行して行わなければなりません。

負担内容

概要
業務量の増加

OJTトレーナーは、新人や若手社員の育成計画の作成、業務指示や指導、進捗管理、フィードバック、関係構築など、通常の業務に加えて多くの業務を担う必要がある。これらの業務は決して少なくなく、OJTトレーナーの業務負担を増加させる要因となる

新たなスキルの習得

OJTトレーナーには、指導スキルやコミュニケーションスキル、フィードバックスキルなど、育成に必要なスキルが求められる。これらのスキルは、一朝一夕に身につくものではなく、OJTトレーナーはこれらのスキルを習得するために、研修に参加したり、自己学習したりする必要がある
トレーニーとの関係構築

OJTトレーナーは、トレーニーとの信頼関係を築き、安心して業務に取り組める環境を作る必要がある。信頼関係の構築には、コミュニケーションを密に取ったり、トレーニーの個性や強みを理解したりするなど、時間と労力を要する

トレーニーの成長に対するプレッシャー

OJTトレーナーは、トレーニーの成長に責任を持つ立場にある。トレーニーが成長しない場合、OJTトレーナー自身の責任を問われる可能性もあり、大きなプレッシャーを感じることになる

上記のようにOJTトレーナーは様々な負担を抱えています。 これらの負担を軽減するために、企業はOJTトレーナーの業務負担を軽減するための体制を構築したり、育成に必要なスキルを習得するための研修を実施したりするなどの対策を講じる必要があります。

(2)育成のばらつき

OJT教育のデメリットの一つとして、指導者によって指導力や指導方法に差が生じやすく、育成のばらつきが発生しやすいという点が挙げられます。

例えば、指導者の経験や知識、熱意によって、指導内容やレベルに差が出てしまうことがあります。経験豊富な指導者であれば、実践的な知識やスキルを効果的に伝えることができますが、経験の浅い指導者や、指導に慣れていない指導者では、十分な指導ができない可能性があります。

また、指導に対する熱意の差も、指導の質に影響を与え、結果として育成のばらつきにつながる可能性があります。育成のばらつきは、社員のスキルや知識の習熟度に差を生み、組織全体の生産性を低下させる可能性があるため、注意が必要です。

(3)効果測定の難しさ

OJT教育は、その性質上、効果を測定することが難しいという課題があります。

OJT教育の成果は、個人のスキルや知識の向上、業務パフォーマンスの変化、組織全体の業績への貢献など、多岐にわたります。しかし、これらの要素を定量的に測定することは容易ではありません。

効果測定を適切に行うための評価方法として、以下の3点が挙げられています。

評価軸

具体的な内容
知識・スキルの習得状況

研修で学んだ知識やスキルの習得度合いを、テストやレポート、実技試験などで評価する

業務への活用状況

習得した知識やスキルを、実際の業務にどの程度活用できているかを評価する
行動の変化

研修によって、受講者の行動にどのような変化が見られたかを評価する

上記のように、OJT教育の効果測定には、様々な指標を用いることができます。

しかし、どの指標を重視するかは、企業や部署、個人の目標によって異なってきます。そのため、事前に明確な評価基準を設定しておくことが重要です。

また、OJT教育の効果は、すぐに現れるとは限りません。長期的な視点に立って、継続的に評価していくことが重要です。

5. OJT教育を成功させるポイント

OJT教育は、ただ闇雲に進めてもうまくいきません。 OJT教育を成功させるためには、事前の準備、計画に基づいた実行、効果的な指導方法の導入など、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。

これらのポイントをしっかりと押さえることで、OJT教育はより効果的なものとなり、新入社員の成長を促進し、企業の成長にも大きく貢献します。

(1)事前準備を徹底する

OJTは、現場での実践を通して新入社員を育成する効果的な方法ですが、行き当たりばったりに進めてしまうと、期待する成果を得られない可能性があります。

OJTを成功させるためには、以下のような事前準備が重要です。

準備すること

内容
OJTトレーナーの時間の確保

新入社員に質の高い教育を提供するためには、トレーナーが十分な時間を確保することが重要。トレーナーの業務負担を軽減し、新入社員の指導に集中できる環境を整える

OJTトレーナーの育成

新入社員に対して適切な指導を行うために、トレーナー自身も育成する必要がある。具体的な業務の進め方や指導方法、フィードバックの仕方などを学ぶ機会を設ける
新入社員のマインドセットを変える

新入社員が受け身な姿勢ではなく、自ら考え、行動する姿勢を身につけることが重要。そのためには、新入社員が安心して挑戦できる環境を作り、積極的に質問や意見交換ができる雰囲気づくりを心がける

これらの準備を怠ると、OJTが形骸化し、新入社員の成長を阻害する可能性があります。OJTを成功させるためには、事前準備に十分な時間と労力をかけることが重要です。

(2)計画を立て、期日通りに進行する

OJT教育では、計画性と期限の意識を持つことが成功の鍵となります。

計画を立てずに行き当たりばったりな指導を行ってしまうと、トレーニーは迷走し、期待する成果を得ることが難しくなります。

OJT教育のスケジュール管理表の例を以下に示します。

期間

学習テーマ 学習内容 指導方法 評価方法
1週目 電話対応 会社の電話対応の基本を学ぶ ロールプレイング

対応の正確性、適切な言葉遣いができているか

2週目

来客対応 会社の来客対応の基本を学ぶ ロールプレイング 対応の正確性、適切な言葉遣い、マナーが身についているか
3週目 名刺の受け渡し 名刺の受け渡し方法を学ぶ 実践

正しい方法で名刺の受け渡しができるか

4週目

資料作成 資料作成の基本を学ぶ 実践

正確に資料作成ができているか

このように、いつまでに、どのような内容を、どの程度のレベルまで習得させるかという具体的な計画を立て、期日通りに進行することで、トレーニーの迷走を防ぎ、効果的なOJT教育を実現することができます。

(3)効果的な指導方法を取り入れる

OJT教育では、指導方法によって学習効果が大きく左右されます。効果的な指導方法として、以下の4つの段階を意識することが大切です。

指導段階 内容 指導のポイント

教える(やってみせる)

トレーナーが業務の手順やコツを、実演を交えながら教える段階 ・トレーニーの理解度に合わせて、丁寧に説明する
・重要なポイントを強調する
・質問しやすい雰囲気を作る
見せる(説明する) トレーナーが実際に業務を行いながら、トレーニーに見せる段階

・ポイントやコツを意識して、分かりやすく見せる
・トレーニーの質問に答えられるように、余裕を持つ

やらせる

トレーナーの指示のもと、トレーニーが実際に業務を行う段階 ・トレーニーに積極的にやらせてみる
・間違えを恐れず、チャレンジできる雰囲気を作る
・こまめに進捗状況を確認し、適切なタイミングでアドバイスやサポートを行う
任せる(確認する) トレーナーは最終的な確認を行うのみで、トレーニーが主体的に業務を行う段階

・トレーニーの自主性を尊重し、最後までやり遂げさせる
・成功体験を積み重ねることで、自信とモチベーションを高める

これらの段階を踏むことで、トレーニーは「理解する」から「できる」という段階へと進むことができます。また、トレーニーの習熟度に合わせて、指導方法や進捗ペースを調整することも重要です。

6. OJT教育の進め方

OJT教育は、準備・実施・評価の3つの段階に沿って計画的に進めることが重要です。

(1)ステップ1:準備段階(目標設定、計画作成)

OJT教育を効果的に進めるためには、事前の準備が重要になります。準備段階では、目標設定と計画作成を丁寧に行いましょう。

①目標設定

OJT教育を通して、受講者にどのようなスキルや知識を習得させたいのかを明確にしましょう。目標は具体的、かつ測定可能であることが重要です。

項目

設定例
目標

営業部の新規顧客獲得数を向上させる

具体的スキル

顧客との信頼関係構築、ニーズに合わせた提案、クロージング
測定可能な指標

新規顧客獲得数、アポイントメント獲得率、成約率

上記のように、目標を具体的に設定することで、OJT教育の効果を測定しやすくなります。

②計画作成

目標達成のために、どのような計画でOJT教育を進めるのかを具体的に計画しましょう。計画には、以下の項目を含めるようにします。

  • 期間: OJT教育の期間を設定します。
  • 内容: OJT教育で指導する具体的な内容を決定します。
  • スケジュール: 指導内容をいつ、どの順番で指導するかを時系列で明確化します。
  • 担当者: 誰が、どの指導を担当するかを決めます。
  • 指導方法: 指導方法を具体的に決めます(例:ロールプレイング、OJTシートの活用など)。
  • 評価方法: 受講者の習熟度をどのように評価するかをあらかじめ決めておきます。

これらの項目を盛り込んだ計画書を作成することで、OJT教育をスムーズに進めることができます。

(2)ステップ2:実施段階(指導、フィードバック)

OJT教育は、計画を立てたら、いよいよ実施段階に入ります。ここでは、指導とフィードバックを通して、トレーニーの成長を促進します。

OJT教育における効果的な指導法として「4段階職業指導法」があります。

ステップ 内容 説明
1 やってみせる(Show) まずトレーナーが実際に見本を見せることで、トレーニーは作業の流れやポイントを掴むことができる
2 説明する(Tell) 見本を見せた後は、作業の手順や注意点などを言葉で詳しく説明する。なぜそのようにするのか、理由や背景まで伝えることで、トレーニーの理解を深められる
3 実際にやらせてみる(Do) ある程度理解が深まったら、トレーニーに実際にやらせてる。その際、最初から完璧を求めるのではなく、失敗を恐れずに挑戦できる環境を作る事が重要
4 フィードバックして指導する(Check) トレーニーが実際に作業を行った後には、良かった点だけでなく、改善点も具体的にフィードバックする。その際、トレーニーが自ら考え、行動に移せるように、質問を交えながら行うと効果的

この4つのステップを繰り返すことで、トレーニーは着実に成長していきます。

(3)ステップ3:評価段階(振り返り、改善)

OJTは、実施して終わりではありません。 OJTの効果を最大限に引き出すためには、実施後の振り返り・評価が重要になります。

振り返り・評価の際には、以下の4つの要素を意識して行うようにしましょう。

要素 内容
【1】できたこと(Can) 行った業務の中から、「良かった点」や「なぜ上手くいったのか」といった、「できたこと」を中心に振り返る
【2】維持すること(Keep) 業務内容や仕事の進め方について、「今後も続けたほうが良いこと」を考えていく
【3】変えること(Change) できなかった点を踏まえて、「今後変えていくべきこと」「改善していくべきこと」を考える。できていない部分をダメ出しするだけでなく、今後のためにどうしていくかという部分まで考えていく必要がある
【4】挑戦すること(Try) 【1】~【3】までを踏まえて、今後さらに成長していくために「チャレンジしていくべきこと」を考える

これらの振り返りを通して、良かった点を継続し、改善点があれば次の行動に活かしていくことが重要です。 また、OJTの成果を客観的に評価することも忘れてはいけません。

例えば、目標としていたスキルが身についているか、業務の効率がどれくらい向上したのかなどを具体的な数値で測定します。 もし、目標に達していない場合は、その原因を分析し、改善策を検討する必要があります。

7. 指導者・トレーナーの役割

OJT教育において、指導者・トレーナーは、単に業務を教えるだけでなく、人材育成という重要な役割を担っています。

OJTを成功させるために、指導者・トレーナーは以下の4つの役割を効果的に果たす必要があります。

役割 説明
指導計画の作成 受講者の経験やスキルレベル、育成目標などを考慮し、具体的な行動目標やスケジュールを含む個別の指導計画を作成する
業務指示と説明 業務内容を分かりやすく説明し、新入社員がスムーズに業務を理解し、遂行できるよう丁寧に指導する
進捗管理とフィードバック 定期的に受講者の進捗状況を確認し、目標達成度や課題を把握します。その上で、適切なアドバイスやフィードバックを提供し、成長を促進する
モチベーション管理 受講者のモチベーションを維持・向上させるための声かけや環境づくりも重要な役割

(1)指導計画の作成

OJTの効果を最大化するためには、指導者が事前に綿密な指導計画を立てることが重要です。場当たり的な指導では、トレーニーの成長を促すことはできません。

効果的な指導計画を作成するポイントは以下の通りです。

項目 内容
指導目標 トレーニーに習得させたい具体的な知識・スキルを、達成レベルとともに明確に設定する。目標は業務に紐づいている必要があり、トレーニーのレベルに合わせたものにする
指導内容 設定した目標を達成するために、どのような業務を、どの程度のレベルまで習得させるのかを具体的に落とし込む
指導方法 指導内容に合わせて、OJT、Off-JT、職場内訓練など、最適な指導方法を選択する
指導期間 指導内容やトレーニーの習熟度合いを考慮し、現実的な期間を設定する
指導担当者 指導内容に精通し、トレーニーの個性や強みを理解している担当者を選ぶ
評価方法 指導目標に対する達成度を測るための具体的な評価方法を事前に決定する

これらの要素を盛り込み、トレーニーの状況や進捗に合わせて計画を随時見直すことで、より効果的なOJTを実現できます。

(2)業務指示と説明

OJT教育では、指導者はトレーニーへ適切な業務指示と説明を行う必要があります。

新入社員や経験の浅い社員の場合、上司や先輩の指示内容が理解できず、戸惑ってしまうケースも少なくありません。 そのため、業務指示を行う際には、以下の点を意識することが重要です。

項目 内容
なぜ 業務の目的や背景、目標を明確に伝える
何を 業務内容を具体的に指示する。曖昧な表現は避ける
どのように 作業手順や方法を具体的に示す。必要があれば、図解や資料を用いる
いつまでに 期日や納期を明確に伝える
誰に 報告や相談をすべき相手を明確にする

上記に加え、指示の際は、トレーニーの経験やスキルレベルを考慮することも大切です。 新入社員や経験の浅い社員に対しては、より丁寧で具体的な指示を心がけましょう。

また、指示後に不明点がないかを確認し、疑問があれば解消しておくことも重要です。 これらの点を意識することで、トレーニーは安心して業務に取り組むことができます。

(3)進捗管理とフィードバック

OJT教育の効果を最大化するためには、トレーナーによる適切な進捗管理とフィードバックが欠かせません。OJTは計画的に進める必要があるため、トレーナーは定期的にトレーニーの進捗状況を把握し、必要に応じて計画の修正や軌道修正を行う必要があります。

進捗管理では、設定した目標に対する達成度合いを把握します。

方法 内容
定期的な面談 ・トレーニーと定期的に面談を実施
・業務の進捗状況や課題を共有
報告書・日報の確認 ・トレーニーに日報や週報を提出させる
・業務内容や進捗状況を把握
業務記録の確認 ・CRMやSFAなどのシステムに記録されたデータを確認
・行動量や成果を把握
周囲の社員からの情報収集 ・トレーニーと関わる他の社員から意見を聞く
・多角的な視点から状況を把握

フィードバックは、トレーニーの成長を促進する上で重要な役割を果たします。以下のような点を意識しましょう。

項目 内容
具体的で行動に焦点を当てる ・漠然とした感想ではなく、具体的な行動に基づいた指摘を行う
・「良かった点」「改善点」を具体的に伝える
ポジティブな側面を強調する ・改善点だけでなく、良かった点も伝える
・モチベーション維持に繋げる
双方向のコミュニケーションを心がける ・一方的な指導ではなく、トレーニーの意見にも耳を傾ける
・対話を通して相互理解を深める
タイムリーに伝える ・行動や状況を鮮明に覚えているうちに、フィードバックを行う

これらの進捗管理とフィードバックを通して、トレーニーの成長をサポートし、OJT教育の成功へと導きます。

(4)モチベーション管理

OJT教育において、受講者のモチベーションを維持し、向上させることは非常に重要です。受け身ではなく、自ら積極的に学ぶ姿勢を引き出すために、指導者は以下のポイントを意識する必要があります。

管理のポイント 説明
目標達成イメージの共有 指導者は、受講者と共通の目標意識を持ち、OJTを通してどのようなスキルが身につき、将来どのように活かせるのかを具体的にイメージさせる
達成度合いの可視化 タスクの進捗状況や目標達成度を目に見える形で示すことで、受講者のモチベーション維持を図ります。日報や週報などでこまめに共有する
積極的に称賛する どんなに小さな成果でも見逃さずに褒め、努力や工夫を認め、感謝の気持ちを伝えることで、受講者の自信や学習意欲を高めることができる
失敗を受け入れる環境づくり OJTでは、失敗から学び成長することが重要です。失敗を恐れずに挑戦できるよう、心理的安全性を確保し、失敗を受け入れる雰囲気作りが大切
定期的なコミュニケーション 日々の業務の中で、受講者の様子をよく観察し、困りごとや不安に寄り添い、相談しやすい環境を整えましょう。定期的な面談の機会を設ける

上記のようなポイントを踏まえ、受講者が前向きに取り組めるよう、指導者は積極的に働きかけ、サポートしていくことが重要です。

8. 受講者・トレーニーの心構え

OJT教育では、指導者からの指示やフィードバックを待つだけでなく、受講者・トレーニー自身が主体的に行動することが重要です。

(1)主体的な学習姿勢

OJT教育では、教えてもらうのを待つのではなく、自ら学ぶ姿勢が不可欠です。受け身の姿勢では、なかなか成長を実感できず、モチベーションの低下にも繋がります。

主体的な学習姿勢を身につけるためのポイントは以下の通りです。

行動指針 具体的な行動
目標を明確にする •上司や先輩と共有し、OJT期間を通して何を習得したいのか、具体的な目標を設定する
•目標達成のために、どのようなスキルや知識を身につける必要があるのか、明確にする
積極的に質問する •疑問点や不明点は、その場で解消するよう努める
•自分なりの考えや意見を積極的に発信し、フィードバックを求める
報連相を密に行う •業務の進捗状況や課題、問題点などを、こまめに上司や先輩に「報告・連絡・相談」を行う
•報告する際には、結論を先に伝え、その後ろに詳細や理由を説明する
メモを取る習慣をつける •指導された内容や重要なポイント、疑問点などをメモする
•メモを見返すことで、記憶の定着を図る
自分から課題を見つけて取り組む •現在の業務で改善点がないか、自ら考え行動する
•新しい業務に挑戦する機会を積極的に作る
周囲の人の業務を観察する •上司や先輩の仕事ぶりをよく観察し、仕事のコツや進め方を学ぶ
•他の部署の業務にも関心を持ち、視野を広げる

(2)積極的なコミュニケーション

OJT教育では、わからないことや疑問点をその場ですぐに解決することが重要です。そのためには、上司や先輩に指示されたことや、業務内容で不明な点を積極的に質問するように心がけましょう。

OJT教育は、新入社員が実際の業務を通して、必要な知識やスキルを身につけるための重要な機会です。しかし、受け身な姿勢では、その効果を最大限に得ることはできません。

例えば、新しいタスクを任された際に、指示された内容をそのまま鵜呑みにするのではなく、「この部分は、なぜこのようにするのでしょうか?」「他に考慮すべき点はありますか?」と積極的に質問することで、より深く理解を深めることができます。

また、疑問点をその場で解決することで、ミスを未然に防ぎ、業務をスムーズに進めることにも繋がります。

さらに、積極的にコミュニケーションを取ることで、上司や先輩との信頼関係を築くこともできます。信頼関係が構築されると、より的確な指導を受けやすくなるだけでなく、仕事上の悩みや不安を相談しやすくなるなど、多くのメリットがあります。

(3)報連相の徹底

OJT教育では、受講者は指示されたことだけをこなすのではなく、主体的に業務に取り組むことが重要です。 そのために必要不可欠なのが、「報連相の徹底」になります。

用語 意味
報告 業務の進捗状況や結果を上司や先輩に伝えること 「○○の業務は、〇%完了しました。予定通りに進んでいます。」
連絡 関係者に共有すべき情報を伝えること 「お客様から、納期に関するお問い合わせがありました。」
相談 業務の進め方や問題点について、上司や先輩に助言を求めること 「○○の業務で、想定外のエラーが発生しました。どのように対処したら良いでしょうか?」

OJT教育において、報連相は、単なる報告や連絡のための手段ではなく、コミュニケーションを通して信頼関係を築き、成長を促進するための重要なツールと言えます。

報連相を徹底することで、指導者からのフィードバックを的確に受け取ることができ、より効率的に業務を習得することができます。

9. まとめ

OJT教育は、座学だけでは得られない実践的なスキルを、実際の業務を通して習得できる効果的な教育方法です。 しかし、OJT教育は適切に計画・実施されなければ、期待する効果を得られない可能性があります。

OJT教育を成功させるためには、以下の3点が重要です。

項目 説明
事前準備の徹底 事前に計画を立て、指導者・トレーニー双方に共通認識を持たせる
効果的な指導 トレーナーは、トレーニーの習熟度に合わせて、段階的に指導していく
相互のコミュニケーション トレーナーとトレーニーは、密にコミュニケーションをとり、疑問点や不安点を解消していく

OJT教育は、企業の成長に欠かせない人材育成の手段です。 企業は、OJT教育の目的・メリット・デメリットを理解し、効果的なプログラムを設計・実施していく必要があります。 

 

記事監修

古今堂 靖

一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会 理事長

大学中退後、ホスト、ブライダル司会者、青果市場、旅行添乗員、長距離トラック運転手、警備員、レコード会社勤務等を経て、財団法人関西カウンセリングセンター勤務、心理カウンセラー、キャリアコンサルタント養成の傍ら、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会の立上げに参画して国家検定キャリアコンサルティング技能検定制度の創設に携わる。2024年3月に一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会を立上げ、生成AI時代のリスキリングキャリアコンサルタントの養成を開始。