リスキリング事例14選!国内外の企業の取り組みまとめ

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最終更新日:2024.11.13

デジタルによる変革がスピード感を増す現代において、新しい知識と技術を学び直す「リスキリング」の重要性も高まっています。国内でも、リスキリングに取り組み始める企業は増えていますが、どのように社内の環境や制度を整えればいいのか、分からない企業も少なくありません。

この記事では、国内外でリスキリングに取り組んでいる企業の事例を14社ピックアップしました。各企業の事例を紹介しつつ、リスキリングを成功させるポイントを解説します。

大企業のリスキリング事例9選

富士通

総合電機メーカーの富士通株式会社は、自社の人材育成方針「Career & Growth Well-being」において、リスキリング・アップスキリングの重要性について言及しています。2020年度の経営方針説明会では、社員13万人の「DX人材化」を掲げました。

そして、2021年には人材育成プログラム「Global Strategic Partner Academy」の開始を発表しています。本プログラムは、富士通のパートナー会社であるServiceNow社、SAP社、Microsoft社の3社の協力を通じて、最先端のデジタル技術やノウハウを持つ人材の増加を図るというものです。教育プログラムは世界中の従業員に、オンラインにて提供されています。

参照資料:

Career & Growth Well-being|富士通株式会社

2020年度経営方針説明 p.11丨 富士通株式会社

グローバル規模のデジタル人材不足の解消に向けた人材育成プログラム「Global Strategic Partner Academy」を開始|富士通株式会社

日立製作所

電気機器メーカーの株式会社日立製作所は、2021年度中期経営計画で目指す姿として、「社会イノベーション事業のグローバルリーダーになる」と宣言。グローバルリーダー育成のプロジェクト「Global Leadership Development(GLD)」や、経営幹部を育成する選抜研修プログラムなどの実施を発表しました。

また、同社は従業員のデジタル対応力強化を目的に、データサイエンス、エンジニア、イノベーション人材を育成するための講座を2019年度中に約100コースを提供。各講座は日立製作所のグループ会社であり、人材育成の研修ソリューションを提供する株式会社日立アカデミーを介して実施されました。

参考資料:

企業における人財育成について~日立グループの取り組み~|株式会社日立アカデミー

キヤノン

精密機器メーカーのキヤノン株式会社は、人材育成制度のなかにリスキリングを促すようなプログラムが組み込まれています。例えば、同社が実施する「キャリアマッチング制度」では、未経験の領域にチャレンジしたい従業員に対して、事前に研修を実施して希望する業務に配置します。2022年はこの制度を利用して、312人の従業員が異動しました。

また、2018年にはソフトウェア技術者の研修施設「CIST(Canon Institute of Software Technology)」を設立。技術者のスキルアップだけでなく、技術者への職種転換を目指す従業員の教育にも活用されています。

その他にも、全職種を対象としたITリテラシー向上研修、技術者の海外大学への留学支援などを実施しています。

参考資料:

人材育成と成長支援|キヤノン株式会社

アイネス

システムインテグレーターの株式会社アイネスは、リスキリングによるDX人材育成を積極的に実施しています。例えば、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が提供する資料を活用して、従業員のキャリアプランに応じたITスキル研修を用意。それらの研修を、従業員が自発的に選択・受講できる仕組みを整えています。

また人材育成計画は、リスキリングによる従業員のスキルアップと、DX企業を目指すという事業戦略のベクトルの足並みをそろえつつ策定・推進しています。

参考資料:

人材育成方針|株式会社アイネス

【リスキリング企業事例①】株式会社アイネス様「顧客のDXを推進する新規ビジネスモデル実現へ リスキリングで人材育成」|学校法人 産業能率大学 総合研究所

LINEヤフー

「Yahoo!JAPAN」や「LINE」などを運営するインターネット企業、LINEヤフー株式会社は「人材開発企業になる」を人事全般のビジョンとして掲げています。その一環として、企業内大学「LINEヤフーアカデミア」では従業員を対象に、さまざまなプログラムを実施。2023年度には、AIに特化した学びの場を提供する「AIアカデミア」を展開し、AI人材育成に力を入れています。

参考資料:

学び・経験機会の創出|LINEヤフー株式会社

クレディセゾン

クレジットカード会社の株式会社クレディセゾンは、2021年にDX戦略「CSDX戦略」を策定。デジタル技術を活用して、顧客・従業員の双方に対して期待を超える知見を提供することで、デジタル時代を先導する企業を目指すと発表しました。

CSDX戦略は4つの柱で構成されています。

  • デジタル人材の育成
  • 内製化推進
  • デジタル基盤強化
  • アジャイル開発体制の構築

このうち、「デジタル人材育成」ではデジタル人材を3階層に定義して、研修制度の拡充・組織体制の変革に取り組んでいます。

  • Layer1:コアデジタル人材(全社のデジタル化をリードする人材)
  • Layer2:ビジネスデジタル人材(全社のデジタル化推進に寄与する人材)
  • Layer3:デジタルIT人材(デジタル技術を業務に活用する人材)

参考資料:

クレディセゾン DX 戦略「CSDX 戦略」を策定し、全社横断で推進~期待を超える感動体験を提供するデジタル先進企業を目指して~|株式会社クレディセゾン

CSDX戦略|株式会社クレディセゾン

三菱UFJ銀行

メガバンクのひとつである株式会社三菱UFJ銀行は、従業員自らがキャリアを切り開いていく「自律的キャリア形成」を支援しています。従業員の挑戦を支える取り組み・プログラムを「キャリアチャレンジ」と総称し、公募制度やデジタル人材の育成を実施してきました。

公募制度においては、MUFGグループの所属会社の垣根をこえて、希望する業務に挑戦できる機会を提供。デジタル人材の育成では、全社員に対してeラーニングによるデジタルリテラシーの向上を図っているほか、職歴や役職に合わせた教育プログラムを整備しています。また、従業員のリスキリングを後押しするために、従業員ひとりあたり最大10万円の支援金も支給しています。

参考資料:

プロ人材・リスキル|株式会社三菱UFJ銀行

パソナグループ

総合人材サービスを提供する株式会社パソナグループは、2021年のニュースリリースにて、従業員を対象としたリスキリング研修プログラムを拡充すると発表。同社は研修プログラムを通じて、2024年5月までに、グループ全体で約3,000人のDX人材の育成を目指すとしました。

現在、同社は階層別のDX研修などによる内部人材育成や、IT未経験者のデジタル領域への挑戦を支援するプログラムを実施しています。

参考資料:

パソナグループ グループ全体のDXを推進 約3,000名のDX人財を育成 DX時代を担う人財育成、デジタル技術・データ活用を通じた新規事業開発を目指す|株式会社パソナグループ

人材育成|株式会社パソナグループ

トラスコ中山

機械工具などの卸売業者であるトラスコ中山株式会社は、経済産業省と株式会社東京証券取引所が経堂で選定している「DX銘柄」に、2020年・2021年と2年連続で選定されました。この取り組みは、積極的なIT利活用に取り組んでいる企業を発表することで、国内のIT利活用促進を図ることが目的として行われています。

トラスコ中山は、経営価値向上や従業員の働きやすさ改善を目的に、サプライチェーン全体のDXに取り組んできました。その過程において、営業・物流部門の従業員とデジタル戦略本部の従業員を相互にジョブローテーションさせることによるリスキリングを促進。その結果、デジタルを活用できる人材の育成に努めています。

参考資料:

デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020 p.12|経済産業省

デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2021 p.34|経済産業省

デジタル戦略|トラスコ中山

中小企業のリスキリング事例2選

西川コミュニケーションズ

西川コミュニケーションズ株式会社は愛知県に本社を置き、印刷事業やWebサイト制作、データ分析などを行っています。同社は2013年より、従業員のスキル習得をサポートするための教育プロジェクトチームを結成しました。

同社は大きく3つの取り組みを通じて、従業員のリスキリングをサポートしています。

①資格取得のサポート

ITパスポートとウェブデザイン技能検定の取得を全社員に推奨。希望者にはG検定、E資格、情報セキュリティマネジメントの取得も支援。また、ウェブデザイン技能検定と同レベルの社内資格も用意し、従業員のスキル向上を図っている。

②制作部のリスキリング

業務時間の2割を使い、座学・実践によるスキル習得を推奨。なお、制作部を4つのチームに分け、各チームごとに勉強テーマを決めて学習を進めている。

③課題図書の配布

従業員に課題図書を配布し、読了後に一言コメントを提出させる。コメントは社内ポータルで公開。

参考資料:

「学びなおし」が成長のカギ 変化の時代を生きるための人材教育とは|西川コミュニケーションズ株式会社

陣屋

株式会社陣屋は、神奈川県秦野市の旅館「鶴巻温泉 元湯 陣屋」を運営しています。将棋・囲碁のタイトル戦が行われる有名旅館は、経営危機に陥ったことをきっかけに従来の仕事のやり方からの脱却を決断。

その一環として、クラウドサービスをベースとした旅館管理システム「陣屋コネクト」を開発し、従業員のデジタル化を促進していきました。デジタル化を進めるために、社内SNSなどを活用した情報交換や、デジタル機器の扱いに慣れるための学び合いなども推進していきました。

デジタル化は経営の大幅改善につながっただけでなく、業務効率化により新たな学びの機会も創出されました。その結果、副業の許可や新規事業への進出など、副次的な効果も生まれています。

参考資料:
廃業の危機にあった旅館が地域観光を牽引する存在に|厚生労働省

海外企業のリスキリング事例3選

AT&T

アメリカの通信事業者であるAT&T社は、2008年に行った社内調査にて、今後の事業に必要なスキルを持つ従業員が半数に満たないことが判明しました。そこで、2020年までに必要なスキルセットを特定し、スキルのギャップを埋めるためのイニシアティブ「Workforce 2020」を2013年にスタートさせました。

その結果、2020年には事業に必要な技術職の82%が、社内の人材でまかなえるようになりました。また同社は、2022年にも1億3,500万ドルを投資し、従業員の能力開発を目的とした研修を実施。研修には19万7,000人の従業員が受講しました。

https://sustainability.att.com/priority-topics/human-capital-management

参考資料:

人的資本経営の実現に向けた検討 p.15|経済産業省

Human Capital Management|AT&T

アマゾン

アマゾン社は、2021年9月に「Upskilling 2025」というリスキリング計画を発表しました。この計画は従業員30万人を対象としており、ソフトウェアエンジニアリングなど、需要の高いスキルを獲得して、次のキャリアへ進むことを支援するというものです。アマゾンはこの計画に、12億ドルを投入すると発表しています。

参考資料:

Our Upskilling 2025 programs|amazon

ウォルマート

ウォルマート社は、2016年に230万人以上いる従業員の、キャリアアップやスキル獲得を支援する「Walmart Academy」を立ち上げました。この取り組みでは、職場でのスキルアップ、将来的なキャリアアップに向けたスキル獲得、リーダー職育成などが行われます。2016年から2022年にかけての6年間で、アメリカ合衆国にて240万人以上の従業員をトレーニングしてきました。

参考資料:

Walmart Launches One Global Walmart Academy To Help 2.3 million Associates Build and Grow Their Careers|Walmart

リスキリングが注目される背景

リスキリングが注目されている背景には、大きく分けて以下の要因があります。

デジタル化の進展

近年のAIやIoTをはじめとするデジタル技術の急速な発展は、私たちの働き方を大きく変えつつあります。

これまで人間が行っていた作業の自動化が進み、多くの仕事でデジタルスキルが必須となる一方、従来のスキルが陳腐化するリスクが高まっています。

このような変化への対応として、新たなデジタルスキルを習得するためのリスキリングが重要視されています。

デジタル人材の不足

デジタル化の進展に伴い、企業ではデジタル人材の不足が深刻化しています。

AIやDXの推進には専門的な知識やスキルを持った人材が必要不可欠ですが、育成や採用が追いつかず、多くの企業で人材確保が課題となっています。

社内の人材をリスキリングすることで、不足するデジタル人材を育成し、企業の競争力強化を図ることが期待されています。

政府による支援の強化

日本政府は、経済成長戦略の一環としてリスキリングへの支援を強化しています。

個人のリスキリングに対する補助金制度や、企業向けの研修プログラムなどを提供することで、リスキリングを促進し、労働市場の活性化を目指しています。

これらの要因が複雑に絡み合い、企業や個人にとってリスキリングの重要性が増しています。

リスキリングに取り組むメリット

リスキリングは、企業にとって多くのメリットをもたらします。大きく分けると、生産性向上、人材確保、従業員エンゲージメント向上、企業価値向上という4つのメリットがあります。

それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。

生産性向上

リスキリングによって従業員のスキルが向上すると、業務の効率化や質の向上が期待できます。

特にデジタル技術に関するスキル習得は、DX推進に不可欠であり、生産性向上に大きく貢献します。

例えば、RPAツールを使いこなせるようになれば、これまで手作業で行っていた定型業務を自動化でき、業務時間を大幅に短縮できます。その結果、従業員はより付加価値の高い業務に集中できるようになります。

人材確保

人材不足が深刻化する現代において、リスキリングは優秀な人材の確保に役立ちます。

社内の人材を育成することで、外部採用にかかるコストを削減できるだけでなく、社内事情に精通した即戦力となる人材を育成できます。

また、社員の成長機会を提供することで、企業の魅力を高め、優秀な人材の定着にも繋がります。

従業員エンゲージメントの向上

リスキリングは、従業員のエンゲージメントの向上にも効果的です。

新しいスキルを学ぶ機会を提供することで、従業員のモチベーションを高め、仕事への意欲向上に繋がります。

また、スキルアップを通じてキャリアアップの道筋を示すことで、従業員の会社へのロイヤルティを高めることも期待できます。

企業価値向上

リスキリングを通じて従業員のスキルが向上し、生産性が向上することで、企業全体の業績向上に繋がり、ひいては企業価値向上に繋がります。

また、従業員のエンゲージメント向上は、企業イメージ向上にも繋がり、投資家や顧客からの信頼獲得にも貢献します。

リスキリングに取り組むべき企業の特徴

リスキリングは、すべての企業にとって必要なわけではありません。取り組むべき企業には、いくつかの特徴があります。企業を取り巻く外部環境の変化や社内の課題を理解し、リスキリングの必要性を検討しましょう。

外部環境の変化に直面している企業

リスキリングは、変化の激しい現代社会において、企業が競争力を維持・向上させるために不可欠な取り組みです。

例えば、以下のような変化に直面している企業は、リスキリングを検討する必要があります。

  • デジタル化の進展
  • グローバル化の加速
  • 顧客ニーズの多様化
  • 新しいテクノロジーの登場

人材不足に悩んでいる企業

少子高齢化による労働人口の減少は、多くの企業にとって深刻な課題です。特に、高度なスキルや専門知識を持つ人材の不足は、企業の成長を阻害する要因となります。

リスキリングは、社内人材のスキルアップを通じて、人材不足を解消する有効な手段となります。社内で育成した人材を配置転換することで、新たな人材採用にかかるコストや時間を削減できます。

従業員のモチベーションを高めたい企業

リスキリングは、従業員のスキルアップやキャリアアップの機会を提供することで、モチベーションの向上に繋がります。

新しい知識やスキルの習得は、従業員にやりがいや成長を実感させ、仕事への意欲を高めます。また、リスキリングを通じて従業員のキャリアパスを明確にすることで、企業への帰属意識を高める効果も期待できます。

企業価値を高めたい企業

リスキリングは、従業員のスキル向上を通じて、企業全体の生産性や競争力の向上に貢献します。

生産性や競争力の向上は、企業の収益増加や市場シェアの拡大に繋がり、ひいては企業価値の向上に繋がります。投資家や顧客は、リスキリングに積極的に取り組む企業を、将来性のある企業として評価するでしょう。

リスキリング成功のポイント

ここまでに紹介した事例を踏まえて、企業がリスキリングを実施・成功させるために押さえておきたいポイントを5つまとめました。

  • 獲得すべきスキルや対象者を明確に定める
  • リスキリングへの強い意思を経営陣が示す
  • リスキリングに取り組みやすい環境を整備する
  • 学んだことを実践できる場を用意する
  • 長期的な視点でリスキリングを継続させる

獲得すべきスキルや対象者を明確に定める

リスキリングによって、DXの推進や社内エンジニアの育成、語学力の強化など、どのようなスキルを従業員に獲得してほしいのかを明確にしましょう。

獲得させるスキルが決まった後は、リスキリングを行う対象となる従業員の範囲を決めます。全社員にITリテラシーを学ばせるのか、高い専門知識を有する人材を育成するのかで、企業の取り組み内容は大きく変わります。

リスキリングへの強い意思を経営陣が示す

リスキリングを通じて、従業員に新たなスキルを獲得させ、事業の成長や組織の変革を目指すという強い意思を、経営陣が表明することがとても重要です。従業員の自主性に任せるのではなく、企業が主体となってリスキリングに取り組むことを明示することにより、その後の制度・仕組みづくりが進めやすくなります。

リスキリングに取り組みやすい環境を整備する

従業員がリスキリングに集中できる環境を用意しましょう。具体的には、次のようなアクションが有効だと考えられます。

  • 従業員にリスキリングの必要性をしっかりと伝える
  • 研修・セミナーを受けやすいように業務環境を整える
  • 資格取得や試験合格に対するインセンティブ(昇給、ボーナスアップなど)を用意してモチベーションを高める
  • 講座やセミナーを受講中の従業員をフォローできる体制を整える

学んだことを実践できる場を用意する

リスキリングによって得られた技術・スキルを、業務に活かせる環境を用意しましょう。従業員に新たな業務を任せたり、部署を新設したりといった方法が挙げられます。

長期的な視点でリスキリングを継続させる

リスキリングは、短期的に効果が発揮される取り組みではありません。一定期間でプロジェクトを完了させるのではなく、長期的な視点でリスキリングを継続できるような体制を構築しましょう。

まとめ

国内外のさまざまな企業が実施している、リスキリングの事例をまとめて紹介してきました。リスキリングは時代の変化に対応し、事業を成長させるためにとても重要な取り組みです。今回紹介した企業の事例を参考に、リスキリングの目的を定めて従業員の学び直しを支援していきましょう。