ITリテラシーとは?重要性と高めるメリット、教育のポイントを解説
最終更新日:2024.04.24
昨今、デジタル化の急速な進展に伴い、ITリテラシーの重要性がより増しています。
ITリテラシーは個人の能力を指すものですが、企業で働く従業員のITリテラシーが高まると、企業に対しても業務の効率化や生産性の向上、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進など多くのメリットがあります。
そのため、従業員一人ひとりのITリテラシーを向上させる教育に、積極的に取り組む企業は少なくありません。
この記事では、ITリテラシーの概要と重要性、従業員のITリテラシーを高めるための実践的な教育方法などを、詳しく解説します。
ITリテラシーとは
ITリテラシーとは、情報技術(IT)を活用するための基礎的な知識や能力(リテラシー)を示す言葉です。ITリテラシーが高いという場合、ITについてある程度理解し、適切に扱えるスキルを持っていることを指します。
厚生労働省公表のITリテラシーに関する資料によれば、基礎的ITリテラシーは次のことを指します。
現在入手・利用可能なITを使いこなして、企業・業務の生産性向上やビジネスチャンスの創出・拡大に結び付けるのに必要な土台となる能力のこと。いわゆるIT企業で働く者だけでなく、IT を活用する企業(IT のユーザー企業)で働く者を含め、全てのビジネスパーソンが今後標準的に装備することを期待されるもの。
具体的には、
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引用:平成29年度基礎的ITリテラシーの習得カリキュラムに関する調査研究報告書 p.65丨厚生労働省
また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)では、ITリテラシーの定義と必要な知識を整理する「ITリテラシースタンダード(ITLS)フレームワーク」の中で、以下のように定義しています。
社会におけるIT分野での事象や情報等を正しく理解し、関係者とコミュニケートして、業務等を効率的・効果的に利用・推進できるための知識、技能、活用力 |
いずれの定義にしても、ITリテラシーはITに関する知識だけでなく、ITを用いてさまざまな課題を解決できるスキルまでも含む、と言うことができます。
近年は、DXの推進などの観点から、企業においてITの利活用が不可欠となっています。従業員のITリテラシーが高ければ、それがよりスムーズになることから、教育を積極的に実施する企業が増えてきています。
ITリテラシーを構成する3要素
ITリテラシーは、大きく3つの能力に分けることができます。以下で、それぞれについて詳しく説明します。
情報基礎リテラシー
情報基礎リテラシーとは、情報を収集して分析・評価する能力や、それを適切に扱う能力のことです。
インターネット上には大量の情報が溢れていますが、それらがすべて正しい情報・的確な情報とは限りません。情報の真偽を見極め、取捨選択ができなければ、判断を見誤り、不要なトラブルを生んでしまいます。
また、情報は単に収集するだけでなく、それを使いこなすことで初めて価値を生みます。ただ、その際に著作権や個人情報保護などの知識を身につけておかないと、例えばインターネット上の画像や文章を無断で利用して著作権者から訴えられる、といったことを招いてしまう場合があります。
情報基礎リテラシーは、このようなトラブルやリスクを回避しながら、情報を正しく活用する能力を指します。
コンピュータリテラシー
コンピュータリテラシーとは、コンピュータに関する基本知識をもとに、一般的な操作がスムーズにできる能力のことです。
具体的には、ファイル操作(保存、移動、削除など)、アプリケーションソフトの操作(ワードを使った文書作成やエクセルを使ったデータ分析など)、インターネットやメールの利用、ハードウェアの基本的な知識(マウス、キーボード、プリンターなど)が含まれます。
コンピュータを使いこなせることは、作業の効率化やコミュニケーションの円滑化を始め、あらゆるビジネスシーンにおいて役立ちます。
特に最近ではテレワークやWeb会議の普及により、業務を滞りなく進められるように、チャットツールやクラウドサービスなどのITツールをいかにスムーズに使えるかが大切になってきており、そうした意味でもコンピュータリテラシーの重要性が高まっています。
ネットワークリテラシー(インターネットリテラシー)
ネットワークリテラシー(インターネットリテラシー)とは、インターネットを適切に活用するための知識や技術を指します。 具体的には、ネットを介した人権侵害行為への注意、SNSなどでの適切な発信が挙げられます。
近年、従業員のネットリテラシーの低さによって、不適切な情報の発信が行われ、それによって企業の信用が問われるケースが社会問題化しています。ネットワークリテラシーの向上は、企業活動において喫緊の課題です。
ネットワークリテラシーは、この他にも、外部からの攻撃による情報漏えいを防ぐための情報セキュリティなども含まれます。いずれにしても、インターネットを安全かつ効果的に活用するためのスキルと言えるでしょう。
ITリテラシーの低さがもたらすリスク
従業員のITリテラシーが低いと、どのようなリスクが生じるのでしょうか。特に問題視されているのは、以下の点です。
業務効率の低下
ITリテラシーが低いと、デジタルツールを効率的に活用できません。例えば表計算ソフトの機能を十分に理解できていないと、手作業でデータを転記する、関数を使わずに計算を行う、一つのファイルに大量のデータを保存する、などのような非効率な業務が発生します。
このように、ITリテラシーが低ければ業務に余計な手間がかかり、生産性が低下してしまいます。
DXの遅れ
ITリテラシーが低いと、企業のDXが遅れやすくなります。
ITリテラシーの低い従業員は、DXの本質的な意味や必要性の理解に時間がかかりがちです。また、DXでは業務にデジタルツールを積極的に取り入れることが求められますが、ITリテラシーが低いと新しいツールの使い方を理解できず、活用が進まないこともしばしばあります。
このように、ITリテラシーが不足しているとDXの阻害要因となり、企業の競争力低下に直結します。
セキュリティインシデントの発生(情報漏えいリスクなど)
ITリテラシーの低さは、企業にとって深刻なセキュリティインシデントの発生につながります。
情報セキュリティの観点から見ればNGな行動(発信元が不明なソフトをダウンロードする、スパムメールを開封する、SNSに機密情報を投稿するなど)がわからず、そうした行動を自覚がないまま取ってしまうことがしばしばあるためです。
セキュリティに関するインシデントが発生すると、企業の社会的信用の失墜、賠償金請求の発生、売上の減少などの被害を受ける恐れがあります。
SNSでの炎上
ITリテラシーが低いと、SNSでの不適切な発信から多くの人から次々と非難を受ける、いわゆる炎上のリスクが高くなります。
例えば、ある企業では、企業SNSアカウントの担当者が差別的な内容を投稿し、多数の人から非難を受けることになりました。また別の企業では、ある投稿が一部の人の感情を逆撫でするような内容になっていたため、多くの抗議の声が企業に寄せられました。
SNSで炎上が起きるのは、情報セキュリティと同様、その発言がNGであることを把握できていなかったり、投稿を見た人がどう思うのか意識していなかったりするためであり、これはITリテラシーを十分に身についていないことが根本的な要因と言えます。
ITリテラシーを高めるメリット
一方で、従業員のITリテラシーを高めると、企業に以下のようなメリットがあります。
業務効率向上
ITリテラシーを高めることで、業務の効率化が図れます。従業員自身が、ITツールにおける効率のいい使い方を自ずと見つけるようになるためです。
例えば、表計算ソフトにおいて、複雑な計算も簡単に処理できるように、さまざまな関数を使いこなし始めるようになるでしょう。自ら見出した効率的な使い方をチーム全体に共有し、業務プロセス自体の改善につなげてくれる可能性もあります。
このように、ITリテラシーを向上させると、業務をスムーズに遂行し、大幅な時間短縮や生産性の向上につなげられる可能性が高くなります。
DXの促進
ITリテラシーを高めると、DXをよりスムーズに進められるようになります。最新のITツールによる環境改善を実施しても、各従業員がすぐに対応できるようになるためです。
例えば、RPA(Robotic Process Automation)による業務自動化、クラウドサービスの導入を行ったとしても、従業員のITリテラシーが高ければ現場の混乱は最小限で済みます。
ITリテラシーの向上は、DXを加速させ、組織の競争力強化を実現するための重要な要素です。
情報セキュリティの強化
ITリテラシーが向上すると、従業員一人ひとりの情報セキュリティにかかるリスクに対する意識が強まります。
例えば、ソフトをダウンロードするとウイルスに感染する恐れがあるから、開発元が不明なソフトをダウンロードするのはNG、というだけでなく、そもそも不要なソフトをダウンロードしないほうがいい、という判断が自ずとできるようになります。
不明なメールを開くと不正アクセスにつながる可能性がある、カフェなどで仕事をするとショルダーハッキングをされるケースがある、なども先んじて意識し、自ら対策を徹底するようにもなるでしょう。
ITリテラシーが向上すれば、組織全体のセキュリティ対策が強化され、社内の情報資産を適切に守れるようになります。
ITリテラシーを図るテスト
従業員のITリテラシーは、それが低いとさまざまなリスクにつながる一方、高めることができれば企業に多くのメリットをもたらします。
従業員のITリテラシーを向上させたい場合、まずは各従業員がどのくらいITリテラシーを持っているのか、組織全体のITリテラシーはどの程度なのか、を把握することをおすすめします。事前に確かめておくと、どのような教育が有効なのか判断しやすくなるためです。
ITリテラシーの度合いを確かめるテストには、以下のようなものがあります。
テスト名 | 実施者 | 概要 | 費用(税込) |
ネットリテラシー検定 | ネットリテラシー検定機構 | ネットにかかる常識力を問うテストで、情報セキュリティや倫理、法律などに関する知識を可視化できる。月1回実施 | 受験料7,678円
無料の模擬試験問題あり |
ラクテス | サイトエンジン | 採用候補者向けのテストだが、従業員に利用することも可能。エクセルに関する知識操作などの基本から、プログラミングの理解度まで問える | 利用料金9,800円~/月
無料のサンプルテストあり |
ITリテラシーチェック | インソース | パソコンの各部の名称など、基本的な部分からチェックできるテスト | 初期費用110,000円
利用料金1,650円/人 |
ITスキル診断サービス | CTC教育サービス | コンピュータの基礎からシステム開発やプログラミング言語まで問えるテスト | 利用料金44,000円/10人 |
ITリテラシー教育の方法
従業員のITリテラシーを向上させるための教育方法としては、以下のようなものが挙げられます。
社内研修の実施
社内研修は、ITリテラシー教育において、よく用いられている方法です。
社内研修のメリットは、従業員のITリテラシーのレベルに合わせて、段階的な学習プログラムを組める点です。例えば、ITリテラシーがあまり高くない従業員を教育する場合、以下のような構成が考えられます。
【研修プログラム例】
■入門編:ITリテラシーの基礎知識・情報セキュリティの重要性
■実践編:プレゼンツール、表計算ソフトの応用操作・クラウドサービスの利活用方法
■応用編:プログラミング基礎・RPA/AIツールの活用
ただし、自由に設計できる分、研修内容の質や効果は研修実施者の力量に大きく依存します。適切な研修プログラムの構築や講師の選定など、十分な準備が必要です。
IT関連資格の取得支援
IT関連資格の取得支援も、従業員のITリテラシーを向上させる方法の一つです。
IT関連の資格を取得するには、一定レベルのITリテラシーを身につける必要があるため、資格取得を促すと、自ずと従業員のITリテラシー向上につながります。
資格取得の支援方法としては、受験料の補助や研修の実施、合格者への報奨金支給などがあります。資格取得によって自分にどんなメリットがあるのか、明確にわかるようにすることが重要です。
なお、IT関連の代表的な資格には、次のようなものがあります。
資格名 | 実施者 | 概要 | 受験料(税込) |
ITパスポート試験 | 情報処理推進機構 | ITの理解と業務に利活用できるスキルのレベルを問う試験 | 7,500円 |
情報セキュリティマネジメント試験 | 情報処理推進機構 | 情報セキュリティマネジメントを通して組織を守れるスキルのレベルを問う試験 | 7,500円 |
IC3 | オデッセイコミュニケーションズ | コンピュータとインターネットに関する基本的な知識とスキルを持つ人に与える国際資格 | 5,500円
(3科目一括の場合は14,850円) |
MOS | オデッセイコミュニケーションズ | Microsoft Office製品の知識や操作スキルを持つ人に与える資格 | 10,780円~ |
P検 | ベネッセコーポレーション | ITを活用した問題解決力を測る試験 | 1,000円~ |
日商PC検定 | 日本商工会議所 | ITを活用した実践的なスキルとネット社会に対応できるビジネススキルを測る検定 | 4,200円~ |
上記以外にも、さまざまな資格があり、難易度もそれぞれ異なります。
従業員の現在のITリテラシーレベルと難易度にギャップがあるとうまく活用してもらえないため、試験の内容を見て適切なものを導入するようにしましょう。
ITツールの導入と運用
すでに多くの従業員が一定以上のITリテラシーを身につけている場合には、ITツールの導入と運用を始めてみましょう。いずれの知識にも言えることですが、ITに関する知識も、身につけるだけではなく、それを使いこなせるようになって初めて意味のあるものとなります。
導入するITツールとしては、例えばチャットツール、クラウドストレージ、オンライン会議ツールなどが挙げられます。
これらのツールを導入し、運用を始めてもらうことで、身につけた知識が「生きたスキル」となります。どの段階で取り入れるか見極めが難しいところですが、教育方法の一つとして視野に入れることをおすすめします。
ITリテラシー教育実施のポイント
上記の教育を行うときは、次のようなポイントをおさえておくといいでしょう。
学習を支援・推奨する環境の整備
組織内のITリテラシーレベルは、各従業員によって異なります。一律の教育内容では従業員の理解度に差が生じてしまうため、事前にITリテラシーレベルを把握し、それに合わせて教育内容を設計することが重要です。
例えば、以下のようなレベル分けが考えられます。
レベル | 対象者 | 教育内容の例 |
初級 | ITリテラシーが低い層 | PCの基本操作、ソフトウェアの使い方 |
中級 | 一般的なITリテラシーを持つ層 | セキュリティ対策、クラウドサービスの活用 |
上級 | ITリテラシーが高い層 | プログラミング、データ解析 |
このように、従業員のITリテラシーレベルに応じて段階的に教育内容を組み立てることで、効果的な知識・スキルの習得が可能になります。教育内容は定期的に見直し、組織の実態に合わせて適宜更新していくことが重要です。
学習環境の整備
ITリテラシーを教育する上では、従業員自身が学習しやすい環境を整備することもポイントです。従業員自身の学習のモチベーションは、知識やスキルの定着に左右するため、十分にフォローするようにしましょう。
具体的には、以下のような方法が挙げられます。
社内で簡単にeラーニングができるように、普段業務で利用している端末から学習コンテンツにアクセスできるようにする
- 学習がしやすいように学習者本人の業務量を調整するとともに、それによってしわ寄せが起きる従業員にフォローを入れる
- ITリテラシーを身につけた人材に報奨金や報奨品を支給するなど、インセンティブや社内表彰制度を設ける
- 習得したスキルを実際の業務で活用できる場所や環境を提供する
このように、学習の後押しをする具体的な制度や環境を整備することで、ITリテラシーの確実かつスピーディーな向上が実現できます。
ITスキルの適切な評価
教育を受けた従業員のITリテラシーを、適切に評価することも重要です。
個人の理解度や習熟度を的確に把握するようにすることで、従業員も「自分の頑張りをきちんと見てくれている」と思うようになり、その評価に基づいて報酬などを支給すれば「ちゃんと報われる」と思うようにもなります。
また、適切な評価を心がけると、社内研修の内容や資格の選定基準などの見直しもより的確なものとなり、教育プログラムも正しい方向でブラッシュアップできます。
これらの効果が見込まれることから、ITリテラシーの適切な評価は不可欠なポイントと言えます。
なお、ITリテラシーの評価については、四半期に一度など定期的に行いましょう。上記で紹介したITリテラシーの度合いを図るテストを再度受けてもらうとともに、テスト結果をもとに直接面談を行い、つまづいているところや悩みを聞いて学習をよりスムーズに進めるためのアドバイスをする、などをするとモチベーションも低下しにくくなります。
まとめ
従業員のITリテラシーの向上は、企業存続に関わるリスクを避けると同時に、変化の激しい時代において事業活動を続けるために欠かせません。
ただし、知識やスキルを身につけるのは、あくまで従業員です。企業としては、従業員に対して一方的に学習を押し付けるのではなく、モチベーションを高く維持しながら学習に取り組んでもらうように、環境の整備などを従業員目線で行う必要があります。
この記事が、ITリテラシーの向上策の一助となれば幸いです。