保育士等キャリアアップ研修とは?研修内容や受講メリット、費用を解説
最終更新日:2024.07.19
近年、保育士不足が深刻化する一方で、保育の質向上への関心も高まっています。
保育士一人ひとりの専門性やスキルアップが求められるなかで、国が推進しているのが「保育士等キャリアアップ研修」です。
この研修は特定の分野に関する知識や技術を深め、保育士の専門性向上や処遇改善を目的としています。
この記事では、研修の内容や受講メリット、受講方法などをくわしく解説しています。キャリアアップにもつながる研修になるため、研修制度について理解を深め、自身のキャリアプランに役立てていただけると幸いです。
保育士等キャリアアップ研修とは
保育士等キャリアアップ研修とは、保育士の処遇改善や、より質の高い保育を提供することを目的とした研修制度です。
保育士としての専門性を高め、キャリアアップや処遇改善を目指せるだけでなく、保育の質向上にも貢献します。
なお、保育士等キャリアアップ研修は、処遇改善等加算Ⅱの対象となる研修です。そのため、経験年数と受講する研修分野、修了した研修の数に応じて「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」へのキャリアアップを目指せる研修制度となっています。
保育士等キャリアアップ研修の8つの分野
保育士等キャリアアップ研修は保育士の専門性を高めて、処遇改善やキャリアアップにつなげられるよう、8つの分野で構成されています。
乳児保育
乳児保育の分野では、0歳から3歳未満のいわゆる「乳児」の発達段階に合わせた、保育の知識や適切な環境の構築方法を学びます。
具体的な研修内容は以下のとおりです。
・乳児保育の意義
・乳児保育の環境 ・乳児への適切な関わり ・乳児の発達に応じた保育内容 ・乳児保育の指導計画、記録及び評価 |
出典:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージp.2|厚生労働省
乳児保育の研修は、乳児保育の現場で働き、より専門性を深めたいと考えている人や、将来は乳児保育の専門性を活かしてリーダー的な役割を担いたい人に最適です。
幼児教育
幼児教育の分野は、3歳以上の幼児の発達状態に応じた、保育内容や適切な環境づくり、教育方法を学ぶ研修です。
具体的な研修内容は以下のとおりです。
・幼児教育の意義
・幼児教育の環境 ・幼児の発達に応じた保育内容 ・幼児教育の指導計画、記録及び評価 ・小学校との接続 |
出典:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージp.2|厚生労働省
幼児教育の研修は3歳以上を初めて担当する人、子どもの想像力や表現力を伸ばしたい人に最適な研修です。また、小学校教育との連携を強化するための知識やスキルを習得できます。
障害児保育
障害児保育の分野では、障害のある子どもへの理解を深め、個別支援計画の作成や実践的な保育方法を習得します。
具体的な研修内容は以下のとおりです。
・障害の理解
・障害児保育の環境 ・障害児の発達の援助 ・家庭及び関係機関との連携 ・障害児保育の指導計画、記録及び評価 |
出典:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージp.2|厚生労働省
障害児保育の研修は、障害のある子どもたちのニーズに応じた保育を実践したい人、障害の有無に関わらず、すべての子どもたちが共に学び、成長できる環境を整えたい人に最適な研修です。
食育・アレルギー
食育・アレルギーの分野では、食育の重要性やアレルギー対応について学び、園での安全な食事の提供について知識を深めます。
具体的な研修内容は以下のとおりです。
・栄養に関する基礎知識
・食育計画の作成と活用 ・アレルギー疾患の理解 ・保育所における食事の提供ガイドライン ・保育所におけるアレルギー対応ガイドライン |
出典:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージp.2|厚生労働省
食育・アレルギーの研修は、園児の食生活改善に取り組みたい保育士やアレルギー対応に不安を感じている保育士にとって、有益な内容となっています。
保健衛生・安全対策
保健衛生・安全対策の分野では、保育施設における衛生管理や安全対策について学び、保健計画の作成や事故を予防するためのスキルを習得します。
具体的な研修内容は以下のとおりです。
・保健計画の作成と活用
・事故防止及び健康安全管理 ・保育所における感染症対策ガイドライン ・保育の場において血液を介して感染する病気を防止するためのガイドライン ・教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン |
出典:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージp.2|厚生労働省
保健衛生・安全対策の研修は、園内の衛生管理体制を見直し、改善したいと考えている人、子どもの事故防止や安全確保に関するスキルを身に付けたい人に最適な研修です。
保護者支援・子育て支援
保護者支援・子育て支援の分野では、保護者とのコミュニケーションスキルを高め、子育てに関する適切な支援や地域連携について学びます。
具体的な研修内容は以下のとおりです。
・保護者支援
・子育て支援の意義 ・保護者に対する相談援助 ・地域における子育て支援 ・虐待予防 ・関係機関との連携、地域資源の活用 |
出典:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージp.2|厚生労働省
保護者支援・子育て支援の研修は、保護者との関係づくりに悩みを抱えている人、地域の子育て支援ネットワークの構築を目指している人に最適な研修です。
保育実践
保育実践研修の分野では、子どもに対する理解を深め、遊びと環境をとおして質の高い保育を実践するための知識を学べます。
具体的な研修内容は以下のとおりです。
・保育における環境構成
・子どもとの関わり方 ・身体を使った遊び ・言葉、音楽を使った遊び ・物を使った遊び |
出典:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージp.2|厚生労働省
保育実践研修は、保育士資格を持ちながらも実践経験が少ない人、長期間現場を離れていた人を主な対象とした重要な研修です。
マネジメント
マネジメント研修の分野では、主任保育士のもとでミドルリーダーとして活躍するために必要なマネジメントやリーダーシップ、組織運営などについて学びます。
具体的な研修内容は以下のとおりです。
・マネジメントの理解
・リーダーシップ ・組織目標の設定 ・人材育成 ・働きやすい環境づくり |
出典:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージp.2|厚生労働省
マネジメント研修は、より働きやすい環境をつくりたい人や、ミドルリーダーに初めてなった人、目指している人に最適な研修です。
保育士等キャリアアップ研修受講後のキャリアパスと処遇改善
出典:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージp.1|厚生労働省
保育士等キャリアアップ研修を受講することで、保育士のキャリアパスが広がり、処遇改善につながります。
ここでは、研修受講後に目指せる3つの役職と、それぞれの役割についてくわしく解説します。
役職 | 就任要件 | 処遇改善 |
副主任保育士 | ①経験年数おおむね7年以上
②職務分野別リーダーを経験 ③マネジメント+3つ以上の分野の研修を修了 ④副主任保育士としての発令 |
月額40,000円 |
専門リーダー | ①経験年数おおむね7年以上
②職務分野別リーダーを経験 ③4つ以上の分野の研修を修了 ⑤専門リーダーとしての発令 |
月額40,000円 |
職務分野別リーダー | ①経験年数おおむね7年以上
②担当する職務分野の研修を修了 ③修了した研修分野に係る職務分野別リーダーとしての発令 |
月額5,000円 |
出典:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージp.1|厚生労働省
ただし、実際に受けられる処遇改善の金額は、園の規模や職員数、規定などによって異なります。そのため、実際に処遇改善される金額は、勤務先の園に確認する必要があります。
副主任保育士(ライン職)
副主任保育士は、主任保育士を補佐しながら、園のミドルリーダーとしてのリーダーシップを発揮し、園の運営や質向上に貢献する重要な役職です。
具体的には、日々の保育業務の管理・調整、若手保育士の指導・育成、保護者対応の強化など、幅広い業務を担います。
副主任保育士になるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 経験年数おおむね7年以上
- 職務分野別リーダーを経験
- マネジメント+3つ以上の分野の研修を修了
- 副主任保育士としての発令
なお、副主任保育士に任命されることで、最大40,000円/月の処遇改善を受けられます。
専門リーダー(スタッフ職)
専門リーダーは、職務分野別リーダーでの経験を活かし、園全体の保育レベルを向上させるうえで重要な役職です。
保育現場のスペシャリストとして、ほかの保育士に指導や研修するなど、リーダーシップも求められています。
専門リーダーになるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 経験年数おおむね7年以上
- 職務分野別リーダーを経験
- 4つ以上の分野の研修を修了
- 専門リーダーとしての発令
なお、専門リーダーに任命されることで、最大40,000円/月の処遇改善を受けられます。
職務分野別リーダー
職務分野別リーダーは、保育士が最初に任命される役職です。主な役割は、担当分野のリーダーとして保育実践の質の向上、ほかの保育士への指導やサポートが挙げられます。
専門リーダーになるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 経験年数おおむね3年以上
- 担当する職務分野の研修を修了(保育実践・マネジメント以外の6分野)
- 修了した研修分野の職務分野別リーダーとしての発令
なお、職務分野別リーダーに任命されることで、最大5,000円/月の処遇改善を受けられます。
保育士等キャリアアップ研修で得られるメリット
保育士等キャリアアップ研修を受講することで、さまざまなメリットを受けられます。ここでは、主に3つの重要なメリットについて、くわしく解説していきます。
スキルアップ・専門性の深堀り
保育士等キャリアアップ研修では、上記で紹介した8つの分野の専門的な知識とスキルを習得できます。これにより、日々の保育業務における質の向上が期待できます。
たとえば、「障害児保育」の分野では、特別な配慮が必要な子どもたちへの適切な対応方法を学べ、よりインクルーシブな保育環境の構築に貢献できるでしょう。
昇給・キャリアアップの可能性
保育士等キャリアアップ研修を受講することで、昇給やキャリアアップの可能性が広がります。
上記でご紹介したとおり、研修を修了し、役職に就くことで以下の月額手当が支給されます。
- 副主任保育士:最大40,000円/月
- 専門リーダー:最大40,000円/月
- 職務分野別リーダー:最大5,000円/月
このほかにも、さらなる質の向上として、全職員を対象に6,000円/月程度の処遇改善も実施されています。
なお、キャリアアップの道筋としては、次のようなステップが考えられるでしょう。
- 経験年数3年程度で職務分野別リーダーを目指す
- 4つ以上の分野の研修を修了し、専門リーダーへ
- マネジメント研修を含む、複数分野の研修修了で副主任保育士へ
また、キャリアアップ研修の修了は、各都道府県だけでなく、全国共通で認められています。一度取得した修了証にも期限がないため、転職時や保育士へ復職する際にアピールポイントとなるでしょう。
保育現場における役割拡大
保育士等キャリアアップ研修を受講することで、保育現場での役割が大きく広がります。研修で得た専門知識を活かし、さまざまな場面でリーダーシップを発揮できるようになるでしょう。
具体的には、以下のような役割拡大が期待できます。
- 専門分野のアドバイザー
研修で学んだ分野(乳児保育、障害児保育など)において、ほかの保育士への助言や指導ができる - 保護者支援の中心的存在
子育て相談や保護者とのコミュニケーションにおいて、より適切な対応ができる - 園内研修の企画・実施
自身の経験と研修で得た知識を活かし、園内での勉強会や研修会を主導的に進められる - 地域連携の窓口
地域の子育て支援センターやほかの保育施設との連携において、中心的な役割を担える - 安全管理のリーダー
事故防止や緊急時の対応など、園全体の安全管理において重要な役割を果たせる
このように、キャリアアップ研修を通じて得た専門性を活かすことで、保育士としての役割が大きく拡大し、保育園全体の質向上に貢献できます。
同時に、自身のキャリアアップにもつながり、やりがいのある保育士生活を送れるでしょう。
保育士等キャリアアップ研修の注意点
保育士等キャリアアップ研修は、保育士としてのスキルアップやキャリアアップを目指すうえで、非常に有効な制度です。しかし、研修を受けるにあたっては、いくつかの注意点があります。
処遇改善加算分の給与がアップするわけではない
保育士等キャリアアップ研修を修了したからといって、必ず処遇改善加算分の給与がアップするわけではありません。
各園の判断によって支給されるため、勤めている職場によって給与のアップ額が異なる点に注意しましょう。
副主任保育士及び専門リーダーの場合は月額40,000円、職務分野別リーダーの場合は月額5,000円が処遇改善として加算されます。しかし、役職者全員が処遇改善の加算金をもらえるわけではないのです。
具体的には、以下のように支給基準が定められています。
・副主任保育士及び専門リーダー:おおむね2分の1の対象者に40,000円以上支給
・職務分野別リーダー:おおむね5分の1の対象者に5,000円以上の支給 ・それ以外の職員への配分は各園に任されている |
処遇改善の残額は、5,000〜40,000円の範囲でほかの職員に分配できるということです。
多くの園では公平に分配するために、職務内容を明確にした事務分掌の作成や、組織図の整備、さらには昇格基準を明確にした昇格制度の確立などに取り組んでいます。
令和5年度から適用されている研修修了要件
保育士等キャリアアップ研修の受講修了要件は、当初令和4年度から適用される予定でしたが、令和5年度より段階的に適用されることになりました。
本来、令和4年度から副主任保育士と専門リーダーに就くためには、4分野(60時間以上)の研修修了が必要です。
しかし、コロナウイルスの影響などで令和4年度は要件を適用せず、令和5年度から段階的に引き上げることになりました。
- 令和4年度:要件適用なし
- 令和5年度:1分野(15時間以上)
- 令和6年度:2分野(30時間以上)
- 令和7年度:3分野(45時間以上)
- 令和8年度:4分野(60時間以上)
なお、職務分野別リーダーは、令和6年度から1分野(15時間以上)の研修修了が要件です。
保育士等キャリアアップ研修の受講方法
実際に保育士等キャリアアップ研修を受講するには、どのようにすればよいのでしょうか?
ここでは、研修の実施機関や受講資格、費用、研修開始までの流れについて解説します。
研修の実施機関
保育士等キャリアアップ研修は、都道府県が主体となって実施する場合と、都道府県知事が指定する研修機関によって実施される場合があります。
厚生労働省のホームページでは、保育士等キャリアアップ研修に関する都道府県ホームページを一覧にしているので、お住まいの地域の研修機関を探してみてください。
なお、キャリアアップ研修の修了は全国共通で認められているため、どこの研修機関で修了しても、全国でその資格が通用します。
受講資格と費用
研修の受講資格は、基本的には保育士資格を保有していることが条件となります。実際に役職者へキャリアアップする場合は、一定の実務経験年数などが必要です。
研修費用は、実施機関や研修内容によって異なりますが、多くの場合は低価格で受講できます。都道府県によっては、受講料の全額または一部を助成しているところもあります。
研修開始までの流れ
研修開始までの流れは、以下のとおりです。
- 研修内容の確認
各都道府県のホームページや研修実施機関のWebサイトで、研修内容やスケジュールを確認する - 受講申し込み
研修実施機関が定める方法で申し込む - 受講決定
応募者多数の場合は選考が行われ、受講が決定した場合は、研修実施機関から連絡がある - 研修開始
研修開始日に、指定された場所で研修を受講する
キャリアアップ研修修了証
保育士等キャリアアップ研修を受講し、一定の要件を満たした分野については、都道府県または指定研修実施機関から「保育士等キャリアアップ研修修了証」が交付されます。
この修了証は全国で効力があり、期限も定められていません。
保育士としてのスキルアップを証明する重要な書類になるため、就職活動や転職活動の際にアピールポイントとして活用できます。
保育士等キャリアアップ研修を受けた保育士の声
保育士等キャリアアップ研修を受講した保育士からは、「研修で学んだことが日々の保育に役立っている」「キャリアアップへの道筋が明確になった」といった声が聞かれます。
たとえば、乳児保育の研修を受講した保育士からは、「これまで経験に頼っていた部分が多かったが、乳児の発達段階や適切な関わり方について体系的に学べた。研修で得た知識を活かして、より質の高い保育を提供していきたい。」という声が寄せられています。
また、マネジメント研修を受講した保育士からは、「ほかの保育士とコミュニケーションを取りながら、チームとして保育を進めていくことの大切さをあらためて実感した。研修で学んだことを活かして、より働きやすい職場環境を作っていきたい。」という声も聞かれます。
まとめ
保育士等キャリアアップ研修は保育士の専門性向上、キャリアアップ、処遇改善を目的とした研修制度です。
保育士等キャリアアップ研修を受講することで、保育の質向上やキャリアアップを目指せるだけでなく、保育士としてのやりがいや自信にもつながります。
保育士等キャリアアップ研修は、保育士自身の成長はもちろん、子どもたちの健やかな成長、そして日本の保育の質向上に大きく貢献するでしょう。
保育士としてのスキルアップやキャリアアップに関心のある人は、ぜひ受講を検討してみてください。