海外で主流の”アプレンティスシップ(徒弟制度)”を徹底解説。
最終更新日:2025.01.22
リスキリングについて調べていく中で、「アプレンティスシップ(徒弟制度)」という言葉を耳にしたことはありませんか?本記事では、近年日本でも注目を集め、企業の人材育成戦略や個人のキャリア形成において重要な役割を担う「アプレンティスシップ」について、その定義からメリット、日本における現状と課題、今後の展望、そしてリスキリングとの関連性まで、多角的に徹底解説します。
アプレンティスシップの定義と歴史
アプレンティスシップとは
アプレンティスシップとは、一言で表すと「実践的な職業訓練制度」です。徒弟制度とも呼ばれ、見習い期間を通じて、経験豊富な指導者(メンター)から直接指導を受けながら、実務に必要な知識、技術、技能を習得していく人材育成の手法です。
リスキリングの重要性が再認識されつつある現代において、リスキリングを実施するためにアプレンティスシップは非常に有用な手段として注目を浴びています。現代における一般的なアプレンティスシップとは「未経験の求職者に対し、給与を払いつつ、本採用に先行してリスキリングを行うこと」と定義されています。
企業にとってアプレンティスシップは、自社の事業や業務に最適化された、優秀な人材を育成する有効な手段といえるでしょう。
海外においてアプレンティスシップはリスキリングを推進するうえで主流の制度であり、イギリスやアメリカでは政府の施策として強力に推進されています。
日本では、政府が発表する「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」のなかでアプレンティスシップが取り上げられましたが、日本における認知度はまだまだ低いのが現状です。
アプレンティスシップの起源と歴史的変遷
アプレンティスシップの起源は古く、中世ヨーロッパのギルド制度に遡ると言われています。当時のギルドでは、親方が徒弟を住み込みで雇い、技術を伝授していました。この徒弟関係は、単純な労働力の提供にとどまらず、技術の継承と発展に大きな影響を与えていました。
近代以降、産業革命による大量生産化や分業化が進むにつれ、伝統的な徒弟制度は衰退していきました。しかし、高度な専門性や実践的なスキルが求められる現代において、アプレンティスシップは再び注目を集めています。特に、ドイツやスイスなどのヨーロッパ諸国では、職業教育訓練(VET)の重要な柱として、アプレンティスシップが広く普及しています。これらの国々では、企業と教育機関が連携し、理論と実践を組み合わせた質の高い職業訓練を提供することで、若者の失業率を低く抑え、経済発展に貢献しています。
現代のアプレンティスシップにおける特徴
現代におけるアプレンティスシップは、単なるOJTとは一線を画します。OJTが主に既存の従業員に対して、業務に必要な知識やスキルを短期間で習得させることを目的としているのに対し、アプレンティスシップは、より長期的な視点に立ち、未経験者を対象に、体系的かつ包括的な職業訓練を提供する点に特徴があります。
具体的には、以下のような特徴が挙げられます。
特徴 | 説明 |
---|---|
長期的な育成期間 | 数ヶ月から数年単位の長期的なプログラムを通じて、じっくりと時間をかけて人材を育成します。 |
実践と理論の融合 | 実際の業務に従事しながら(OJT)、並行して教育機関や職場で専門知識を学ぶ(OFF-JT)など、実践と理論を効果的に組み合わせたカリキュラムが組まれます。 |
明確な評価基準 | プログラムの進捗状況や成果を評価するための明確な基準を設け、人材の成長を客観的に把握することができます。 |
資格取得の支援 | プログラム修了後には、国家資格や業界認定資格などの取得を支援する制度が整備されている場合もあります。 |
アプレンティスシップのメリット:企業と従業員双方の成長を促進
アプレンティスシップは、企業と従業員双方に多くのメリットをもたらします。企業にとっては、自社のニーズに合致した優秀な人材を確保し、競争力を強化する有効な手段となります。一方、従業員にとっては、給与を得ながら実践的なスキルを身につけ、キャリアアップの機会を得られる貴重な制度です。
企業が得られるメリット:実践力のある人材確保と定着率向上
アプレンティスシップによって企業が得られるメリットは、具体的に下記が挙げられます。
メリット | 詳細 |
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自社に最適な人材の育成 | アプレンティスシップを通じて、企業は自社の事業内容や業務プロセスに精通した、即戦力となる人材を育成することができます。 |
採用コストの削減 | 新卒採用や中途採用に比べて、採用にかかるコストを削減できる可能性があります。 |
優秀な人材の再配置 | AIの台頭等による業務内容が変更される際、優秀な人材を再教育することで生産性が上がるとともに、社内ナレッジ喪失を防ぎます。 |
組織の活性化 | 若手社員の育成を通じて、組織に新たな活力やイノベーションが生まれる可能性があります。 |
技術・技能の継承 | 経験豊富なベテラン社員から若手社員への技術・技能の継承を円滑に進めることができます。 |
企業イメージの向上 | 人材育成に積極的に取り組む企業として、社会的評価やブランドイメージの向上に繋がります。 |
従業員が得られるメリット:給与を得ながら実践的スキルの習得
アプレンティスシップによって従業員が得られるメリットは、具体的に下記が挙げられます。
メリット | 詳細 |
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実践的なスキルの習得 | 実際の業務を通じて、現場で求められる実践的なスキルを身につけることができます。 |
経済的負担の軽減 | 給与を得ながら学ぶことができるため、経済的な負担を軽減しながらスキルアップが可能です。 |
キャリアアップの機会 | アプレンティスシップを通じて、専門的な知識や技術を習得することで、将来的なキャリアアップの可能性が広がります。 |
資格取得の支援 | プログラム修了後には、国家資格や業界認定資格などの取得を支援する制度が整備されている場合もあり、キャリア形成に有利です。 |
日本におけるアプレンティスシップの現状と課題
近年、日本でもアプレンティスシップへの関心が高まっています。しかし、欧米諸国に比べると、その普及率はまだまだ低いのが現状です。日本におけるアプレンティスシップの現状と課題について、詳しく見ていきましょう。
日本におけるアプレンティスシップの普及状況
日本では、厚生労働省が推進する「日本版デュアルシステム」や「ジョブ・カード制度」など、アプレンティスシップに類似した制度が存在します。しかし、これらの制度はまだ十分に認知されておらず、導入企業数も限定的です。海外では、政府の施策として既に取り組みが開始されているにもかかわらず、日本においてはそもそも認知度が低く、ようやくアプレンティスシップという言葉を知っている人が現れてきた、といった状況です。
日本におけるアプレンティスシップ普及の課題
日本におけるアプレンティスシップ普及の課題は、具体的に下記が挙げられます。
課題 | 詳細 |
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制度の認知度不足 | アプレンティスシップという言葉自体、まだ一般的に広く認知されているとは言えない。 |
企業の理解不足 | アプレンティスシップのメリットや導入方法について、十分に理解している企業は少ないのが現状。 |
教育機関との連携不足 | 企業と教育機関との連携が不十分であり、効果的なカリキュラムの設計や実施が難しい場合がある。 |
法制度の整備 | アプレンティスシップを推進するための法制度が十分に整備されていないという指摘もあります。 |
社会的評価の低さ | 日本では、大学進学を重視する傾向が強く、アプレンティスシップに対する社会的評価が低いという問題があります。 |
アプレンティスシップの今後:デジタル化時代における重要性とリスキリングとの関連性
デジタル化の進展や産業構造の変化が加速する現代において、アプレンティスシップはますます重要性を増しています。特に、IT業界など、高度な専門性と実践的なスキルが求められる分野では、アプレンティスシップは効果的な人材育成手法として注目されています。
デジタル化時代におけるアプレンティスシップの役割
デジタル技術の急速な発展に伴い、企業にはDX(デジタルトランスフォーメーション)への対応が求められています。アプレンティスシップは、デジタル人材の育成においても有効な手段です。例えば、プログラミング、データ分析、AI開発などの分野で、アプレンティスシップを活用することで、実践的なスキルを持つデジタル人材を育成することができます。
2023年世界経済フォーラムによる報告によると、今後5年間において創出される雇用より、消失する雇用のほうが多いと報告されています。他にも、デジタル化時代によって生まれる新たな業務内容に対応するため、リスキリングとアプレンティスシップは必要不可欠と言えます。
リスキリングとの関連性:社会人のリスキリングを支援
アプレンティスシップは、若年層だけでなく、社会人のリスキリングにも有効です。新しいスキルを習得し、キャリアチェンジを目指す社会人にとって、アプレンティスシップは実践的な学びの場となります。例えば、IT業界への転職を目指す社会人が、プログラミングのアプレンティスシップ・プログラムに参加することで、実務経験を積みながら、必要なスキルを習得することができます。
アプレンティスシップの今後の展望:日本における普及に向けて
日本でアプレンティスシップを普及させるためには、制度の認知度向上、企業の理解促進、教育機関との連携強化、法制度の整備など、様々な課題に取り組む必要があります。また、時代背景による雇用環境の変化に対して強く警鐘を鳴らすと同時に、官学民が連携し、アプレンティスシップを推進することで、日本の人材育成のあり方を大きく変革する可能性を秘めています。アプレンティスシップは、企業と個人の成長を促進し、日本の未来を創造する鍵となるでしょう。