生成AI時代に必要なスキル12選 習得に役立つ資格も紹介
最終更新日:2024.03.21
今、生成AI(ジェネレーティブAI)によってビジネス界が大きく変わりつつあります。
この流れに乗り遅れないようにするためには、従業員一人ひとりが生成AIを使いこなす能力を身につけること、企業がそれをサポートすることが重要です。
この記事では、生成AI時代に求められるスキルをまとめています。スキル習得をより効率化させる資格もご紹介していますので、従業員の教育を担当する人はぜひ参考にしてください。
生成AI(ジェネレーティブAI)とは
生成AIとは、テキストや画像、音声など新しいコンテンツを生成できるAIの一種です。OpenAIが「ChatGPT」と呼ばれる生成AIを2022年11月に公開したのを皮切りに、急速に注目を集めています。
これまでのAIは自然言語処理の能力が限定的で、与えられた一定のルールに基づいて認識や識別を行うのみにとどまっており、チャットボットなど一部の業務に活用されるにすぎませんでした。
一方、生成AIはより高度な自然言語処理を可能とする大規模言語モデル(LLM)によって、膨大なテキストデータを学習、さらにその関係性を読み解いたうえで新たなコンテンツを生み出せるのが特徴です。生成AIは、その汎用性の高さから、製品開発やマーケティング、広告制作などさまざまなビジネスでの活用が期待されています。
生成AIがビジネス界にもたらす影響
経済産業省が主体となって開かれている「デジタル時代の人材政策に関する検討会」では、2023年8月に公表した「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」のなかで、生成AIがビジネス界にもたらす影響を次のようにまとめています。
・生成AIは、使いやすさにより年代を問わず広まり、専門業務の代行にも寄与
・ホワイトカラーの業務を中心に、生産性や付加価値の向上等に寄与、大きなビジネス機会を引き出す可能性 ・企業視点では、生成AI利用によるDX推進の後押しを期待 |
生成AIは、文章作成やデザイン、音楽作りなどのクリエイティブなプロセスを支援する能力を持ちます。生成AIに質問をすると、思い浮かばなかったアイデアや、思わぬ視点からの業務効率の方法を提案してくれるケースは少なくありません。生成AIは、専門業務をすべて代行することは現時点では難しいものの、専門業務にかかる時間とコストを削減できるポテンシャルを秘めています。
また、これまでホワイトカラーが担ってきた事務作業の負担軽減にも寄与します。膨大なデータからパターンを学習し、新たなコンテンツを生み出す生成AIにとって、毎日の業務で求められるレポート作成やテンプレートが決まっているプレゼンテーション資料の準備などは得意分野です。生成AIによって、今まで時間がかかっていたルーティンワークがスピーディーに処理されるようになるでしょう。
さらに生成AIによるアイデアの提供、生産性の効率アップは、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進します。DXとは、企業がテクノロジーを活用してビジネスプロセスを変革し、競争力を向上させる取り組みのことです。
これまで「DXに取り組む」と言っても、例えば会計部門にITツールを導入してデジタル化をする、チャットボットを活用して顧客対応を自動化する、など局所的な対応にとどまるケースが少なくありませんでした。これには自然言語処理技術の限界や、デジタル化に抵抗感を覚える会社の風土などさまざまな要因があるでしょう。
生成AIは、その特徴から、局所的に導入されたツール間でのデータ連携や、ツールの最適な利用方法をサポートすることができます。部分的なデジタル化にとどまらず、会社全体のDX推進に必要な役割を果たしてくれるのです。
いずれにしても、生成AIがもたらすインパクトは決して小さくなく、これからも大きくなることが予想されます。
生成AI時代に必要なスキル
生成AIがビジネス界にもたらすインパクトは大きく、さまざまな仕事のあり方が変わることが予想されます。こうした時代の流れのなかで求められるのは、従業員一人ひとりが生成AIを使いこなすためのスキルです。
生成AIを使いこなすマインド、気構え | ・学習思考
・データ思考 ・倫理的意識 |
生成AIをフル活用する実践スキル | ・企画力
・課題発見力 ・プロジェクト推進力 ・プロンプトエンジニアリング力 |
AIの基本理解 | ・AIの基本知識
・AIの技術的理解 ・ビジネスインパクトの理解 |
生成AIに関する最新トレンドの把握 | ・事例収集力
・ニュースのキャッチアップ |
企業においては、従業員に、特に以下を身につけてもらうことが大切になるでしょう。以下、詳しくご紹介します。
生成AIを使いこなすマインド、気構え
学習思考
学習思考とは、生成AIを使いこなすために、生成AIに関する知識を継続的に学び、理解し、適応する姿勢を指します。
例えば、生成AIのアルゴリズムやモデルが更新された際、それらの変更点を素早く理解し、自身の業務にどう活かすかを考える。生成AIの新たな利用可能性や問題点が発見されたら、それを自己の知識として吸収し、次のステップにつなげるために必要なことを考察する、などが挙げられます。
こうした学習思考を持つために大切なのは、自分が持っている知識はアップデートの余地が常にあると意識することです。「今の考え」に凝り固まらない姿勢が、生成AIを使いこなすスキルの醸成につながります。
データ思考
データ思考とは、アナログ形式で保存されている情報をデータに置き換える、収集したデータから解決策を導き出す、などデータにもとづいて意思決定や問題可決を行う思考のあり方を指します。
生成AIは、膨大な学習データをもとにコンテンツを生成するAIであり、データがそもそもなければ活用できません。
日頃の業務においてデータ化されていないものをどうすればデータ化できるか。その姿勢が、生成AIを使いこなす第一歩となります。
倫理的意識
生成AIを用いるにあたって、倫理的意識は必要不可欠なスキルの一つです。AIは誤った対話データや偏った情報を学び取ってしまうと、それらを反映した結果を出力する可能性があります。そのため、AIが公正で公平な結果を出力するよう、使用するデータの選定やAIの活用方法について、倫理的視点から常に考慮する必要があります。
また、利便性の向上だけでなく、プライバシーの保護や情報漏洩の防止など、AI活用に伴うリスクについても理解し、適切な対策を講じることが求められます。具体的には、個人情報を含むデータの取り扱い方や、AIの誤動作による損害を防ぐための対策などは、倫理的意識を持つことで見えてくる課題です。
倫理的意識を持つためには、常に生成AIのリスクを考えるだけでなく、他者とそれについて議論することです。自分とは異なる意見に常に耳を傾けることで、倫理的視野が広がり、人々の信頼を得られるAI活用が可能となります。
生成AIをフル活用する実践スキル
企画力
企画力とは、問題解決や新たな価値を提供するための計画を立案し、その実行に必要なリソースを適切に配分する能力を指します。生成AIを活用する際には、生成AIの特性を理解し、その力を最大限に発揮できるプロジェクトの設計・計画が求められます。
例えば、生成AIが優れた結果を出すためには適切なデータの用意が必要となりますが、どのデータをどのように集めるか、どの程度の量が必要か、といった判断が重要となります。また、生成AIはその出力結果に多様性があるため、発生可能な問題やリスクを予測し、その対策を計画に盛り込むことも求められます。
企画力を身につけるためには、生成AIの活用事例を多く見る必要があります。さまざまな使われ方を知ることで、生成AIの動作原理への理解が深まり、活用方法のアイデアをふくらませる力が磨かれていきます。
課題発見力
生成AI時代において重要なのが、現状の業務の問題点や改善可能な点を見つけ出す課題発見力です。
生成AIは、大量のデータから新たな結果を生み出す力を持っています。しかしそこから実際の課題を見つけ、解決策を導き出すのは人にしかできません。この意思決定は、生成AIが進化を続けるほどに重要な役割となります。
課題発見力を身につけるには、日々の業務や生活の中で問題意識を持ち、常に改善できる点はないかと自問自答する態度が重要です。他の人の意見を聞くことで新たな視点を得ることも大切になります。
プロジェクト推進力
生成AIを活用したプロジェクト成功のためには、計画立案から実行、評価までを円滑に進めるプロジェクト推進力が欠かせません。
これはどのプロジェクトにも言えることですが、生成AIを活用したプロジェクトの場合、ここにプロジェクトメンバーにおける生成AI利用の管理も含まれます。
例えば、生成AIを活用した新商品開発では、ターゲットとなるマーケットの傾向やニーズを生成AIを用いて分析させる、といった進め方が考えられます。しかし、プロジェクトメンバーが生成AIに慣れていない場合、思っていたよりも生成AIが使われず、プロジェクトの進捗や成果に影響を与える可能性があります。
プロジェクトリーダーとしては、プロジェクトを計画するときに生成AIをどういったところで用いるのか、具体的にどう使うのか、それによって業務にどんな影響があるのか、などをプロジェクトメンバーに事前に伝えておく必要があります。そのためにも、プロジェクトメンバーと日頃からコミュニケーションを取ることが重要です。
プロンプトエンジニアリング力
プロンプトエンジニアリング力とは、生成AIに入力する命令文(プロンプト)を開発したり最適化したりする能力を指します。生成AIをフル活用するためには、AIの動作原理や特性を理解し、それらを踏まえたうえでのプロンプト作成が必要となります。
例えば、生成AIを用いて記事を作成するとき、生成AIに「科学記事を書いて」という指示を与えるだけでは、必ずしも具体的な内容やターゲット読者を想定した記事は生成されません。
一般的に、質の高いプロンプトは、生成AIにしてほしいタスク(指示)、タスクの理解が深まる補足的な情報(背景)、タスク実行に必要な情報(入力データ)、出力するデータの形式やフォーマット(データの出力形式)が含まれています。また、できるだけ項目に分けて与えると、その精度が高まります。
「科学記事を書いて」の場合、以下のようにすると、より目的に沿った記事のたたき台を作ることができます。
テーマ:◯◯◯◯という科学技術に関する解説記事
補足情報:◯◯◯◯という技術が注目されているが、多方面から批判されていて技術そのものの内容が見えづらくなっている。技術内容を説明したうえで、賛否を整理しながら今後の展望を明確にしてほしい 文字数:5,000字程度 文体:ですます調 注意事項:◯◯◯◯という科学技術に慣れ親しんでいない人がメインの読者のため、専門用語については適宜補足説明を入れてほしい |
プロンプトエンジニアリング力は、業務の効率化に特に直結するスキルです。日頃から生成AIに触れたり、本やSNSで情報収集をしたりしながら常に学ぶことが推奨されます。
生成AIの基本理解
AIの基礎知識
AIの基礎知識は、生成AIをより理解し、適切に活用するための基盤です。特にAIの特徴と種類をおさえておくと、現在の生成AIができること・できないことが見えやすくなります。
AIの特徴はさまざまですが、一言で言えば「人間のような頭の良さを連想させる点」にあります。AIの中には、ひとつのタスクをより早く正しく処理できるようになる特化型AIと、さまざまな情報に対して自ら考えて応答する汎用型AIがあります。
特化型AIはこれまでビジネスのなかで局所的に用いられてきた識別AI、予測AIなどが該当します。一方、生成AIは、汎用型AIのようなふるまいを見せますが、まだ限定的な部分もあるため、着実に後者に近づいているAIと位置づけられています。
AIの技術的理解
AIの技術的理解とは、AIの基礎的なアルゴリズムやモデル、それらの特性を把握し、どのように動作するのかを理解することです。具体的には、以下の3点が欠かせない要素となります。
- データの前処理:AIは大量のデータを扱うが、そのデータは必ずしも整っているわけではない。不完全なデータから有用な情報を引き出すためには、データの前処理が重要となる。
- モデルの構築:モデルはAIの心臓部とも言える要素。生成AIでは、大規模言語モデルが用いられ、多量の学習データを収集し、その関係値を読み解きながら命令文に対する回答を出力する。
- チューニング:モデルの性能を最大限に引き出すために、入力データやパラメータの修正を行う技術のこと。
AIの技術的理解を深めることで、生成AIのふるまいを理解し、より効果的に活用する道が開けます。
ビジネスインパクトの理解
生成AIの導入や活用がビジネスにどのような影響を及ぼすか理解することは、企業の成長と競争力を左右します。具体的には、AI技術が生産性を向上し、新たなビジネスチャンスを創出する一方で、技術的な課題や倫理的な懸念を引き起こす可能性があります。これらの要素を踏まえたうえで、AIを事業戦略に適切に組み込むことが求められます。
AIの基本的および技術的な知識、ビジネスインパクトに関する情報は多くあります。情報源は、正しい方向で理解を深めるためにも信頼できる機関にすることが重要です。
生成AIに関する最新トレンドの把握
事例収集力
生成AIは今、多くの企業がこぞって取り入れ始めています。そうした事例を集める力は、生成AIを活用するうえでのヒントを得るために不可欠です。以下のステップを繰り返すと、収集スキルが磨かれていきます。
- 情報源の確保:科学技術関連のニュースサイト、専門誌などで最新情報を定期的にチェックする
- 情報の整理・分析:収集した事例をテーマごとに整理し、どのような課題解決のために生成AIが活用されているかを分析する
- 知識の共有・活用:分析した情報をプロジェクトメンバーと共有し、新たな取り組みに活用する
ニュースのキャッチアップ
生成AIの事例を収集して活用するスキルだけでなく、専門メディアや各種SNSを定期的にチェックし、新たなアルゴリズムの開発や、関連技術の発表など、最新の動向を追うスキルも大切です。
生成AIのトレンドを把握しておくと、他社の事例では見られない、生成AIを使った新たなビジネスチャンスを見つけやすくなります。また、外部のAI専門家との情報交換や協力もスムーズに進められるようにもなり、プロジェクトの成功にもつながりやすくなります。
生成AIを使いこなすのに役立つ資格
生成AIを使いこなすためのスキルはさまざまで、従業員が自力で身につけることが難しいものもあります。
そこで、おすすめしたいのが、生成AIに関連する資格取得の導入です。学習を希望する従業員に、以下のような資格取得を提案すれば、必要な知識を効率よく身につけてもらえるようになります。
生成AIパスポート
生成AIパスポートとは、生成AI技術に関する知識と技能を認定する資格です。
AIの基本知識から、生成AIの原理、活用法に至るまで、広範な領域がカバーされているため、従業員に対策勉強を進めてもらうことで、自ずと生成AIに関する知識を身につけた人材の確保につながります。
公式Webサイト:https://guga.or.jp/outline/
Generative AI Test
Generative AI Testとは、生成AIの知識を評価するための試験です。この試験はミニテストながら、生成AIに関する基本的な情報から、実際の使用法や活用方法、リスクまでをカバーしています。
この試験合格のために対策勉強をすれば、生成AIを活用するための基本的な知識とスキルを身につけられます。
公式Webサイト:https://www.jdla.org/certificate/generativeai/
G検定
G検定は、AIやディープラーニングなどの知識を評価するための認定試験です。合格するためにはAIや関連技術を一から学ぶ必要があり、学習者は学習を進めることで生成AIを使いこなすためのスキルを身につけられます。
また、G検定は合格率が毎回60〜65%程度と初めての人でも取り組みやすいとされており、多くの企業が採用している資格となっています。
公式Webサイト:https://www.jdla.org/certificate/general/
E資格
E資格は、生成AIの基礎知識を確認するための資格です。具体的には、生成AIの基本的な概念や原理、その応用領域などを理解していることを証明します。
E資格の取得推奨も、従業員の生成AIの理解を深め、使いこなすスキルを向上させるのに有用な手段と言えます。
公式Webサイト:https://www.jdla.org/certificate/engineer/
まとめ
生成AIを使いこなすスキルは、生成AIがビジネス界にもたらすインパクトを考えると、非常に重要なものといえます。
ただ、従業員のモチベーションのみにスキル習得を委ねると思うようにはいかないでしょう。企業側も、定期的に面談をしたり、スキルを習得したあとのキャリアを一緒に考えたりするなどして、学習継続のサポートをしていく必要があります。