ジョブ型雇用とは|メンバーシップ型との違いやメリット・デメリット、導入事例を解説

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最終更新日:2024.09.13

ジョブ型雇用とは ジョブ型雇用とは、職務(ジョブ)を明確に定義したうえで、 適した人材を採用する手法のこと メンバーシップ型との違い メンバーシップ型:人材に対して職務を割り当てる ジョブ型:職務に対して人材を割り当てる ジョブ型雇用のメリット 企業側 01 スキルや技術のある人材を採用できる 02 成果に応じて従業員を評価できる 03 業務内容に合致した人材を確保できる 社員側 01 キャリアを形成しやすい 02 スキルアップの機会が増加する 03 適切な評価を受けられる

近年、日本の大手企業で導入が進む「ジョブ型雇用」。欧米では主流の雇用形態ですが、従来の日本型雇用「メンバーシップ型雇用」となにが違うのでしょうか。

この記事では、ジョブ型雇用の定義や注目されている理由、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。 メンバーシップ型雇用との違いも解説していますので、ジョブ型雇用の導入を検討している企業担当者や、ジョブ型雇用について知りたい人の参考になれば幸いです。

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1. ジョブ型雇用とは

近年、大手企業をはじめ、日本ではジョブ型雇用の導入が進んでいます。そこで、欧米で主流のジョブ型雇用について解説し、あわせて日本で長く採用されているメンバーシップ型雇用との違いをご紹介します。

欧米で主流のジョブ型雇用

ジョブ型雇用とは、職務(ジョブ)を明確に定義したうえで、適した人材を採用する手法のことです。

具体的には、企業は募集・採用時に、それぞれの仕事内容や必要なスキル、役割、経験などを明示します。応募者はそれらを理解したうえで、自分のスキルや経験などと照らし合わせて応募し、採用後は決められた職務内容を担当します。

ジョブ型雇用は、担当している職務や役割に対して、発揮された成果をもとに評価するのが特徴です。そのため、成果を上げれば、年齢や勤続年数に関係なく、昇進や昇給につながります。

日本で主流のメンバーシップ型雇用の違い

欧米ではジョブ型雇用が主流となっていますが、日本では従来からメンバーシップ型雇用を主流としてきました。

メンバーシップ型雇用では、採用時に職務内容(ジョブ)を明確にせず、入社後に職務や勤務地などを決定する雇用方法です。そのため、スキルや経験、企業文化などに適した人材を総合的に判断して、採用する傾向にあります。

ジョブ型雇用が職務に対して人材を割り当てるのに対して、メンバーシップ型雇用は人材に対して職務を割り当てるのが特徴です。

現在も日本企業の多くは、終身雇用制度を前提に新卒一括採用をおこない、企業主導でさまざまな職務や勤務地を経験させる仕組みを取り入れています。

具体的な違いについては、以下の表にまとめました。

項目 ジョブ型雇用 メンバーシップ型雇用
職務内容 採用時に明確に定義 ・入社後に決定
・多様な業務を担当する
採用基準 職務に必要なスキル・経験 企業文化への適合、スキル・経験
評価 職務に対する成果 職務に対する成果、スキル、忠誠心
賃金 職務や役割、成果による 勤続年数や年齢、スキルによる
教育 職務に応じて実施 勤続年数や年齢に応じて実施
雇用期間 定められている場合がある 終身雇用
人材流動性 高い 低い

2. ジョブ型雇用が注目される背景

日本企業においてもジョブ型雇用が注目され、導入する企業が増加しています。ここでは、ジョブ型雇用が注目されている背景を5つご紹介します。

 経団連の提言

2020年、経団連(日本経済団体連合会)が経営労働政策特別委員会にて、ジョブ型雇用を推奨したことで注目されています。

グローバル化が進み、国外企業との競争が激化するなか、日本企業が競争力を維持していくためには、メンバーシップ型の見直しとジョブ型雇用の推奨が提言されました。

2021年度以降もジョブ型雇用に関する議論は続いており、経団連や政府の推進もあって、ジョブ型雇用を導入する企業は増加傾向にあります。

さらに、2024年6月21日に公表されたジョブ型人事の方針では、ジョブ型人事指針を策定し、「日本企業の競争力維持のためにジョブ型人事の導入を進める」と発表しました。

従来の日本型雇用の限界

従来の日本型雇用システム(メンバーシップ型雇用)は、終身雇用と年功序列を特徴としていましたが、現代において限界を迎えています。

従来の日本型雇用は、高度経済成長期には有効でした。しかし、低成長経済下では変化への対応スピードを高め、専門性の高い人材を迅速に確保する必要性が高まっています。

また、企業は優秀な人材確保のため、従来の雇用慣行にとらわれず、多様な働き方を導入する必要性に迫られており、ジョブ型雇用は、その有効な手段のひとつといえるでしょう。 

 価値観や働き方の多様化

価値観や働き方の多様化により、これまで当たり前とされてきた長時間労働や転勤などは、優秀な人材を確保するうえで大きな障壁となりつつあります。

ジョブ型雇用では、職務内容や勤務地、勤務時間などが明確に定義されているため、自分のライフスタイルや希望に合った働き方を選択しやすくなります。

また、コロナ禍にテレワークが導入されたことで、職務内容や求められる成果が明確に定まっているジョブ型雇用が注目されました。

グローバル化への対応

グローバル化が加速する現代において、企業は国境を越えて事業を展開し、多様な人材を活用することが求められています。

このような状況下では、職務内容や求められるスキルを明確化し、適切な人材を配置するジョブ型雇用が重要性を増しています。

 大手企業がジョブ型雇用を導入

日本の大企業がジョブ型雇用を導入したことで、ジョブ型雇用は注目されました。

たとえば、株式会社日立製作所やKDDI株式会社、カゴメ株式会社などの大手企業がジョブ型雇用を導入しています。具体的な導入事例については、のちほどご紹介します。

3. ジョブ型雇用のメリット

ジョブ型雇用には、企業側と従業員側の双方にメリットがあります。それぞれのメリットをご紹介します。

企業側のメリット3つ

ジョブ型雇用を導入する企業側のメリットとして、主に以下の3つが挙げられます。

①スキルや技術のある人材を採用できる

ジョブ型雇用では、企業が求めるスキルや経験、資格などを満たす人材を採用できます。

そのため、人材のミスマッチを防ぐだけでなく、即戦力となる人材を確保できる可能性が高まるため、企業の競争力強化につながります。

②成果に応じて従業員を評価できる

ジョブ型雇用では、あらかじめ職務内容や求められる成果が明確になっています。

そのため、従業員の成果を客観的に評価しやすく、従業員は自身の努力や成果が給与や昇進などで実感できます。その結果、より高いパフォーマンスを目指すなど、モチベーション向上にもつながるでしょう。

③業務内容に合致した人材を確保できる

ジョブ型雇用では、募集時に仕事内容や必要なスキルを明確にするため、ニーズに合致した人材を獲得できます。

従来のメンバーシップ型雇用のように、採用後に人材を育成したり、配置転換で適性を見極めたりする必要がないため、効率的な人材活用が可能となります。

従業員は、スキルや経験を活かせる仕事に就くことで意欲が高まり、生産性向上に貢献してくれるでしょう。

 従業員側のメリット3つ

ジョブ型雇用は、従業員にとっても多くのメリットがあります。ここでは、従業員側の主なメリットを3つ解説します。

①キャリアを形成しやすい

ジョブ型雇用では、担当する職務内容や必要なスキル、求められる成果などを明確に定めています。

そのため、会社都合による職務内容の変更や異動は基本的に起こらないため、従業員はキャリアパスを具体的にイメージしやすくなります。

②スキルアップの機会が増加する

ジョブ型雇用では、担当する仕事内容や役割が明確に決まっているため、自分が身につけるべきスキルや経験を把握できます。

目指すキャリアプランに必要なスキルを理解したうえで、積極的にスキルを習得できるため、スキルアップにつながりやすいでしょう。

企業側も、それぞれの職種に必要なスキルを把握しやすいため、より的確な研修や教育、リスキリング情報を提供できるようになり、社員のスキルアップを後押しできます。

③適切な評価を受けられる

ジョブ型雇用では、成果に基づいた評価制度が導入されます。

そのため、従来の日本型雇用のように年齢や勤続年数に関係なく、成果が適切に評価されます。給与などの待遇にも直結するため、モチベーションやパフォーマンスの向上につながるでしょう。

4. ジョブ型雇用のデメリット

ジョブ型雇用には多くのメリットがある一方、企業側と従業員側の双方にデメリットも存在します。

企業側のデメリット2つ

企業がジョブ型雇用を導入する際には、いくつかのデメリットも考慮する必要があります。代表的なデメリットを2つご紹介します。

①会社都合による配置転換が難しい

ジョブ型雇用では、採用時に仕事内容や役割が明確に定められています。そのため、業務量の増加や新たな事業展開など、会社都合による従業員の配置転換は難しいでしょう。

配置転換をおこなう場合は従業員との合意が必須となり、従業員のモチベーション低下やトラブル、離職につながりかねないため、慎重な対応が必要となります。

②人材の流出リスクがある

ジョブ型雇用では、従業員がよりよい条件や待遇を求めて転職してしまうリスクがあります。

とくに、高度なスキルや専門性を持つ人材ほど、他社から魅力的な条件で引き抜きのオファーを受ける可能性は高くなるでしょう。

優秀な人材を引き留めるためには、他社に負けない競争力のある待遇を提供する必要があるため、人件費の増加にもつながります。

従業員側のデメリット2つ

ジョブ型雇用は、従業員にとってもメリットばかりではなく、デメリットも存在します。ここでは、従業員側の主なデメリットを2つ解説します。

①業務終了による失職リスクがある

ジョブ型雇用では職務が完了したり、業務自体がなくなったりすると、雇用契約が終了となる可能性があります。これは、入社時に職務内容が明確に定められているため、ほかの色への配置転換が難しいことが原因です。

特定の専門知識やスキルを持った人材が求められる一方、変化の激しい現代においては、長期雇用が保証されないことを理解しておく必要があります。

②専門性が偏る

あらかじめ決められた職務内容の範囲で働くため、担当以外の業務に関わる機会は少なくなります。そのため、担当業務の経験や知識ばかりが増えてしまい、専門性が偏ってしまう可能性も考えられます。

そのため、職務の幅を広げ、キャリアアップを目指すには、積極的に自己啓発に取り組むことが重要です。新たなスキルの習得や、ほかの職務に挑戦したりするなど、主体的に行動する必要があります。

5. ジョブ型雇用の導入ステップ

ジョブ型雇用を自社に導入しようとする場合、適切な手順を踏むことが重要です。具体的には、以下のようなステップで導入を進めていくとよいでしょう。

ジョブ型雇用の対象を検討

まず、全社員を対象とするか、一部の部門・職種から導入するかを決定します。

ジョブ型雇用は専門性が高く、業務内容が明確に定義できる職種に向いているため、研究開発のような職種は導入対象として検討しやすいでしょう。

一方、総務や人事などの管理部門は業務の幅が広く、臨機応援な対応が求められる職種は、従来のメンバーシップ型雇用向きになります。

ジョブディスクリプションの作成

ジョブ型雇用の場合、ジョブディスクリプション(職務記述書)にもとづいて勤務してもらいます。そのため、ジョブディスクリプションには役割や責任、求められるスキル、雇用形態を明確に定義する必要があります。

記載する内容の例
・基本内容

・職務内容

・役割や責任範囲

・権限

・スキル

・雇用形態

・報酬

記載内容は企業の規模や業種、職種などによって異なります。従業員と職務に対する認識が異ならないように、ヒアリングなどのコミュニケーションを取りながら作成しましょう。

評価制度・報酬制度の見直し

ジョブ型雇用を導入する際には、従業員の成果や能力を適切に評価できるような評価制度に見直す必要があります。従来型の年功序列型では、年齢や勤続年数をもとに評価や報酬が決まることが多く、成果や能力、報酬が一致していないケースが多く見られました。

たとえば、目標管理制度(MBO)やスキル評価制度など、従業員の成果を客観的に評価できる制度の導入が考えられます。従業員が持つ専門性の高いスキルを育成し、そのスキルを活かした成果を評価できる制度にしましょう。

また、報酬制度は年齢や勤続年数ではなく、成果や能力にもとづいて決定する仕組みにする必要があります。

報酬の決め方はさまざまありますが、多様な働き方実現応援サイトでは、以下4つの職務評価方法が紹介されています。

  • 単純比較法
  • 分類法
  • 要素比較法
  • 要素別点数法

このほかにも、職種別平均賃金や他部門とも比較し、市場価値を踏まえた上で報酬を決定しましょう。 

 従業員への周知

ジョブ型雇用導入に伴い、評価や報酬制度を見直したら、従業員へ丁寧に周知しましょう。

ジョブ型雇用は従来の日本型雇用とは大きく異なります。従業員の働き方やキャリアパスに大きな影響を与えることから、従業員へ丁寧に周知し、理解してもらう必要があります。

 導入後の運用と見直し

実際に運用しながら効果や課題を検証し、必要があれば定期的に制度を見直しましょう。

また、外部環境の変化にも対応していく必要があります。たとえば、法律改正や業界動向の変化によっては、ジョブディスクリプションや評価制度の見直しが必要になります。

6. ジョブ型雇用導入事例

日本企業においても、大企業を中心にジョブ型雇用が導入され始めています。ここでは、日本を代表する大手企業の導入事例をご紹介します。

株式会社日立製作所

日立製作所では、「グローバル化への対応」と「目指すべき企業の姿と組織・仕事を連動させる」ために、ジョブ型雇用を導入しています。

海外のグループ会社ではジョブ型雇用が一般的になるため、スムーズに受け入れられました。しかし、日立製作所本体や国内グループ会社への導入には、より丁寧な説明が必要となり、当時のCEOが強いメッセージを発信し、トップ主導で改革していったのです。

なお、ジョブ型雇用の導入に伴い、2014年には日立製作所本体の管理職、2024年には非管理職に対して職務級制度が導入されています。

参照:ジョブ型人事方針 p.18|内閣官房 経済産業省 厚生労働省

富士通株式会社

富士通では、2019年に掲げた新たな経営方針の一環として、ジョブ型雇用が導入されています。

ジョブ型雇用の導入によって自律的なキャリア形成が進むと、退職者が増えることを懸念していましたが、実際には退職率は変わっていません。中途採用者や社内公募制度の利用者は増加し、リスキリング受講者は3倍になっています。

2020年4月に約15,000人の管理職に対して導入、2022年4月に約45,000人の非管理職に対して導入しており、今後は若手にもジョブ型雇用の導入を検討しています。

参照:ジョブ型人事方針 p.3|内閣官房 経済産業省 厚生労働省

7. ジョブ型雇用を成功させるためのポイント

ジョブ型雇用を成功させるためには、適切な制度設計や運用が必要です。具体的には、以下のようなポイントが挙げられます。

求人情報に必要なスキルや条件を明記する

ジョブ型雇用では、求める人物像を明確化し、それに合致する人材を採用することが重要です。そのためには、求人情報に必要なスキルや条件を具体的に明記する必要があります。

たとえば、営業職の求人であれば「顧客とのコミュニケーション能力」「提案力」「プレゼンテーション能力」といったスキルが必須となるでしょう。

記載する内容の例
・必須スキル

・歓迎スキル

・経験

・期待する役割

・資格

・雇用形態

・報酬

必要なスキルや条件は、企業や募集職種によって異なるため、事前にしっかりと確認し、求める人材像に最適な条件を設定しましょう。

役割と評価の基準を明確にする

ジョブ型雇用では、それぞれの社員がどのような役割を担い、どのような成果をあげれば評価されるのかを明確にすることが重要です。

これを怠ると、社員は自分が会社からなにを期待されているのか、どのように評価されるのかわからず、モチベーションが低下したり、能力を十分に発揮できなくなったりするかもしれません。

役割があいまいなままでは、なにを期待されているのか、どのように評価されるのかがわからず、モチベーションの低下や能力発揮の阻害につながりかねません。

社員にしっかりと理解してもらうためにも、定期的な1on1ミーティングなどを活用し、継続的に伝えるように心がけましょう。

段階的に導入する

ジョブ型雇用も、すべての職種に適しているわけではありません。さらに、全社一斉で適用した場合、従業員の抵抗や混乱が生じやすく、導入が難航する可能性があるでしょう。

そのため、まずは一部の部署や職種を対象に導入し、効果や課題を検証しながら段階的に拡大していくことが重要です。

企業は従業員の不安を解消し、スムーズに移行できるように、従業員への丁寧な説明とサポート体制の構築が必要になります。

8. まとめ

ジョブ型雇用では職務や求められるスキル、責任範囲を明確に定義し、その職務遂行能力にもとづいて採用や評価をおこないます。

ジョブ型雇用は、欧米では主流の雇用形態であり、近年日本でも導入する企業が増えています。しかし、すべての職種でジョブ型雇用が最適なわけではありません。

企業と従業員の双方にメリット・デメリットがあるため、自社の課題や従業員の状況などを総合的に判断し、導入可否や導入方法を検討することが重要です。

記事監修

古今堂 靖

一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会 理事長

大学中退後、ホスト、ブライダル司会者、青果市場、旅行添乗員、長距離トラック運転手、警備員、レコード会社勤務等を経て、財団法人関西カウンセリングセンター勤務、心理カウンセラー、キャリアコンサルタント養成の傍ら、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会の立上げに参画して国家検定キャリアコンサルティング技能検定制度の創設に携わる。2024年3月に一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会を立上げ、生成AI時代のリスキリングキャリアコンサルタントの養成を開始。