キャリアチェンジとは?メリット・デメリットと成功のポイント
最終更新日:2024.09.16
今とは違う業界で働きたい、新しい職種に挑戦して自分のキャリアを切り開いていきたい。そんな「キャリアチェンジ」の希望を持っているものの、いざ踏み出すとなると不安な方も多いのではないでしょうか。
この記事では、キャリアチェンジとはそもそも何なのかといった基礎知識や、メリット・デメリットなどを解説します。キャリアチェンジを成功させるポイントも紹介しているので、現在のキャリアに悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
1. キャリアチェンジとは?
ここでは、キャリアチェンジとはそもそも何かを解説します。通常の転職やよく似ている言葉である「キャリアアップ」とは、何が違うのでしょうか?
キャリアチェンジは未経験の業界・職種に転向すること
キャリアチェンジとは、これまでの経験とは異なる業界や職種に転向することを指します。単なる転職とは異なり、未経験の分野に挑戦する点が大きな特徴です。
具体的には、営業職から人事職への転換、製造業からIT業界への転職といったケースがキャリアチェンジに該当します。
全く異なる分野へ転向するため、新たなスキルの習得や資格取得が必要になるケースが多いです。例えば、文系出身者が IT エンジニアを目指す場合、プログラミング言語の習得やIT関連の資格取得が求められるでしょう。
キャリアチェンジとキャリアアップの違い
キャリアチェンジとキャリアアップの2つの言葉は、キャリア形成の方向性という点で大きな違いがあります。
キャリアアップとは、 現在の職種や業界内での経験を深めたりスキルを磨いたりして、経歴を磨き市場価値を高めることです。 例えば、営業担当からマネージャーへの昇進、同業他社でより高い年収を得るといったアクションが該当します。
一方、キャリアチェンジは異なる職種や業界に移行して、新しいスキルや経験を獲得することを指します。
キャリアアップを選択する場合は、現在の専門性を深めることが重要です。一方、キャリアチェンジを選択する場合は、新しい分野での基礎知識やスキルの習得が必要となります。
どちらを選択するかは、自身の価値観やキャリアゴール、現在の仕事への適性などを考慮して決定する必要があるでしょう。
2.キャリアチェンジの動向の変化
近年、業界や職種を変えてキャリアチェンジをする人が増加しています。リクルートエージェントは、2022年度の転職決定者を対象に調査を実施しました。
調査では、転職パターンを「同業種✕同職種」「同業種✕異職種」「異業種✕同職種」「異業種✕異職種」の4種類に分けて分類。結果、2022年度は「異業種×異職種」の転職者が39.3%と最多となり、過去10年間で最も高い割合を占めました。
キャリアチェンジが増えている要因
この背景には、以下のような要因があると考えられます。
- IX(インダストリアル・トランスフォーメーション)やCX(コーポレート・トランスフォーメーション)などの変革により、全産業で業種や職種の再定義が進んでいる
- 個人の意識が「終身雇用」から「終身成長」へと変化している
- 業界や職種を越えて成長機会を求める人が増加している
年齢別の動向
年齢別の転職パターンを見ると、以下のような特徴が見られました。
- 20~24歳における「異業種×異職種」転職の割合が、全年齢で最も高く(53.5%)、次点に25〜29歳という結果になった(42.8%)
- 30歳以降から徐々に「異業種×異職種」の割合は減少したが、40歳以上の転職者でも「異業種×異職種」の割合は25.8%あった
- 年齢全体を通じて、82.3%の転職者が異業種あるいは異職種へ転職していた
調査の結果から、若い世代ほど大胆なキャリアチェンジにチャレンジする傾向があることが伺えます。キャリアチェンジは年齢が重なるにつれ難しくなるともいわれていますが、この調査では年齢を重ねても新たな業界・業種へチャレンジする転職者が多いことが分かりました。
3.キャリアチェンジの実例
厚生労働省が運営する「job tag(職業情報提供サイト)」は、500以上の職業情報を見える化し、求職者の就職活動や企業の採用活動・人材育成を支援いています。本サイトで紹介されている、キャリアチェンジの実例を一部ご紹介します。
事例①:スポーツメーカーから北海道の観光協会へ
大学卒業にスポーツメーカへ就職。アジア圏の支店への商品供給や店舗運営サポートを実施。農業関連の転職フェアに参加したところ、北海道の地域おこし協力隊制度を知り退職し移住を決断。地域おこし協力隊で1年活動した後、移住先の観光協会に就職。
事例②:店舗販売からWebデザイナーへ
アパレル店舗の販売スタッフにて、店舗運営全般を担当。自分の感性を刺激する仕事に挑戦したいと考え、Webデザイナーへの道を志すことに。短期間のスクールに通い技術力と提案力を鍛え、個人で案件などをこなし実績を重ねた後、コンテンツ制作会社へ就職。
事例③:紳士服販売から介護福祉士へ
紳士服量販店で接客などを担当。父親が要介護認定を受けたことをきっかけに、介護の仕事に興味を持つようになった。知人からの紹介で介護施設に転職。現場での経験を重ねつつ、介護福祉士の資格を取得。
参照:キャリアチェンジ事例を掲載しました!|job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
4. キャリアチェンジのメリット・デメリット
キャリアチェンジにはメリットとデメリットがあります。
3つのメリット
キャリアチェンジには、大きく3つのメリットがあります。
①希望の業界・職種に挑戦できる
キャリアチェンジの最大のメリットは、自分が本当にやりたい仕事に挑戦できることです。これまでの経験や環境に縛られず、新たな分野で自己実現を図ることができます。
②新たなスキル・経験を身につけられる
キャリアチェンジの大きなメリットの一つは、新たなスキルや経験を獲得できることです。異なる業界や職種に挑戦することで、これまでとは全く違う知識や能力を身につけることができます。
③仕事のモチベーションアップにつながる
キャリアチェンジを通じて新たな環境に身を置くことは、仕事へのモチベーションを高める効果があります。その理由として、以下の3点が挙げられます。
まず、未経験の分野に挑戦することで、学ぶ意欲が刺激されます。また、キャリアチェンジによって自分の本当にやりたいことに挑戦する機会も得られやすくなり、自己実現につながることで仕事への情熱や意欲が高まります。
3つのデメリット
キャリアチェンジには多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。ここでは主な3つのデメリットについて詳しく解説します。
①収入が下がる可能性が高い
キャリアチェンジを行う際、残念ながら多くの場合において収入が下がる可能性が高いことを覚悟しておく必要があります。これは、新しい分野での経験やスキルが不足しているため、初任給レベルから再スタートすることが多いためです。
②選考になかなか通過しないことが多い
キャリアチェンジを目指す場合、書類選考の通過率が低くなる傾向があります。これは、未経験の業界や職種に挑戦するため、企業側が求める専門性やスキルとのミスマッチが生じやすいためです。
書類選考で落とされやすい主な理由は以下の通りです:
- 業界・職種の知識不足
- 求められるスキルや経験の不足
- 志望動機の説得力不足
- 転職理由の不明確さ
キャリアチェンジではこの点を考慮して、念入りに準備を進める必要があることを覚えておきましょう。
②新たな業務を覚えるための負荷が重い
キャリアチェンジの際に直面する大きな課題の一つが、新たな業務を覚えるための負荷です。これは単なる仕事の変更以上に、全く異なる分野や業界への転換を意味するため、その負担は想像以上に大きくなります。
新しい環境での適応には、以下のような負荷が伴います
- 業界特有の知識習得
- 新しいスキルの獲得
- 人間関係の再構築
- 未経験分野での不安や焦り
キャリアチェンジに伴う負荷は避けられませんが、それを乗り越えた先に大きな成長が待っているのです。
5. キャリアチェンジを成功させるポイント
キャリアチェンジを成功させるためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
目的の明確化:キャリアチェンジの理由を探る
キャリアチェンジを成功させるためには、まず自分の目的を明確にすることが重要です。なぜキャリアチェンジをしたいのか、その理由を深く掘り下げて考えることから始めましょう。
キャリアチェンジの理由を探る際には、以下のような質問を自分に問いかけてみるといいでしょう。
- 現在の仕事に対する不満は何か?
- 新しい職種や業界に惹かれる理由は?
- キャリアチェンジによって得たいものは何か?
- 5年後、10年後にどのような自分になっていたいか?
これらの質問に答えることで、キャリアチェンジの本当の目的が見えてくるはずです。また、キャリアチェンジの理由を以下のように分類してみるのも効果的です。
- スキルアップ志向:新しい技術や知識を身につけたい
- 成長志向:より大きな責任や挑戦を求めている
- 価値観の変化:仕事を通じて社会に貢献したい
- ワークライフバランス:プライベートの充実を図りたい
- 興味関心の変化:新しい分野に挑戦したい
自分の理由がどの分類に当てはまるのか考えることで、キャリアチェンジの方向性がより明確になります。キャリアチェンジの目的を明確にすることで、面接での質問にも自信を持って答えられるようになり、採用担当者に対して強い意志と熱意を示すことができます。
自己分析:経験とスキルの棚卸しを行う
キャリアチェンジを実現するためには、自分自身の経験とスキルを客観的に分析することが不可欠です。これは、新しい分野での自分の強みを見出し、アピールポイントを明確にするために重要な作業だといえます。
まず、これまでの職歴を時系列で整理し、各職場で担当した主な業務や達成した成果をリストアップしましょう。その際、以下の点に注目すると効果的です。
- 具体的な数字や成果
- チームでの役割や貢献度
- 困難を乗り越えた経験
加えて、業務を通じて得られたスキルも明文化していきましょう。例えば、自分のスキルを「ハードスキル」と「ソフトスキル」に分けて整理するなどが有効です。
- ハードスキルの一例:・業務に直結する専門的な知識や技術、資格や検定、ITツールの操作スキル など
- ソフトスキルの一例:コミュニケーション能力、リーダーシップ、問題解決力、チームワーク など
これらのスキルを整理する際は、具体的なエピソードと共に記録することが大切です。例えば、「コミュニケーション能力が高い」とそのまま説明しても漠然とした表現となってしまいます。「顧客の要望を丁寧にヒアリングし、社内の関係部署と調整して満足度の高い提案を行った」など、具体的な場面や行動を示すことで説得力が増します。
最後に、これらの経験やスキルが新しい分野でどのように活かせるかを考察します。直接的に関連がなくても、応用できる可能性を探ることで、自分の市場価値を再発見できるかもしれません。
市場調査:新たな分野の理解を深める
キャリアチェンジを成功させるには、希望する業界や職種について十分な理解を深めることが重要です。具体的には、以下のような手法を試してみましょう。
手法 | 具体的なアクション |
業界・企業研究 | 業界誌や専門サイトを活用し、最新のトレンドや課題を把握する。 興味のある企業のホームページや求人情報をチェックし、求められる人材像を理解する。 |
情報収集の場への参加 | 業界セミナーや展示会に足を運び、生の情報を収集する。転職フェアなどに参加し、企業担当者から直接話を聞くチャンスを作る |
ネットワーキング | SNSを活用し、業界人とつながりを持つ。知人や同僚などを通じて、業界内部の情報を得るよう努める。 |
実践的な体験 | インターンシップやボランティア活動に参加し、実際の業務を体験する。副業やフリーランス業務を通じて、スキルや経験を積む。 |
これらの活動を通じて得た情報を整理し、自身のキャリアプランと照らし合わせることで、より具体的な転職戦略を立てることができます。また、面接時にも業界への理解や熱意をアピールすることができ、採用につながる可能性が高まります。
市場調査を徹底することで、キャリアチェンジ後のミスマッチを防ぎ、新たな分野でのスムーズなスタートを切ることができるでしょう。
ポータブルスキルの習熟:汎用性の高いスキルを磨く
キャリアチェンジを成功させるには、どんな環境でも活かせる「ポータブルスキル」を磨くことが重要です。ポータブルスキルとは、特定の業種や職種、時代背景に囚われない、汎用性の高いスキルを指します。
具体的なポータブルスキルの例としては、以下のようなものがあります。
- 論理的思考力
- 情報収集力
- スケジュール・進捗管理能力
- プレゼンスキル
- コミュニケーション能力
- 問題解決能力
- 交渉力
- マネジメント能力
これらのスキルは、ビジネスパーソンにとって重要な「ビジネス基礎力」とも言えます。ポータブルスキルを身につけることで、様々な分野で活躍できる可能性が高まり、キャリアの選択肢を広げられるでしょう。
ポータブルスキルを鍛えるためには、次のような方法がおすすめです。
- 業務における実践を通じて学ぶ(情報収集、課題設定、計画立案、社内対応、社外対応など)
- 書籍や動画などで学ぶ
- スクールなどで学ぶ
専門家への相談:キャリアコンサルタントを活用する
キャリアチェンジを成功させるには、専門家の助言を得ることが有効です。その代表例が、キャリアコンサルタントの活用です。
キャリアコンサルタントは国家資格のひとつで、企業、ハローワーク、教育機関、各種支援機関などで活躍するキャリアコンサルティングの専門家です。資格認定を行なっている厚生労働省は、キャリアコンサルティングを以下のように定義しています。
「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」
引用:キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタント|厚生労働省
言い換えると、キャリアコンサルタンティングは相談者にとって望ましいキャリア支援を行うことを意味します。具体的に行われる支援内容は、以下の通りです。
- 興味を持つ分野、適正、能力などの明確化
- 職業経験の整理
- 労働市場や企業に関する情報提供
- 希望する職務に求められる能力などの理解促進
- キャリアプランの作成
- 短期的な目標、中長期的な目標の設定
- 能力開発などに関する情報提供
- 求職活動や能力開発といった活動のサポート
キャリア形成の支援に秀でたキャリアコンサルタントに相談することで、よりキャリアチェンジの道筋が明確になるかもしれません。
キャリアコンサルタントを探すときにおすすめなのが、厚生労働省が運営する「キャリコンサーチ(キャリアコンサルタント検索システム)」です。このサイトでは、居住地、対応可能業務、得意分野、所持資格といった各種条件から、国のキャリアコンサルタント名簿に登録している専門家を検索できます。
対面や電話、オンラインなど相談方法を選ぶこともできるので、これからのキャリアに悩んでいる場合は、一度活用してみてください。
支援事業の活用:公的機関の支援を受ける
キャリアチェンジを実現するには、公的な支援事業を活用するのも効果的です。
各自治体では、キャリア形成やキャリアチェンジに関する支援事業が提供されていることがあります。お住いの地域で支援事業が行われている場合、それらを活用するのもキャリアチェンジの方法として有効です。
一例として、ここでは東京都が実施している2つの支援事業をご紹介します。
※掲載情報は2024年9月時点のものです。事業内容は閲覧時期により変更される場合があるため、予めご了承ください。
①キャリアチェンジ再就職支援事業
「キャリアチェンジ再就職支援事業」は、トライアル就労とリスキリングという2つの施策を組み合わせて、求職者の最適なキャリアチェンジを支援しています。
この事業は、以下の条件に当てはまる場合に利用できます。
- 派遣社員として勤務が可能な方
- 早期の正規雇用を目指す方
- 東京都内での就職を希望する方
キャリアチェンジ再就職支援事業では、労働者派遣によるトライアル就労を1人あたり最大2回実施可能です。トライアル就労期間は1回あたり最大2ヶ月間で、この間給与や交通費も支給されます(交通費には上限があります)。トライアル就労と並行して、キャリアコーチのサポートを受けて正社員登用を目指せます。
業界理解・リスキリングに関する事前セミナーが受講できるほか、eラーニングで就労先の知識を学べます。都内で仕事を見つけたい、新しい業界にチャレンジしたいという方におすすめの事業です。
②女性向けキャリアチェンジ支援事業
「女性向けキャリアチェンジ支援事業」とは、教育訓練や就職支援を通じて女性のキャリア支援を支援する事業です。対象となるのは正規雇用を目指している女性や、出産・育児などで一時的に離職している女性などで、具体的には次の条件をすべて満たす人とされています。
- 現在、正社員として雇用されていない
- 正社員へのキャリアチェンジを希望する、非正規雇用もしくは求職中である
- 都内に在住している(非正規雇用または無職)、または都内で非正規雇用で働いている
- 令和5年度・6年度に「女性向けキャリアチェンジ支援事業」または「類似事業」※の受講が決定していない
※類似事業には以下の事業が該当します。
- 成長産業分野キャリア形成支援事業
- ひとり親向けオンライン訓練・就活支援事業
- 女性ITエンジニア育成事業(令和5年度のみ)」
職業訓練では「オフィススキル」「専門スキル」「コミュニケーションスキル」から合計15コース用意されています。例えば、オフィススキルでは一般事務、英文事務を学べ、専門スキルではWeb制作、プログラミング、CADなどが学べます。
各種講座の受講前には、国家資格を持つキャリアアドバイザーとの面談が可能です。eラーニングによるオンライン受講ができるほか、各種カウンセリング、ミニセミナー、参加者同士の情報交換の機会なども用意されています。
ビジネススキルを磨き、能力を十分に発揮できる働き方を実現したいと考えている方は、ぜひこの事業を活用してみましょう。
6. まとめ
キャリアチェンジは、新たな挑戦と成長の機会をもたらす重要な選択肢です。雇用の流動性が高まりを見せる中、今後は性別・年齢を問わずキャリアチェンジについて真剣に考える機会が増えていくことでしょう。
今回紹介したポイントなどを参考に、理想とする業界・業種での挑戦をぜひ成功させてください。
記事監修
古今堂 靖
一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会 理事長
大学中退後、ホスト、ブライダル司会者、青果市場、旅行添乗員、長距離トラック運転手、警備員、レコード会社勤務等を経て、財団法人関西カウンセリングセンター勤務、心理カウンセラー、キャリアコンサルタント養成の傍ら、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会の立上げに参画して国家検定キャリアコンサルティング技能検定制度の創設に携わる。2024年3月に一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会を立上げ、生成AI時代のリスキリングキャリアコンサルタントの養成を開始。