令和9年度概算要求が出そろう──「強く豊かな日本」投資枠とAI偏重の裏で、企業のリスキリング助成は2026年度末が期限

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最終更新日:2026.08.31

2027年度(令和9年度)予算の概算要求が、8月末の期限を迎えて各省庁から出そろいました。今回の要求は、通常の歳出とは別に『「強く豊かな日本」投資枠』が新設された初めての年度です。AI・半導体やGXといった成長投資には要求上限が設けられない一方で、企業のリスキリングを支えてきた助成金の中核は2026年度末で期限を迎えます。人事・経営にとっては、来年度の教育予算の前提が変わる可能性がある局面です。

この記事で分かること

  • 2027年度(令和9年度)概算要求の枠組みがどう変わり、「人への投資」がどこに位置づくのか
  • 厚生労働省の要求額(過去最大36兆5,803億円)と、リスキリング関連で今わかっていること・わかっていないこと
  • 企業のリスキリング助成が2026年度末で期限を迎える前提で、人事が9月から3月までに決めるべきこと

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2027年度の概算要求は、何がこれまでと違うのか?

最大の違いは、通常の歳出とは別枠で『「強く豊かな日本」投資枠』が新設されたことです。この投資枠には要求上限が設けられず、金額を確定できない施策は「事項要求」として出すことも認められました。つまり、成長投資と認められた分野は青天井で要求できる一方、その枠に入らない施策は従来どおりの窮屈な枠内で争うことになります。

根拠は、2026年7月30日に閣議了解された「令和9年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針」です。同方針は、投資枠について「国内投資を通じた潜在成長率の引上げに向けて、日本成長戦略や地域未来戦略などを踏まえた効果の高い政策を推進」「要求上限を設けず、事項要求も含め、所要額を適切に要求」と明記しています。参考としてGX、AI・半導体は「GX2040ビジョン」「AI・半導体産業基盤強化フレーム」を踏まえ、特別会計においても要求すると名指しされました。

「投資枠に乗るかどうか」が予算の分岐点になる

一方、投資枠に入らない裁量的経費は、前年度当初予算の範囲内で要求したうえで、その20%の範囲でしか上乗せ要望ができません。同方針の概要資料では、裁量的経費の規模は14.5兆円と示されています。企業向けの雇用・人材開発関係の施策の多くはこの裁量的経費側にあり、「AI人材育成=成長投資」として投資枠に載せられるかどうかで、来年度の支援の厚みが変わる構図です。

もうひとつ実務上重要なのが、要求期限が8月末日厳守と定められている点です。つまり8月末で各省庁の「やりたいことリスト」は出そろい、ここから年末にかけて財務省の査定で削られていきます。企業側から見れば、制度の存廃が固まるのは12月の予算案です。

2027年度(令和9年度)予算のスケジュールと人事の打ち手を並べた表。2026年8月末に各省庁が概算要求を提出(要求期限は8月末日)、9〜11月に財務省査定、12月に政府予算案を閣議決定して制度の存廃がほぼ確定、2027年1〜3月に予算成立と要領改正、4月から新制度施行。企業側は今年度で完結する研修と来年度に回す研修の仕分け、計画届の提出、来年度教育予算の確定、年度内の支給申請完了、カリキュラム更新を対応させる。
2027年度予算のスケジュールに、企業の教育投資の意思決定を重ねたもの(リスキリングドットコム作成)

図の要点を文章でも整理しておきます。①2026年8月末=概算要求の提出期限(いまここ)、②9〜11月=財務省の査定、③12月=政府予算案の閣議決定で制度の存廃がほぼ確定、④2027年1〜3月=国会審議を経て予算成立、年度替わりで要領・様式が改正、⑤4月〜=新年度制度の施行、という流れです。企業側は、9〜11月に「今年度内に使う助成金の計画届」を出し切り、12月の予算案を見て来年度の教育予算を確定させる、という順序で動くのが実務的です。

厚生労働省の要求額はいくらで、人材育成はどう扱われたのか?

厚生労働省の2027年度概算要求は36兆5,803億円で、2026年度当初予算比1兆5,370億円増の過去最大となりました。報道によれば、新設の「強く豊かな日本」投資枠を1兆円余り活用し、創薬や感染症危機対応、医療分野のAI活用などに厚く配分しています。要求内容は2026年8月26日に与党の部会で示されました。

ただし、企業のリスキリングそのものに紐づく具体的な要求額は、2026年8月末時点で公表資料としてはまだ確認できません。報道で人材・処遇関連として言及されているのは、賃上げと設備投資に取り組む中小企業を支援する業務改善助成金を、2026年度の21億円から543億円へ大幅に引き上げて要求した点などです(産経新聞報道)。予算の重心が「教育訓練そのもの」より「賃上げ・設備投資と一体の支援」に寄っている点は、あとで触れる2026年8月3日の助成金改正と方向が一致しています。

個人向けの学び直し支援は先に拡充が決まっている

企業向けの先行きが見えにくい一方で、個人向けの支援は先に拡充が決まっています。教育訓練給付の対象講座は2026年10月に3,485講座へ広がる見通しで、働く個人が自分で学ぶ選択肢は増えます。詳細は教育訓練給付の対象が2026年10月に3,485講座へで解説しています。人事としては、会社が出す研修と、個人が給付を使って学ぶ領域を切り分けて設計する視点が要ります。

企業のリスキリング助成は、本当に2026年度末で終わるのか?

結論から言うと、人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」は、令和4年度〜令和8年度(2026年度)末までの時限措置として設けられた制度で、2026年8月末時点で令和9年度以降の取扱いは公表されていません。「必ず終わる」とも「必ず続く」とも言えない状態であり、企業としては今年度で終わる前提で計画を立て、続いたら上振れとして扱うのが安全です。

加えて、このコースは2026年8月3日に大きく要件が変わりました。職務に直結しない汎用的なAI・DX研修が助成対象から外れ、eラーニングは同一労働者につき年度1回までに制限された一方、機器導入と訓練をセットで行う「設備投資加算」が新設されています。

人材開発支援助成金 事業展開等リスキリング支援コースの2026年8月3日改正による新旧比較表。汎用的なAI・DX研修は改正前は対象になり得たが改正後は対象外で職務に直結する訓練に限定。eラーニングは回数上限なしから同一労働者につき年度1回までに制限。設備投資との連動は加算なしから設備投資加算を新設。コースは令和4年度から令和8年度末までの時限措置で、令和9年度以降の取扱いは2026年8月末時点で未公表。
2026年8月3日改正による新旧比較。出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」および同コース詳細版パンフレット(令和8年8月3日版)

表の内容も文章で残しておきます。①全社員向けAIリテラシー研修や汎用的なプロンプト講座は、2026年8月3日以降に提出する計画届から助成対象外、②eラーニングは同一労働者につき年度1回まで、③AI・DX機器の導入と訓練をセットで行う場合に「設備投資加算」を受けられる、④コース自体は2026年度末までの時限措置——という4点です。①〜③は「広く浅く」から「職務に直結し、設備と一体で成果を出す」方向への転換であり、④は原資そのものの期限です。

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人事は9月から3月までに何を決めるべきか?

やるべきことは大きく2つです。①2026年度内に使い切れる助成を、逆算して確実に取りにいく。②助成が無くても回る教育計画へ、来年度分を組み替える。特に①は、計画届が原則として訓練開始日の1か月前までに必要なため、年明けに動き出すと年度内の実施・支給申請が間に合いません。

「企業が次に行うべきこと」チェックリスト

  • 研修計画の棚卸し(9月):来年度までの研修一覧を、「今年度内に完結できる」「来年度に回さざるを得ない」の2つに仕分ける
  • 助成対象性の再判定(9月):各研修が「職務に直結する訓練」と説明できるか、対象業務・対象者・到達目標を文書で書けるか確認する
  • 計画届の逆算(9〜11月):年度内実施分は訓練開始日の1か月前までに計画届を提出。eラーニングは同一労働者につき年度1回までである点を人数計画に反映する
  • 設備投資との束ね直し(9〜11月):AI・DX機器の導入予定があれば、研修とセットにして設備投資加算の適用可否を検討する
  • 来年度予算の二段構え(12月):政府予算案を確認し、「助成が続く場合」「無い場合」の2案で教育予算を用意しておく
  • 自社負担でも残す研修の選別(12〜1月):助成が無くなっても続ける研修を先に決める。ここで残らない研修は、そもそも事業に紐づいていない可能性が高い
  • 年度内クロージング(1〜3月):訓練実施と支給申請を年度内に完了させ、新年度の要領改正を確認する

なお、助成の有無に関わらず効果を左右するのは「誰にどのスキルが足りないか」の把握です。この土台については「スキルの見える化」が人事の重要課題に──デジタルスキル標準ver.2.0で扱っています。

リスキリングドットコムの見解

今回の概算要求の枠組みを見て私たちが感じるのは、「人への投資」という言葉の中身が、静かに『成長投資』へ寄せられつつあるということです。要求上限のない投資枠に名指しで並んだのはGXとAI・半導体でした。人材育成は、それ単体の教育費としてではなく、AI・半導体や設備投資といった成長分野に紐づけて初めて厚い支援を受けられる——2026年8月3日の助成金改正で「職務に直結しない研修」が外れ、代わりに「設備投資加算」が入ったことは、その予兆だったと読むのが自然です。

この流れは、企業にとって不利な話ばかりではありません。むしろ、「研修をやったこと」ではなく「事業のどこが変わったか」で教育投資を説明できる会社に、原資が集まりやすくなるという変化です。リスキリングドットコムが繰り返し提唱してきた「知る→使う→任せる」で言えば、国の支援は「知る」(全社員向けリテラシー研修)から手を引き、「使う・任せる」(職務に直結し、機器や業務プロセスと一体で成果を出す段階)へ寄りつつある、と整理できます。

したがって、いま人事がやるべきは「助成金が続くかどうか」を待つことではありません。全社員向けの汎用研修は自社負担の低コストな形(社内勉強会・自己学習支援)へ移し、助成を狙う研修は職務・設備・成果指標に紐づけて設計し直す。この二層構造をつくれた会社は、来年度の制度がどう転んでも学びを止めずに済みます。逆に、助成頼みで組んだ研修カレンダーしか持たない会社は、2027年4月に計画がまるごと止まるリスクを抱えています。

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参考・出典

公開日:2026年8月31日