リスキリングとは|注目される理由から企業が推進するメリット、事例まで解説

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最終更新日:2024.03.21

「リスキリング」という概念について説明しており、特に企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、従業員のスキルを再構築していく過程を示しています。以下のように内容を要約できます: 企業のDX推進に対応: 企業がデジタル化を進める中で、既存の職種や業務内容が変化していきます。 従業員のスキル再構築と能力開発: 従業員は新しい職種や変わる業務内容に適応するために、スキルの再構築(リスキリング)が必要になります。 研修・教育を通じて: 従業員は研修や教育を受け、新しい知識や技能を学びます。 スキル評価の機会提供: 企業は従業員に対して新しいスキルを評価する機会を提供し、その結果をもとに従業員を適切な職種に配置します。 この図は、リスキリングが企業と従業員の両方にとって、技術の進展に伴う市場の変化や仕事の要求に応じてスキルセットを更新することの重要性を強調しています。企業は継続的な学習と従業員の成長を支援することで、デジタル化の波に対応すると同時に、従業員のキャリアパスと雇用の安定を守ることができます。

リスキリングとは、従業員が新しい仕事や業務内容に対応できるように、従業員のスキル習得を企業主導で行う施策です。

この記事では、リスキリングの基本的な知識や導入する手順、注意点などをご紹介しています。リスキリングを社内に導入したいとお考えでしたら、ぜひ参考にしてください。

リスキリングとは

リスキリングとは、企業が従業員に新しいスキルや知識を身につけさせ、その従業員が新たなビジネスモデルや業務プロセスに対応できるようにする取り組みを指します。

経済産業省では、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています(引用:リスキリングとは ―DX時代の人材戦略と世界の潮流 p.6丨経済産業省)。

昨今のビジネス環境は、テクノロジーの目覚ましい進歩によって、常に大きく変化しています。企業がこのなかで競争に負けないようにするには、デジタル技術を活用してビジネスプロセスや企業文化、顧客体験を変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が欠かせません。リスキリングは、そのDX推進に必要な人材を確保するために企業主導で行われる取り組みです。

なお、DX推進のために行われるリスキリングを「攻めのリスキリング」、DX推進にあたって従業員が自身の雇用を守れるようにするために行われるリスキリングを「守りのリスキリング」と呼ぶことがあります。リスキリングに取り組む際には、どちらか一方というわけではなく、攻めと守りの両輪で行うことが望まれます。

リスキリングとリカレント教育の違い

リスキリングとよく混同される言葉に、リカレント教育があります。この二つはどちらも学習という面では同じですが、その目的や内容には大きな違いがあります。

リスキリングは、従業員に新たなスキルや能力を習得してもらい、企業がテクノロジーの進歩による環境の変化に順応すること、従業員が自身の雇用を守れるようにすることを目指します。そのため、企業主導の取り組みであり、業務の一環として行われるものであるという特徴があります。

一方、リカレント教育は、仕事をする→学ぶ→仕事をする→学ぶ……という「学び直し」のサイクルを指します。個人の生涯学習の一環としての取り組みであり、個人主導で行われるのが特徴です。また、学ぶ内容が仕事に必ずしも直結しないことも、リスキリングと異なる点として挙げられます。

 

リスキリング リカレント教育
目的 DXへの対応と、それに伴う雇用の確保 個人の学び直し
主導 企業 個人
学習内容 テクノロジーに関連するスキル 仕事に直結しないものも含まれる
その他の違い 業務の一環として行われる 一度仕事を離れるのが前提

 

リスキリングとアンラーニングの違い

リスキリングとアンラーニングも、似て非なる学習スタイルです。アンラーニングは、一度習得したスキルや知識、思考パターンを意図的に捨て去ることを指します。新たなスキルを身につけるために行われる点でいえばリスキリングと同じですが、リスキリングとは重きを置いているポイントが異なります。アンラーニングはリスキリングを行う際に重要なプロセスのひとつ、と位置づけることもあるようです。

リスキリングが注目されている理由

リスキリングが注目されているのは、社会全体におけるDXの重要性が高まっているためです。

テクノロジーの進化で消費者の行動やビジネスのあり方が大きく変わりつつあるなかで、企業が競争力を維持するためにはDX推進が不可欠とされています。

一方で、DX推進に伴い、多くの職種や業務内容が変化し、一部の仕事が消失し、新たに生まれる仕事に対応できるスキルを持つ人材が不足することも危惧されています。世界経済フォーラムは、『Future of Jobs Report 2023』では、「今後5年間に、2025年までに8300万件の雇用が消失し、新たに6900万件の雇用が生まれる」と予測しています(参照:「仕事の未来レポート2023」 今後5年間で最大4分の1の仕事が変化すると予想丨世界経済フォーラム)。

リスキリングが注目されているのは、このようなDX推進による技術的失業や、企業の人材不足を解消するための対策と位置づけられているためです。

さらに昨今では、奇しくも新型コロナウイルスの影響により、対面式から非対面式へと働き方が大きくシフトし、DXの重要性が一層強調されています。ChatGPTをはじめとするジェネレーティブAIが登場し、さまざまな業務が自動化され、仕事のあり方が大きく変わることも予見されています。

日本においても、2020年9月公表の「人材版伊藤レポート」が人材戦略のひとつとして「リスキル」を取り上げ、2022年10月には岸田首相がリスキリング支援の拡充を提言しました。

リスキリングは企業および働き手にとって不可欠な取り組みであり、その注目度は今後も高まることが予想されます。

企業がリスキリングを推進するメリット

企業がリスキリングを推進するメリットには、主に次の三つが挙げられます。

採用よりもコストをかけずにDXを推進できる

リスキリングが企業にもたらすメリットの一つに、「採用よりもコストをかけずにDXを推進できる」という点があります。

一般的に、あるスキルを持った人材を採用するのと、リスキリングで既存の従業員に同等のスキルを習得させるのとでは、前者のほうがより時間やコストがかかります。人事コンサルタントのジョシュ・バーシン氏による「リスキリングコストは採用コストの1/6で済む」という説は比較的有名です。

また、採用の場合、その人材がスキルを発揮するためには、企業の文化や業務フローを先に理解する必要があります。一方、既存の従業員であればすでに理解しているため、新たなスキルをすぐに業務に活かせるのも大きな違いです。

DXは、今や多くの企業が行っている施策であり、単に取り組むだけでなく、そのスピードが重要になりつつあります。DX推進を、採用よりもスピーディーに実現できるリスキリングは、競合に負けない手段として欠かせないといえるでしょう。

新しい人材を採用するよりもコストがかからない

リスキリングの推進は、従業員のエンゲージメント向上に寄与します。

リスキリングでは、その過程で、従業員に「自分が行った努力が企業の進歩につながり、自分の役割が社会にとって価値あるものである」と認識する機会をもたらします。それによって従業員の中で責任感が増し、一層企業に貢献しようという気持ちが湧いてきます。

従業員のエンゲージメント向上は、生産性を高めるのに欠かせない要素のひとつです。DXによる生産性アップ以上の効果が期待できるのが、リスキリングのメリットです。

VUCA時代を生き抜く組織の構築につながる

私たちはVUCA(Volatility〈不確実性〉、Uncertainty〈不確実性〉、Complexity〈複雑性〉、Ambiguity〈曖昧性〉)という変化の激しい時代に生きています。このなかで企業が生きていくためには、変化に即座に対応できる柔軟性やチャレンジ精神が欠かせません。

リスキリングは、従業員の技能を再編し、新しいスキルを身につけさせる取り組みです。これは、従業員一人ひとりに、VUCA時代に必要な姿勢や考え方を与えるきっかけとなり、ひいては企業の持続的な成長と競争力の維持につながります。

リスキリングのデメリット

本質的に成功している事例が少ない

どの施策にも当てはまることですが、リスキリングも先行事例から学ぶことが成功の近道です。ただ、リスキリングは「人」に関わる取り組みであり、その成果は場合によっては長期的になります。ここ数年で急速に注目されている施策である一方で、導入直後には結果が見えにくいため、成功事例がまだ豊富ではありません。

マインドなど、ソフトスキルは変化しづらい

リスキリングは、従業員一人ひとりに、VUCA時代を生き抜くのに必要な柔軟性やチャレンジ精神を身につけるきっかけをもたらしますが、実際に身につけられるかどうかは個々の性格や経験、価値観などが大きく影響します。

特に新たなスキルを身につけることを積極的に望まない従業員に、ソフトスキルを身につけてもらいたい場合、リスキリングを始める前にアンラーニングやデジタルリテラシーの向上のサポートなどをする必要があります。

ただし、このようなプロセスにおける結果も短期間で見えるものではありません。リスキリングとして取り組むときには、従業員によっては時間と労力が生じることも把握しておく必要があるといえます。

企業がリスキリングを導入するための手順

企業がリスキリングを導入するための大まかな手順をご紹介します。

従業員が現時点で身につけているスキルを可視化・定量化する

リスキリングを始めるにあたり、まずは従業員が現時点で何を得意とし、どのようなスキルを持っているのかを可視化し、それがどの程度なのかを定量化します。

まず従業員のスキルを技術的なスキルとソフトスキルに大別し、それぞれのスキルをさらにサブカテゴリーに分けていく形で分類します。技術的なスキルは、その人がどの言語を使ってプログラムを書けるか、どの程度の統計知識を持っているか、などの具体的な能力です。ソフトスキルは、その人がどれだけ問題解決能力やコミュニケーション能力、リーダーシップを発揮できるか、などです。また保有している資格もあわせて把握しておくとよいでしょう。

そのうえで、各スキルの評価を行い、定量化します。評価においては、上司だけでなく、従業員自身、同僚、部下といったさまざまな立場の人の評価も組み合わせて行うことが理想です。

なお、スキルマップを用いると、各従業員のスキルや資格を一元的に見ることができます。以下は、スキルマップの一例です。

 

スキル・保有資格 Aさん Bさん Cさん
技術的スキル プログラミング 5 2 2
データ分析 5 2 3
◯◯◯◯
△△△△
ソフトスキル コミュニケーション 2 4 4
課題解決能力 3 4 5
リーダーシップ 2 4 4
◯◯◯◯
保有資格 ITパスポート
MOS
◯◯◯◯
△△△△

 

会社の将来に向けて必要な人材を見定める

次に、会社の将来に向けて必要な人材を見定めます。これは未来の業界トレンドや企業のビジョンを踏まえて、求められるスキルセットを明確にする作業です。

まず、DX推進において求められる具体的なスキルをリストアップします。DX推進と一言にいっても、実際に必要になるスキルは各企業の戦略によってさまざまです。例えばある企業ではAIやブロックチェーンに関連するスキルが必要になることもあれば、ある企業ではロボティクスや自動化などのスキルが必要になることもあります。

次に、求められるスキルと現在の従業員のスキルを比較し、ギャップを明らかにします。これにより、どのスキルを補うべきか、または新たに習得させるべきかを明確にすることが可能です。

このような手順を通じて、リスキリングの方向性を設定し、具体的な学習プログラムを作る準備を行います。

スキル習得に必要な学習プログラムを組む

スキル習得に必要な学習プログラムを策定します。

学習プログラムは、一から組むのは現実的に難しいため、外部企業が提供している講座や資格試験などを活用するのが一般的です。

必要なスキルを身につけてもらうにはどれがよいかインターネットでリサーチし、場合によっては組み合わせながら学習プログラムを作ります。

従業員に学習プログラムに取り組んでもらう

従業員に学習プログラムを提供し、スキルを身につけるための学習をし始めてもらいます。学習期間中は、スムーズに進んでいるか、常に進捗状況を把握することが大切です。つまづいている様子が見えたらヒアリングを行い、対策を一緒に考えるようにします。

従業員が身につけたことを実践できるように支援する

リスキリングの目標は、スキルの習得ではなく、それをもとに従業員が新たなビジネスモデルや業務プロセスに対応できるようになることです。そのため、リスキリングを実施した従業員に対しては、身につけたスキルを日々の業務に活かすための支援が欠かせません。

例えば、DX推進のために設置したIT事業部に配属させる、現在所属している部署にデジタルツールを導入して業務効率化を図るプロジェクトに参加させる、などが挙げられるでしょう。

こうした支援を通して、初めて学習したスキルがその従業員の血肉となり、企業がDXを推進していくための原動力となります。

リスキリングは従業員目線で考えるのがポイント

リスキリングは企業主導で行われる施策ですが、実際に学習するのは従業員です。そのため、常に従業員目線で考えることが成功につながります。特に次のポイントをおさえておきましょう。

従業員の既存業務とのバランスを調整する

リスキリングを導入する際、従業員の既存業務とのバランス調整は重要なポイントとなります。

リスキリングは、企業主導の取り組みであり、基本的には業務時間内で行うものです。そのため、既存業務の遂行に支障が出ないよう配慮する必要があります。

この配慮が不足すると、従業員自身が業務と学習の両立にストレスを感じてしまいます。またリスキリングをしていない従業員からの不満がたまり、企業としてのパフォーマンスが低下する恐れもあります。

こうしたリスクを回避するには、リスキリングの学習プログラム設計時に、各従業員の業務量や業務内容を考慮に入れ、適切な学習時間を設定することが不可欠となります。また、場合によっては、業務の一部を他の従業員や外部のパートナーに委託するなど、業務量自体を調整することも必要となるでしょう。

従業員の興味関心を重視する

リスキリングにおいて重要なのは、従業員が「やってみたい」「頑張りたい」という自主的な気持ちで取り組むことです。やる気や興味は継続的な学習だけでなく、学習の効果を飛躍的に高める要素です。また、企業へのエンゲージメント向上にも寄与します。

従業員の自主性に頼り切らない

リスキリングにおいて従業員の自主性は欠かせませんが、それに頼り切ってしまうと失敗を招きやすくなります。

「学習プログラムを提供し、従業員が自主的に取り組むまで待ってみたが、誰も一向に始めようとしない」「学習を始めてくれたので安心していたら、いつの間にかやめていた」。これらは、リスキリングの失敗例としてしばしば聞かれるものです。

学習そのものを強制せずとも、企業側ができることは多くあります。例えば、1on1ミーティングなどを通じて具体的な学習ロードマップを提示すれば、学習の一歩を踏み出しやすくなります。「スキルを身につけると、これくらい給与が上がりますよ」「こんなキャリアアップにつながりますよ」など、学習のメリットを見せるのも有効です。

また、学習期間中のモチベーションは、定期的に評価・フィードバックをすると下がりにくくなります。他にも、各従業員の進捗状況を従業員が確認できる環境を作っておくと、従業員同士で刺激を受け合いながら学習を進めてもらえるようになるためおすすめです。

リスキリングの導入事例

最後に、リスキリングの導入事例をご紹介します。

海外企業

AT&T

AT&Tは、リスキリングの先駆者とも呼ばれるアメリカの通信事業者です。同社は2008年に社内調査を行い、そこで従業員25万人のうち、今後の事業に必要なスキルを持つ従業員が半分にも満たない、という結果が明らかになったことを受けて、リスキリング戦略「Workforce 2020」を策定。2020年までに10億ドルを投じ、従業員のリスキリングを開始しました。これにより、2020年時に、社内の技術職の81%を社内の従業員によってまかなうことに成功し、リスキリングを受けた従業員の高評価率や昇進率も向上するなど、さまざまなプラスの効果を生み出しました。

アマゾン

リスキリングの導入事例として、アマゾンが挙げられます。同社では、2025年までに全従業員30万人を対象にリスキリングを行うという壮大な計画、「Upskilling 2025」を2021年9月に発表しています。これは既存の従業員が需要のある高賃金の仕事に就くためのスキル習得を支援するもので、予算として約12億ドルを投じるとされています。

日本企業

富士通

富士通は、デジタル人材の確保に向けて、「Global Strategic Partner Academy」というリスキリングプログラムを2021年12月から開始しました。ServiceNow、SAP、Microsoftの3社と協働して行われるこのプログラムでは、国内外に通用するITスキルを身につけてもらうためのプログラムが組まれ、グローバル規模でデジタル人材の拡充が目指されています。

日立製作所

日立製作所は、多様な研修サービスを提供する「日立アカデミー」を通して、従業員に対してリスキリングを実施しています。研修はオンラインで実施され、従業員は自分のペースで学ぶことが可能です。従業員はリスキリングを通して新たな技術を学び、会社全体のDX推進に貢献しています。

まとめ

リスキリングは、企業・従業員ともに、これからの時代を生き抜いていくために重要な取り組みであることは間違いないでしょう。

ただし、企業が従業員に対して、単に学習プログラムを提供するだけではうまくいきません。企業には「何を学ぶのか」「なぜ学ぶのか」「学ぶことでどんなメリットがあるのか」を明示し、実際にそれが実現できるように環境を整えておくことが求められます。