キャリアコンサルタントの未来―リスキリング時代に必要とされる専門職とは

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最終更新日:2025.12.12

記事寄稿:一般社団法人 日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会(JRCA)

キャリアコンサルタントという国家資格が誕生してから、まもなく10年を迎えます。
この間に資格保有者は着実に増え、現在はおよそ8万人に達し、数としては税理士を上回るまでになりました。

しかし、資格保有者が増えている一方で、

  • 社会的な認知はまだ高いとは言えない
  • 活動の場が特定の領域に偏っている
  • 専任として生活できる人は限られている

といった現実もあります。

一方で、働き方や産業構造の変化、生成AIをはじめとした技術の進化、少子高齢化などを背景に、「人のキャリア」を専門的に支える存在への期待は確実に高まっています。
この記事では、これからの時代におけるキャリアコンサルタントの役割を整理しながら、未来像と必要なリスキリングについて考えていきます。


1.キャリアコンサルタントを取り巻く現在地

まず、現在のキャリアコンサルタントの状況を簡単に整理します。

  • 2016年に国家資格として制度化
  • 資格保有者は増加傾向
  • 企業、人材サービス、公的機関、教育現場などで活動
  • 一方で、「何をしている人なのか」がまだ一般には十分に伝わっていない

キャリアコンサルタントの本来の役割は、「働く人一人ひとりが、自分の生き方や価値観を踏まえて、納得のいくキャリアを選び取ることを支援する」ことです。
転職を勧める人でも、求人を紹介する人でもなく、「その人のキャリアの相談役」として長期的に寄り添う専門家だと整理できます。

少子高齢化、働き方の多様化、副業やフリーランスの広がりなどにより、キャリアの選択は複雑になっています。
「終身雇用で一つの会社に勤め続ければよい」という時代ではなくなり、誰もがキャリアについて考え続ける必要が出てきました。

この流れの中で、キャリアコンサルタントは、今後さらに重要度が増していく職業だと考えられます。
では、具体的にどのような領域でどのような役割が期待されるのでしょうか。


2.企業領域におけるキャリアコンサルタント

2-1. 企業を取り巻く環境変化

企業は今、大きな転換点に立たされています。

  • 少子化による人材不足
  • 労働力人口の高齢化
  • 働き方改革の推進
  • 終身雇用・年功序列からの転換
  • デジタル化・自動化の進展

これらにより、企業は従来の考え方のままでは経営が成り立ちにくくなりつつあります。
採用競争は激しく、採用しても定着せず早期離職するケースも増えています。
「採用」だけでなく、「社内でどれだけ成長してもらい、長く活躍してもらえるか」が重要な経営課題になっています。

この課題に対する解決策の一つが、「社員のキャリア自律と定着を支援する仕組みづくり」です。

2-2. セルフ・キャリアドックの役割

その中核となる施策として注目されているのが以前の記事でも触れた「セルフ・キャリアドック」です。
セルフ・キャリアドックとは、簡単に言うと、社員が自分のキャリアを自分で考え、選び、行動できるように支援する仕組みです。

企業は、次のような狙いでセルフ・キャリアドックを導入します。

  • 生産性の向上
  • 社員のキャリア自律の促進
  • 人材の定着と早期離職の抑制
  • ミスマッチ配属の減少
  • メンタル不調の予防

セルフ・キャリアドックを導入し、キャリアコンサルタントが継続的に関わることで、次のような変化が期待できます。

  • 自己理解が深まり、強みや課題が明確になる
  • 「会社任せ」ではなく、自分でキャリアを選ぶ意識が高まる
  • 部署や仕事とのミスマッチが減り、仕事満足度が高まる
  • 離職率が下がり、人材の定着につながる
  • 上司・同僚とのコミュニケーションが改善される
  • メンタルヘルスの悪化を早期に発見しやすくなる

これらは、社員個人にとっても企業にとっても大きなメリットです。
人材不足が進む中で、こうした内側からの人材活用がますます重視されていくと考えられます。

キャリアコンサルタントは、経営者や人事担当者、現場の管理職、そして一般社員と並走しながら、この仕組みづくりと運用を支える専門家としての役割を担っていくことになります。


3.公的機関(行政・自治体)におけるキャリアコンサルタント

社会構造の変化と就労支援の役割

少子高齢化、非正規雇用の増加、テクノロジーの進展などにより、雇用・就労をめぐる状況も大きく変化しています。
失業率が大きく悪化していない時期であっても、

  • 職を転々とせざるを得ない人
  • 働きたいが、どこに相談してよいかわからない人
  • 家族以外との接点がほとんどない無業状態の若者
  • 仕事を辞めた後の再就職に不安を抱える中高年層

など、多様な課題が生じています。

こうした人たちを支えるのが、ハローワークや自治体の就労支援窓口、若者サポートステーション、地域若者サポート機関などの公的な相談機関です。
ここでもキャリアコンサルタントの専門性が求められる場面が増えています。


4.生成AI・デジタル化がもたらす変化とキャリアコンサルタント

4-1. 生成AIが仕事に与える影響

生成AIの発展により、すでに多くの仕事のやり方が変わり始めています。

  • 定型的な事務作業
  • データ整理・集計
  • 定型フォーマットの文書作成
  • シンプルな問い合わせへの対応

これらの一部は、今後AIに置き換わったり、人とAIの協働によって効率化されたりしていくと見込まれます。

一方で、

  • データをもとに課題を見つける力
  • AIツールを適切に選び、使いこなす力
  • 組織の業務を見直し、デジタル化を進める力
  • 人とAIの役割分担を設計する力

など、新しいスキルや役割も生まれています。

これにより、職業の「中身」や求められる能力は大きく変化していきます。
同じ職種名であっても、10年前と10年後では、求められる仕事の内容が全く異なる可能性があります。

4-2. 働き方の多様化

生成AIやデジタル技術の普及は、働き方そのものにも影響を及ぼします。

  • 在宅勤務やリモートワーク
  • 地方在住でも都市部の仕事をオンラインで受託する働き方
  • 複数の仕事を組み合わせる副業・兼業
  • プロジェクト単位のフリーランス的な働き方
  • 複数のキャリアを並行して持つ「パラレルキャリア」

こうした働き方は、今後さらに広がっていくと考えられます。

その結果、「どこで働くか」「どの会社で働くか」だけでなく、

  • どのような時間の使い方をしたいか
  • 家族との時間や私生活と、仕事をどう両立させたいか
  • どの程度の収入と責任を望むのか

といったことも含めて、キャリアの選択肢が増えていきます。

この多様化した環境で、自分一人でキャリアの方向性を決めるのは簡単ではありません。
だからこそ、選択肢を整理し、その人に合った形を一緒に見つける役割として、キャリアコンサルタントの価値は高まると考えられます。

4-3. キャリアコンサルタントに求められる新しい知識・スキル

こうした変化に対応するために、キャリアコンサルタント自身にも新しい学びが求められます。
従来のキャリア理論やカウンセリング技法だけでなく、少なくとも次のような知識やスキルが重要になっていきます。

  1. デジタルスキル標準(DSS)に関する理解
    デジタル社会で必要とされるスキルを体系的に整理した枠組みです。
    どのようなレベルのデジタルスキルが、どの職務で求められるのかを理解しておくことで、
    クライアントに対して「どの領域の学び直しが必要か」を具体的に助言しやすくなります。
  2. データサイエンスやプログラミングの基礎、生成AIツールの体験
    専門家になる必要まではありませんが、
    • データをどのように扱うのか
    • プログラムが何をしているのかのイメージ
    • 代表的な生成AIツールの使い方
      などを体験しておくことで、テクノロジー関連の職種や学びについて、現実感を持って説明できるようになります。
  3. キャリア支援そのものへの生成AI活用
    • 企業や業界の情報収集
    • 求人票の読み解きの補助
    • 志望動機や自己PR文のたたき台の作成
      など、生成AIはキャリア支援の現場でも有効に活用できます。
      ただし、AIが作成した文章をそのまま使用するのではなく、
      「本人らしさが伝わるように、一緒に修正していく」視点が欠かせません。
  4. キャリアコンサルタント自身への支援としてのAI活用
    面談記録や相談内容の振り返り、事例検討の整理などにAIを活用することで、
    スーパービジョン(支援の振り返りと専門性の向上)の質を高めることも考えられます。
    自分の支援を客観視するための補助ツールとしてAIを使うイメージです。
  5. 生成AIリテラシーの習得(例:生成AIパスポートなど)
    生成AIの仕組み、できること・できないこと、注意すべき点(情報の偏りや誤り、個人情報の扱いなど)を理解することは、
    これからの時代の基礎教養の一つと言えます。
    キャリアコンサルタント自身がリテラシーを身につけておくことで、クライアントに対しても安心してAI活用を案内できます。

これらは一部ですが、こうした知識やスキルを身につけていくことで、「これからの社会変化に対応できるキャリアコンサルタント」へと成長していくことができると考えられます。


5.リスキリングを支える「リスキリングキャリアコンサルタント」というあり方

ここまで見てきたように、これからのキャリアコンサルタントには、

  • 企業・個人・行政をつなぐ
  • リスキリングと就労をつなぐ
  • 人とテクノロジーの関係を整理する

といった役割が求められます。

そのためには、キャリアコンサルタント自身もまた、「学び続ける専門職」である必要があります。

筆者が所属する一般社団法人ニホンリスキリングキャリアコンサルタント協議会では、
こうした時代の変化に対応できる「リスキリングキャリアコンサルタント」を養成する講習と資格付与を行っています。

講習では、例えば次のような内容を扱っています。

  • リスキリングの基本的な考え方
    • なぜ今リスキリングが必要とされているのか
    • 個人・企業・社会それぞれにとっての意味
  • 生成AIに関する基礎知識
    • どのような仕組みで動いているのか
    • どんな場面で活用できるのか
    • どのような点に注意が必要か
  • デジタルスキル標準(DSS)の理解
    • どの職務で、どのレベルのデジタルスキルが求められるか
    • リスキリングの方向性をどう整理するか
  • 行政・自治体の補助金や助成金の基礎知識
    • どのような支援制度があるのか
    • どのような条件で利用できるのか
    • キャリア相談の中で、どのように情報提供するか

こうした学びを通じて、キャリアコンサルタント自身が「リスキリングの実践者」となり、その経験をクライアント支援にも活かしていくことを目指しています。

新しい時代のキャリアコンサルタントを目指す方にとって、こうした学びの場や資格制度は、自分の専門性を整理し直す良いきっかけになると考えています。


6.これからのキャリアコンサルタントに求められる姿

最後に、これからの時代に求められるキャリアコンサルタント像を、あらためて整理します。

  1. 個人の「納得」を大切にする専門家
    転職の有無にかかわらず、その人が自分のキャリアに納得できるように支援する。
  2. 変化する社会と働き方を翻訳する存在
    難しく見えがちな社会の変化やテクノロジーの話を、わかりやすい言葉で伝え、選択肢を整理する。
  3. 企業・行政・教育機関をつなぐハブ
    企業領域、公的機関、学校現場など、さまざまな場で得た知見をつなぎ合わせ、よりよい支援の形を提案する。
  4. 自らも学び続ける実践者
    キャリア理論や面談技法だけでなく、デジタル・AI・リスキリング政策などについても継続的に学ぶ。
  5. 人とAIが共存する時代のガイド役
    AIにできること・できないことをふまえ、人が担うべき役割を一緒に考え、よりよい働き方を探っていく。

キャリアコンサルタントという資格は、まだ歴史の浅い国家資格です。
だからこそ、これからの社会とともに、役割や活動領域を柔軟に広げていく余地があります。

少子高齢化、テクノロジーの進化、価値観の多様化。
変化の激しい時代だからこそ、「人のキャリアを共に考える専門家」の存在は、今後ますます重要になっていくはずです。

キャリアコンサルタントとして活動している方、これから資格取得を考えている方、そして人材育成やリスキリングに関わる方にとって、
自分自身のキャリアを見つめ直し、次の一歩を考えるきっかけになれば幸いです。

筆者が所属する一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会では、生成AI時代に対応できるリスキリングキャリアコンサルタントの養成講習の企画と資格付与を行っています。

具体的には、リスキリングに関する知識、生成AIに関する知識、デジタルスキル標準の理解や行政や自治体における補助金や助成金に関する知識や理解を深めるカリキュラムを提供しており、新しい時代のキャリアコンサルタントを目指すためにぜひ活用して頂きたいと考えています。

記事寄稿

一般社団法人 日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会(JRCA)
一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会(JRCA)は、 働く人のキャリア形成支援とリスキリング(学び直し)の普及を目的に、キャリアコンサルタントの育成・研修・専門性向上を推進する専門団体です。

最新の労働市場・AI時代のスキル動向を踏まえ、リスキリング支援の実務者に求められる知識・技能の標準化と普及を目的とした民間資格「リスキリングキャリアコンサルタント資格」を発行しています。

▼公式サイト
https://reskilling.or.jp