AIで生まれた時間、どう使う?──みずほ・JR東日本・橋本組が厚労省で語った人材再配置とリスキリング

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最終更新日:2026.10.05

AIで業務が減ったら、その分の人と時間をどこへ回すのか。2026年10月2日、厚生労働省の労働政策審議会・労働政策基本部会で、みずほフィナンシャルグループ、JR東日本、静岡県焼津市の建設会社・橋本組の3社がAI活用と人材育成の取り組みを説明しました。3社に共通していたのは、AIの導入そのものより「AIで生まれた時間を何に使うか」を経営課題として扱っている点です。本記事では、公開されたヒアリング資料をもとに3社の打ち手を整理し、企業がAI時代の人材再配置とリスキリングをどう設計すべきかを解説します。

この記事で分かること

  • みずほ・JR東日本・橋本組が厚労省の部会で示したAI活用の成果と、人材育成の具体策
  • 「事務職5,000人削減」報道について、みずほ自身が示した事実関係
  • AIで生まれた時間の使い道を決める「4つの行き先」と、企業が次に行うべきチェックリスト

関連記事:AIは雇用を奪うのか──2026年版 労働経済白書案の答えは「創出と喪失の同時進行」

厚労省の労働政策基本部会では、何が話し合われたのか?

結論から言うと、2040年頃を見据えて新技術がどう労働市場を変えるかを検討する場で、AIを導入している企業から実態を聞き取る回でした。労働政策基本部会は、第5期の検討テーマに「2040年頃の新技術・新産業と労働市場」を掲げています。第41回となる10月2日の会合では、民間企業3社の担当者がヒアリングに応じました。

登壇したのは、みずほフィナンシャルグループのプロセス企画部、JR東日本のイノベーション戦略部と人材戦略部、橋本組のCEOです。業種も規模も異なる3社ですが、いずれも「人が減る中で事業を維持する」という前提から出発しています。各社の提出資料は厚生労働省のウェブサイトで公開されています。

みずほFG・JR東日本・橋本組の3社について、背景、組織・ルール、AI活用の成果・目標、人材育成、キーワードを比較した表
3社のAI活用と人材戦略の比較(第41回労働政策基本部会の各社資料から編集部作成)

上の表の要点です。人員減少の見通しは、みずほが「今後10年で自然体で人員が減少」、JR東日本が「管内の鉄道工事作業員が約2割減少」としています。AIの成果・目標は、みずほが4案件で年9,500時間の削減、JR東日本が設備故障からの復旧時間を最大50%短縮する目標、橋本組がドローン測量で16時間から2時間への短縮です。人材育成は3社とも「全社員に使わせる仕組み」と「推進役の育成」をセットにしています。

みずほの「事務職5,000人削減」は本当に人員削減なのか?

みずほの資料によれば、削減するのは「事務職5,000人」ではなく「事務業務5,000人分」です。同社は2026年2月27日の報道後に広がった表現を資料内で「事実誤認点」として整理しました。対象は傘下のみずほ銀行に限らずグループ全体で、AIを入れる先も「事務センター」に限らず全社の事務業務だと説明しています。

資料では、報道後7日間のX上の投稿約2万3,000件も分析しています。ニュートラルな声が87%、ネガティブが12%、ポジティブが1%でした。「配置転換で雇用を守るのは良い」という声がある一方、「営業に向かない人には実質リストラだ」「育成を押し付けられる営業部が一番大変」といった不安も挙がっています。AIによる業務削減を社員がどう受け止めるかは、制度設計と同じくらい重要な論点です。

みずほは組織をどう変えたのか?

みずほは「事務をこなす組織」を「業務プロセスを設計する組織」に作り替えました。事務グループを母体に「プロセスデザイングループ」を新設し、全社横断の「プロセス変革部」も設けました。背景には、組織の人口構造上、今後10年で人員が自然に減っていくという見通しがあります。必要な事務量と実際の人員との差を、テクノロジーで埋める必要があるという判断です。

同社の資料が掲げる要点は4つです。「組織を変え、意識を変え、行動を変える」「E2E(業務の端から端まで)で、全社横断で、巻き込んで」「土台とデータとプロセス変革、そのあとAI」、そして「産み出した時間の使い方」が最重要課題だという点です。AIを先に入れるのではなく、業務の流れとデータを整えてからAIを載せる、という順番が明確に示されています。

AIでどれだけの時間が生まれたのか?

内製したAI-OCRや判定ツールを使った4案件で、合計で年9,500時間の削減を示しています。内訳は次のとおりです。

  • 法人・団体の属性判定(目視からAI読取+一次判定へ):年3,500時間削減
  • 差押通知書の読取(目視からAI読取+データ連携へ):年2,800時間削減
  • 事務部門のリスク所在のAI判定・示唆出し:年2,000時間削減
  • 外部委託契約書のAIチェック(カスタムテンプレートを作成・展開):年1,200時間削減

人材面では、カイゼン認定制度、デジタルワークショップ、知識を共有する「もくもく会」、DXカフェやPower Platform体験会などを並行して展開しています。プロセスデザイングループ内では、カイゼン認定のStage1認定者が95%を超えました。社内SNSでは1万人を超えるAI関連の最大コミュニティが生まれ、ノウハウの共有や質問に使われています。同社は資料で「最初は一方通行となる点はやむなし。時間をかけて意識と行動を変容」させる姿勢も示しています。

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JR東日本は、AIを使ってどんな人手不足に備えているのか?

JR東日本は現場の担い手の減少と採用難の両方に直面しています。資料によれば、管内の鉄道工事作業員は約2割の減少が見込まれ、新卒採用のエントリー数はピークの2014年度と比べて3割まで減りました。社員の年齢構成から、2030年代初頭以降は鉄道事業に携わる社員が中期的に減る傾向が続くとしています。社内の技術開発タスクフォースでは、鉄道事業の生産性を20%高める目標を掲げています。

AIの使い方には、どんなルールを設けたのか?

2026年4月に「JR東日本グループAIポリシー」を策定しました。価値創造の「攻め」、安全・信頼の「守り」、それを支える人材・組織の「基盤」の計7要素で構成されています。基盤の要素として「ヒト中心と人権の尊重」と並んで「AIリテラシーの向上と人材育成」を明記している点が特徴です。AIの利用ルールと人材育成を、同じ方針の中で一体的に扱っています。

現場ではAIがどう使われているのか?

共通しているのは、AIが判断材料をそろえ、最終判断は人が行うという役割分担です。資料に挙がった主な事例は次のとおりです。

  • 生成AI指令長:信号通信設備の故障時に、無線通話から作業経過を自動作成し、推定原因・対応方針・復旧見込時刻を指令員に表示します。新幹線と在来線に導入し、復旧時間を従来比で最大50%削減することを目指しています
  • 線路・架線のモニタリング:営業車や検測車で取得したデータをAIが分析し、レールのゆがみや架線金具の異常の予兆を見つけます
  • みどりの窓口AI対応サービス(仮称):2026年7月に立川駅と大宮駅で、生成AIの音声対話による切符の受付を実証しました
  • JRE業務サポートAI(通称:Jサポ):社内文書をもとに回答を生成するツールを内製し、全職場に展開しました。活用事例集、ウェビナー、教育で利用を促しています

このほか、墜落や感電の危険を伴う作業や設備点検のロボット化も進めています。大雨や地震の後に係員が徒歩で線路を巡回する作業についても、離れた場所から点検できる手法を研究しています。AIとロボットに危険な作業と定型作業を任せ、人は安全の判断と最終責任に集中するという設計です。

関連記事:「AIを使う」から「AIに任せる」へ――2026年、AIエージェント本格化で人事・経営が設計すべきリスキリング

地方の建設会社・橋本組は、なぜ大手と並んで登壇したのか?

橋本組は30年以上かけてデジタル技術を段階的に取り入れ、現場の作業量を大きく減らしてきた中堅企業の実例として登壇しました。資料の年表は、1989年のオフィスコンピューター導入に始まり、1999年の全現場監督への1人1台のPC支給、2013年のドローン導入、2018年のBIM(建物の3次元モデル)導入へと続きます。2023年には全社員を対象とした生成AI研修と、上級者向けの生成AIリーダー研修を実施しました。2026年にはAIエージェントの導入を始めています。

橋本組が建設ICTを導入する前後の作業人数と作業時間の比較表。ドローン測量は2人16時間から1人2時間、マシンコントロール建機で丁張りは4人24時間から0人0時間
橋本組:建設ICT導入前後の作業人数・作業時間(第41回労働政策基本部会 資料3から編集部作成)

表の数字を本文でも確認しておきます。ドローンと点群解析ソフトの導入で、測量は2人・16時間から1人・2時間に短縮されました。3Dスキャナによる計測は2人・4時間から1人・0.5時間に、ノンプリズムトータルステーションによる測量は4人から1人になりました。水中ドローンでは潜水士の作業が3人から1人に減り、潜水士船も不要になっています。マシンコントロール建機の導入では、4人で24時間かかっていた丁張り作業そのものがなくなりました。

事務作業では、工事のお知らせなどの書類作成、工程表の自動作成と修正、工事写真の自動整理、画像解析による出来型管理に生成AIを使っています。同社は2026年6月、持株会社の橋本ホールディングスを通じてAI insideとDX・AI事業の包括連携協定を結び、7月から建設現場でのAIエージェント活用の共同実証を始めました。資料の後半では、ロボットなどの「フィジカルAI」が効率よく施工できるように建物を設計する、という発想の転換も示しています。

中小企業の導入事例:【導入事例】「福井のAIなら、福井キヤノン事務機へ」―全社員のAI活用から顧客展開へ

AIで生まれた時間は、どこへ回すべきか?(リスキリングドットコムの「4つの行き先」)

3社の資料を読み比べると、AIで生まれた時間の行き先は大きく4つに分けられます。どこに回すかを先に決めておかないと、生まれた時間は別の雑務に吸収されて成果が見えなくなります。以下はリスキリングドットコム編集部による整理です。

  1. 顧客・価値創造へ:営業や企画など、売上や顧客体験に直結する仕事へ移す。みずほについて報道で伝えられた、営業部門などへの配置転換がこれにあたります。対人スキルや業界知識の学び直しが必要です
  2. プロセス設計へ:業務を「こなす側」から「設計し、改善する側」へ移す。みずほのプロセスデザイングループが典型です。業務分析、データ活用、ノーコードツールのスキルが求められます
  3. 判断・安全・品質へ:AIが出した候補を確かめ、最終判断に責任を持つ役割を厚くする。JR東日本の生成AI指令長が典型です。AIの出力を検証する力と専門知識の深掘りが鍵になります
  4. 次の学びへ:生まれた時間の一部を、意図的に学習時間として確保する。橋本組の全社員研修とリーダー研修のように、使う人と推進する人を同時に育てます

この4つは、当サイトが提唱する「知る→使う→任せる」の段階とも対応します。全社員がAIを「知る・使う」段階を通過し、定型業務をAIに「任せる」段階に入ったとき、初めて行き先①〜③への再配置が現実的になります。そこへ向かう助走として欠かせないのが、行き先④の学びの時間です。

スキルの棚卸しから始めたい方は:「スキルの見える化」が人事の重要課題に――デジタルスキル標準ver.2.0で始めるスキルベース人材マネジメント

企業が次に行うべきことは?(チェックリスト)

3社の事例から、AI導入と人材再配置を同時に進めるための確認項目をまとめました。削減時間の目標と、その時間の使い道を必ずセットで決めることが出発点です。

  • 今後5〜10年の人員の自然減と、必要な業務量との差(人員ギャップ)を試算したか
  • AIで削減する業務量を「〇人分」「年〇時間」で示し、その時間をどの部門・役割に回すか決めたか
  • 「人員削減ではなく業務削減」であることを、社員に経営の言葉で直接説明したか
  • AIの利用ルール(ガイドラインやポリシー)に、リテラシー教育と人材育成を位置づけたか
  • 全社員向けの基礎研修と、推進役(リーダー・認定者)の育成を分けて設計したか
  • 配置転換先で必要なスキル(営業・業務設計・検証など)を洗い出し、学び直しの機会を用意したか
  • 受け入れ側の部署にも育成の負担がかかることを見込み、支援策を講じたか
  • 2026年度末が期限とされる人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)などの公的支援を、計画に組み込んだか

助成金の最新ルールは:リスキリング助成金が2026年8月3日改正─「職務に直結しないAI研修」は助成対象外に

リスキリングドットコムの見解

今回のヒアリングで最も重要なのは、みずほが自ら掲げた「産み出した時間の使い方が最重要課題」という一文だと考えます。AI導入の成果は「何時間減ったか」で語られがちです。しかし本当に問われるのは、浮いた時間を何に使い、それによって社員一人ひとりのキャリアがどう変わったかです。

みずほの報道では、「5,000人削減」という言葉が独り歩きしました。社員が不安を抱く理由は、AIそのものより「自分の行き先が見えないこと」にあります。行き先と、そこへ向かうための学びの機会を同時に示すこと。それが、AI時代の人材戦略で経営が果たすべき説明責任です。

また、橋本組の事例は、AI活用が大企業だけの話ではないことを示しています。年表を見ると、同社は一度に変わったのではなく、PC、スマートフォン、ドローン、BIM、生成AIと、30年以上かけて一段ずつ積み上げてきました。中小企業にとって現実的なのは、全社員研修と推進役の育成から始め、小さな業務削減の実績を重ねることです。2026年度末で企業向けのリスキリング助成が節目を迎える今こそ、「削減した時間の行き先」を盛り込んだ育成計画を作る好機です。

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参考・出典

公開日:2026年10月5日