教育訓練給付の対象が2026年10月に3,485講座へ─企業助成は絞られ個人給付は拡充。人事が設計し直す「学びの原資」
最終更新日:2026.08.24
厚生労働省は2026年8月6日、教育訓練給付の令和8年10月1日付け指定講座を公表しました。専門実践教育訓練は新たに138講座が加わって3,485講座、特定一般教育訓練は151講座が加わって1,532講座となります。同じ2026年8月、企業向けの人材開発支援助成金は「職務に直結しない汎用的なAI・DX研修は対象外」へと要件が引き締められました。企業の助成は絞られ、個人の給付は広がる——この非対称な動きは、人事が「社員の学びの原資」をどう組み立てるかに直接影響します。
この記事で分かること
- 2026年10月1日から教育訓練給付の指定講座がどう変わるのか(専門実践3,485講座/特定一般1,532講座の中身)
- 企業向け助成金の厳格化と個人向け給付の拡充という「逆方向の動き」が、人事の研修設計に何を意味するのか
- 2027年3月末に期限が集中する時限措置と、企業が年度内に済ませておくべきこと
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2026年10月に何が変わるのか?──指定講座が3,485講座・1,532講座に
結論から言えば、2026年10月1日以降に受講を開始する講座から、教育訓練給付の対象リストが入れ替わります。専門実践教育訓練は138講座、特定一般教育訓練は151講座が新たに指定され、指定講座の総数はそれぞれ3,485講座・1,532講座になります。厚生労働省がこの内容を公表したのは2026年8月6日です。
教育訓練給付は、雇用保険の被保険者(または離職後1年以内などの要件を満たす人)が、厚生労働大臣の指定した講座を受講・修了したときに受講費用の一部が支給される制度です。会社の研修費ではなく、社員個人が雇用保険から受け取るという点が、企業向けの助成金と決定的に違います。
専門実践教育訓練の新規138講座は、どの分野が増えたのか?
新規138講座の内訳で最も多いのは業務独占・名称独占資格の養成課程(63講座)ですが、次に多いのがAI・データサイエンスなどを扱う「第四次産業革命スキル習得講座等」の50講座で、新規指定のおよそ3分の1を占めます。この区分は指定講座全体でも441講座に達しました。以下、専門学校の職業実践専門課程14講座、大学等の職業実践力育成プログラム8講座、専門職大学等2講座、専門職大学院1講座と続きます。
実務上より重要なのは学習形態です。新規指定のうちオンライン58講座・夜間7講座・土日16講座が含まれ、離職しなくても働きながら受けられる選択肢が増えました。「学ぶために辞める」ではなく「働きながら学ぶ」設計が制度側でも進んでいることになります。
特定一般教育訓練の新規151講座は何が中心か?
特定一般教育訓練の新規151講座は、特定行為研修や介護支援専門員といった業務独占資格等の養成課程が139講座と大半を占めます。情報通信技術に関する資格取得を目標とする課程(情報処理技術者試験など)は2講座、職業実践力育成プログラム等は8講座、職業能力評価制度の検定合格を目指す課程は2講座でした。
つまりデジタル系の学び直しを個人給付で支えているのは、主に「特定一般」ではなく「専門実践」の側です。社員にIT・AI分野の学習を促す場合、給付率が高く講座数も多い専門実践教育訓練が第一の選択肢になります。

給付率を数字で押さえておきます。専門実践教育訓練は受講中に費用の50%(年間上限40万円)が6か月ごとに支給され、修了後1年以内に資格取得・就職すると20%、さらに賃金が5%以上上昇すると10%が上乗せされ、最大80%・上限64万円となります。特定一般教育訓練は40%(上限20万円)で、資格取得・就職により10%が加算されて最大50%・上限25万円。一般教育訓練は20%(上限10万円)です。年間40万円規模の講座であれば、専門実践では条件次第で自己負担が2割まで下がる計算になります。
なぜいま「個人向け給付」に人事が注目すべきなのか?
企業向け助成金の対象が2026年8月に狭くなったからです。同じ月に、企業が使う人材開発支援助成金は要件が引き締められ、個人が使う教育訓練給付は講座が増えました。研修投資の原資を助成金だけに置いていた企業は、10月以降の学び直し設計を組み直す必要があります。
人材開発支援助成金は何が変わったのか(新旧比較)
- 訓練内容:【改正前】研修名に「AI」「DX」「GX」が付く訓練は広く対象 →【2026年8月3日以降】職業・職務の種類を問わず職業人として共通して必要な汎用的内容は対象外。対象労働者の職務に直接必要で、訓練後の業務で具体的に活用できる内容であることが求められる
- 受講回数:【改正前】明確な回数上限なし →【改正後】1労働者につき1年度3回まで
- eラーニング:【改正前】回数制限なし →【改正後】1労働者につき1年度1回まで
- 適用:2026年8月3日以降に提出する計画届に基づく訓練から
影響が大きいのは、全社員向けの生成AIリテラシー研修をeラーニングで一斉配信し、助成金で費用を回収してきたタイプの施策です。「全員に同じ入門講座」は助成の対象から外れやすく、「職務ごとに設計した実践研修」でなければ通らない——これが改正の実質的な意味になります。改正の詳細は2026年8月3日改正の解説記事、制度全体の見取り図はリスキリング助成金・公的支援ガイド2026で整理しています。
企業助成と個人給付は、どう役割分担すればよいか
リスキリングドットコムでは、両者を対立させず「職務直結は企業助成、越境・資格取得は個人給付」という切り分けを推奨します。改正後の人材開発支援助成金は「いまの職務で使う実践訓練」に焦点が絞られました。裏を返せば、職務を越えるキャリアチェンジ型の学び——データサイエンス、情報処理技術者試験、専門職大学院、看護・介護の資格——は、教育訓練給付が主役です。当サイトが繰り返し提唱してきた「知る→使う→任せる」の3段階でいえば、「知る」の底上げは自社研修とeラーニング、「使う」の職務適用は企業助成、そして「任せる」水準の専門性を育てる長期の学びは個人給付、と原資を割り当てると無理がありません。
期限が迫っている制度はどれか?──2027年3月末に集中する時限措置
2つの時限措置が2027年3月末に期限を迎えます。ひとつは離職者の生活を支える教育訓練支援給付金、もうひとつは企業向けの人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」です。いずれも年度末が実務上の締切になるため、2026年度中の着手が判断の分かれ目になります。

図の要点を文章でも残しておきます。教育訓練支援給付金は、45歳未満で離職中の人が専門実践教育訓練(通信制・夜間制を除く)を初めて受講する場合に、訓練期間中の生活費として基本手当日額の60%相当(令和7年3月31日以前に受講開始した場合は80%)を支給する制度です。受講開始日が2027年(令和9年)3月31日以前であることが要件とされており、この日までに受講を開始していれば期限後も支給が続きます。
もうひとつの人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」は令和8年度末までの時限措置です。経費助成率は中小企業75%・大企業60%と手厚く、賃金助成も1人1時間あたり中小1,000円・大企業500円が設定されています。計画届は原則として訓練開始の1か月前までに提出する必要があるため、年度内に訓練を実施するなら、逆算して2027年2月頃までには計画届を出しておくのが安全圏です。
一方、2025年10月1日に創設された教育訓練休暇給付金は時限措置ではありません。就業規則等に基づき連続30日以上の無給の教育訓練休暇を取得した一般被保険者に、失業給付(基本手当)に相当する給付を支給する仕組みで、支給日数は雇用保険の加入期間に応じて決まります。「休職に近い形で学び直す社員」を制度的に支える受け皿が常設された意味は小さくありません。長期の学びを想定するなら、就業規則に教育訓練休暇の規定があるかどうかを先に確認しておくべきです。
社員は「自力で学ぶ」しかないのか?──調査が示す日本の温度差
すでに社員の半数が「リスキリングは自力」と考えています。アクセンチュアが2026年8月19日に公表した調査(20カ国19業種の経営層・従業員各3,000人、日本は各100人、2026年4〜6月実施)によると、スキル習得を「企業によるリスキリングには頼れず、自力で行う必要がある」と考える人は日本で50%、世界平均の45%を上回りました。
同じ調査で、AIツール導入後に生産性が向上したと答えたのは日本57%に対し世界平均81%、仕事の満足度が高まったのは日本48%に対し世界平均71%。AI活用で持続的な成果を実現できているとの回答は日本13%・世界23%にとどまる一方、今後12か月でAI投資を拡大する意向は日本78%・世界82%とほぼ差がありません。投資意欲はあるのに、現場の実感が伴っていない——このギャップこそ、制度の使い方で埋められる余地がある部分です。
社員が「自力で学ぶ」と考えているとき、企業が取り得る手はふたつあります。ひとつは自社研修を増やすこと、もうひとつは社員が個人で使える制度を会社が案内し、時間と機会を用意することです。後者はコストがほとんどかからないにもかかわらず、実際には「制度を知らないまま使われていない」ケースが目立ちます。学びをキャリアにつなげる実践機会の設計についてはリスキリングの次に必要なのは「経験」でも掘り下げています。
企業が次に行うべきことは?──10月1日までのチェックリスト
- ①自社の重点スキル領域が10月1日付けの指定講座に含まれるか確認する(厚生労働省の講座検索システムで、専門実践・特定一般の別と受講開始日を条件に検索)
- ②研修計画を「職務直結(企業助成)」と「キャリアチェンジ型(個人給付)」に仕分ける。改正後の助成金は前者しか通らない前提で組み替える
- ③全社一律のeラーニング施策を点検する。1労働者1年度1回の制限に抵触しないか、職務別の実践内容に再設計できないかを検討する
- ④教育訓練給付の社内周知を制度化する。人事評価面談やキャリア面談の場で、対象講座と給付率を具体的に案内する
- ⑤就業規則に教育訓練休暇の規定があるか確認する。なければ教育訓練休暇給付金は社員が使えない
- ⑥2026年度内に実施したい訓練の計画届を逆算する。事業展開等リスキリング支援コースは令和8年度末までの時限措置で、計画届は訓練開始1か月前まで
リスキリングドットコムの見解
今回の指定講座更新は、単なる年2回の事務的な入れ替えではありません。企業向け助成が「職務直結」へ絞られたのと同じ月に、個人向け給付の対象が3,485講座まで広がったことに、政策の重心の移動が表れていると私たちは見ています。国は「会社が用意する研修」だけでは足りないと判断し、個人が自分の意思で選ぶ長期の学びへ支援の軸足を移しつつあります。
ここで人事が陥りやすい誤解が、「個人給付は社員が勝手に使うもので、会社は関係ない」という受け止めです。実際には逆で、教育訓練給付を最も活かせるのは、社員のキャリア志向を把握している人事です。どの社員がどの領域へ移りたいのかを知らなければ、3,485講座は「多すぎて選べないリスト」にしかなりません。制度の紹介にとどまらず、キャリア面談で行き先を一緒に決め、講座を指し示し、学ぶ時間を確保する。ここまでやって初めて、会社の負担ゼロで社員のスキルが伸びる構図が成立します。
そして忘れてはならないのが、2027年3月末という期限です。事業展開等リスキリング支援コースの手厚い助成(中小75%)が使えるのは令和8年度が最後の可能性があります。「来年度でいい」と先送りした企業と、年度内に計画届を出した企業とで、負担額に数百万円単位の差が生まれることも珍しくありません。いま決めるべきは、研修の中身より先に「どの原資で、いつまでに動くか」だと考えます。
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参考・出典
- 厚生労働省「専門実践教育訓練の指定講座を公表しました~令和8年10月1日付け新規指定講座は138講座~」(2026年8月6日)
- 厚生労働省「特定一般教育訓練の指定講座を公表しました~令和8年10月1日付け新規指定講座は151講座~」(2026年8月6日)
- 厚生労働省「教育訓練給付金」
- 厚生労働省「教育訓練支援給付金の暫定措置の延長について」
- 厚生労働省「教育訓練休暇給付金」
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」
- ITmedia AI+「『AIで生産性向上』日本の従業員は57%、世界平均は81%――アクセンチュア調査」(2026年8月20日)
公開日:2026年8月24日



