リスキリングとリカレント教育の違いは?意味や目的、特徴から解説

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最終更新日:2024.05.21

労働人口の減少や産業構造の変化、技術革新の進展など、社会環境が大きく変わる中、働く人たちへの再教育の重要性が高まっています。特に、リスキリング(reskilling)とリカレント教育(recurrent education)という言葉が注目されるようになりました。

リスキリングとは、企業が変化の激しい社会に対応するために、従業員に従来の業務とは異なる業務で働けるように教育を行うことを指します。一方のリカレント教育は、個人が定期的に仕事に関わる教育を受け、専門知識やスキルを常にアップデートしていくことを意味しています。

このように、両者は再教育の手法として類似点もありますが、目的や主体、学習範囲などに違いがあります。

この記事では、リスキリングとリカレント教育の具体的な違いについて解説します。

リスキリングとリカレント教育の違い

リスキリングとリカレント教育には、以下のような違いがあります。

  リスキリング リカレント教育
意味・定義 DX化に必要な仕事に就ける人材を育成する取り組み 「働く」と「学ぶ」、を交互に繰り返す取り組み
背景 DXの必要性の高まりと、それに対応する人手の不足 雇用の流動化と人手不足
目的 企業のDX化推進による、社会の変化への対応 個人の知識や技能のアップデート
主体 企業 個人
学習の範囲 DX化に関わる範囲 就業機会に関わる範囲
推進のメリット 社会の変化に強い組織を迅速に構築できる 従業員のやる気に手厚くフォローする必要がない
推進時の注意点 学習は就業時間内が原則 講座・教材の選択や環境整備に工夫が必要

順に詳しくご説明します。

意味・定義の違い

リスキリングとは

リスキリングとは、従業員が、企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化に向けて創出される新たな仕事に就けるようになるために、必要となる知識を身につけてもらう施策を指します。

経済産業省が主体の「デジタル時代の人材政策に関する検討会」が公表している資料によれば、リスキリングは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」です(引用:リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流丨経済産業省)。

リスキリングは、スキル習得のために行われる個々人の学習のみを指すのではなく、それを通して企業がデジタル時代に対応できるようにするまでを含みます。そのため、例えば、製造業の現場作業員に、DXに必要なITエンジニアに必要な教育だけではなく、学習後に実際に転身させることもリスキリングの必要な取り組みとなります。

リカレント教育とは

リカレント教育とは、学校教育から離れて社会人となったあとでも、生涯を通じて繰り返し教育を受ける機会を得ることを指します。

スウェーデンの経済学者ゴスタ・レーン氏が提唱し、その後同国の文部大臣で後に首相も務めたオロフ・パルメ氏が、1969年に開催されたヨーロッパ文相会議で言及したのをきっかけに広く知られるようになりました。

リカレント教育は、もともと労働を一定期間したあとに一度それをやめて学びを受け、学びを同様に一定期間受けたら再び働く、というサイクルを指していましたが、日本では就労しながら学びを繰り返し受けるという意味でも用いられています。

注目される背景の違い

リスキリングが注目される背景

リスキリングが注目される背景として、特に大きいのが、これからの時代において企業のDXが不可欠となってきているものの、それに対応できる人材が不足している点です。

テクノロジーの進化による消費者の行動変容、人手不足による自動化の重要性の高まり、新型コロナウイルスの影響による働き方の変化、生成AIの登場などによって、従来のビジネスのままでは生き残るのが難しい時代となっています。

しかし、DXに対応できる人材が不足していることから、既存の従業員に必要な知識を身につけてもらう必要があるため、リスキリングが注目されているのです。

特に昨今の日本は、少子高齢化に伴う働き手不足で悩む企業が多くなってきました。こうした意味でも、リスキリングは今後も重要な施策として注目されると言えるでしょう。

リカレント教育が注目される背景

リカレント教育が注目される背景としては、雇用の流動化と人手不足が挙げられます。

人生100年時代と呼ばれる一方で、経済の不安定さから、終身雇用のスタイルを取らない企業が増えてきました。雇用が流動しやすい今日の社会においては、自らの手でいかに就業機会を掴めるかが重要となってきています。そのためには、生成AIを始めとする最先端の技術にコミットできるように、継続的な学習によって知識や技能を常にアップデートする必要があります。

また、前述したように、特に日本においては少子高齢化による働き手不足が深刻です。これからの時代に対応できるスキルを身につけた人材は、年齢問わず、重宝されるでしょう。

リカレント教育は、個人においては就業機会、企業においては雇用の確保という意味から、今後もますます重要になると言えます。

目的の違い

リスキリングの目的

リスキリングの目的は、学習によってDXに必要な人材を確保した上で、既存事業の改善、新規事業の立ち上げなどを行い、社会の変化に対応することにあります。従業員のスキルアップではなく、企業の持続可能性に主眼が置かれているのが特徴です。

リカレント教育の目的

リカレント教育の目的は、働く人々が生涯を通じて知識や技能を常にアップデートし、社会の変化に対応できるようにすることです。結果として企業の持続可能性に寄与することもありますが、個人のキャリアアップや職場復帰など、個人の職業人生に主眼が置かれます。

主体の違い

リスキリングの主体

これまでの説明からわかるように、リスキリングの主体となるのは企業です。学習そのものを行うのは従業員ですが、従業員がきちんとスキルを身につけられたか、スキルを活かす仕事に就けたか、などリスキリングの効果については、企業がその責任を負います。

リカレント教育の主体

リカレント教育の主体は個人であり、社会人や高齢者を中心とした幅広い層が想定されています。リスキリングとは違い、スキルの定着や学習後の就業機会の確保などについては、学習者本人がその責任を負います。

ただし、リカレント教育による個々人のスキルアップは、結果として企業にも大きなメリットがあるため、個人主体ではあるものの、企業側から積極的にサポートを行うケースがしばしば見られます。

学習の範囲の違い

リスキリングの学習の範囲

リスキリングはDXによる社会の変化への対応が目的となるため、学習範囲もそれに準じたものとなります。例えばAIや自動化、プログラミング、データ分析に関する知識などです。

これらのスキルを効率よく身につけてもらうために、リスキリングに資格取得を活用するケースもしばしば見られます。AI関連の資格にG検定やE資格などがありますが、これらの資格を導入すると、従業員に自ずとAIやディープラーニングに関する基本的な知識と、事業に活用できる能力を効率よく身につけさせることが可能です。

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リカレント教育の学習の範囲

リカレント教育の学習範囲は、DXに関わるものに限らず、基本的に就業機会に関わるものであれば該当します。そのため、例えば、一般教養や学問(政治、経済、文化など)・趣味や生活に関する知識も、リカレント教育の対象となることがあります。リカレント教育の学習範囲は、リスキリングよりも広範にわたるのが特徴です。

企業が推進するメリットの違い

企業がリスキリングを推進するメリット

企業にとってリスキリングを推進するメリットにはさまざまなものがありますが、リカレント教育との違いという観点から見ると、DX化をより早められる点が挙げられます。リスキリングでは学習内容がDXに関わるものに限定されている一方、リカレント教育は学習内容が多岐にわたるからです。

また、スピーディーなDX化によって、社会の変化に対応できる組織を、リカレント教育よりも迅速に構築することができます。

企業がリカレント教育を推進するメリット

企業がリカレント教育を推進するメリットとしては、リスキリングほどの手厚いフォローをせずとも、従業員のスキルアップが期待できる点があります。

リカレント教育では自ら学習を選択するため、その学習に対する意義(なぜ必要なのか)を理解しており、モチベーションが下がりにくいのが特徴です。企業が主体となって行われるリスキリングと異なり、学習者のやる気が下がらないように常にサポートする必要がないのは、リカレント教育の大きなメリットです。

企業が推進するときの注意点の違い

企業がリスキリングを推進するときの注意点

リスキリングとリカレント教育は、実施コストがかかる、成果を出すには中長期的な視点が必要、などの共通する注意点が多くあります。

その中でも、リスキリングは企業が主体となって行われる施策であることから、学習は業務の一環として就業時間内を原則とするのが、リカレント教育とは異なる注意点です。

そのため、リスキリングを推進するときは、学習する従業員本人の業務量を調整するのはもちろん、業務量を調整することでそのしわ寄せが来る従業員(上司や同じ仕事をしている人)に事前に理解を求めることが不可欠となります。

もし休憩中や帰宅後に学習をさせる場合、企業はそれに対して給与を支払う必要があります。

企業がリカレント教育を推進するときの注意点

リカレント教育は、個人が主体となる取り組みであるとはいえ、企業内で推進するにはある程度の介入が必要です。

例えば、用意された講座や教材が、従業員の長期的なキャリア形成につながるものでなければ利用してもらえません。学習に必要な時間を確保しやすい、休暇を取ったあとに仕事に復帰しやすい環境を整えておかなかったときも同様です。そのため、どのような講座・教材が必要とされているのか、学習において弊害となるのは何か、事前に把握して工夫を図る必要があります。

また、完全に自主性に任せると、学習はしたいけれど何を学習したらいいのかわからない、という従業員を見逃しやすくなります。もし放っておいてしまった場合、不満がたまり、結果的に生産性にも悪影響が及ぶこともあるでしょう。アンケートを取るなどして、学習への第一歩をなかなか踏み出せずにいる従業員はいないか把握し、そうした従業員には学習プランが見つけられるようにサポートすることも重要となります。

リスキリングやリカレント教育の推進事例

リスキリングの推進事例

株式会社日立製作所では、デジタル化への対応を図るために、リスキリングに積極的に取り組んでいます。2019年度中に約100コースのデータサイエンス、エンジニアリング、イノベーション関連の講座を開講し、グループ会社の株式会社日立アカデミーを通じて提供しています(参考:企業における人財育成について~日立グループの取り組み~|株式会社日立アカデミー)。

また、キヤノン株式会社では、人材育成制度の一環として、未経験分野へチャレンジしたい従業員に研修を行って希望する業務に配属する「キャリアマッチング制度」を実施しています。2022年には312人の従業員が異動を果たし、大きなリスキリングの成果を出しています(参考:人材育成と成長支援|キヤノン株式会社)。

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リカレント教育の推進事例

パーソルキャリア株式会社では、社員の長期就業や持続的成長をサポートするFLASH制度を設けています。その中で留学や通学を通してスキルアップをしたい社員のために、最長1年間の時短勤務もしくは最長2年間の休業を認める時短・休暇制度を用意することで、社員のリカレント教育に寄与しています(参考:人材育成の取り組み丨パーソルキャリア株式会社)。

また、ソニー株式会社では、キャリアアップにつなげられるフレキシブルキャリア休職制度を2015年に導入しました。この制度では、配偶者の海外赴任や留学に同行して語学力やコミュニケーション能力などを高めたいとする人に最長5年の休職、専門性の深化・拡大のために就学したいとする人に最長2年の休職を認めています(参考:多様性を推進する取り組み丨ソニー株式会社)。

リスキリングやリカレント教育に関する企業向けの支援制度

リスキリングに関する企業向けの補助金や支援制度

リスキリングに関連する企業向けの支援制度には、以下のようなものがあります。

名称 実施元 概要
人材開発支援助成金 厚生労働省 知識・技能の訓練にかかった経費や訓練期間中の賃金の一部を助成
DXリスキリング助成金 東京都 東京都内にある中小企業等がDXにかかる職業訓練を実施したときにかかる経費の一部を助成
堺市中小企業DXリスキリング補助金 大阪府堺市 堺市内にある事業者が、DX人材を育成するために実施した研修などにかかる費用の一部を補助
金沢市中小企業デジタル人材リスキリング促進助成金 石川県金沢市 金沢市内に勤務する従業員や役員がITパスポートなどの試験を受けたときに、事業者に対して受験手数料や対策講座の一部を助成

※2024年4月時点

上記以外の県・市で実施している場合もあるため、実施する前に「リスキリング 補助金 ◯◯県(もしくは◯◯市)」などと検索してみることをおすすめします。

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リカレント教育に関する企業向けの補助金や支援制度

リカレント教育に関する企業向けの支援制度には、次のようなものがあります。

名称 実施元 概要
人材開発支援助成金 厚生労働省 知識・技能の訓練にかかった経費や訓練期間中の賃金の一部を助成
生産性向上支援訓練 高齢・障害・求職者雇用支援機構 生産性向上につながる職業訓練の実施

※2024年4月時点

他の用語との違い

リスキリングやリカレント教育以外に、社会人の学習に関する言葉として、スキルアップ(アップスキリング)・アンラーニング・生涯学習があります。

アップスキリング(スキルアップ)とは、自身のスキルの高度化・深化を図ることです。リスキリングに似ていますが、リスキリングは今持っているスキルとは異なるスキルを取得して新たな業務に就くプロセスであるのに対し、アップスキリングは既存の専門性を高めるプロセスという違いがあります。

アンラーニングとは、既存の知識や習慣、考え方を意図的に捨て去り、新しい視点や発想を得ることです。昨今の急速な技術革新に伴い、今まで通用していた知識やスキルが陳腐化するリスクが高まっています。そのため、アンラーニングを通じて柔軟な思考力を養い、絶えずスキルアップを図ることが重要になってきています。この意味で、アンラーニングは、リスキリングをするにしてもアップスキリングをするにしても、合わせて行う必要がある重要な学習方法と言えるでしょう。

生涯学習とは、人生のあらゆる段階において、自発的に学習を続けることです。職場や地域、家庭生活などあらゆる場面で学びを重ね、自己実現や社会参加につなげていくことを目的とします。リカレント教育との違いは、リカレント教育が企業や社会のニーズに応じたスキル開発に重点が置かれるのに対し、生涯学習はそれだけでなく個人の関心に応じた学習が幅広く含まれる点です。

まとめ

リスキリングとリカレント教育は、どちらも企業にかかわる教育・学習ですが、内容は大きく異なります。

それぞれにメリットと注意点があるため、企業で推進するときは、自社の目的や従業員のニーズなどと照らし合わせた上で選択することが大切です。